多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅧ:FinalZone

No122.Contrast of values

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 昨日、『計画執行の準備をしろ。』と伝達され、自分と夕憧は交代で睡眠を取っていた。
 
 「そろそろ……か…。」

 「本当にいつくるか分からないらしいわね……。心の準備はいつでもできてるけど。」

 今まではあちらに先手を取られ続けてきた。でも、今回はそこで差が着いてしまう。相原先輩が上手いこと誘導して奴らの気を引いてくれるらしい。
 とりあえず、今自分達に出来る事は時を待つ事だけ。

 「お休み。夕憧。」

 「お休み。」

 そうして、ひとまず自分は眠りについた。







 鉄塔の上、電磁誘導スナイパーライフルを構え、あるマンションの一角を狙う一つの影天災の姿があった。
 チャージが開始され、暗闇の中光が灯った。反動が大きくなるスナイパーを支える彼は、口に零した。

 「黒薔薇、読みが外れて悔しいか。…追い打ちの時間だ。絶望心の脆さを味わいな。」

 チャージが完了し、彼はスコープから狙いを定めた。







 「………何の音だ…?」

 眠っていたが、約300m以内に妙な何かが作動している音とカーテン越しに見える異様な光に気づき、起きてしまった。
 そして悪寒を覚えた。

 「………ッ!まさか!」

 すると、起ききっていなかった脳が一気に目を覚ました。この状況、考えられる線は“たった一つ”だった。前例はある。それでも手遅れかどうかすら予測不能。
 未知の奇襲攻撃が……来る。

 「夕憧!夕憧!」 

 起きてはいるけど、何処かぼーっとしている夕憧の身体を揺すった。

 「……ん?そんなに慌ててどうしたの?」

 「………奇襲が来る。範囲外に逃げるよ。」

 「え?あ、分かった!」

 そう簡潔に伝え、本当に必要な物だけ持って玄関へと走った。







 「ある程度追尾する事は知られていないはず。発射後、僅か0.1秒で最大射程圏内に到達する。……終いだ。宣戦布告代わりに消えろ。」







 扉の前まで来たが、ハプニング発生。扉にほうきが引っ掛かっていた。

 「…!もう時間が…!」

 ドアノブを何度か動かし、無理矢理扉を開ける事には成功した。そして身を室外に逃した。

 「夕憧掴まれ!」

 そうして手を伸ばし、夕憧も体重を前に倒して一刻も早く室内から出ようとした。
 ……しかし、一足遅かった。







 「……はぁ…!夕…憧……?ッ!」

 轟音と共に視界が真っ白に染まり、目を開くとそこには、ガラス窓が割れ、可燃性の物が一斉に燃焼し、そして恐らくまともに喰らったであろう倒れた夕憧の姿があった。

 「夕憧…!無事……では無さそう…。」

 「はぁ……前傾姿勢だったお陰で……即感電死は免れたわ……。」

 倒れた彼女は、過呼吸になりながらも顔を見上げた。

 「無理しないで。もう、その身体じゃ……。」 

 「夜空、諦めるかは私が決める事よ。……私が一番分かってるから、間もなく死ぬって……。」   

 そう言って彼女の目から涙が零れ落ちた。弱りに弱った最後のエネルギーで、彼女は言った。

 「……幸せになって………こんな未来が確約されても、せめて……夜空…だけ…は……。……そして…幸せにして……愛した人を……愛された人を……。」

 「夕憧………!」

 無意識に、自分の目からも涙が一滴零れ落ちた。だけどその涙を拭い、ハンカチを彼女の手に握らせた。

 「………約束。後ろは振り返らない。粘り強く勝ちにいく。」

 そう言葉を溢し、自分は急いでサイレンス本部に連絡を入れて、隠れられて合流しやすい場所に向かった。
 相手に先手を打たれてしまった。だけど、諦めてもこの最悪の結末は繰り返されるだけ。
 何のために対立したのか。その理由を決して忘れてはいけない。名誉と命を懸けて、自分達はここに立っているって。それが責務なんだ。







 電磁誘導スナイパーライフルが発砲され、天災は軽く後退した。

 「制御しても反動が酷いな。……生存確認が済んでないが、流石に大丈夫か。」
 
 そう呟いてanti-life.46を担ぎ、天災は鉄塔を降りて行った。

 「………。」







 「寵愛と思わしき女が天災の嫁に接触したとの情報を掴みましたがぁ……どうしますか?」

 「別にどうもしなくていい。この状況、逆に利用させてもらう。」

 「一体それはどういう……」

 「彼らの考えはどうせ、主戦力の心の状態を不安定にして、安定的に組織が回らないところを叩くってところだ。……生憎、こっちはそんな綺麗で繊細な心持ち合わせてない。」

 「見殺しにするのですかぁ?」

 「……油断を誘うには丁度いい。その時に別の場所で戦力を削りにいく。」

 すると、あの蝙蝠でさえも恐怖するように、笑った。

 「やばい発想してますねぇ。マッドサイエンティストの教育恐るべしですよぉ。」

 「利用価値が一度きりの物は使ってなんぼだ。行ってくる。」

 そう言い残して、天災はラボを後にした。彼の中に“愛情”なんて言葉は無い。全ての物事を価値で図る冷徹なマッドサイエンティストだ。







 「精々足掻け。下等な反発者共。」

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