亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

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1章:失踪の川

15日目.方針

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 「お邪魔します……。」

 俺は夕焚の実家にへと上がった。彼の両親は仕事の都合で今は日本に居ないらしい。
 家は徒歩一分も掛からない距離だが、何気に上がったのは初めてだ。

 「なんか……不思議な感覚だな。あんなにも親しかった幼馴染の家なのに、上げられたのは成人してからで、その幼馴染ももう記憶の中の存在なんて……。」

 「まぁ無理もありませんよね。蓮斗さんの自宅に場所を移しましょうか?」

 「いや、いいよ。この話はあまり口外すべきではないと思うんだ。……あれの調査を肯定する人の方が稀だということは、君が一番よく分かっているんでしょ?」

 「はは、そうですね…。」

 そんな話をしているうちに、彼はパソコンを起動し終えて、あるフォルダを開いた。



 「それで、これからどうやって崩落事故の真相に迫っていくかなんですが、あの事故がそもそも恒夢前線によるものなのかが分かっていないんですよね。当時は恒夢前線についての情報が少なく、注目され始めたのは連続複雑交通事故が起きてから、あの崩落事故が起きた時ですから。ただ、“まぐれ”……とは考えにくいのも事実です。土壌が異常に緩んでいた事は覆りようがない事実なので。」

 事実上、あの事故は極度の風雨によって土壌が歪み、巨大な建造物を支えきれなくなったとされている。
 しかし、本当に風雨だけが理由なのか。恒夢前線は当時から広く形成されていた。建設前の地質検査も異常は無かったそうだ。だとしたら、他の場所も影響を受けていないと不自然だ。
 
 「地質に問題があったか、恒夢前線の影響を受けやすい体質の人がいたか……。後者の場合は調べられないな。それとも、他に何か要因が……?」

 「他に要因があったとしても、それを特定するのは今は不可能でしょう。地質を調べるのは崩落事故後も何度かトライされていました。」

 「全部失敗に終わったんだな……で、今は禁足地と。」

 まだ発生当時は盛んに究明に向けて動かれてはいた。けれども、死者は増えるばかりで呪われた地と解釈するようになった。
 それでも熱心に調査を進める者も少なくなかったが、ご遺族の方の反対が多く、一律で禁じられた。
 余程革新的な調査方法でも提示しない限り、仮に提示したとしても、許されるかどうかは想像もつかない。そんなものに俺達は闘志を燃やしているのだ。

 そのことを再認識するともう道筋が続かなくなっていく。そんな中、俺は東京から帰郷して今に至るまでの道筋を再び思い出して辿っていると、一つの発想に辿り着いた。

 「あっ…そうだ!」

 「何か良い案が浮かんだんですか!」

 「ああ。今、俺の友人が恒夢前線を調べるためにこちらに滞在しているんだ。それはもう一日中観測するくらいにはな。彼女の得た情報と俺達の持つ情報を照らし合わせれば、これまでより何倍も早く解明に近づけるぞ。」

 すると、彼は俺の意図を完全に理解したような標準を浮かべた。

 「なるほど…。もしも崩落事故と恒夢前線に因果関係があるとするならば、恒夢前線の方を調べれば、崩落事故の出掛かりも掴めると……確かに合理的ですね。」

 「そうだ。友人が恒夢前線そのものを調べている間、俺は関係がありそうな奇妙な事故について現地調査をする。トラブル体質の俺なら、巻き込まれるのも容易なはず。夕焚は仕事も忙しいだろうから、事務的なサポートをしてくれたらいい。」

 「蓮斗さんの仕事の方はどうする気なのですか?」

 「今は一番暇な時期だ。個人調査って言っておけば理由に足る。」

 「何とも強引な……蓮斗さんがそれを最善と思うのなら、ありだと思いますよ。これから我々がする事は、恒夢前線について解明していく……という事で問題ないですね?」

 「ああ。」

 「では、明日から早速動いていきましょうか。それと……くれぐれも、命は丁重に扱うようにしてくださいね。」

 「……肝に命じておくよ。」

 そうして今後の方針について決まった俺達は、夜も遅いし疲れたため解散した。







 「……という話になったのだけど、協力してくれる?」

 帰宅後、俺は咲淋に一連の出来事について説明した。
 すると彼女は間も開けずに即答した。

 「勿論協力するよ。私にとって損はないし、蓮斗が意を決して帰ってきた理由も分かっているから。」

 「なら良かった。」

 ひとまず、協力してくれる事が分かって安心した。彼女なら協力してくれるだろうとは思っていたが、万が一もあるかもしれないから。
 
 「もう俺は寝るね。おやすみ。」

 「ええ。おやすみ。」

 明日から本格的に動き出す。疲れを取るためにも俺は部屋に戻って眠りに就いた。


__________________
 
 真っ暗な空間に人影。どうやら、今日は夢落ち出来たらしい。

 「君がこの前言っていたことって、こういうことだったのか。」

 人影に向かって俺はそう言った。
 以前人影に“それは直に分かる”と言われたが、実際に今日野村さんにこの人影の正体について聞いた。

 しかし、人影からの返答が返ってこない。

 「……おい、大丈……」

 『まだ……駄岼…鬧?岼……岼!』

 「ッ!」

 安否を確認すると、ノイズにまみれた人影の声が帰って来て、途端に暗闇から空間が変わり始めた。


 そこに映し出されていた光景は、エラー表示の出た液晶パネルに囲まれた空間。そこに居るだけで気が狂いそうだ。
 しかし、その空間は一瞬で崩れて、元の暗闇に戻ってきた。


 「何だったんだ……それよりも大丈夫か!」

 『私を心配してくれるの?ありがとう。』

 どこかくたびれた人影の姿が見えたため声をかけたが、無事だったようだ。
 すると、人影は言った。

 『もうあまり時間がないから手短に話すね。……今の私はすっごく不安定なんだ。次、いつまたああなるか分からないし、次は戻れるかも分からない。……花を…花を探して。貴方がやろうとしている事には、それが関係しているはずだから。シロバナタンポポの時のように、摘み取ってね……。しばらくはサポート出来ないけど……頑張って…………』

 弱々しく人影はそう言って、休眠状態に入った。

__________________

 夢から追放されるように目が覚めた。俺は花瓶の方を見つめて言葉に零した。

 「花……?」

 そういえば、以前洞窟で見せられた花畑の光景の中に、萎れた花がいくつかあった。

 「もしかして……あれが探すべき花なのか……?」

 人影の遺言?に困惑の色を隠せなかったが、何か特別なことはせずに、事故の真相を解明していけばおのずと辿り着くのだろう。
 ただ、少々急いだ方が良さそうだと感じた。







 とある建物の中、ある人物が新聞を見ながら ふっ と笑いを零した。

 「どうかなさいましたか?」

 「いいや、何でもない。……失踪事件が解決したのは大変喜ばしい事なのだが、何者がどういう手順で解決したのか明らかになっていない事が気になっただけさ。僕の考え過ぎか?」

 「そんな事ないと思いますよ。警戒をして不利益を被る事はないですから。」

 「せやな。まぁ…動向は探っておくかぁ……。何かまた一悶着ありそうだしな。」

 男達が真剣にそう何かを話し合っている横で、あるニュースが流れていた。
 

 
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