亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

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最終章:亡花の禁足地

54日目.極限

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 「僕は知っている。先輩が今何をしようとしているのか。その先で何が起こる可能性があるかを。…どうしてだと思いますか?」

 すると、聡はそう訊ねてきた。俺は少し考えて、質問に答える。

 「……君も挑戦権を持っている…もしくは挑戦済みだってこと…」

 「その通り。僕も多分先輩と似たような経験をしてきました。“花の亡霊の憑き人”、先輩と同様に元…ではありますが……」

 彼のその発言で、話の本筋を大体察した。まず間違いなく、彼は呪いについての知識が潤沢だ。それでいて、堅く隠している。
 俺の気力が失われるかもしれないが、彼の話を聞くことで何らかのヒントに繋がると思い、覚悟を決めて訊ねてみる。

 「聡…君が何を経験して、TCCを立ち上げたのか。その経緯を聞かせてほしい。」

 すると彼は腕時計で時間を確認した後、話し始めた。

 「いいでしょう。あの日に見た“絶望”を語る。その話を聞いて貴方が折れるかは半々ってところですが……僕にはあまり関係のない話さ。……気付いていると思いますが、僕は真相を突き止めた。しかし、解決はできなかった。隠しておくべきだと判断した。その理由も、すぐに分かりますよ………」

__________________

 兄が亡くなってから、ショッピングモールの件は音沙汰が無くなり、自然に人々の思考から淘汰された。
 一時的な措置として市が跡地を閉鎖して、調査を禁じた。命を落とす者が後を絶たなかったから。

 あの事故から二年が経過した頃、ずっと止まっていた話は突如として進展した。

 「……何処だ…ここは……」

 日々と何ら変わらない眠りに就いたある時、感覚が妙に残っている夢に落ちた。無限に続く暗闇、虚無の空間だった。
 すると突然、生物でも無機物でもない“何か”の気配を感じた。

 『君、全然寝ないじゃん。催眠干渉っていう最終手段を使っちゃったよ。』

 その何かは黒い影を纏った姿で、僕に話し掛けてきた。

 「…何者……?」

 『そんなに怯えないでいいよ。悪いようには利用しない。……今の私に名はない。君に憑いてる亡霊っていったところ。』

 「………。」

 夢なら早く覚めてくれ。そう切実に思った。目の前に見えるのが、自分に憑いている亡霊だなんて話、信じられる訳がない。

 『あれれ?やっぱり信じていないね。見透かしてるよ、その心。』

 「勝手に覗くな。」

 『勝手に見えるだけだから仕方がないね。』

 「……用が無いなら目を覚まさせて下さい。害を与えないなら勝手に憑いてもらって構わないので……」

 『待って待って。からかったのは謝るから!すぐに本題に入るから!』

 「……聞くだけで、要件に応える気はありませんからね。」

 亡霊を自称するにも関わらず人間味全開のその必死さに呆れながらも、僕は足を止めた。
 声の方向に顔を向けると、そこには影が払われて形が露わになった亡霊の姿があった。

 「霊体じゃないのか……」

 『この空間限定ではあるけどね。……早速だけど、君は私達の本体“クロユリ”を祓う鍵なの。だから…協力し……』

 「お断りします。」

 まだ何か言いたそうだったが、話の意味が一切分からなかったため、速攻で断った。

 『最後まで話を聞いて!』

 「それは、利害が一致しているのか?貴方にとって例え僕が必要だとしても、僕にとっては関係がない。」

 『関係がない…とは言い切れないかもよ?あの雨には君も違和感を感じているでしょう?』

 「……続けて下さい。」

 まだ話の末端しか聞いていないのに断るのは流石に急ぎ過ぎたと反省した。
 どのみち、帰り方を知らないので聞くしか無さそうだ。

 『説明不足だったのは謝る。二年前の崩落事故に限った話じゃないけど、ずっと止まないあの雨……あれが関与している。その雨を降らせている存在こそがクロユリ。』

 「…待て、説明が合わなくないか。貴方の本体がクロユリで、貴方はそれを祓ってもらいたい。その言い回しだと、崩落事故を含めたあらゆる事故に雨が絡んでいて、それを降らしているのがクロユリ、と。……貴方は敵か?それだけはっきりして。」

 『ちょっと複雑なのよ…。簡潔に答えると、私はクロユリ側の悪霊じゃない。分身体……っていう言い方が一番しっくりくると思う。』

 「詳しく。」

 『まず、私達はシャドードロップと呼称される亡霊で、魂の残留人。成仏されなかった魂とも言える。クロユリはシャドードロップの起源で、最上級の冥土の土産。復讐に囚われて、より強大な力を手に入れるために多くの魂を取り込んでいる。…私はクロユリの支配から逃れて、彼女を消し去る術を探っていたの。』

