多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅤ:Crazy

No76.Reverberation

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 先日、私は歪君に救われた。人生で二回目だ。そして、告白された。
 ずっと何かが心に引っ掛かり続けていたけど、ようやく決意が固まった。

 『明日、校舎裏に来て。』

 そう送信し、私は寝付いた。







 何故こんなにも苦しいのか分からない。今日、俺は凛に呼び出された。
 恐らく、先日の件だろうが、何処か物悲しさを感じていた。
 返事を貰っていないのにだ。正直、分からない。何かトラウマに近い記憶が連想されるが、はっきりと分からない。
 
 「ここは……。」

 休日の夕方なので、いつもとは違うルートを通っていた。意味など無いのに、誘い込まれるように、無意識に、ここを通っていた。
 そして、この場所が物悲しさを感じる原因だろう……。







 中学二年の日、俺は初恋の人を失った。この時も、今のように学生生活と暗殺者を両立していたが、まだ学生が生活の主軸と出来る実力、世の中だった。

 「ほーら歪?遅刻するよ?早く起きて。」

 扉を叩き、そう忠告される。

 「もう起きてる。」

 気怠げに扉を開け、俺は家の外に出る。その反応が気に食わないのか、彼女は俺の手を強く握った。強い握力で。

 「……ッ!痛っ!」

 「これで目は覚めた?」

 「一応な。あと、少しは加減しろ。」

 そんなやり取りをして、俺達は登校した。
 彼女は「暗麗 百合」。一般家庭だが、俺の出身と正体を知っている。彼女は生まれ付き病弱で、小学生の時にいじめにも遭っていた経験を持つが、何やかんやあって俺が解決したら、懐かれた。
 最初は警戒心が強かったが徐々に打ち解けていき、気付いた頃には彼女の魅力に取り憑かれていた。
 行動の一つ一つが守ってあげたくなる。そんな可愛さがあった。
 
 そこに旋梨も加わり、平穏で楽しい日常を送っていた。…が、それも長くは続かなかった。




 ある日、彼女は交通事故で亡くなった。それを目視し、知ったのは、一足遅かった。
 その日、俺は司令に書類を送ったりしていて、少し出るのが遅くなっていた。
 俺は沈黙を極め、悶絶することしか出来なかった。

 「……なんで。どうして。なんで。……守れないだな……俺では。」

 こんな時、一般人なら病みそうになるくらいの絶望感が伝授するだろうが、普段から当たり前に人が死ぬ環境で育った俺は、耐性があった。
 だが、それでも、苦しんだ。自分の無力さと、詰めの甘さに、何より、万が一を想定出来なかった俺の頭の出来の悪さに。
 






 幸い、立ち直るまでに時間はあまりかからなかったが、その理由すら分からない。
 気が付けば、彼女の存在がどのような人だったかは鮮明に覚えているのに、事故直後の事しか頭に残っていなかった。
 その後、どうなったのか。ましてや、彼女との思い出すらも思い出せない。
 だけど、物悲しさがあった。その心情に共鳴するかのように、予測していなかった雨が降り始めた。







 雨が降ってきた。私は、急いで屋根の下に避難した。

 「ちょっと服が濡れちゃった……。歪君、少し遅いよ……。」

 そう考え込んでいると、雨の中、ゆっくりと近づく足音に気が付いた。
 あまり聞き慣れない足音だった。靴の材質?がその要因かもしれない。







 雨の中、傘すら挿さずに目的地に向かっていた。道中、小さな公園に咲くたんぽぽを見つけた。

 「……雨?たんぽぽ?……あっ!」

 何か見覚えのある情景が頭に浮かび、それが今視界に入る世界と合致した。
 
 「……呼んでる。急がなきゃ。」

 そして、俺は無我夢中で凛の待つ場所へと向かった。
 直感がサイレンを鳴らしたのだ。あの情景を目にし、俺は不吉な予感を覚え、焦りが止まらなくなった。
 次々に忘れていた事、思い出せなかった記憶が頭にフラッシュバックし、外界を鎖しながら、ただ、凛の元へ走る。







 足音がどんどん近づいてきている気がする。本能的に警戒心を放った私は、身を屈め、耳を閉じた。
 言葉で現しにくい恐怖心が、私の心を揺さぶったんだ。

 「……歪君。不安だよ……私は。」







 校舎裏まで残り距離は僅かだ。俺は珍しく息を切らしながら、その場所に辿り着いた。
 不吉な予感は間違いでは無かった。何人かの男が、縮こまる凛に迫っていた。

 「おい。何やってんだ!」 

 俺はすぐに飛び掛かり、後ろから回し蹴りで男を仕留めた。
 すると、残りの男は俺に標的を変え、まるでゾンビのように、心ここにあらずといった感じで銃を取り出し、発砲してきた。
 護身用の銃にゴム弾を詰め、俺は奴らの攻撃を身軽に躱して、ダウンさせた。

 「凛!大丈ぶ………ッ!」

 すぐに凛の方へ視線を送ったが、既に遅かった。
 その場所に凛の姿は無く、柵の方に目を向けると、催眠された凛を抱えた男を発見した。
 迅速に奴らを振り切ったが、こいつの存在だけには気付けなかった。

 「お前……何がしたい。……凛を…返しやがれ。」

 そう静かに叫ぶと、凛を抱えたずぶ濡れで心が無いような桃色の瞳をした男がこちらに目を向けた。
 すると、この俺でも思わず戦慄してしうような、身体の内側から無数の棘が刺されるような視線が刺さった。

 「久しぶりだね白薔薇君。……っても今の君は知らないか。」

 その言葉は深く、俺の心に残響した。そして、本当の意味で全てを思い出した。

 「……ッ!お前は……あの時の……!」

 刹那、殺意が込み上げた俺は、電流弾を込め、地を蹴って柵の上に跳び上がり、発砲した。
 しかし、彼の見下す視線に無意識に怯え、俺は引き金を引けなかった。
 その一瞬の隙に、鎖によって俺は地上に引きずり落とされた。
 鎖を辿ると、先程倒した男の手と繋がっていた。

 「滑稽だ。君は本当に。暗殺は計画性。突破された時の代行案は何千とシミュレーションしている。」

 「……お前は誰だ。あの時だって、名乗らずに去っただろ。」

 「メリットが無い。仕方無いね。どうせ今からパーだし…いいよ。Hades特殊行動分隊。Asmodeus薊。じゃ、またな。やれ。」

 すると、俺の身体に電流が流れ、意識が途絶えてしまった。
 恐らく、薊は逃がしただろう。







 「しっかりしろ。歪。」

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