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1章:失踪の川
3日目.帰郷①
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早朝の電車に揺られ、窓の外から段々と懐かしいような、苦しいような光景が姿を現してきた。
「……ったく。心の準備という言葉を知らないのか?」
「ごめんごめん。でも、気が変わらないうちに行っちゃった方がいいでしょう?」
「だとしてもなぁ……話を持ち掛けた日の二日後に出ようとする人が一体何処にいる。」
__________________
昨日。眠りから覚めて駐車場に残された車を回収しに行くと、咲淋らしき姿があった。
「あ、蓮斗。やっほー。」
少し離れたところから、彼女はそう手を振ってきた。
「酷くないですか?飲酒後の女性を一人残して、一目散に逃げていくのは!」
「この辺りに莉乃の家がある事は知ってるし。駅から徒歩十五分くらいでしょ?」
俺達が知り合ったきっかけになったサークルの同期は漏れなく出世している。都市部だったら、最寄りに一人くらいは友人宅がある。
ただ、この辺りには男性の友人の自宅がないため、俺は宿泊施設を使う他なかっただけだ。
「あっ、そうだ。これ……。」
すると突然、何かを思い出したように彼女はお金を取り出した。
「昨日支払ってくれたよね?割り勘でお願い。」
「その程度誤差じゃん。全額俺でいいよ。」
「駄目。それは私のプライドを大きく傷つけるから。」
「はぁ…。」
俺は一つため息をつき、財布から交通系ICカードを取り出した。
「けっこう距離あるからね。これで負債ゼロになるんじゃない?」
「分かったわ。本当は元々必要経費として私が二人分支払うつもりだったけど……。」
話が一段落ついた所で俺が車に乗り込むと、彼女は何食わぬ顔で助手席へと座ってきた。
「送ればいいの?」
「ええ。プロジェクトと話もしっかりとできていなかったし、その説明をする時間も欲しいからね。」
「分かった。」
首都高で渋滞にはまったタイミングで、俺は咲淋に尋ねた。
「それで、俺は具体的に何を手伝えばいいの。昨日は地理的に俺の知識を借りたいって言っていたけど、俺もあの停滞前線については全く分からない。……まぁ、あそこに居た頃の俺は全然調べてなかったけど。」
「それについては問題ないよ。そのために調べるのだから。私が色々と調査する過程で困った事があったら君に補助してもらう。あと…ちょっと私に泊まる場所を貸してほしい……かな?」
「それが本命だろ。」
「えへっ、バレた?」
本当に分かりやすい奴だ。あの辺は最低でも数週間滞在するような宿泊施設はない。かと言って、本島から通うには面倒くさい。
ただ、俺的にも自由に動ける方が楽ではある。今季は珍しく大きな仕事がないため、謎解きに集中できそうだ。
「ってことで!明日からよろしくね!」
「うん分かっ……ん?明日?」
「そう。明日。」
彼女は屈託のない笑顔を見せ、俺にそう告げた。彼女は学者としては頭が優れている。しかし、いきなり言っても困る事かを考えられる脳は持ち合わせていなかったようだ。
そんなこんなで彼女を家に送った後、大急ぎで実家や会社に連絡を取ったのはまた別の話である。
__________________
「そう言えば、大学の時も咲淋は俺達を振り回しまくっていたっけな。社会に出てもそれは健在か……。」
彼女の部下になった人は本当にご愁傷さまだ。そんな考えを抱きつつも窓の方に目をやると、水滴が付着し始めていた。
「良くも悪くも帰って来たって感じがするよ……。」
ここら一帯は謎の停滞前線に覆われている。その実態は、約十五年経った今でも明らかになっていない。
「これが噂の……確かにここだけ天候がズレているわね……。」
咲淋はスマホで地方の天気情報を見ながら、そう呟いた。
六年ぶりの帰郷だ。
「……ったく。心の準備という言葉を知らないのか?」
「ごめんごめん。でも、気が変わらないうちに行っちゃった方がいいでしょう?」
「だとしてもなぁ……話を持ち掛けた日の二日後に出ようとする人が一体何処にいる。」
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昨日。眠りから覚めて駐車場に残された車を回収しに行くと、咲淋らしき姿があった。
「あ、蓮斗。やっほー。」
少し離れたところから、彼女はそう手を振ってきた。
「酷くないですか?飲酒後の女性を一人残して、一目散に逃げていくのは!」
「この辺りに莉乃の家がある事は知ってるし。駅から徒歩十五分くらいでしょ?」
俺達が知り合ったきっかけになったサークルの同期は漏れなく出世している。都市部だったら、最寄りに一人くらいは友人宅がある。
ただ、この辺りには男性の友人の自宅がないため、俺は宿泊施設を使う他なかっただけだ。
「あっ、そうだ。これ……。」
すると突然、何かを思い出したように彼女はお金を取り出した。
「昨日支払ってくれたよね?割り勘でお願い。」
「その程度誤差じゃん。全額俺でいいよ。」
「駄目。それは私のプライドを大きく傷つけるから。」
「はぁ…。」
俺は一つため息をつき、財布から交通系ICカードを取り出した。
「けっこう距離あるからね。これで負債ゼロになるんじゃない?」
「分かったわ。本当は元々必要経費として私が二人分支払うつもりだったけど……。」
話が一段落ついた所で俺が車に乗り込むと、彼女は何食わぬ顔で助手席へと座ってきた。
「送ればいいの?」
「ええ。プロジェクトと話もしっかりとできていなかったし、その説明をする時間も欲しいからね。」
「分かった。」
首都高で渋滞にはまったタイミングで、俺は咲淋に尋ねた。
「それで、俺は具体的に何を手伝えばいいの。昨日は地理的に俺の知識を借りたいって言っていたけど、俺もあの停滞前線については全く分からない。……まぁ、あそこに居た頃の俺は全然調べてなかったけど。」
「それについては問題ないよ。そのために調べるのだから。私が色々と調査する過程で困った事があったら君に補助してもらう。あと…ちょっと私に泊まる場所を貸してほしい……かな?」
「それが本命だろ。」
「えへっ、バレた?」
本当に分かりやすい奴だ。あの辺は最低でも数週間滞在するような宿泊施設はない。かと言って、本島から通うには面倒くさい。
ただ、俺的にも自由に動ける方が楽ではある。今季は珍しく大きな仕事がないため、謎解きに集中できそうだ。
「ってことで!明日からよろしくね!」
「うん分かっ……ん?明日?」
「そう。明日。」
彼女は屈託のない笑顔を見せ、俺にそう告げた。彼女は学者としては頭が優れている。しかし、いきなり言っても困る事かを考えられる脳は持ち合わせていなかったようだ。
そんなこんなで彼女を家に送った後、大急ぎで実家や会社に連絡を取ったのはまた別の話である。
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「そう言えば、大学の時も咲淋は俺達を振り回しまくっていたっけな。社会に出てもそれは健在か……。」
彼女の部下になった人は本当にご愁傷さまだ。そんな考えを抱きつつも窓の方に目をやると、水滴が付着し始めていた。
「良くも悪くも帰って来たって感じがするよ……。」
ここら一帯は謎の停滞前線に覆われている。その実態は、約十五年経った今でも明らかになっていない。
「これが噂の……確かにここだけ天候がズレているわね……。」
咲淋はスマホで地方の天気情報を見ながら、そう呟いた。
六年ぶりの帰郷だ。
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