多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅦ:Candle

No119.Warm push

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 そんな口数の少ない時間がしばらく続き、明璃の家に到着した。

 「さぁ入って入って!」 

 そう押され、自分は部屋へと入れられた。







 お茶を出し、明璃は座布団を二枚用意して座った。

 「いらっしゃい。」

 「どうも。」

 「この前はありがとうね?」

 「は…はい、どういたしまして?」

 会話のキャッチボールの酷さに、最早笑えもしない。
 非日常を味わった後で会うなんて、ハードルが高過ぎる。命を剥き出しにして生きている自分からしても、あの事件は未だに実感が湧かない程予想外だった。
 
 「助けられるのは二度目だよね…?」

 「……どうだったかな。」

 そう濁すように答えた。すると彼女は少し頬を赤らめながら口を開いた。

 「ねぇ……あの日の事…覚えてるよね?」

 「…………。」

 「私……分からないんだ。私は何がしたいのか。」

 「…………と、いうと?」

 「実は私……ずっと一人ぼっちだったの。自分で言うのもアレだけど、私可愛過ぎるから。」

 「国民的アイドルと同じ遺伝子ですしね……。」

 彼女の言葉に間違いは無い。現に、高嶺の花として扱われ、嫌われている訳では無いけど、人が寄ってこない。……というより、一方的に寄ってくるイメージか、添えられるイメージなのだ。

 「モテるにはモテるけど、身体目当てばかりで私の心を知ろうとする人は居なかったよ。」

 「……それは、明璃さん自身が無意識に心を閉ざそうとしているんじゃなくて?」

 「あはは…もしかしたら、そうかもね……。」

 そう言って、明璃は少し苦い愛想笑いをした。本物の笑みじゃないなんてのは、もう分かる。
 少し間が空き、彼女は恐る恐る言った。

 「ねぇ……夜空君。もしかして……私の事……嫌いになっちゃった?」

 「え……そ、そんな事は……!」

 「心の奥底が燃え続けている事は、猛火の中助けに来てくれたから凄く分かってる。だけど、表面上がちょっと凍てついてるなって思って……。」

 「……そう……かも………。」

 否定はしない。というか意図的にやっている。

 「どうして?」

 「それは………自分と居ると、危険が及ぶかもしれないって思ってしまって……。実は……今、大変な状況になっているんだ……。」

 ダサい。その一言に尽きるのは自覚している。何の理由にもならない、どんなに茨の道になろうとも、何かを捨てる選択肢はしてはいけないんだって、そんな事は分かってる。
 あの人だったら、そうしていたはず。







 「夜空。お前の秘めた優しさは時に残酷の結果へと導くかもしれない。」

 「……何が言いたいんですか。慈穏先輩…!」

 「別に?……余裕が無い時は、一人で責任を背負い過ぎないで。そして、周りを突き放すような事をしないで。今の夜空は、未来でそうなるかもしれない人柄に感じてしまうんだ。」

 「先輩………はい。分かりました。」

 「腐らせないようにね、その心。魂の片割れ対魂は、きっと夜空と同じだった。」







 慈穏先輩の言っていた事、現実になりかけていた。思えば、彼は戦線離脱してから自分にそう言ってくれた。そして、戦線離脱してまもなくの間に、彼は遺体で発見された。
 察していたはず。最期にこの言葉を自分に遺してくれたのは、この時を見越しての事だったのだと、ようやく分かった。
 サイレンス、プレデスタンス、どちらも全員余裕が無い。あの日を堺に、神経を擦り減らし、人格に支障をきたすように目先の任務に打ち込んでいた。
 私生活完全放置、組織内も交流が明らかに薄れていた。“勝つまでの辛抱、それまでは……”なんて全員が思っていたかもしれない。
 この前の事件だって、慰思先輩の信託があってこそ表面上の勝利を収められたけど、もっと連携できる部分は無かったのか。
 意思を持った人間が単なるアクチュエータとなった所では、クローンの劣化となってしまうのではないか。
 
 「……ありがとう。目が覚めたよ。」

 「ふぇ?私何かした?」

 「いいや。何でも無い…。」

 意味合いは全然違うけど、結果的に彼女のお陰で失っていた根幹を思い出した。
 誰かが変わらないと、誰も変わらない。伝説と呼ばれた慈穏先輩と、暗殺者界隈の変革者となった聖薇先輩。
 時代を動かす人は、継承されていた。

 「……明璃。」

 「何?」

 「今はまだ……相応しくなれない。自分の生まれた意味にすら感じる重要な事が、完遂出来ていないんだ。」

 そう言葉を連ねると、彼女は真剣な表情で聞き始めた。

 「自分は今、危険を呼び起こす人になってしまっている。心ではずっと君を想っている。だからこそ、危険に晒す真似はしたくない。」

 「………迎えに来てくれる…んだよね?」

 彼女が少し甘え震えるようにそう言うと、自分は首を縦に振った。

 「……分かった約束だよ。」

 そう言って彼女は微かな笑顔を見せた。人を信じる笑顔、秘めた笑顔だ。

 「……こちらこそ。」

 そして、自分は明璃の家を後にした。一時的に関係は絶つ事になってしまうけど、寂しさは全く感じなかった。
 フラグじゃないけど、また笑って再会出来る日のために、死にかけようとも……必ず掴み取る。日常を。
 それが凍白として生まれた意味だと思った。

 
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