多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅦ:Candle

No108.Suffering

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 現在地は一棟二階。煙の中から人影が見えるが、殺気は無かった。咳き込んでいるのを見て対策が出来ていない人感じた俺は、彼を敵でないと認識し、近づいた。

 「大丈夫ですか?」

 そう声を掛けると、生徒は顔を見上げた。火傷を負っているようだ。

 「一棟東階段は既に火の海ですから、二階の渡り廊下を経由し、三棟から脱出してくださいね。」

 「は、はい。」

 すると、生徒は俺の示したルートに向かって行った。凍白の言う通り、まだ中を彷徨っている人が多そうだ。
 彼のように怪我をしている人がいるかもしれないし、内部から抜け出せない場所に閉じ込められている人もいるかもしれない。
 前例から言わせてもらうと、燈花を筆頭に敵が潜んでいる事は確定事項だ。まだ見つかっていないが、万が一銃撃戦になろうものなら、生徒に二重で危険が及ぶ事となる。
 それが想像出来たため、二人に生徒の避難の手助けをさせ、小数点レベルの反射神経で動ける夜空を警戒にあてた。
 歪と撫戯。このトップクラス二人は、対燈花の最終兵器だ。悔しいが、俺一人の力では奴に到底及ばない。俺が引き付けている間に、暗殺をきめる。







 蛍光灯が頭部に落下して、気を失った生徒をおぶって、裏口に着いた。

 「聴こえますか?」
 
 そう言って身体を揺すぶるが、反応は無い。自分は置き手紙を書いてその場を去ろうとすると、彼は苦しそうな声を発した。

 「撃たれた……友達が………気をつ……」

 そこで息が途切れた。正体がバレるのを防ぐために黒い防火服に全身を包んでおり、音が少し遠いが、呼吸をしていないのはすぐに分かった。

 「……ありがとう、知らせてくれて。」

 潜伏は間違い無さそうだ。同業者でも無い同級生の死を目の当たりにするのは、辛いもの。
 暗躍者を陰で撃破する自分達。その舞台は自分の高校。もう、訳が分からない。
 だからこそ、早く終わらせるべきなのだ。全焼という時間制限付き。これ以上は死なせない。そう決心し、二階に上がる。







 すると早々、廊下の奥から狙われた感覚を受け、ハンティングライフルを手に取る。
 その僅か0.58秒後、弾を目視したため、自分は身体を左に傾けて回避を行い、煙の中の発砲推定地点に狙撃した。
 以降、追撃は無かった。その場所に近づき確認してみると、防火服を着た男の死体が転がっていた。だが、まだ殺気は全然消えていない。  

 「ここまで冷や汗をかく任務も中々無いよ……。気をつけないと。」

 視界不良、仲間と別行動、一般人も居る。強さ云々だけではどうにもならないハードな戦場となっている。
 七瀬先輩のような特異な視力があれば見間違う事は無いと思うけど、あれは中々真似出来ない。
 などと考えながら気を抜かずに歩いていると、泣き声が聞こえた。



 その場所に歩み寄ってみると、見覚えのある生徒の顔だった。
 彼女は蹲っていた泣いていたので、声を掛けた。

 「どうかしましたか?」

 正体を悟られないように声を変えて喋ったが、彼女はすぐ自分にくっついて来てこう言った。

 「明璃が……大変なの!それに、銃を持った彼岸花の仮面をした集団が徘徊してる。お願い……助けて……!」

 「…他の生徒の避難状況は分かるの?」

 「最初はどの階にも居たんだけど、パーカーのお姉さんと黒服に身を包んだ女子高校生が保護していたよ。」

 大体の状況は掴めた。今居るのは一棟三階。道のりは最悪だった。彼女らは全体的な避難誘導をしていて、こっちの方までまだ手が出せていないはず。要さんは全体を見る関係上、二階が主な活動域になるはず。
 ならば、自分が三階を担当すれば、バランスが良くなる。

 「明……生徒さんが居るかもしれない場所に心当たりはありますか?」

 「……分かんない。けど、この階層に居るはず。分断されちゃったんだ。」

 明璃が心配だし、すぐにでも捜しに向かいたいけど、彼女をどうするか。
 一棟の状況は最悪だし、さっきから聞き慣れた銃声が全然聞こえない事も考えると、敵はまだ潜んでいる。そんな中、一人で行かせる訳にはいかない。
 だけど、燃焼状況が最悪なのも事実、一度彼女を校舎外に届けて戻る頃には、進入不可になっている事も考えられる。
 ただ、多大なリスクを抱えたとしても、どちらの命も守らなければならない責務がある。

 「……もしかしたら、銃弾が飛び交うかもしれない。けれども、自分は助けたいんだ。……出来る限りを尽くすから、命を懸ける覚悟をしてほしい。」

 無茶な事を言っている自覚はある。だけど、それほどまでに自分だけじゃどうにもならない。
 深く頭を下げて頼み込む。彼女の表情は分からないけど、多分凄く困っていると思う。

 「顔上げて。夜空さん。」

 正体がバレていた事に驚きながらも、自分は顔を上げると、彼女の口角は少し上がっていた。

 「大好きだもんね。何で夜空さんが変わった姿をしているのかは、聞かないでおくよ。行こ。」
  
 「……了解。着いてきて。」

 隠せていたつもりだったので、少し照れるが、すぐに無心になって先導を始めた。







 煙が天井に溜まってきている。もう、時間はそれほど長くないかもしれない。
 
 「……苦しい…よ……一人は…。」
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