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プロローグ
1日目.事故
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職場から帰宅して、俺がテレビを付けると、とあるニュースが目に飛び込んできた。
『では、続いてのニュースです。昨日の夕方、千葉県内で女子中学生とトラックが衝突するという交通事故がありました。この事故で亡くなったのは……』
と、途中だが俺はリモコンを手に取りテレビを切った。毎週、毎日のようにこういったニュースを耳にする。その度に、俺は心を痛めるのだ。
気持ちを切り替えて昨日冷凍しておいた食品をレンシレンジで温めようとした時、友人から電話が掛かってきた。
「はい。早瀬ですが…。」
「久しぶりね。突然で悪いのだけれど、明日会える?たまにはお話ししようよ。」
「分かった。予定を空けておくよ。」
「本当?じゃあまた明日ね。…あっ、あと……ううん。明日話すね。」
そんな歯切れの悪い言い方をして、咲淋は一方的に電話を切った。俺は彼女の相変わらずの強引さに呆れながら携帯をポケットにしまった。
夕食を済ませた俺は、先程は不意打ちで気持ちを落としてしまった交通事故のニュースについてネットで調べた。どうやら、軽自動車が歩行者道に突っ込んだという内容だった。ありきたりだけど減らない、そんな交通事故だ。
けれども、どうにも不自然で仕方がないのだ。軽自動車はスリップした事で車線を外れ、歩行者道にずれたとなっているが、その肝心なスリップした原因が分かっていない。
「妙なんだよなぁ……最近の事故は…。」
“分からない”という事実は本当に恐ろしいものだ。そのせいで、俺は未だにあの日の出来事に縛られ続けている。現実は、何一つとして変わらないのに。
翌日、俺は昨日大まかに終えた仕事を仕上げた後に、車に乗って待ち合わせ場所に向かっていた。しばらく走っていると、ある光景が目に入った。
「……!」
なんと、道路わきの建設現場から、木材が降ってきたのだ。すぐに認識できた俺は咄嗟にブレーキを掛け、被害を受けずに済んだ。
「危な……。」
辺りを見渡してみるが、特に被害は無かったようだ。しかし、平穏な休日の昼間は一変して騒然とした。
とりあえず、俺は付近の駐車場へと車を移し、外へ出た。
「大丈夫でしたか?!」
車を降りると、一部始終を見ていたであろう男性がそう尋ねてきた。
「見ての通りです。本当に不幸中の幸いといったところです。……ところで、一体何が起こったのでしょうか?」
すると、男性が怯えるように建設現場のクレーンを指さした為、俺はそれを確認した。
「あぁ……本当に怪我人が出なくて良かったですね。自分含めて……。」
約八階の高さにクレーンで資材を運んでいたところ、強風に煽られて資材と鉄骨が衝突したようだ。そう、これは偶然起きた事故なのだ。
とは言ったものの、そんなにも悪い意味で噛み合う事が起きるのかという疑念も多少なりともある。だけど、認めたくはないが、それらは全て俺の“極度のトラブル体質”と言い片付ける事が出来てしまう。
咄嗟に冷静な判断が下せたのも、言ってしまえば遭い慣れているからなんていう嫌な理由だ。
その後、起こった出来事を一つ一つ紐解いていくために、当事者として夕方頃まで警察に束縛されていた。
「ご協力ありがとうございました。お時間を取らして貰って申し訳ありません。」
「いえ、大丈夫ですよ。では、少々急いでいるので……。」
そう言って俺はエンジンを掛けて、目的地へと向かった。
「ごめん。待たせてしまったね。」
駐車後しばらく歩き、駅前のところで咲淋を見つけた。
「平気平気。それにしても災難だったようね。」
「今更だよ。ほら行くぞ咲淋。」
無理矢理話を切り上げ、俺達は予約していたバーへと足を運び始めた。
「それで…今日はどんな目に遭ってたの?」
歩いている最中、咲淋はそんな事を聞いてきた。
「なんだ、知ってるんじゃないのか。」
「雰囲気よ。まぁ、ちょっとネットニュースで目は通したけれど。」
「……建設現場から資材がぶっ飛んできた。高さ的には八階くらいだろうね。幸い、俺含めて怪我人はいなかった。」
「あはは……蓮斗はいつまで経ってもトラブル体質だよねー。」
「笑い事じゃない。あと数メートル進んでたら重症だったかもなんだぞ。」
「今生きてるんだからいいの。結果論!……でも配慮は足りなかったね。ごめん……。」
すると、咲淋はしょんぼりとしながらも深々と頭を下げて謝ってきた。
「大丈夫。あんまり気にしてないよ。実際、俺自身もトラブルを惹きつけやすい人間である自覚はあるから。」
「そんな訳ないよー!きっと偶然に偶然が重なっちゃったんだよ。」
「そうだったら本当に良かったよ…。」
月輪咲淋はこう見えてもちゃんと俺の事を理解している。正直、俺がトラブル体質なのはこれまで出会った知人にとっては周知の事実。
それでも、今もこうやって仲良くしてくれる彼女を嫌いになる訳がない。程よい距離感なのだ。
そうこう会話が弾ませて歩いていると、バーに着いた。
「最後に行ったのって大学卒業の時だったっけ?」
「確かね。」
このバーは咲淋や他の友人と一緒によく来ていた。俺が上京して初めて外で飲んだのもこの店だった。
そして、この店に来る時は決まってこれからについての相談会のようになっていた。昨日の彼女の電話からしても、何らかの話がある事は間違いないだろう。
