亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

文字の大きさ
23 / 60
2章:滑轍ハイウェイ

23日目.対立

しおりを挟む
__________________

 崩落事故が起きた日の翌日、地域に衝撃が走った。まさか完成目前のショッピングモールが倒壊し、大勢の人が犠牲になるとは。
 隣接する道路は大通りかつ渋滞、住宅地にも商業地にも繋がるこの町の道路の幹のようなものだ。そんなピークのタイミングだった。
 悲しみに明け暮れ、心が廃り、色褪せる人々。そんな中、また別の理由で嘆き、悲しむ人が居た。







 「何故だ…何故なんだ!……あと一ヶ月あまりで完成だったというのに……俺らの建築物で人を笑顔にさせたかったのに…!」

 「お兄ちゃん……。」

 ただ人々の笑顔を求めていたのに、自分の建築物で多くの命を奪った現実に嘆く西城兄とどう励ませばいいかも分からない弟聡。
 設計図は完璧だった。これは言わば想定外の事故。誰も悪くない偶然の厄災。この地域の不可解な呪行。
 だけど、西城兄にとってそれは精神的に傷を負う出来事だった。

 「納得がいかない……何の不備があったのか……知っておくのが設計者の務め。多くの命が消えた現実は決して拭えない。だからせめて、再建しなければ!」

 西城兄は焦りと責任を感じていたのかもしれない。コンビの相方に連絡を入れて、後日から瓦礫の撤去作業と土台の解体を行うことに決めた。







 しかし、その後の作業は決して順調とは言えなかった。ある解体工事では二次災害が起き、何とか回収を終えて修復工事に取り掛かったものの、半分程度のところでまたしても事故が起きた。
 小規模なものも含めれば崩落事故発生から半年以内で十四回アクシデントがあり、死傷者は約二万人にまで増えた。
 事実上最後の事故で経過を見に来ていた西城兄の相方が死亡し、もう携わっている人々の精神状態はズタボロだった。



 「お兄ちゃん……!しっかり!」

 「聡……か……、今日もすまない…な……」

 過度な不安とショックからか、彼は精神が壊れて病にかかり、寝たきりになっていた。医師によると、余命一ヶ月以内。異例の事態のため治療法が確立されていなかったようだ。
 カウンセリングも最早意味を成さず、かろうじてまだ喋れる程度だ。そうは言っても思考はままならず、消えない想いを伝えることが限界のようだ。

 「聡……俺は……救えない……」

 その言葉に聡は何も言えずに唇を噛んだ。兄が運命を悟り、早く楽になりたいと本能的に感じていることは、ずっと前から分かっていた。
 脈拍が上がり呼吸が限界になりそうな容態の中、兄は言った。

 「原因不明……いくら探しても…だ。あれはもう呪われている。そうとしか思えない……。聡……強く、慎重に生きろ……過度な追求は……悲劇を招く………俺の教訓は…………」

 「……!お兄ちゃん!」

 崩落事故から半年が経ち、負った傷は平均的には癒えていた。依然として永遠にフラッシュバックを起こしている人々も居るが。
 そして、そこにまた新たな悲しみが生まれた。いや、悲しみなんて生ぬるい表現かもしれない。
 何に対してでもない過度な憎しみ。憧れを壊し、弱音を吐かせ、最後には奪った。向けようのない刃物は、彼の人生の柱となるだろう。

__________________

 きっと不安で不安で仕方がない。他人を思ってこのような事をしているということは凄くよく分かっている。
 だけど、これは俺の人生だ。他人に制限される筋合いはない。かと言って異端者になりたい訳じゃない。
 真実を突き止めて、納得したいだけなんだ。だから、俺はこいつを説得することに決めた。

 「もし、俺が謎を解明するためのキーパーソンだったとしても、お前は俺を止めるか?」

 挑発混じりの口調でそう問うと、聡は虚無から少し機嫌が悪いような表情に変わった。

 「止めるさぁ。今更辿り着いたところで、もう遅い。失ったものは失ったままだからな。」

 「そんな事、俺も痛いほどよく分かってんだよ!」

 久しぶりに、本心が理性を上回るほどに熱くなった。俺は勢いのまま想いをぶつける。

 「……那緒が死んだあの日から、俺は壊れた。お前や青空、夕焚に言われたように、俺は逃げた。根拠も何もないトラブル体質を口実に、全部責任を自分のものにした。……それが逆に首を絞めてるってこの六年間ずっと気が付かなかったんだよ。これもある種の現実逃避だってようやく自覚した。そんな弱い心はさっさと淘汰されるべきだ。君達も、俺自身も!」

 「……はは、分からない。じゃあ、どうして今まで気が付かなかった。精神の傷は上書きしなければ自然に淘汰されない。先輩は!何故急に心を変えられる!」

 「……出会ったんだよ。俺の邪心を否定してくれる人達に……。素通りせずに、面と向き合ってくれる人達に!……俺はまだ一生お前と同類のままだ。だから……俺達の弱い心を淘汰するために、真相を暴く!どれだけ危険に苛まれたとしても。」

 ヒートアップした言葉のぶつかり合いは一度熱が冷めた。
 すると、聡は一つ溜息をついた。

 「今日は警告だけで済ませておくつもりでしたが……流石に気が変わった。ただ、もうこっちも疲れたわ。あ、見逃す訳ではないので勘違いしないでくださいね。」

 そう言って彼は扉を開けて、振り向いてこう言った。

 「勝手にやればいいじゃないですか。その代わり、我々TCCは全力で先輩の邪魔をします。にしても……同じ経験を経て、人はここまで信念がすれ違うものなんですね。先輩が僕達を淘汰するのか、はたまた先輩がこちらに堕ちるのか……結果が意外にも分かりません。実際、先輩は上京して勉強をしていたのでね。」

 「それは認めてくれるんだな。」

 確かに俺は上京してから故郷に連絡を取っていない。その点では逃げていたが、上京した理由は進学するためだ。それも、ずっと前から決めていた事だ。
 元々は化学を学びたかったが、事故をキッカケに地理に取り憑かれたのはそうだが。

 「ほんの僅かだけは期待してますよ。行くぞ青空。」

 「はい。」

 そうして、二人はその場を去って行った。
 面倒なことにはなったが、誓った以上は対立するしかない。

 「……こっちは半端な覚悟で言ってるんじゃない。六年格闘した末に決心したんだよ。」

 そう口に零し、俺は建物の外に出て夕焚に連絡を入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...