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4章:想疎隔エレベーター
41日目.那緒
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夕方頃に家に到着して、俺は仕事に戻っていた。この数日の間で一気に進めたため、今後の不測の事態に対応できる余裕は生まれたはず。
時計を確認すると、既に帰ってきてから五時間以上が経過していることに気が付いた。
「仕事に没頭している間にもう五時間か……寝よ。」
ノートパソコンを閉じて、すぐ隣にある布団の中に入って目を閉じた。
__________________
高校一年の春。高校受験も終わりそれぞれの道に別れたが、相変わらず俺達は一緒だった。
それもそのはず、一番家から近い高校は学科が豊富なマンモス校であるため、第一志望が大体そこになる。遅くても二学期が始まる少し前から皆血眼になって受験勉強をしているレベルだ。
「顔ぶれがほとんど変わらないらしいじゃん。ある意味凄いな。」
「需要があるからね。私達のしたいことは全部学べるし……。」
「まぁ、俺と那緒はいつでもすぐに会えるんだけどね……。」
「行事を一緒に出来ないのは流石に悲しいよ!」
「そうだね。それはよく分かってるよ。」
入学式の朝からそんないつも通りの会話をして、登校していた。
「あ、お二人さん。おはよう。」
「おはよう実!」
曲がり角から校門が見えてきたところで、実と遭遇した。
「また三年間よろしくね。」
「うん。」
楽しそうに話す二人の後をついて歩いていると、誰かに後ろから肩を叩かれた。
振り向いてみると、案の定そこには唱の姿があった。
「やっぱ君か……。おはよう。」
「おはよう。また変わらないメンバーになりそうだな。」
「聖穂だけは遠くに行ったけどね。元気にしてるといいな……」
「きっと元気にしてる。那緒や実に負けず劣らずの明るさなんだから。」
「クールな唱から見れば、誰でも明るいでしょ。」
「お前なぁ…………否定はしない。」
「シャイボーイ。」
「そろそろ口閉じようか?」
ずっと続いてきた日常が大きく変わることは無いと思い安心した。
入学から一ヶ月が経過して、あまり差異はないが今の生活にも段々と慣れてきていた。
新しい交友関係も少しは広げたが、いつメンはずっと続いている友達のままだ。
「今日ね、駅前に新しいカフェがオープンするの!放課後、蓮斗も一緒に来て!」
昼休み、那緒にそう誘われた。
「そういえば半年近く出掛けてなかったね。勿論いいよ。」
受験生の間は家に籠もっていたし、合格後も何だかんだずっと家に居た。
久しぶりに成長した那緒の新しい表情も見てみたいと思っていたからいい機会だ。
「じゃあ、家に帰ったらすぐに迎えにきてね!」
放課後、約束通りに那緒の家の前に寄って、二人で駅前に向かった。
「わぁ人気だね。」
「そりゃ初日の夕方だからなぁ…」
カフェの目の前には長蛇の列が出来上がっていた。俺達はその最後尾に着いた。
「……東京で評判のいい店だったらしいね。名古屋でも大阪でもなくここが二店舗目なのが意外だ…。」
列が進むまで暇なのでスマホで口コミを調べていたが、想像以上に凄い所だった。
そして列の前の方を見ると、やたらとカップルが多いことに気が付いた。
「那緒~、一体何を企んでいるのかな?」
「え?な、何も……?」
「明らかに動揺してるじゃん。……ま、調べれば分かるか……」
口コミを下に下にとスクロールすると、多分それらしい書き込みがあったためそれをわざとらしく読み上げる。
「“カップル限定パフェがとにかく美味しかった!それを食べた学生は恋が実ったり、長続きするって噂だし、欠点が一つもない!文句なしの星五!”か…。那緒……お前可愛いな。」
「うぅ……!いじわる…!」
少しいじわるをしてみると、那緒は顔を赤らめた。その反応はあまりにも可愛すぎたため、俺は半分背徳感と半分罪悪感を覚えてしまった。
「そういうとこ本当に好きだよ。食べる前から長続きすることは揺るがない未来。付き合った時、そう約束したじゃん。“ずっと一緒に居る”って。」
「もぉ……蓮斗、そういうのずるいよ……。一体どこまで好きにさせてくれるの?」
「君の表情を見尽くすまで…かな?」
「貴方は何で恥ずかしげも無くそういうことを言い続けられるの……」
「可愛い反応が見られるから。」
「躊躇ないね!」
そうして那緒の顔を赤らめるという最低な遊びで暇を潰していると、いつの間にか入店していた。
席に座って、早速噂のパフェを注文した。
運ばれてきたパフェは二人前どころでなく、三人前くらいあっても不思議じゃないボリュームだった。
「わぁ美味しそう!蓮斗に散々言い遊ばれたから食欲がすごくあるよ!」
「俺喰われるの?たぶん俺が食べ物だったらすぐに食べてるね君?」
「どうだろうね~!」
そう言いながら彼女は怪しげに微笑む。ちょっといじわるし過ぎたことを反省しつつも、不覚にもその顔も可愛いと思ってしまった。
あんなにあったパフェをおよそ三十分ほどで平らげて、会計を済ませた俺達は帰路を辿っていた。
「すっごく美味しかったよ!一緒に食べに来てくれてありがとうね!」
「どういたしまして。俺も那緒の嬉しそうな顔や幸せそうな顔が見れて満足したよ。」
「その前に色々疲れた気がするけど……蓮斗なら大歓迎……だよ…」
少し照れながら目を逸らす那緒に、俺は不意打ちされた。
「やっぱり那緒と居ると楽しいな……。また一緒にどこかに出掛けよう。」
「うん。約束だよ!」
