思想で溢れたメモリー

やみくも

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9章ー総力決戦編ー

239.唯一の居場所

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 石板には見たこともない文字がぎっしりと刻み込まれており、まるで具合の悪い夢の中にいるような気分だった。
 部屋を見渡していると、さっきの男ともう一人得体の知れない男を見つけた。

???「ようやく目覚めたか。」

 すると男は私に近づいて目線を合わせ、こう訊ねた。

???「さて、君は誰かに必要とされたことはあるか?」

ルミ「……。」

???「無言が答えだ。…いつの時代も見る目のない奴ばかりだ、人間という生き物は。だが我々は違う。君にこれ以上ない程の価値を感じている。」

ルミ「…さ、さっきから…何を言ってるの…?」

 急に知らない場所に飛ばされて、流暢に話す得体の知れない存在に私は恐怖を感じていた。 
 かと言って彼らは襲ってくるような素振りは見せず、立ち止まって考え事をしていた。そして再び訊ねてきた。

???「ルミ…君は味方の居ない今の状況を変えたいとは思わないのか?」

ルミ「…ッ!あなた…どうして私の名前を!」

???「些細な事だ。それで、返答はどうなんだ。」

ルミ「……変えたい…!何も持ってない私が、何でも持っているはずの皆に虐められて…どうしてそんな惨めな思いしなくちゃいけないの…?私が何をしたっていうの!」

 一つ言葉を発すると、自然と心の奥底に閉じ込めていた感情が溢れ出してきた。こんな風に心の声を吐き出すのは初めてで、心が軽くなったように感じた。
 すると男は口角を上げ、手から光の球体を取り出して言った。

MP-71「よく言ってくれた。ならば僕が救ってあげよう。七つの大罪嫉妬……先代はこれを制御できずに息絶えたが、君なら適合できることだろう。この力で復讐を果たすがいい。その後にお礼をしてもらおうか。」

 男は手を伸ばし、私にその球体を取り込ませた。

ルミ「…!う…うあぁ……身体が…熱い…苦しい…!」

 最初は身体の奥底から力が漲ってくるのを感じたが、段々と芯から熱くなっていき、私は膝をついて苦しんだ。
 それからの事はよく覚えていないが、きっと痛みに耐え続けていて気絶したことだろう。







ルミ「…はっ!…ここは……教室?」

 気がつくとそこは教室だった。しかし、辺りを見渡すと衝撃的な光景が視界に飛び込んできた。

ルミ「……え?何…これ……」

 そこには血を流して倒れる同級生の姿や、斬り刻まれた黒板、乱雑に荒らされた机や椅子があった。そして私の手は、真っ赤に染まっていた。

ルミ「もしかしてこれ…全部私がやったの…?」

 その手を見て、この惨劇を引き起こしたのは自分自身だと認識するまでに時間は掛からなかった。
 でも、私は喜びも罪悪感も感じていなかった。何も持っていなかった私が、初めて成し遂げられた行動。そこに感動を覚え、涙を流した。

ルミ「何…この気持ち……嬉しくもないけど悲しくもない。何て現していいのか分からないけれど、凄くすっきりとする…」

 そのまま衝動に刈られるように、私は惨殺の限りを尽くした。



 あれからしばらく経った頃、私の目の前にあの男が姿を現した。

MP-71「魂を与えて一週間。5桁以上も殺った狂人はこちらでも見たことがない。我々の期待には充分応えてくれそうだ。」

ルミ「うん。ありがとうございます。あなたのお陰で私は差別という重圧から解放されました。まさに救世主です。」

MP-71「救世主…か。面白い奴だ。だが、そろそろ対価は払ってもらうよ。」

ルミ「……タダで力が貰えるなんて思っていません。何なりと…」

MP-71「では我々の下に就いてもらう。元々君に目を付けたのは、空いた嫉妬の席を埋めるため。我々の世界を監視する七代思想宗派の教祖になれ。それこそが僕がルミを必要とする理由だ。」

ルミ「必要とする…理由…。承知しました。救世主様への恩を胸に、忠誠を誓います。」

 ずっと味方がいなかった私にとって、“必要とされる”事は何よりも嬉しかった。こうして私はマインダーの直属の部下として、宗派の教祖になった。





 教祖として救世主様含むマインダーの皆様の命令を熟していく毎日。部下にも慕われ、私はもう孤独感も劣等感も感じていなかった。
 けれども、そんな日常を一夜にして壊す存在が現れた。

