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2章:滑轍ハイウェイ

22日目.意外?

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 「お疲れ様です、先輩!」

 これは中二の時の話。次期キャプテンを任されていた俺は、後輩とも積極的にコンタクトを取るように心掛けていた。
 チーム全体のやる気と質が上がらなければ、バスケやサッカーなどは成り立たない。個人の限界があるということは、昨年に身を持って思い知らされている。
 そんな俺は後輩からも懐かれており、特に聡は他学年では一番親しい人物だった。

 「そっちも。さて…帰るか。」

 「あれ?風波先輩と帰らなくて良いんですか?」

 「那緒は今日部活無くなったらしい。放課後友達と出掛けるとも言っていたし、話し相手がいないんだ。……一緒に帰らないか、聡。」

 「喜んで!」

 俺達は荷物をまとめて、帰路に着いた。







 「先輩質問いいっすか?」

 足を進めていると、聡はそう訊いてきた。

 「ご自由に。」

 「ありがとうございます。先輩にはカリスマ性があると思っています。その秘訣は何ですか?」

 「難しい質問だね……そもそも自分でカリスマ性があるなんて思った事ないし、もし思っていたとしてもめっちゃ痛い奴にならない?」

 「確かにそうですね……では話を……」

 すると、彼は話を切り上げようとしてきたため、俺は頭の中で最適解を見出した。後輩からの質問に返答出来ないなんて、プライドが許さない。

 「カリスマ性の質問か。それは人によって見え方が変わるだろうし、何を持ってカリスマというかの基準も異なるだろうね。ただ……」

 「ただ……?」

 「俺は君にカリスマ性は充分あると思っているよ。我々先輩の会話の中でも、君の名前が上がるくらいには……。聞いたぞ、昨年度から地域ボランティア皆勤賞なんだってな?これは中々真似出来ることじゃない。例え暇でも忙しくても、参加意欲を継続させることって、とても難しいんだ。だから、君は尊敬できる人だよ。聡。」

 「蓮斗先輩………」

 彼は尊敬と感動の眼差しをこちらに向けてきた。別にかっこをつけたつもりはない。ただ真っ直ぐに本心を伝えたに過ぎない。相手の本音を引き出すためには、こちらも本音で向き合わないといけないから。
 
 「そういえば、俺は意外と聡のことを知らないかもな。嫌じゃなかったら訊いてもいいかな?」

 こうやって話す機会も中々ない。なので、色々と話してもらいたいと思った。

 「勿論です!僕も先輩に自分の事をもっと知ってもらいたいので!」

 「分かった。……君はさっきカリスマ性の秘訣を尋ねてきたね。その理由があったりするのか気になる。」

 「理由…ですか……。実は僕、歳が離れた兄が居るんですよー。建築会社で働いているんですが、ショッピングモールの建設に携わっているんですよ!」
 
 「建設中のあのショッピングモールか?」

 「はい!兄はその設計者の一人です。兄の親友と二人で若くして名コンビと言われていて、これが初めての大規模建築なんです。」

 「その二人は聡の憧れなの?」

 「はい!彼らのモットーは“心安らぐ笑顔の溜り場”です。建築を通して人を笑顔にできる自慢の兄は僕の憧れです!」

 そう言う彼はとても生き生きとしていた。本当に心の底から慕っている兄なんだなと凄く伝わってきた。



 だけど、厄災というものは、人の純心を簡単に砕く。

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 「聡……教えてくれ。君は何をしようとしている。」

 彼の身に起きた事は知っている。彼と同じ苦しみを知っている。だからこそ分からなかった。今、俺を連れ出した理由が。
 確かなことは、ロクなことにならない事だ。そうでないのならば普通に訪ねればいいから。

 「やっぱり先輩は見抜きますか……」

 「逆に訊くがこの状況で何も企みがないと思えるか?夕焚の発言で察してはいたが、ここまでとは夢にも思っていなかったよ。」
 
 夕焚は頼れる人がいないと言った。こいつと夕焚は一応知り合いだ。
 ここだけ切り抜けばそりゃそうとしか言いようがない。

 訊かれたことに対して返答するかしばらく悩むような素振りを見せた後、聡は口を開いた。

 「「伝統管理委員会」通称TCC。それが我々の属する組織です。会長は僕、西城聡。副会長はそこにいる早瀬青空だ。」

 「……それで、TCCは何をする組織で、何故俺を連れ出したのかじっくり話し合いをしようか。会 長 さ ん?」

 「TCCは地域の文化と歴史を保全する団体で、公式に地域自治の延長線上に位置する。主な活動内容としてはボランティア活動の主催、治安維持、そして侵害者の監視です。」

 「……侵害者の……監視?」

 「はい。我々TCCは条例とは別に独自のルールを作ることができる。……あ、勘違いしないでくださいね?このルールは住民投票で決められた正当なものですから。」

 聡の勘の良さは鋭く、俺が発言する前に話の欠陥を埋めてきた。

 「……続けろ。」

 「そのルールの中にこういうものがあります。“怪奇事故と分かっていながら追究する行為は処罰の対象とする”と。先日発生した交通事故については原因不明と片付けられた。原因不明……なんて言葉はこの世にないんですよ。範囲に対して充分な人手と時間を確保できているのなら。」

 「何故そのような規則を……」

 すると、彼は急に真顔になって冷めたトーンでこう言った。

 「一生答えに辿り着けないから……それ以外に理由が必要あります?」

 「……何故一生と言い切れる!」

 「原因不明……それすなわち、いくら探しても痕跡がないと言っているようなものですよ。仮に痕跡があっても、それ一つでは何も繋がらない。そんな途方も無い道の先が身を滅ぼしかねないのなら、未然に禁じておくべきだ。」

 「………!……あぁ、そうなのか。お前はそんな酷く心を壊されてしまったのか。」

 彼の理由を聞いて、彼の考えが全部見えた。原因は明白だ。そして、俺は彼をよく知る他人から聞いた話を思い出した。
 
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