約束を交わして、那緒を家まで見送った後に俺も帰宅した。今日は本当にいい一日だった。生涯、こんな幸せな日常が続いたらと俺は強く願った。
時計を確認すると、既に帰ってきてから五時間以上が経過していることに気が付いた。
「仕事に没頭している間にもう五時間か……寝よ。」
ノートパソコンを閉じて、すぐ隣にある布団の中に入って目を閉じた。
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高校一年の春。高校受験も終わりそれぞれの道に別れたが、相変わらず俺達は一緒だった。
それもそのはず、一番家から近い高校は学科が豊富なマンモス校であるため、第一志望が大体そこになる。遅くても二学期が始まる少し前から皆血眼になって受験勉強をしているレベルだ。
「顔ぶれがほとんど変わらないらしいじゃん。ある意味凄いな。」
「需要があるからね。私達のしたいことは全部学べるし……。」
「まぁ、俺と那緒はいつでもすぐに会えるんだけどね……。」
「行事を一緒に出来ないのは流石に悲しいよ!」
「そうだね。それはよく分かってるよ。」
入学式の朝からそんないつも通りの会話をして、登校していた。
「あ、お二人さん。おはよう。」
「おはよう実!」
曲がり角から校門が見えてきたところで、実と遭遇した。
「また三年間よろしくね。」
「うん。」
楽しそうに話す二人の後をついて歩いていると、誰かに後ろから肩を叩かれた。
振り向いてみると、案の定そこには唱の姿があった。
「やっぱ君か……。おはよう。」
「おはよう。また変わらないメンバーになりそうだな。」
「聖穂だけは遠くに行ったけどね。元気にしてるといいな……」
「きっと元気にしてる。那緒や実に負けず劣らずの明るさなんだから。」
「クールな唱から見れば、誰でも明るいでしょ。」
「お前なぁ…………否定はしない。」
「シャイボーイ。」
「そろそろ口閉じようか?」
ずっと続いてきた日常が大きく変わることは無いと思い安心した。
入学から一ヶ月が経過して、あまり差異はないが今の生活にも段々と慣れてきていた。
新しい交友関係も少しは広げたが、いつメンはずっと続いている友達のままだ。
「今日ね、駅前に新しいカフェがオープンするの!放課後、蓮斗も一緒に来て!」
昼休み、那緒にそう誘われた。
「そういえば半年近く出掛けてなかったね。勿論いいよ。」
受験生の間は家に籠もっていたし、合格後も何だかんだずっと家に居た。
久しぶりに成長した那緒の新しい表情も見てみたいと思っていたからいい機会だ。
「じゃあ、家に帰ったらすぐに迎えにきてね!」
放課後、約束通りに那緒の家の前に寄って、二人で駅前に向かった。
「わぁ人気だね。」
「そりゃ初日の夕方だからなぁ…」
カフェの目の前には長蛇の列が出来上がっていた。俺達はその最後尾に着いた。
「……東京で評判のいい店だったらしいね。名古屋でも大阪でもなくここが二店舗目なのが意外だ…。」
列が進むまで暇なのでスマホで口コミを調べていたが、想像以上に凄い所だった。
そして列の前の方を見ると、やたらとカップルが多いことに気が付いた。
「那緒~、一体何を企んでいるのかな?」
「え?な、何も……?」
「明らかに動揺してるじゃん。……ま、調べれば分かるか……」
口コミを下に下にとスクロールすると、多分それらしい書き込みがあったためそれをわざとらしく読み上げる。
「“カップル限定パフェがとにかく美味しかった!それを食べた学生は恋が実ったり、長続きするって噂だし、欠点が一つもない!文句なしの星五!”か…。那緒……お前可愛いな。」
「うぅ……!いじわる…!」
少しいじわるをしてみると、那緒は顔を赤らめた。その反応はあまりにも可愛すぎたため、俺は半分背徳感と半分罪悪感を覚えてしまった。
「そういうとこ本当に好きだよ。食べる前から長続きすることは揺るがない未来。付き合った時、そう約束したじゃん。“ずっと一緒に居る”って。」
「もぉ……蓮斗、そういうのずるいよ……。一体どこまで好きにさせてくれるの?」
「君の表情を見尽くすまで…かな?」
「貴方は何で恥ずかしげも無くそういうことを言い続けられるの……」
「可愛い反応が見られるから。」
「躊躇ないね!」
そうして那緒の顔を赤らめるという最低な遊びで暇を潰していると、いつの間にか入店していた。
席に座って、早速噂のパフェを注文した。
運ばれてきたパフェは二人前どころでなく、三人前くらいあっても不思議じゃないボリュームだった。
「わぁ美味しそう!蓮斗に散々言い遊ばれたから食欲がすごくあるよ!」
「俺喰われるの?たぶん俺が食べ物だったらすぐに食べてるね君?」
「どうだろうね~!」
そう言いながら彼女は怪しげに微笑む。ちょっといじわるし過ぎたことを反省しつつも、不覚にもその顔も可愛いと思ってしまった。
あんなにあったパフェをおよそ三十分ほどで平らげて、会計を済ませた俺達は帰路を辿っていた。
「すっごく美味しかったよ!一緒に食べに来てくれてありがとうね!」
「どういたしまして。俺も那緒の嬉しそうな顔や幸せそうな顔が見れて満足したよ。」
「その前に色々疲れた気がするけど……蓮斗なら大歓迎……だよ…」
少し照れながら目を逸らす那緒に、俺は不意打ちされた。
「やっぱり那緒と居ると楽しいな……。また一緒にどこかに出掛けよう。」
「うん。約束だよ!」
約束を交わして、那緒を家まで見送った後に俺も帰宅した。今日は本当にいい一日だった。生涯、こんな幸せな日常が続いたらと俺は強く願った。
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