多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅤ:Crazy

No80.Each path

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 兄上は資料を配り、口を開いた。

 「生命再起会は政府を撹乱し、東京を占拠した。その魔の手は、関東から順に広がっていくだろう。我々プレデスタンスは、狂う情勢にすぐさま気づき、荒れ狂う国民を統率して、政府に対する抵抗運動を続けてきた。……とは言え、望まない形にも進んでしまったがな。これから、奴らはより独裁力を強め、日本の情勢は逆戻りするだろう。そこで、我々プレデスタンスとサイレンスで同盟を結び、生命再起会…通称暗黒政府の暴走を止めたいと考えている。このミッションの目的は、細胞母体として捕縛された者の救出及び、主犯格の処罰だ。捕縛してから処刑するか、暗殺するかは各自の判断に任せたいと思う。サイレンス最高責任者励領絆。協力してくれるか。」

 そう言うと絆は頷き、印鑑を取り出した。

 「協力しよう。我々サイレンスは、プレデスタンスと同盟を結び、暗黒政府の重圧から国民を開放することを誓う。」

 契約書に目を通した絆は印鑑を押し、兄上と握手をした。
 
 「これからの方針についてだが、まず奴らの手の内がほとんど分かっていない。ただ、高い技術力を有している事は確実だ。……敵地東京に潜入者を送る必要がある。」

 「それなら Mythologyに任せて欲しい。」

 旋梨はそう言って立ち上がり、口を開いた。

 「まだ関東の全土に手が及んだわけでは無い。住宅街は無傷であり、情報の回りも遅い。学生多めで構成されているから、奴らも特定に手こずるはずだ。」

 彼の言う通りだ。任務時はコードネームを使用しており、対面した敵もコードネームしか知らない。
 ただ、清心がどこまでサイレンスの事を理解してるかで話が変わってくる。
 柊司令は元々怪しんでいたと聞いたので、多分流出は食い止めてあるはずだ。

 「……自信と覚悟はあるか。」

 「はい。」

 「分かった。潜入調査は Mythologyに任せる。歪はどうだ。」

 「俺も構わない。ただ、俺は薊に認知されている。記憶が消される前から、ピンポイントで狙っていた。……溶け込むのは難しいかもな。 」

 あくまでも憶測に過ぎないが、奴が俺に植え付けられた思想を削除しようとしていた事から、華隆さんを暗殺したのは彼の仲間である可能性が高い。
 現に、確実に息の根を止められる状況なのにも関わらず、薊は俺を殺さなかった。
 ただ、あの時は記憶を消すに留めたが、次は確実に刈り取りにくるだろう。俺の記憶が邪魔になるのではなく、俺自体が邪魔になるはずだから。
 
 「一理あるな……。紫藤。お前はどう考える。」

 「歪は大きな戦力になる。故に奴らの警戒も強そうだ。個人的には来るべき日の為にリスクを抑えてほしいところ。」 

 そう言って俺に視線を向けてきたので、俺は返答した。
 
 「……旋梨。お前の願いは受け取った。俺はこの任務からは外れる。ただし条件を課したい。……生き残れ。どんな逆境だろうと、必死に生存しろ。その上で、情報を収集して。」

 「……ああ。そのつもりだ。」

 その後も会議を続け、ある程度役割分担と大まかな動きが決まったため、集会は終了となった。







 「なぁ歪。」 

 「どうした?」

 会議終了後、旋梨が声を掛けてきた。オフモードのいつもの旋梨だ。

 「大変な事態になってしまったなぁ。それと……すまない。」

 「何を謝罪している。」

 「思ってもみない奇襲に抗い、壊されても尚、新体制に立て直そうと前を向いている中、俺は何も行動できなかった。もし、行動できたなら、もっと被害を抑えられたかもしれないというのに。」

 らしくない…と言ったら失礼だが、彼が責任を感じる必要は全く無いのだ。

 「俺だって予測出来なかった。真依と波瑠は無事なんだろ?……お前の守るべきものを、これから守っていくんだよ。先人の経験を知識として持つお前達が。…心配するな。失ったものは必ず取り返す。記憶のように。だから……リスクと隣合わせの学生生活……行ってこい。」

 「………ああ。」

 あの混沌具合だと、教師も生徒も欠席がいたり、被害者がいたりしても不思議では無い。故に俺がリスクを冒して関東に行く理由は無い。
 互いに健闘を祈り、俺達はそれぞれの道へ歩み出した。







 「サイレンス…再設立したんだな。絆。」

 荷物を片付け、帰る寸前の絆に声を掛けた。

 「どうしても柊司令の意思は継ぎたかった。俺を変えてくれたのは紛れもなくサイレンスあってこそ。お陰で最高の仲間にも、ライバルにも有りつけたから。」
 
 「は……嬉しい事言ってくれるじゃないか。」

 「誰が名指した?自意識過剰か?」

 「変わらないな。そういうのは。」

 そうは言っても、シリアスでない絆は久しぶりに見た。
 彼を狂わせた人は死に、彼の確認したかった疑問も解消された。きっと彼の未来は当初のものから随分と変わった事だろう。

 「……日本の秩序。取り戻そうな。」

 「…ああ。お互い頑張ろう。」

 そうして、絆とも別れ、それぞれの進むべき方向へ歩んだ。
 会議室を抜け、あのモニターだらけの中心部に向かった。







 会議終了後にすぐ彼はそこへ戻っていた。彼は、カプセル内をただ呆然と見つめていた。
 その目はどこか哀しく、どこか怒りに駆られていて、絶望と希望を漂わせていた。

 「歪か……。」

 顔も向けずに、兄上はそう呟いた。

 「兄上……教えてくれる気は無いのか。プレデスタンス設立の理由……隠してるだろ。」

 「やっぱり弟は似た思考を持っているのかね……。決心した。包み隠さず話してやるよ。“俺達に起きた悲劇”について。」


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