亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

文字の大きさ
4 / 60
1章:失踪の川

4日目.帰郷②

しおりを挟む
 改札を出て、俺は実家に「到着」と連絡を入れた。そして、折り畳み傘を鞄から取り出して駅の外に出た。
 歩くたびに振動で水溜りに波紋が広がる。公衆電話には水滴が付着していた。見慣れた景色であり、懐かしい景色でもあるが、同時に不思議な感覚にも襲われた。関東じゃ毎日のように雨は降っていなかったから。

 「ちょっと家空いて無さそうだからさ、適当にふらつこうか。案内する。」

 昨日急ぎで連絡したのだから、流石に夕方頃までは誰も家にいない。
 なので、時間潰しに駅周辺の商店街を散歩する事を咲淋に提案した。

 「じゃあ、よろしくね。」

 そうして、夕方まで商店街を見て回る事に決まった。







 半透明の屋根に覆われた商店街。ここは意外にも多くの人が集まる場所だ。

 「へぇ~けっこう発展しているのね。私の地元と同じくらいかな?」

 「まぁ田舎ではないからね。こんな環境でも、過疎らないくらいには住みやすい土地だから。飲食店もいいとこ多いから迷うだろ?」

 「そうね。…ってもうそんな時間か……。無難にラーメンとかにしておこうかな?」

 「いいんじゃない。オススメがあるから、そこに行こう。」

 俺は彼女をそのラーメン店へと案内した。



 「わぁ…けっこう並ぶね。」

 「慣れたものでしょこのくらい。一時くらいには入店できるんじゃない。」

 そうして俺達は列の最後尾に並び、列が進むのを待った。



 「……何の騒ぎだ…?」

 賑やかさを見せつつも平穏な空気だった商店街が騒然とし始めた。耳を澄ますと、微かに何かが迫る音を捉えられた。
 
 「離れてください!道の端に寄ってください!」

 遠くから誰かがそう叫んでいたため、音のする方に目を向けると、そこには暴走する軽トラックの姿があった。
 俺は人の波に押されながら道端へと動こうとしたが、誰かの足に引っかかってしまった。

 「……!」

 「蓮斗!」


__________________
 
 小学六年リレーの練習の最中。

 「大丈夫?那緒。」

 「うん。平気。ちょっと転んじゃって……。」

 「平気ってさぁ……けっこう出血しておいてそれ言う?」

 「きゃっ!何勝手に足触ってるの!」

 「ほら、止血しといたから。しばらくは安静にしてろよ。本番まではまだ一週間あるんだからさ。」

 「……分かった。ありがとうね。」

 「…どういたしまして。」

__________________

 「ッ!……何が起こった…。」

 「何かを悟ったからなのか、気絶していましたよ。」

 「……!その声は………みのり?」

 起き上がると、そこには咲淋、そして実の姿があった。
 彼女は豊穣ほうじょう実。中学時代のクラスメイトで、那緒と仲が良かった記憶がある。

 「何で実がここに?確か大阪の方で働いてるはずじゃ……。」

 「貴方こそね。ちょっと九州の方に人事移動する事になってね。それならこっちから通った方が近いから。」

 「そうなんだ。」

 「っと私はそろそろ失礼するね。連れの子も居るみたいだし。」

 そう言って実は鞄を持って去って行こうとしたが、何かを思い出したように立ち止まって、俺に言った。

 「あ、そうそう。夕焚ゆうやが貴方に会いたそうにしていたよ。帰ったら顔を見せてあげてね。」

 それだけ言い残して、彼女は去って行った。

 「蓮斗…大丈夫?」

 すると入れ替わるように咲淋が声を掛けてきた。

 「身体に異常はないよ。……何が起きていたんだ?」

 「荷物を運搬していた軽トラックのブレーキが効かずに歩行路に突っ込んだみたいなの。蓮斗以外にも怪我人はいるっぽいの……でも、皆軽症だって。豊穣さん?が診てくれてたよ。」

 「また会ったらお礼言っとかないとな……。ブレーキ効かなかった理由は?」

 「……それが分かってないの。運転手の過失の可能性が高いと思うけど、何とも……。」

 つまり、いつも通りという事だ。それよりも気になるのがあの記憶。……これまで、死を悟った時であってもフラッシュバックが起きる事は無かった。
 これが帰郷したからなのか、生きたいと強く思ったからなのか、はたまた単なる気分なのかは、全く見当も着かない。

 「……深く考えるのも無駄か…。」

 「何か言った?」

 「ん?何も……。」

 どうやら、無意識に言葉に呟いていたようだ。
 スマホで時間を確認すると、五時になっていた。

 「もう五時か……よし、そろそろ家に行こうか。ごめんね、俺のせいであんまり見て回れてなかったよね?」

 「全然君のせいじゃないよ。どのみち、事故のため規制されてたし、また来ればいいからね。」

 「……そう言ってくれると助かる。」

 一悶着あったものの、俺達は商店街を後にした。







 バスで住宅街の方に向かい、しばらく歩くと実家に着いた。

 「けっこう広そうな家ね。」

 「土地が安いからね。赴任中の父もお金を入れてるし。」

 そう言って俺は玄関の扉を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...