 「何故……」

 『望まずして亡霊となったから。彼女はいち早く魂を取り込むために、定期的に事故を誘発している。その絶望は、君も味わったはず。』

 「……まぁ…」

 『私は病気で亡くなった。来世の存在を信じて、希望を抱いて気を紛らわした。……運命は、私を成仏させてくれなかったよ。』

 「つまり、貴方は自分の本体を祓ってもらうことで成仏することが目的で、僕が貴方に協力すれば、クロユリという危険を排除できる。……そういうこと?」

 その問いかけに、亡霊は頷いた。
 話の内容と流れは大体把握した。それでも理解に苦しむけど、これまで見てきた光景が全部物語っている。
 正直、僕はあの崩落事故の復讐をしようなんて微塵も思ってなどいなかった。ただ、その機会があるならば、後世のためにもクロユリを祓う協力をするのはありな話だ。

 「……協力する。その前にさ…貴方の呼び名を決めさせて。」

 『呼ぶ時に迷うからね。』

 「…仮称ダリア。問題無いか?」

 『呼び名だしお好きに。』

 こうして、僕はダリアと協力してクロユリを祓うという目的ができた。







 あれから、恒夢前線や不可解な事故、シャドードロップに迫る調査をする日常が始まった。大学生活を完全に捨てて、ひたすら歩き回っていた。
 そんな日々を過ごして約四年の時を経て、ようやくクロユリに挑む切符を得た。これ以上、準備できるものはない。



 「この山奥に……根源が……」

 『こんなに長い間、協力してくれてありがとう。』

 「礼を言うのはまだ早い。調査過程で、クロユリの恐ろしさは身に染みてるから。」

 事故を調査する中で、僕は何度も意識に落とされた。未知の空間に漂う空気は“狂気”そのもの。無意識に入り混じってしまいそうになった。
 不屈の精神で耐え凌いできたが、それが破られることも視野に入る。

 「……行くぞ。」

 長い調査に終止符を打つために、僕は山奥へと一歩踏み出した。



 しかし、事は上手くいかせてはくれなかった。呪花クロユリの元に行く前に、僕はありとあらゆる面で限界を迎えることとなった。

 「兄ちゃん……そこをどいてほしい…」

 『過度な追求はやめろ。過度な追求はやめろ。過度な追求……』

 「黙れ!……ッ!」

 感情に身を任せてそう怒声を上げると、行手を阻む大量の兄の幻影は、音を消した。しかし、兄の顔が歪んで無数の花となった。
 
 「……何だよ……誰がそんな姿になれと……」

 あの一歩を踏み出した瞬間、精神が擦り減らされる狂気のカーニバル状態となった。気が狂いそうだ。
 それに、距離も長い。感覚も麻痺している。そんな極限状態の中、最奥地に辿り着いた。



 「あれがクロユリの器……」

 そう呟いて、僕はクロユリの目の前まで近付く。その芽を摘み取ろうと手を伸ばした時、身体に冷気が走った。
 異常な倦怠感。気色の悪さ。これまでと比にならない感覚に、心を締め付けられた。

 『生きた人間を直接目にするのは幾年ぶりだ。』

 ダリアと同じ気配を纏い、ダリアと異なる憎悪を感じる声が、耳元で反響した。

 「……こいつが…クロユリ…!」

 『何故、私の名を……そこの裏切り者か。ダリアという名を貰ったようだ。…不愉快。有象無象から、特殊な存在に成り上がることなど、均衡を崩すイレギュラーでしかない。よって、私はお前を処分する。』

 「『ッ!』」

 刹那、何処からともなく鎖が現れて、強制的に実体化させられたダリアを吸収した。
 ダリアの呪いが解けた影響か、僕の頭に嫌な記憶が捏造され、流れ込んできた。

 「……あ…ああ……」

 『ダリアが私の幻惑を上書きして、抑制していたみたいだ。抑制状態ですらギリギリだったお前が、完全な状態で耐えられる訳がない。滑稽だ。』

 一切の笑みも零さず、声のトーンも変えず、クロユリは淡々とそう言った。
 目の前にある花を摘み取れば全て終わるはずなのに、次々と流れ込むフラッシュバックに、戦慄することしかできなかった。

 『あの日と同じように、廃人となれ。お前のその純情な魂は不要。歪んできた頃、喜んで迎えてやろう。』

 すると全身に電撃のような激痛が走り、気絶してしまった。







 目を覚ますと、そこは山の入口だった。倒れた身体を起き上がらせて、手元を確認すると、右手の人差し指に見覚えの無い指輪がはめられていた。
 その指輪には、このような刻印があった。『I will watch over you』と。
 トラウマを蘇らせる……倍にして植え付けるあの呪われた花には、これ以上干渉しない方が良いと感じて、僕は計画を打ち切った。

 
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