亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

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1章:失踪の川

6日目.未歓迎

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 住宅地を少し外れた丘の麓。そこにある錆びれた公園のボロボロのベンチで彼を見つけた。
 気配を消して近付いたが、彼はすぐに俺の存在に気付いたようだ。

 「この場所、同僚ですら知らないのに、よく分かりましたね。……六年ぶりです。蓮斗さん。」

 「あぁ大きくなったな。夕焚。」

 彼は風波夕焚。四つ下の那緒の弟だ。昔から俺を慕っていた純粋な男だった。
 しかし、崩落事故で那緒を亡くして以来、慎重で現実主義な性格へと様変わりしてしまった。一言で片付けるなら“疑心暗鬼”な人間だ。

 「それにしても、六年間連絡無しとは何事ですか。同窓会にもロクに出席しないわ正月盆に帰省もしないわで生きてるかすら確認出来なかった。その自覚がありますか?」

 彼は、再開早々痛い所を突いてきた。勿論、仕事が忙しいとはいっても、そんなに余裕がない訳がない。
 
 「自覚はあるよ……。ただ、帰る事に抵抗があって決心が着かなかっただけさ。夕焚は一週間目こそ酷く病んだもののすぐに立ち直り、前進した。それなのに俺は二週間登校拒否。回復後も人とまともに会話出来なかったような奴だ。苦痛の一年半を耐え切り、俺は逃げるように地元を…九州を離れた。俺のトラブル体質は何処に居ても遺憾無く発揮。……気持ちが整理出来ると思うか?」

 と、無意識のうちに半ば愚痴のようになってしまった事に気付き、俺はすぐに「ごめん……取り乱した。」と謝罪した。
 すると夕焚はため息をつき、俺の目を見て言った。

 「はぁ……姉さんが愛した貴方はそんな事を言う人じゃなかった。トラブル体質?そんな体質があると証明する材料がないじゃないですか!……蓮斗さん…確かに貴方は危険な目に遭いやすかった。それが偶然なのか何なのかは知りませんが、それだけは間違いなかった。ですが貴方はいつも何て言ってたか覚えていますか?」
 
 「……さぁ…もう記憶にないな。」

 「……“この程度、日常茶飯事だ。気にするな”。これが口癖でした。明らかに変わったのは姉さんの事故の後。まるで光を失った偶像のように、貴方は神経質になった。」

 「……当然だろ。大切な人を間接的に殺したかもしれないんだぞ!……根拠もなければ原因も分からないが、一つだけ確かな事がある。……俺は不幸を惹きつける。その事実だけで理由に足る。」

 自暴自棄。現実逃避をするためには、正当化できる理由が必要だった。
 東京では決心が着いたつもりで出てきたが、いざこいつと話すと、平常心を保てない。
 心の何処かではまだ不貞腐れた感情が渦巻いていたんだ。これだけは、真実が分かったところで消える事はないだろう。喪失者の宿命だ。


__________________

 俺は嫌われ者だ。理由は知らない、知りたくもない。皆から避けられ、蔑まれた。そんな俺に光を見せてくれたのが蓮斗さんだった。

 「小学生時代からこんなハードないじめ、よく思いつくよな……。もう大丈夫だ。駄目な大人に代わって、俺が事を収めてくる。」

 それだけ言い残して去ろうとした彼に対して、俺は一つの疑問をぶつけた。

 「何で貴方は……俺なんかを助けて…!」

 彼は振り向き、何一つ飾らない表情でこう言った。

 「不快だから。ただ、それだけの理由。君が那緒の家族だからってのもあるかな?」

 この人に誰かを助けたいとかそんな感情がないのは一言で分かった。揺るがないのは、はっきりと自分で許せる事と許せない事の線引がされていることだ。
 仮に下心があったとしても、見透かせないだろう。この人はそれくらいストレートに思いをぶつけるから。

__________________
 
 正午、ピリついた空気が流れる中、彼は言葉を発した。

 「俺は歓迎できない。今の貴方を……。今の心の壊れた貴方を……!」

 分かりきっていた。夕焚が慕っているのは俺自体じゃない。今は亡き、“過去の俺の心”だ。
 地元を捨てた姉の元彼。彼にとって今の俺はそういう人間なのだろう。
 
 しばらく沈黙となったが、再び彼が言葉を零した。

 「貴方が好かなかった“逃げるだけの大人”。戦略的撤退とかそんな聞こえのいい意味合いではなく、自己中心的な撤退。これ……反面教師ですよね?」

 「……過去の俺は過去の俺。何か一つキッカケを加えれば、人の心なんてすぐ歪む。あの頃とは物事の考え方が違うんだよ…。」

 「それは俺だって同じ事です。……俺は…まだ貴方が戻れると信じていますから……根っこの部分は変わっていないって信じていますから……!」

 お互いに主張をぶつけきった後の雰囲気がしばらく流れると、彼は言った。

 「いいですよ。それなら、俺がキッカケを与えてあげますよ……。メールで一つ用件を送っておきます。やるもやらないも貴方次第ですが、それが貴方の手で解決されるまでは、俺は貴方に一切関わりません。……待ってますよ、蓮斗さん。」

 そんな事を言い残して、彼は去って行った。一人風雨に煽られて、俺は感傷に浸っていた。

 「俺自身が……俺の嫌いなものを……?」

 気付けば長い時間、そんな自問自答を繰り返して、ずぶ濡れになっていた。
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