それがどんな話でどれくらい影響があるかは分からないけど、ある程度余裕を見せつつも身構えて入店した。
『では、続いてのニュースです。昨日の夕方、千葉県内で女子中学生とトラックが衝突するという交通事故がありました。この事故で亡くなったのは……』
と、途中だが俺はリモコンを手に取りテレビを切った。毎週、毎日のようにこういったニュースを耳にする。その度に、俺は心を痛めるのだ。
気持ちを切り替えて昨日冷凍しておいた食品をレンシレンジで温めようとした時、友人から電話が掛かってきた。
「はい。早瀬ですが…。」
「久しぶりね。突然で悪いのだけれど、明日会える?たまにはお話ししようよ。」
「分かった。予定を空けておくよ。」
「本当?じゃあまた明日ね。…あっ、あと……ううん。明日話すね。」
そんな歯切れの悪い言い方をして、咲淋は一方的に電話を切った。俺は彼女の相変わらずの強引さに呆れながら携帯をポケットにしまった。
夕食を済ませた俺は、先程は不意打ちで気持ちを落としてしまった交通事故のニュースについてネットで調べた。どうやら、軽自動車が歩行者道に突っ込んだという内容だった。ありきたりだけど減らない、そんな交通事故だ。
けれども、どうにも不自然で仕方がないのだ。軽自動車はスリップした事で車線を外れ、歩行者道にずれたとなっているが、その肝心なスリップした原因が分かっていない。
「妙なんだよなぁ……最近の事故は…。」
“分からない”という事実は本当に恐ろしいものだ。そのせいで、俺は未だにあの日の出来事に縛られ続けている。現実は、何一つとして変わらないのに。
翌日、俺は昨日大まかに終えた仕事を仕上げた後に、車に乗って待ち合わせ場所に向かっていた。しばらく走っていると、ある光景が目に入った。
「……!」
なんと、道路わきの建設現場から、木材が降ってきたのだ。すぐに認識できた俺は咄嗟にブレーキを掛け、被害を受けずに済んだ。
「危な……。」
辺りを見渡してみるが、特に被害は無かったようだ。しかし、平穏な休日の昼間は一変して騒然とした。
とりあえず、俺は付近の駐車場へと車を移し、外へ出た。
「大丈夫でしたか?!」
車を降りると、一部始終を見ていたであろう男性がそう尋ねてきた。
「見ての通りです。本当に不幸中の幸いといったところです。……ところで、一体何が起こったのでしょうか?」
すると、男性が怯えるように建設現場のクレーンを指さした為、俺はそれを確認した。
「あぁ……本当に怪我人が出なくて良かったですね。自分含めて……。」
約八階の高さにクレーンで資材を運んでいたところ、強風に煽られて資材と鉄骨が衝突したようだ。そう、これは偶然起きた事故なのだ。
とは言ったものの、そんなにも悪い意味で噛み合う事が起きるのかという疑念も多少なりともある。だけど、認めたくはないが、それらは全て俺の“極度のトラブル体質”と言い片付ける事が出来てしまう。
咄嗟に冷静な判断が下せたのも、言ってしまえば遭い慣れているからなんていう嫌な理由だ。
その後、起こった出来事を一つ一つ紐解いていくために、当事者として夕方頃まで警察に束縛されていた。
「ご協力ありがとうございました。お時間を取らして貰って申し訳ありません。」
「いえ、大丈夫ですよ。では、少々急いでいるので……。」
そう言って俺はエンジンを掛けて、目的地へと向かった。
「ごめん。待たせてしまったね。」
駐車後しばらく歩き、駅前のところで咲淋を見つけた。
「平気平気。それにしても災難だったようね。」
「今更だよ。ほら行くぞ咲淋。」
無理矢理話を切り上げ、俺達は予約していたバーへと足を運び始めた。
「それで…今日はどんな目に遭ってたの?」
歩いている最中、咲淋はそんな事を聞いてきた。
「なんだ、知ってるんじゃないのか。」
「雰囲気よ。まぁ、ちょっとネットニュースで目は通したけれど。」
「……建設現場から資材がぶっ飛んできた。高さ的には八階くらいだろうね。幸い、俺含めて怪我人はいなかった。」
「あはは……蓮斗はいつまで経ってもトラブル体質だよねー。」
「笑い事じゃない。あと数メートル進んでたら重症だったかもなんだぞ。」
「今生きてるんだからいいの。結果論!……でも配慮は足りなかったね。ごめん……。」
すると、咲淋はしょんぼりとしながらも深々と頭を下げて謝ってきた。
「大丈夫。あんまり気にしてないよ。実際、俺自身もトラブルを惹きつけやすい人間である自覚はあるから。」
「そんな訳ないよー!きっと偶然に偶然が重なっちゃったんだよ。」
「そうだったら本当に良かったよ…。」
月輪咲淋はこう見えてもちゃんと俺の事を理解している。正直、俺がトラブル体質なのはこれまで出会った知人にとっては周知の事実。
それでも、今もこうやって仲良くしてくれる彼女を嫌いになる訳がない。程よい距離感なのだ。
そうこう会話が弾ませて歩いていると、バーに着いた。
「最後に行ったのって大学卒業の時だったっけ?」
「確かね。」
このバーは咲淋や他の友人と一緒によく来ていた。俺が上京して初めて外で飲んだのもこの店だった。
そして、この店に来る時は決まってこれからについての相談会のようになっていた。昨日の彼女の電話からしても、何らかの話がある事は間違いないだろう。
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