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Chapter Ⅰ:Time limit
No8.Reverse guidance
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俺は今、珍しく台所の前に立っている。そう、一週間後に控えた東堂との対決に備えて特訓しているのだ。……元凶と一緒に。
「手が止まってるよ?頭の中に工程は叩き込まないと勝てないよ?」
凛はソファに寝っ転がってそう言った。
「なんで平然とくつろいでるん?せめて口だけは閉じてくれよ。」
「歪君にはいつもお世話になってるから。何かしらの形で逆に指導したいなぁと思ってね。紫藤さんが彼女らの事を一週間は引き受けてくれるって言うから。」
「あいつも大変なんだな。」
旋梨が口だけで無くしっかり動いた事に安堵してスルーしかけたが、俺は凛の策略に完全に嵌っている。どんな任務でも相手に主導権を握られた事無いのに…。
そんな会話を交わしながらも、調理は順調に進んでいる。現在は夕方。俺は今やっと夕食を作らされてる事に気が付いた。
「上達が速いよ。こっちとしてもやり甲斐を感じる。」
彼女達は歪の言う通り、初心者にしては上出来だった。俺は真依と波瑠の練習に付き合っている。俺から引き受けたが、何やかんやあって全然顔を出せて無かったので、歪がいない今、練習の指導をしている。
歪はお世辞抜きで顔が良い。おまけに性格も実力もあるとくれば、そりゃ風鳴にライバル視されてもおかしくは無い。
傾向が真逆の二人だからこそ、こういう勝負に全力なんだろう。
俺はいつか歪に置いてかれる時が来るかもしれない。それでも誰かの役に立ちたいから、頼み事をほぼ受けてるんだろうな。
「ねぇ旋梨。」
耳だけはフルに活動させ、意識を深くに落としていると、真依が声を掛けてきた。
「どうした?」
「聖薇さんと凛の事…。どう思ってるの?」
彼女の言いたい事はすぐに分かった。でも、俺はあいつの過去を知っている。
「お似合いだとは思うよ。ただ、彼を心変わりさせるのは、かなり難しい事かもしれない。」
「そう…。再開しましょうか。」
休憩を終え、俺達は練習を再開した。
聖薇歪…。あの男は過去に縛られやすいのかもしれない。Mythologyの面々なら、一度は歪を華隆氏の姿と重ねた事があるだろう。それは俺も同じだ。
彼の根本は変わっていないが、次何かを失えば、きっと俺達の知る聖薇歪では無くなってしまうだろう。
全ての調理を終え、夕食の準備を進めた。当たり前のように凛は居る。色々事情があり、もう時間は二十一時になりかけている。
「悪いな。結構時間が掛かってしまった。」
「大丈夫だよ。」
品数は少し多いが、量的には高校生二人いれば余裕だ。
「じゃ、いただきます。」
そう言うと、彼女は今回一番苦戦して作った薔薇の形をしたサラダ?を口に運んだ。
「うん。美味しい!それに造形にこだわりを感じるよ。」
誰が審査するか分からない為、見栄えに関しても意識すべきと考えて、造形に挑戦してみた。
暗殺者になる以前、俺は造形が好きで、授賞した作品もあったくらいには、腕前蛾あった。
その頃に培ったノウハウをフル活用したのだ。
その後も全ての料理を“感想付き”で、食べてもらいながら夕食を済ませた。
「ご馳走様でした。東堂さんがどれくらいの実力なのかは分からないけど、順当にいけば勝てるんじゃない?」
「そう言ってもらえるとありがたい。」
現在の時刻は二十二時。凛の家はここから少し距離があるらしいので、時間帯的にも一人で出歩くのは危険だろう。
「帰るなら俺が付き添おうか?」
流石に女子高校生一人を出歩かせるのは怖い。それに、俺なら事件に巻き込まれそうになっても未然に防げる。
「ありがとう。でも大丈夫。今日親帰ってこないから鍵が空いてないの。」
「持ってないのか?」
「学校に忘れちゃった。」
この状況で帰す訳には流石にいかない。俺が華隆さんという理想の姿から一歩遠ざかってしまうし、何より心配で眠れないだろう。
