多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

文字の大きさ
103 / 150
ChapterⅦ:Candle

No103.Guardian

しおりを挟む
 東京渋谷区。別動開始から数日経ち、前線拠点の設備が整った。
 本部と比べれば規模は十分の一にも満たないが、セキュリティが難攻であり、暗黒政府に見つかっても突破は困難だろう。
 
 「にしても、異質なメンツが揃ったものだ。」

 適当にテーブルに茶を注いでいると、撫戯がそう言った。確かにそうだ。兄上、Orderを除いた一線級の集まりだ。その中でも、奴らに警戒されている異端者なのだ。
 凍白姉弟は一族が衰退していないため実家があるし、愁もそれは同様。旋梨は羽崎のところを拠点にしているらしい。
 俺と撫戯は一人暮らしで家は持っているが、住宅街に位置するため、帰れない。事実上、俺達は行方不明という事になっているから。
 だが、要さんと月歌さんは分からない。彼らは元々暗殺者では無かったらしいが、色々あってEnterに入ったという事は兄上から聞いた。

 「ところで、要さん達はどうしてEnterに入ったんですか?」

 本人から直接聞いた方が早いと感じたのだ、聞いた。すると、要さんは答えた。

 「華隆慈穏と聖薇薔羨の生き様に惚れたってところ。また機会があれば話そう。……今はまだ…。」
  
 「そう……ですか。」

 きっと複雑な事情が絡んでいるのだろう。Enter自体が、かなり複雑な構成をしたチームでもあるし。
 
 「さてと、ちょっとツーリングしてくる。実情調査も兼ねてね。」

 「この一員に含まれるくらいに暗黒政府から警戒されているのに、そんなフラフラ出ていいんですか?」

 そう聞くと、ヘルメットを装着した要さんは振り返って言った。

 「返り討ちにすればいいだけじゃない?ここに居る事……そういう事じゃないかな。」

 「確かに……。気をつけて。」

 「ただでは帰らないよ。行くよ月歌。」

 「はーい!」

 要さんと月歌さんはバイクに乗り、基地から何処かへ走り去った。
 残された俺達は、とりあえず携帯を手に取った。そして、雑談をした。







 心地よい風に揺られ、東京を疾走する俺ら。長い事プレデスタンスの本部でじっと待機していたため、走らずにはいられない。
 
 「やはりいいな。都会を走るのは。」

 全て忘れて走ること。それこそが至高の時間だ。周りの音を遮断し、二人の世界を作ること。素晴らしい。

 「ん?……要あれ。」

 「……ぉお。ちょっと見て見ぬふり出来ないかなぁ。」

 ブレーキを掛けバイクを止め、俺は目にした地点へ向かった。




 「あ?口答えすんな!」

 「うぅ……だから、私じゃないんですって……。」

 四十代過ぎる良い大人が、十代前半くらいの少女に何やら罵声を挙げていた。空気を読んで声を掛ける。

 「すみません。少し道に迷ってしまったんですが……駅までって……」

 「は?誰だお前!部外者が!」

 「……駅までの道聞いただけなんですが……お嬢ちゃん。教えてくれる?」

 「だから!誰やねんおま……ッ!」

 「一回黙って。」

 この時点でこの人には話が通じない事を察したので、紙を口元に投げつけた。
 黄牙製のこの紙は、皮膚に纏わりつきやすいが、呼吸は出来るため、重宝している。

 「お嬢ちゃん。もし何か困っているなら、お兄さんに話してみて?」

 そう言って優しく目線を合わせると、少女はゆっくりと口を開いた。

 「お姉ちゃんがそこのおじさんに連れて行かれちゃったの……。それで…私は必死に止めようとしたけど……そしたら、私も手を出されそうになって………うぅ…。」

 「そっか。ありがとうね。」

 今にも泣き崩れそうな少女の頭を撫で、俺は男に鋭い視線を飛ばして、発言した。

 「どっかの店の者?今から、俺が聞く事に嘘偽りなく答えてみ。」

 すると俺の態度が気に入らなかったのか、男は問答無用で殴りかかってきた。しかし、俺はその拳を片手で受け止め、問答無用で投技を決める。

 「ぐはっ!」

 「答えてみ?……俺の意識が公正なうちに…ね?」

 怯えた様子で、男は口を開いた。

 「違法スカウトです……。多額の富のために動いてました……。」

 「おーけい。」

 俺は男に手を差し出して立ち上がらせ、麻酔を撃ち込んだ。
 そして、バイク横で待機している月歌に視線を向け、言葉を発した。

 「月歌!お嬢ちゃんを守ってて!少し席外す。心配しないで。」

 それだけ言い残して、俺は寝た男を担いで名刺に記載された店舗へと向かった。







 「はい、注目。……この人の同業者で間違いないかな?」

 そう言うと、店の中にいた人達は一斉に凶器を取り出し、襲ってきた。

 「一般人ならこんな事はしない。敵と見なしていいんだね?……相手が悪かったな。」

 腰から棒を取り出し、包丁を前に持ち飛びかかってきた人を屈んで避け、棒で思いっきり叩いた。すると、昏酔した。
 すると、相手の大半が戦慄したが、主犯と思われる男が、背後からバットを振り被ってきた。

 「死ねェェ!……かはっ!」

 しかし、右脚を軸にして冷静に方向転換し、肋骨辺りを突いた。そして、20Vの電気を流した。

 「ああああ!」

 そして、撃沈した。俺は戦慄した連中に視線を向け、口を開く。

 「利用されていたとは言え、違法に変わりはない。今回は見逃してあげるが、その代わり……一生この手のビジネスには手を出さないと誓え。」

 「「「は……はぃ…。」」」

 カウンターから部屋に入り、捕らわれていた人達を解放し、俺は月歌の元へ戻った。







 「お姉ちゃん!うぅ……無事で本当に良かった……!」

 「ごめんね……心配かけちゃって…。貴方が無事で本当に良かった!」

 お嬢ちゃんのところにお姉ちゃんを送り届け、俺は再開の光景を眺めていた。すると、妹ちゃんの方が寄ってきた。

 「お兄さん。ありがとうございました!」

 「いいえ。二人とも無事で良かった。」

 そう話していると、後ろから月歌に突かれたので、俺は手を振った。

 「またね。」

 バイクのエンジンを掛け、再び走り出した。







 「今日もかっこよかったよ!要!」

 「うん。ありがとう。」

 走行中、そう言って月歌が抱きついてきた。

 「店はどうだったの?」

 「あんまり良くないスカウト。思い出すなぁ最初の任務を。」

 「そうだね……。要、中身はやっぱり要のままだね。」

 「はは……何当たり前の事言っているんだ?」

 「ううん。深い意味は無いよ。」

 「そっか。」

 ここで会話は途切れた。深い意味?その意味はとっくに気づいている。何度も言われているから。
 今はまだ進展が無い。だけど、奴らが動き出したら、命に保障が無くなる。
 俺の果たすべき使命。出来るところまで進行させるしかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...