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最終章:亡花の禁足地
46日目.真意
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翌朝、俺は久々に一番早く起床したため、朝食を作ることにした。
無音だと寂しいためテレビを付けると、とある特集番組が放送されていた。
『本日で、あの九州鉄道事故から六十六年が経ちました。事故当時から現在に至るまでの様子を………』
俺は電源を切り、食パンをトースターに入れた。
「朝から暗いのは御免だ。」
一人キッチンでそう呟いては、卵を割ってフライパンに入れる。
九州鉄道事故は今は亡き祖父から聞いたことがある。しかし、当時の俺に詳細なことは理解出来なかった。
これを機に特番で知識を獲ておくのも良いと思うが、それよりも大事なことに集中するためにも、お預けにする。
「あら、おはよう。同居しているはずなのに久しぶりに顔を見た気分だわ。」
すると、母も起きてきたようだ。
「確かに……けっこう動き回っているからなぁ……。母さんも家に居る時間少ないからね。」
父は単身赴任で、母は朝晩しか家に居ない。青空はずっと部屋の中だったし、愛と結は成長してからはあまり接点がない。
血の繋がりはあるものの、小学校にあがる頃には、互いの生活に無干渉なことが多かった。周りから見たら、けっこう変わった家庭なのかもしれない。
そうこう思いながら手を進めて、朝食を盛り付け終わった。
「はい、母さん。」
「ありがとうね。」
朝食を食べ終えて、適当にくつろいで時間を潰した後、俺は夕焚の家に向かった。
「朝が早いですね。蓮斗さん。」
インターホンを鳴らすと、休日の朝七時であるのにも関わらず、夕焚は出迎えてくれた。
「この距離ならそりゃね……」
「咲淋さんは一緒じゃないのですか?」
「咲淋は休日遅いよ。八時までには来るでしょ。」
「そうですか……。ちなみに、今日は野村さんも直接来てくれるようです。呪いについて少し分かったことがあるらしいので……。玄関で立ち話もなんですし、どうぞ上がってください。」
「ああ。そうさせてもらうよ」
そうして俺は家に上がった。
とりあえずノートパソコンだけ準備をしておいて、俺は缶コーヒーを夕焚に差し出す。
「…ありがたく頂きます。」
「仕事の方も忙しいだろうけど、疲れてないか?」
「心配してくださりありがとうございます。俺は大丈夫です。一応、本部に事情を濁しながらも説明しておいたので、基本業務にのみ当たっています。ストックと言ってはなんですが、その分以前に活躍してきましたので。」
「すごいな……夕焚って何やってもセンスありそうだよね。」
まだ二十歳だというのに、彼は功績を出しているようだ。信用も厚いようだし、出世する日も早いかもしれない。
「そういう蓮斗さんはどうですか。そんなに会社やマンション空けて大丈夫ですか?」
「流石に俺も事情は説明してあるよ。元々離れてることが多い職種だけどね。」
お互いの近況や私生活について適当に駄弁ってるうちに、気付けば全員が集合していた。
「始めようか。…早速なんだけど、明日から現地調査を開始しようと思ってる。」
俺はいきなりそう話し始めたが、誰も驚く様子は見せなかった。
そして、夕焚が口を開いた。
「はい。いつでも準備は整っています。そもそも、もう情報は収集し尽くしてしまいましたからね。……痕跡がない以上、見つけるしかありません。」
「ああ。それはよく分かってる。夕焚、懸念される危険に見当はついてるか?」
「一応あります。こちらを……」
そう言って、彼はパソコンの画面を見せてきた。そこには、数値の列が並んでいた。
「現在閉鎖されている、ショッピングモールを含めたオアシス通りの付近から観測されていた気温、湿度、降水量の過去十八年分のデータです。」