「………分かった。今日は泊まってけ。」
この選択が正しいかどうかなんて知らない。 正解の無い人生を歩んできた俺にとっては、これだって些細な選択だと思っていた。
「手が止まってるよ?頭の中に工程は叩き込まないと勝てないよ?」
凛はソファに寝っ転がってそう言った。
「なんで平然とくつろいでるん?せめて口だけは閉じてくれよ。」
「歪君にはいつもお世話になってるから。何かしらの形で逆に指導したいなぁと思ってね。紫藤さんが彼女らの事を一週間は引き受けてくれるって言うから。」
「あいつも大変なんだな。」
旋梨が口だけで無くしっかり動いた事に安堵してスルーしかけたが、俺は凛の策略に完全に嵌っている。どんな任務でも相手に主導権を握られた事無いのに…。
そんな会話を交わしながらも、調理は順調に進んでいる。現在は夕方。俺は今やっと夕食を作らされてる事に気が付いた。
「上達が速いよ。こっちとしてもやり甲斐を感じる。」
彼女達は歪の言う通り、初心者にしては上出来だった。俺は真依と波瑠の練習に付き合っている。俺から引き受けたが、何やかんやあって全然顔を出せて無かったので、歪がいない今、練習の指導をしている。
歪はお世辞抜きで顔が良い。おまけに性格も実力もあるとくれば、そりゃ風鳴にライバル視されてもおかしくは無い。
傾向が真逆の二人だからこそ、こういう勝負に全力なんだろう。
俺はいつか歪に置いてかれる時が来るかもしれない。それでも誰かの役に立ちたいから、頼み事をほぼ受けてるんだろうな。
「ねぇ旋梨。」
耳だけはフルに活動させ、意識を深くに落としていると、真依が声を掛けてきた。
「どうした?」
「聖薇さんと凛の事…。どう思ってるの?」
彼女の言いたい事はすぐに分かった。でも、俺はあいつの過去を知っている。
「お似合いだとは思うよ。ただ、彼を心変わりさせるのは、かなり難しい事かもしれない。」
「そう…。再開しましょうか。」
休憩を終え、俺達は練習を再開した。
聖薇歪…。あの男は過去に縛られやすいのかもしれない。Mythologyの面々なら、一度は歪を華隆氏の姿と重ねた事があるだろう。それは俺も同じだ。
彼の根本は変わっていないが、次何かを失えば、きっと俺達の知る聖薇歪では無くなってしまうだろう。
全ての調理を終え、夕食の準備を進めた。当たり前のように凛は居る。色々事情があり、もう時間は二十一時になりかけている。
「悪いな。結構時間が掛かってしまった。」
「大丈夫だよ。」
品数は少し多いが、量的には高校生二人いれば余裕だ。
「じゃ、いただきます。」
そう言うと、彼女は今回一番苦戦して作った薔薇の形をしたサラダ?を口に運んだ。
「うん。美味しい!それに造形にこだわりを感じるよ。」
誰が審査するか分からない為、見栄えに関しても意識すべきと考えて、造形に挑戦してみた。
暗殺者になる以前、俺は造形が好きで、授賞した作品もあったくらいには、腕前蛾あった。
その頃に培ったノウハウをフル活用したのだ。
その後も全ての料理を“感想付き”で、食べてもらいながら夕食を済ませた。
「ご馳走様でした。東堂さんがどれくらいの実力なのかは分からないけど、順当にいけば勝てるんじゃない?」
「そう言ってもらえるとありがたい。」
現在の時刻は二十二時。凛の家はここから少し距離があるらしいので、時間帯的にも一人で出歩くのは危険だろう。
「帰るなら俺が付き添おうか?」
流石に女子高校生一人を出歩かせるのは怖い。それに、俺なら事件に巻き込まれそうになっても未然に防げる。
「ありがとう。でも大丈夫。今日親帰ってこないから鍵が空いてないの。」
「持ってないのか?」
「学校に忘れちゃった。」
この状況で帰す訳には流石にいかない。俺が華隆さんという理想の姿から一歩遠ざかってしまうし、何より心配で眠れないだろう。
「………分かった。今日は泊まってけ。」
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