多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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Chapter Ⅱ:Vicious

No20.Unwanted night out

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 目隠しをされた状態で約二時間程度車が走行し、エンジンが止まった。

 「到着した。離れたら……分かるな?」

 私達は男の言う事に従い、ついて行った。部屋に入れたと言われ入ると、鍵が閉められた。







 私は目隠しを外し、隣の少女の目隠しも取ってあげた。
 すると、目の前には大体予想通りの光景が広がっていた。

 「同一犯……。目的は明白だね。」
 
 私達のいる部屋は完全な監禁状態になっているようだ。失踪条件に当てはまる女性が縛られた状態で寝ている。麻酔でも打たれたのだろう。
 この手法は私も知っている。まだ日本が割れる前、違法な風俗店がよくやっていたやり方だ。まだサイレンスに所属する前にかつての仲間達と警察に突き出させたのも良い思い出。またここを潰せると思うと気分がとても上がる。
 そんな事を考えていると、男が部屋に入ってきた。

 「起きろ!」

 男がそう叫ぶと、身体を震わせながら全員起きた。

 「営業は明後日からだ。大事な大事なお客様に迷惑が掛からないようにな?」

 そう言って男は部屋を去り、鍵を掛けた。どうやら絶対に逃がす気は無いらしい。幸い電波障害は起こっていないため、GPSは機能している。あちらでも準備を進めているだろう。
 ただ、連絡出来る状態では無い。明後日…。無法地帯と化した関東圏外であっても、全ての人がテロを起こすような連中では無い。客だって店に騙されている被害者なので、私に撃つ権利は無い。
 つまり、営業開始前に決着をつけないと面倒な展開に持ってかれる。
 何より、震えながら待つ事しか出来ない彼女達に望まない経験をさせる訳にはいかない。

 「あ、あの……。」

 すると、隣の少女が声を掛けてきた。

 「どうしたの?」

 「私…これからどうなるんですか?」

 「名前は?」

 「…は、波瑠です。」

 「私は愛沙。大丈夫だよ波瑠。お姉さんが怖い思いは絶対にさせないから。」

 そう言って波瑠の頭に手を置いて撫でると、彼女の表情はほんの少し和らいだ。







 男二人は事務室にて、山田と通話をしていた。

 「調子はどうよ?」

 「明後日には開店出来る状態です。」

 「広告の話題性は十分に発揮されている。今月の売り上げは期待十分だろう。ただ気をつけろ。それはつまり政府にも状態が漏れた事に繋がる。特にホール襲撃時にショゴスを返り討ちにしたMythologyの白薔薇とOrderの紅月は厳重警戒だ。連中が特定した事もあってか、奴らはトップを出し惜しみしなくなってきている。常に備えろ。」

 「了解しました。」

 通話が切れ、男達は何かを始めた。







 ガラの悪い商店街の路地裏でバイクを停泊させて通話を終えた山田の背後から、人影が現れた。

 「山田。」

 「なんだ?本井。」

 現れた男は山田に世間の情報を売り渡す共犯者本井だった。

 「政府は内通者をこちらに派遣しているようだ。その地雷はどこに潜んでいるか分からない。最深の注意を払うとともに、秘密結社の話を無闇にしないように。今回代金はいらない。俺の善意だ。では…。」

 すると、本井は去って行った。

 「営業部は営業部。テロ集団では無い。経営は行なう。」

 山田もバイクのエンジンを掛け、どこかに走り去った。







 何事も無く訪れた朝。昨日軽く夕食を済ませたため、割と空腹気味だったが、お陰で安眠できた。最近食欲が無い。疲れている時こそ身体は食を求めるが、精神はそれを求めない。
 俺は準備を済ませ、登校した。







 「歪君!」

 登校していると、後ろから走ってきた凛が名前を呼んだ。

 「何か用?」

 「波瑠見なかった?」

 「見てない。」

 「やっぱり……。」

 既に悪寒を感じているが、俺は恐る恐る聞いてみた。

 「まさか…居ないのか……?」

 「そう!連絡は繋がらないし、波瑠の両親から帰ってきてないけど知ってる?って連絡が入ったの!」

 失踪事件に巻き込まれたと見て間違い無いだろう。しかし、何故表向きは一般人の俺に相談したのだろうか。いや、不安だから誰かに話したかったのだろう。
 
 「……信じよう。警察がきっとどうにかしてくれるはずだ。」

 そう言うと、彼女は不安そうに頷いた。今の俺に出来る事は側にいる事だけだ。……任務が入ったら絶対に取り戻しにいく。







 「司令!葉桜さんから連絡が来ました!」

 私は送信された文言を読んだ。

 『明日営業開始。風俗店。座標x:XXX y:XXX z:XXX。出来れば営業前に潰したい。』そう書かれていた。

 「まさかこちらから関東圏外に足を踏み入れる日が来るとは……。」

 Mythologyを向かわせるのは少々リスクがあるように見えるが、連携力の観点で見ると時間制限のある任務は彼らが最適だ。

 「ただ、全滅だけは避けたい。今回の任務は制圧力のある紫藤を主軸として動かす。それに加え、撹乱要員の七瀬、強敵対策の聖薇を動員するぞ。決行は明日。連絡を!」

 「了解しました。」

 該当メンバーに連絡を入れ、私は内通者に詳細な事を調査するように伝えた。







 夕方、俺は司令から任務を受け取った。内容は例の件だ。

 「……波瑠。皆。絶対に取り戻してやるから。」

 今回のメンバー一覧を見ると、かなり特殊な編成だった。何せ制圧及び奪還が主な目的となる任務は、稀なケースだからだ。
 しかも対応力も求められる。旋梨と愁のコンビが最高に輝く作戦となるだろう。

 「旋梨、愁。期待してるぞ……。」







 「これは責任重大だなぁ。……任せておけ。久っ々に暴れたるよ。」

 該当メンバーはその夜、緊張と高揚で眠りに付きにくかったのは、言うまでもないだろう。
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