「気温は平均を大きく下回り、湿度と降水量は高いのか……。…強引な地質調査をした場合、陥没するリスクがある強度になってるかも……。」
現在、最も有力…というか囁かれている説は“嵐や集中豪雨によって土壌が緩んだから”だ。土壌に問題があることは俺の意見も同様だ。
しかし、驚異の地形との適合率を誇るあのショッピングモールを崩せる力が豪雨だけにあるとは流石に考えられない。
でも、このデータを参考にするなら、条件は最悪と言えるだろう。
「……咲淋はこの結果を見てどう思う?」
俺の主観だけでは判断しかねると感じたため、咲淋に意見を求めた。
「私?私も同感。原因が何であれ、ずっとこの条件なのであれば警戒はした方がいいと思うよ。」
「そうですね。二次災害が立て続けに起きたことの理由にもなります。……それも含めて断定できないほど情報不足なので……」
彼女の意見に続けて夕焚が付け加えた。確かに二次災害が起きていた原因となっていそうな以上、警戒するに越した事はない。
「確かにね……警戒して損になることはない。もしも呪いが関わっているのなら、なおさらだ。」
「早瀬君。その話についてちょっといいかな?」
すると、野村さんがそう訊ねてきた。きっと夕焚が言っていた呪いについて分かったことだろう。
「お願いします。」
「ショッピングモール付近を漂う不可思議な波動を確認できた。恒夢前線活性化中に感じられるものと同一だったよ。」
「……やはり関係がありましたか。」
調査を始めて早い段階から分かっていたことではあったが、想像通りだ。
それからしばらく思考を巡らせ、気を取り直して意向を話す。
「…色々考えられる危険や仮説はあるものの、真相を突き止めるには情報が足りない現状。だからこそ、俺は現地調査をすることに決めた。……分かってるよ。過去に何度も玉砕したから、真相は闇に葬られていた。それだけ命に保証はないということだ。それでも俺は挑戦する。色褪せた記録を歴史として忘れられぬように蘇らせるためにも…!」
三人は、真っ直ぐな眼差しでこちらを見つめた。
「蓮斗がここに来た理由だもんね!…“何故”と心に問いかけることは大事だよ。私はあまり体を張れるような人じゃないから力になれないけど、応援しているわ。」
「月輪さんの言う通り。早瀬君ならこの謎に終止符を打ってくれると信じてる。」
「咲淋、野村さん……ありがとう。良い知らせを待っていて。」
二人に対してそう感謝を述べて、一礼をした。
「蓮斗さん!」
一連の流れが済むと、夕焚は声を掛けてきた。俺が彼の方に振り向くと、彼は言葉を連ねた。
「…蓮斗さんが帰って来てくれて、本当に良かったです……。姉さんの代わりになんてなれるとは思っていませんが、一緒にやり切りましょう。」
「……ああ。よろしく頼むよ。」
明日から始まる現地調査に向けての確認や鼓舞も済んだことで、今日はお開きとした。
風呂から出てドライヤーで髪を乾かし終わり、俺は自室の布団で身体を横にしていた。
何となく明日から調査をすることを唱に伝えておきたいと思い、俺は彼に電話を掛けた。
『はい。釧路です。』
「蓮斗だ。今、ちょっと時間大丈夫?」
『大丈夫。』
俺は彼にこれまでの道のりも含めて明日のことを話した。彼は終始真剣に聞いてくれていたようだ。
『流石だ。あやふやだったものが、徐々に鮮明になっていく様はいいものだっただろうな。』
「同感。…だけど、まだ終わっていない。終わらせにいくよ。疑問という霧を晴らす。」
『気合い充分だな。……折角電話してくれたのだから、俺からの言葉も貰っておいてくれないか。』
「…勿論。」
すると少しの間沈黙となり、彼は電話越しに言った。
『生きろ。お前は約束を破るような人間じゃないだろ?蓮斗。』
「……受け取ったよ。君の真意。唱。」
