多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

ChapterⅥ:Signpost

No101.Countless times

　プレデスタンス本拠地。派遣任務開始から二週間が経過した日、一部のメンバーが帰還した。

　「戻りました。薔羨。」

　「送信された情報には目を通した。それで、例のものは何処に……」

　「夜空が持っています。既に黄牙に渡しましたよ。」

　「仕事が早いことだ。……聞いたぞ。Kerberosが奴らに捕まっていたそうだな。それを知ってすぐに調べたのだが、死亡が確認されている。十中八九あいつだろうが。」

　「………。」

　「とりあえず、中枢部からは進展が掴めていない。しばらくはこちらに滞在するだろ？向こうはあの二人でしばらくは大丈夫なはずだ。今日はもう遅いし休みな。」

　「言葉に甘えて、そうさせてもらうわね。」

　そう言って愛沙は部屋を後にした。
　俺はモニターに映し出されたある人物の情報を開き、備考欄に入力した。
　『最重要抹殺対象』と。
　燈花。幾度となく手を交えた災厄。記憶に残るのはあの三戦だが、互いに暗殺には試みた歴が長い。目線が合わなくとも、気配と視線は数え切れないほど絡んでいる。
　奴はHades天守閣の死を受け、Kerberosの生存者をこの世から葬った。奴のやり方は誰よりもイカれている。
　暗殺の域を出て、最早災害型テロリストだ。しかし、あれだけ大規模で目に止まる事をやっていても、警察は足取りを一切掴めていない。
　奴の殺戮は煙の立ち込める中で実行され、晴れる頃には退散している。そして、Asmodeusの特権である生命再起会内の特別待遇。清心を後ろ盾に出来るのだ。

　「………Hadesの均衡破壊により、燈花は動くか。動かないか。」

　情報不足。映人の死んだ今、国家セキュリティを突破する術は無いし、奴らの情報は一般に転がっていない。
　関東の視察も済んだ事だ。後、何人か動員して奴らを刺激するのも手だ。
　色々考えつつも決まらないため、俺は寝た。ここ一週間、まともな睡眠を取れていない。







　俺を除くMythologyの派遣期間中、俺は撫戯と技術の向上に勤しんでいた。
　武装を一から見直し、身体能力の向上や射撃精度、判断力を高める修行。ありとあらゆる戦闘スキルを磨いた。
　
　「まだだ……まだ全然駄目だ！」

　元々弱くはないし強い部類ではあった。しかし、薊との差は歴然。この二週間でその差は一気に縮んだが、この程度では勝機が確固たるものには到底ならない。
　撫戯も同様。ワイヤーはより複雑かつシビアな軌道を描けるようになった。そして彼自身の空間把握能力、偏差撃ち能力も向上し、並大抵の相手は速攻拘束可能となった。しかし、本人曰く蜥蜴は素早くヌルっと姿を消すそうだ。

　「はぁ……キッツ。」

　「歪……そろそろ……休んだらどうだ？」

　「撫戯こそな。」
　
　一人で修行していたらお互いとっくに身体が壊れているだろう。リミッターが居るからこそ、こうして長時間限界寸前だとしても、やっていけてるのだ。
　そうこう水分補給をしていると、兄上が扉を開いた。

　「話がある。歪、撫戯。」

　そう言われ、俺達は武装を解いて会議室に向かった。