MP-71「ルミ。君はもう充分にやってくれた。もう必要ない。」

ルミ「…え?何の冗談ですか…まだあなた様の計画は……」

MP-71「更に適任が見つかった。悪いがその魂は回収する。」

ルミ「ま、待ってください!私は最初から捨て駒だったんです……か…」

 私はその質問の答えも貰えないまま、どこか遠くに飛ばされた。


 深い森の中、私は目を覚ました。七つの大罪の魂を失ったからか、以前ほどの力が感じられない。今の私に唯一残っているものは刀だけだった。

ルミ「そんな…私は捨てられたの?……違う、そんなはずがない。私には…まだ…」

 行く宛の私は、皆の待っている教会を目指して放浪した。その過程でいくつもの集落と交戦していたが、決して楽な道のりではなかった。

ルミ「力が…力が足りない……私はエネルギー頼りなだけだった…」

 長く険しい道のりを経て、私はようやく教会に辿り着いた。


ルミ「皆…ただ…いま…?」

部下A「討て!ルミが復讐に来たぞ!」

 教会の扉を開くと、私の部下達が武器を持って一斉に襲い掛かってきた。

ルミ「待って!私は復讐に来たんじゃない!帰ってきただけなの!」

部下B「何故帰ってきた!お前はもう教祖じゃないだろう!」

ルミ「……どういうこと?あなた達は私のことをあんなにも慕って……」

部下A「何を言っている?我々はお前が教祖だから従っていただけだ。元々ここは入れ替わりが激しい。我々が信じたのは先代だけだ!」

 その時、私の中で何かが切れた音がした。私がようやく手に入れたものは、全て表面上だけの偽物だと分かったから。
 私は刀を握り締めて、思念波を流し込んだ。

ルミ「…そっか…全部“嘘”だったんだね。私は本当の意味では必要とされてなかったんだね。……なら消えて。」

部下A「ぐはっ!」

 襲ってくる部下全員を容赦なく斬り捨て、私は教祖の部屋の扉を開けた。



ウーロ「容赦ないねぇ先代。」

ルミ「あなたがいなければ…私は……私は…!」

ウーロ「逆恨みも甚だしいな。まぁお前如き、この七つの大罪の力で簡単に捻り潰……」

 そいつが言い終わるより先に、私はそいつの首をはねた。

ルミ「口程にもないね。その慢心は余裕のある人の癖。本当、妬ましいね。だけど滑稽だね。」

 首を部屋の隅に追いやり、私は天を仰ぎながら言葉を零した。

ルミ「救世主様…あなたの言う適任はもう居ませんよ。私が必要なんじゃないですか?」

 すると目の前に救世主様が姿を現した。そして私はすぐに頭を垂れて謝った。

ルミ「ごめんなさいごめんなさい!私が無力だったから、私を捨てたのですよね?これからはしっかりあなた様の期待に応えられるようにしますから、どうか…どうか捨てないでください…!」

 とにかく必死に謝った。ようやく手に入れたかもしれない居場所を失いたくなかったから。もう一度チャンスを与えて欲しかったから。
 そんな私を見て救世主様はふっと笑い口を開いた。

MP-71「自分が生き残る為に、後継者を自ら消すときたか。…面白い。こんな奴が他にいるとは思えない。…いいだろう。君をもう一度教祖に任命し、七つの大罪嫉妬の魂を与える。それとお詫びに“執行者エンフォーサー”の地位を与えよう。」

ルミ「ありがとう…ございます。私、ルミは救世主様の為に、誠心誠意尽くしてみせます。」


_____


ルミ「…というのが私の過去。自分でも人以上におかしな人生送ってると思う。」

曖人「境遇に恵まれなかったんだな……。それにしても、どこかで引き返せたんじゃないかって……」

ルミ「…気付かされた頃にはもう手遅れだったよ。私は数え切れない程の命を奪ってきたし、何より唯一の居場所を…手放すなんて選択、私には無理だった。だけど…後悔はしてないよ。私が必要とされた事実に変わりはないからね。」

 ルミの壮絶な人生を聞き、彼女がマインダーを慕う理由がよく分かった。それが誰であろうと、自分に価値を見出して人に依存してしまうのは少し分かる気がする。
 特に彼女はそれまで味方になってくれる人がいなかったので、付け込まれた時の影響力は凄まじかったのだろう。

曖人「ルミ…お前は今、幸せか?」

ルミ「…うん。歪な形だったかもしれないけれど、救世主様の役に立てたから……」

曖人「…そうか。だが、これまでしてきた事に対するけじめは…」

ルミ「勿論、けじめはつけるよ。私は負けたんだ。地獄行きだろうね。」

曖人「…これもある意味運命…か…。ルミ…お前にとっての救世主は、俺達の宿敵だ。必ず討つ。」

ルミ「ふーん……負けちゃえ。私があなたに与えたダメージは消えないよ。」

曖人「ああ…未だに痛むな。」

 そんなくだらない会話を最後に、俺は剣を振り降ろしてルミにトドメを刺した。
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