そう言って電話を切り、俺は部屋の灯りを消した。仲間の支援や応援があって、生きていけると実感した瞬間だった。
覚悟を決めて、俺は目を閉じ明日を待つ。
無音だと寂しいためテレビを付けると、とある特集番組が放送されていた。
『本日で、あの九州鉄道事故から六十六年が経ちました。事故当時から現在に至るまでの様子を………』
俺は電源を切り、食パンをトースターに入れた。
「朝から暗いのは御免だ。」
一人キッチンでそう呟いては、卵を割ってフライパンに入れる。
九州鉄道事故は今は亡き祖父から聞いたことがある。しかし、当時の俺に詳細なことは理解出来なかった。
これを機に特番で知識を獲ておくのも良いと思うが、それよりも大事なことに集中するためにも、お預けにする。
「あら、おはよう。同居しているはずなのに久しぶりに顔を見た気分だわ。」
すると、母も起きてきたようだ。
「確かに……けっこう動き回っているからなぁ……。母さんも家に居る時間少ないからね。」
父は単身赴任で、母は朝晩しか家に居ない。青空はずっと部屋の中だったし、愛と結は成長してからはあまり接点がない。
血の繋がりはあるものの、小学校にあがる頃には、互いの生活に無干渉なことが多かった。周りから見たら、けっこう変わった家庭なのかもしれない。
そうこう思いながら手を進めて、朝食を盛り付け終わった。
「はい、母さん。」
「ありがとうね。」
朝食を食べ終えて、適当にくつろいで時間を潰した後、俺は夕焚の家に向かった。
「朝が早いですね。蓮斗さん。」
インターホンを鳴らすと、休日の朝七時であるのにも関わらず、夕焚は出迎えてくれた。
「この距離ならそりゃね……」
「咲淋さんは一緒じゃないのですか?」
「咲淋は休日遅いよ。八時までには来るでしょ。」
「そうですか……。ちなみに、今日は野村さんも直接来てくれるようです。呪いについて少し分かったことがあるらしいので……。玄関で立ち話もなんですし、どうぞ上がってください。」
「ああ。そうさせてもらうよ」
そうして俺は家に上がった。
とりあえずノートパソコンだけ準備をしておいて、俺は缶コーヒーを夕焚に差し出す。
「…ありがたく頂きます。」
「仕事の方も忙しいだろうけど、疲れてないか?」
「心配してくださりありがとうございます。俺は大丈夫です。一応、本部に事情を濁しながらも説明しておいたので、基本業務にのみ当たっています。ストックと言ってはなんですが、その分以前に活躍してきましたので。」
「すごいな……夕焚って何やってもセンスありそうだよね。」
まだ二十歳だというのに、彼は功績を出しているようだ。信用も厚いようだし、出世する日も早いかもしれない。
「そういう蓮斗さんはどうですか。そんなに会社やマンション空けて大丈夫ですか?」
「流石に俺も事情は説明してあるよ。元々離れてることが多い職種だけどね。」
お互いの近況や私生活について適当に駄弁ってるうちに、気付けば全員が集合していた。
「始めようか。…早速なんだけど、明日から現地調査を開始しようと思ってる。」
俺はいきなりそう話し始めたが、誰も驚く様子は見せなかった。
そして、夕焚が口を開いた。
「はい。いつでも準備は整っています。そもそも、もう情報は収集し尽くしてしまいましたからね。……痕跡がない以上、見つけるしかありません。」
「ああ。それはよく分かってる。夕焚、懸念される危険に見当はついてるか?」
「一応あります。こちらを……」
そう言って、彼はパソコンの画面を見せてきた。そこには、数値の列が並んでいた。
「現在閉鎖されている、ショッピングモールを含めたオアシス通りの付近から観測されていた気温、湿度、降水量の過去十八年分のデータです。」
「気温は平均を大きく下回り、湿度と降水量は高いのか……。…強引な地質調査をした場合、陥没するリスクがある強度になってるかも……。」
