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ChapterⅥ:Signpost
No86.Half soul……omen of disaster
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夜の冷たい風を切り、灯台の麓に着いた。灯りしか照明は無く、闇夜に包まれている。静かな水面。そんな場所で、相棒は一夜を過ごす。
「どうした?薔羨。」
すると、光無き水面をバックに、彼は声を発す。
「はぁ……お前いつもそんな所に居るのかよ。帰る家はあるのに。誰かに命を狙われるかもしれない自覚があるか。」
「来ても返り討ちにすれば良いだけ。むしろ、ここの方が安全まであるよ。」
「いつ寝てんだ。」
「三時から六時。夜行性の暗殺者でも、この時間ばかりは大人しい。」
早朝に暗殺すれば、日中の間ずっと見つかるリスクがあり、流石に無謀だ。
夕方から夜遅くても一時までがピーク。俺達にとってもそれは共通認識だ。
「何か用があってきたんじゃないのか?」
我に返った。彼に真相を話す気は無い。彼がしてきたように、俺が影で守護し続けるだけだ。
恐らく、金輪際会うことは無いだろう。全ての過ちは俺が背負い、これから彼らが幸せであり続けるために、俺は消える。
そう、積み上げてきたものを手放すのだ。
「……絶対に生き残れ。相棒。そして、Enterを頼んだ。」
「任せろ。……ってもこれからも仲間であり、相棒だけどな。」
言葉の裏の意味を掴めていない様子だ。しかし、それでいい。事情を話したところで、人が良すぎるこいつらは納得しない。
「……分かった。」
それだけ言い残し、俺はある場所へと向かった。
この任務の後処理は、俺が遂行する。
深夜二時。暗殺者が動く時間としては、かなり遅い。警備も疎かになりやすい時間だ。
商店街での統率者の携帯を回収し、特定したのだ。つまり、現在地はCosmosのアジト。長さえ殺せば、下っ端は混乱して正常な判断が下せなくなる。
捕らえられた生存者を連れ出した後、アジトを黄牙特製の爆弾で盛大に壊す。
都合の良い事に、アジトは山奥。派手にやっても騒ぎにならない。
長と思わしき人物の寝室に潜り込み、目の前に立って銃口を額に向けた。
「お前は慈穏を狂わせるきっかけを作った。万死に値する。」
そう口に零し、引き金を引いた。ここまで暗殺らしい暗殺は久々だ。
奴の死体から携帯を取り上げ、組織チャットにメッセージを送った。
『玄関付近で侵入者の痕跡を確認した。全員直ちに向かいなさい。』
すると、下の階で足音が鳴り響き始めた。監獄は地下一階。玄関とは真逆の方向だ。
気配が消えた事を確認し、俺は一階へと降りた。
地下へと続く階段を見つけた。しかし、遅れてきた下っ端がまだ残っていたようだ。
「ッ!お前か!」
下っ端は発砲する。俺は銃口を向け、腰に巻いたロープを投げて、下っ端を引き寄せた。そして、ゼロ距離で脳を貫き、土に還した。
銃声で気づかれたかもしれないため、俺は監獄に急ぐ。
監獄に着いた。かなり多くの人が乱雑に詰め込まれているが、大半は死体だ。
人数が多くなればなるほど、救出が困難となる。とりあえず、達成証明用に撮影し、息のあるものを探した。
全員を確認したが、二十人中生存者は、二人だけだった。
恐らく、処理された死体もあるため、被害者は底しれずとなるだろう。
悪夢に魘されるように寝る二人の生存者を抱え、俺はアジトから脱出する。
木の葉に隠れ、アジトを見下ろす。玄関にCosmosが勢揃いしていた。
長の寝室に潜入する際、丁度玄関上にあたる部屋に爆弾は設置済み。
「俺は慈穏じゃない。凶悪犯相手なら、慈悲など要らない。既に“腐り染まった存在”が、“悪に染まった連中”を死で償わせたとて、何の罪でも無い。最初から……罪人同士のいたちごっこなんだよ。そんな世界で誕生した。」
起爆装置を稼働させ、俺は木々を飛び移りながら颯爽とその場を去った。
後方からは、火が燃え滾る音と、断末魔が響く。
後日、救出した被害者と任務完了報告書を提出し、俺はサイレンスを解約した。
そして関東を離れ、北海道の自然で一生を終える事に決めた。
今思えば、裏社会から離れて農業をするのも悪くない期間だったさ。
生命再起会本部。ある政治家によって支援され、地位を上げた団体。少子高齢化と人工低下の未来に対する政策が、重視され始めた時代に、立ち上がった。
ただ、その政治家に少々問題があった。はっきり言って、二年ほど前から政治が上手く機能していない。
三権分立による均衡なバランスは、徐々に崩れ、一部の連中が独裁できる体制になりかけていた。
それもそのはず、清心将角は……“都合の悪い奴を容赦無く消す”。彼が安全圏から指示を送るため、生命再起会は大暴走。
最早触れるべきでない存在であり、いつしか逆らえなくなっていた。
根気強く反対した者は、もれなく全員葬られた。
「次のプロジェクトですが……どうしましょうか。」
「それなら目星はある。……だが、今やっているプロジェクトを完遂してからだ。良質なDNAを採取するために、戸籍を調べ尽くした。とにかく、今は簡素でもクローンを量産させることが先決だ。」