現在、最も有力…というか囁かれている説は“嵐や集中豪雨によって土壌が緩んだから”だ。土壌に問題があることは俺の意見も同様だ。
しかし、驚異の地形との適合率を誇るあのショッピングモールを崩せる力が豪雨だけにあるとは流石に考えられない。
でも、このデータを参考にするなら、条件は最悪と言えるだろう。
「……咲淋はこの結果を見てどう思う?」
俺の主観だけでは判断しかねると感じたため、咲淋に意見を求めた。
「私?私も同感。原因が何であれ、ずっとこの条件なのであれば警戒はした方がいいと思うよ。」
「そうですね。二次災害が立て続けに起きたことの理由にもなります。……それも含めて断定できないほど情報不足なので……」
彼女の意見に続けて夕焚が付け加えた。確かに二次災害が起きていた原因となっていそうな以上、警戒するに越した事はない。
「確かにね……警戒して損になることはない。もしも呪いが関わっているのなら、なおさらだ。」
「早瀬君。その話についてちょっといいかな?」
すると、野村さんがそう訊ねてきた。きっと夕焚が言っていた呪いについて分かったことだろう。
「お願いします。」
「ショッピングモール付近を漂う不可思議な波動を確認できた。恒夢前線活性化中に感じられるものと同一だったよ。」
「……やはり関係がありましたか。」
調査を始めて早い段階から分かっていたことではあったが、想像通りだ。
それからしばらく思考を巡らせ、気を取り直して意向を話す。
「…色々考えられる危険や仮説はあるものの、真相を突き止めるには情報が足りない現状。だからこそ、俺は現地調査をすることに決めた。……分かってるよ。過去に何度も玉砕したから、真相は闇に葬られていた。それだけ命に保証はないということだ。それでも俺は挑戦する。色褪せた記録を歴史として忘れられぬように蘇らせるためにも…!」
三人は、真っ直ぐな眼差しでこちらを見つめた。
「蓮斗がここに来た理由だもんね!…“何故”と心に問いかけることは大事だよ。私はあまり体を張れるような人じゃないから力になれないけど、応援しているわ。」
「月輪さんの言う通り。早瀬君ならこの謎に終止符を打ってくれると信じてる。」
「咲淋、野村さん……ありがとう。良い知らせを待っていて。」
二人に対してそう感謝を述べて、一礼をした。
「蓮斗さん!」
一連の流れが済むと、夕焚は声を掛けてきた。俺が彼の方に振り向くと、彼は言葉を連ねた。
「…蓮斗さんが帰って来てくれて、本当に良かったです……。姉さんの代わりになんてなれるとは思っていませんが、一緒にやり切りましょう。」
「……ああ。よろしく頼むよ。」
明日から始まる現地調査に向けての確認や鼓舞も済んだことで、今日はお開きとした。
風呂から出てドライヤーで髪を乾かし終わり、俺は自室の布団で身体を横にしていた。
何となく明日から調査をすることを唱に伝えておきたいと思い、俺は彼に電話を掛けた。
『はい。釧路です。』
「蓮斗だ。今、ちょっと時間大丈夫?」
『大丈夫。』
俺は彼にこれまでの道のりも含めて明日のことを話した。彼は終始真剣に聞いてくれていたようだ。
『流石だ。あやふやだったものが、徐々に鮮明になっていく様はいいものだっただろうな。』
「同感。…だけど、まだ終わっていない。終わらせにいくよ。疑問という霧を晴らす。」
『気合い充分だな。……折角電話してくれたのだから、俺からの言葉も貰っておいてくれないか。』
「…勿論。」
すると少しの間沈黙となり、彼は電話越しに言った。
『生きろ。お前は約束を破るような人間じゃないだろ?蓮斗。』
「……受け取ったよ。君の真意。唱。」
そう言って電話を切り、俺は部屋の灯りを消した。仲間の支援や応援があって、生きていけると実感した瞬間だった。
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