「ある一族の特別な血液。それがクローン化の鍵。血液型CN。恵蜜一族の血液型だ。現存する該当者は……“恵蜜葵”。」
片割れた魂の失踪により、歯車は狂い出す。間違いだったんだ。“全ての選択が。噛み合わない。すれ違い続け、色褪せる。”
「どうした?薔羨。」
すると、光無き水面をバックに、彼は声を発す。
「はぁ……お前いつもそんな所に居るのかよ。帰る家はあるのに。誰かに命を狙われるかもしれない自覚があるか。」
「来ても返り討ちにすれば良いだけ。むしろ、ここの方が安全まであるよ。」
「いつ寝てんだ。」
「三時から六時。夜行性の暗殺者でも、この時間ばかりは大人しい。」
早朝に暗殺すれば、日中の間ずっと見つかるリスクがあり、流石に無謀だ。
夕方から夜遅くても一時までがピーク。俺達にとってもそれは共通認識だ。
「何か用があってきたんじゃないのか?」
我に返った。彼に真相を話す気は無い。彼がしてきたように、俺が影で守護し続けるだけだ。
恐らく、金輪際会うことは無いだろう。全ての過ちは俺が背負い、これから彼らが幸せであり続けるために、俺は消える。
そう、積み上げてきたものを手放すのだ。
「……絶対に生き残れ。相棒。そして、Enterを頼んだ。」
「任せろ。……ってもこれからも仲間であり、相棒だけどな。」
言葉の裏の意味を掴めていない様子だ。しかし、それでいい。事情を話したところで、人が良すぎるこいつらは納得しない。
「……分かった。」
それだけ言い残し、俺はある場所へと向かった。
この任務の後処理は、俺が遂行する。
深夜二時。暗殺者が動く時間としては、かなり遅い。警備も疎かになりやすい時間だ。
商店街での統率者の携帯を回収し、特定したのだ。つまり、現在地はCosmosのアジト。長さえ殺せば、下っ端は混乱して正常な判断が下せなくなる。
捕らえられた生存者を連れ出した後、アジトを黄牙特製の爆弾で盛大に壊す。
都合の良い事に、アジトは山奥。派手にやっても騒ぎにならない。
長と思わしき人物の寝室に潜り込み、目の前に立って銃口を額に向けた。
「お前は慈穏を狂わせるきっかけを作った。万死に値する。」
そう口に零し、引き金を引いた。ここまで暗殺らしい暗殺は久々だ。
奴の死体から携帯を取り上げ、組織チャットにメッセージを送った。
『玄関付近で侵入者の痕跡を確認した。全員直ちに向かいなさい。』
すると、下の階で足音が鳴り響き始めた。監獄は地下一階。玄関とは真逆の方向だ。
気配が消えた事を確認し、俺は一階へと降りた。
地下へと続く階段を見つけた。しかし、遅れてきた下っ端がまだ残っていたようだ。
「ッ!お前か!」
下っ端は発砲する。俺は銃口を向け、腰に巻いたロープを投げて、下っ端を引き寄せた。そして、ゼロ距離で脳を貫き、土に還した。
銃声で気づかれたかもしれないため、俺は監獄に急ぐ。
監獄に着いた。かなり多くの人が乱雑に詰め込まれているが、大半は死体だ。
人数が多くなればなるほど、救出が困難となる。とりあえず、達成証明用に撮影し、息のあるものを探した。
全員を確認したが、二十人中生存者は、二人だけだった。
恐らく、処理された死体もあるため、被害者は底しれずとなるだろう。
悪夢に魘されるように寝る二人の生存者を抱え、俺はアジトから脱出する。
木の葉に隠れ、アジトを見下ろす。玄関にCosmosが勢揃いしていた。
長の寝室に潜入する際、丁度玄関上にあたる部屋に爆弾は設置済み。
「俺は慈穏じゃない。凶悪犯相手なら、慈悲など要らない。既に“腐り染まった存在”が、“悪に染まった連中”を死で償わせたとて、何の罪でも無い。最初から……罪人同士のいたちごっこなんだよ。そんな世界で誕生した。」
起爆装置を稼働させ、俺は木々を飛び移りながら颯爽とその場を去った。
後方からは、火が燃え滾る音と、断末魔が響く。
後日、救出した被害者と任務完了報告書を提出し、俺はサイレンスを解約した。
そして関東を離れ、北海道の自然で一生を終える事に決めた。
今思えば、裏社会から離れて農業をするのも悪くない期間だったさ。
生命再起会本部。ある政治家によって支援され、地位を上げた団体。少子高齢化と人工低下の未来に対する政策が、重視され始めた時代に、立ち上がった。
ただ、その政治家に少々問題があった。はっきり言って、二年ほど前から政治が上手く機能していない。
三権分立による均衡なバランスは、徐々に崩れ、一部の連中が独裁できる体制になりかけていた。
それもそのはず、清心将角は……“都合の悪い奴を容赦無く消す”。彼が安全圏から指示を送るため、生命再起会は大暴走。
最早触れるべきでない存在であり、いつしか逆らえなくなっていた。
根気強く反対した者は、もれなく全員葬られた。
「次のプロジェクトですが……どうしましょうか。」
「それなら目星はある。……だが、今やっているプロジェクトを完遂してからだ。良質なDNAを採取するために、戸籍を調べ尽くした。とにかく、今は簡素でもクローンを量産させることが先決だ。」
「ある一族の特別な血液。それがクローン化の鍵。血液型CN。恵蜜一族の血液型だ。現存する該当者は……“恵蜜葵”。」
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