141 / 150
ChapterⅧ:FinalZone
No141.Run
しおりを挟む
送られてきた写真には、清心が装置以外の何かを持っている様子はなかった。
護衛が全員持っていかれたのだろう。
とはいえ、現地にいる Silverと愛沙だけでどれだけ抗えるかは分からない。現役暗殺者三人の力があったとしても、奴のそこまで自信のある隠し玉に対抗できるかは未知数。
先程得た情報と照らし合わせてみても、ロクな事にはならなそうだ。
「……数分……数分でいいから時間を稼いでくれよ………!」
全力疾走。今出来る事はそれだけだ。
通知を確認すると、管理ページにアクセスされた痕跡が見つかった。それも、誰に掛けても音信不通だ。
「HadesもZeusも終わりか!……まだ焦る時間ではない。今、気付かれたとしても既に二時間は走っている。途中までは電車も利用した。仙台のシステムが止められていようが、もう直繋ぎで構わない。」
奴は二十三歳。だが、まだ心は過去に囚われっぱなしのはず。一番いい素体が、まだあの研究所に残っている。
「許せ。これも未来の為なのだ!」
……午前五時。
道中、俺の横スレスレで自動車が止まった。そして、その自動車の窓が開閉され、久しい顔が姿を現した。
「薔羨。」
「お前は……優翔?」
彼の名は八城優翔。Silverと同じで慈穏の弟子だ。まぁ、今彼は暗殺者ではないらしいのだが。
「何故……骨折して暗殺者を辞めたはずじゃ……。」
「全部愛沙さんから聞きましたよ。今は亡き師匠の友人が必死に戦っているのに、何のサポートも出来ないのは嫌ですから!……ドライバーの本気、見せてあげましょう。」
俺は彼の車に乗り、シートベルトをした。
「仙台に入ったら降ろせ。そこからは自分の足で行く。」
「承知しました!……酔わないで下さいね!」
刹那、アクセルが踏み込まれ、不安定なハイスピードなのにも関わらず、全く衝突の素振りを見せない走行が開始された。
「運転荒っ。」
「普段はもっと安全運転ですよ~。…一度愛沙さんと連絡を取ってみては?」
「それもそうだな。」
彼にそう促され、俺は本部と繋げた。
「聞こえるか?愛沙。」
『はい。……情報屋によると、清心が仙台に入ったようです。』
「囲め。中枢室だけは絶対死守だ。」
『はい。』
奴の計画なんて既に見透かしている。俺が彼女の記憶を望んだだけであって、奴らにとっては身体さえあれば利用できる。
あの実験で人が死ぬとは限らない。だが、俺はあいつのやり方には全身全霊を持って反対する。
ゴミだ。あんなのは。
……午前5時半。
プレデスタンス本部。そこでは Silverを先頭に、プレデスタンス加入者の三割の人間が、列を成していた。
スピーカーから、愛沙の声が鳴り響いた。
『緊急任務。南部から生命再起会清心と思わしき人物が侵入しました。拘束及び防衛を!』
正面玄関から堂々と清心は姿を現し、総勢三百人ほどの団員が、一斉に射撃した。
しかし、清心は背負っている装置を起動して、バリアを展開した。そのバリアは大量の弾を全て受けても、割れる気配がしなかった。
「「「え……」」」
そして、清心は謎の球体を上空に投げた。その球体は上空で破裂し、物凄い風圧を地上に与えた。
風が鳴り止むと、約十名を除くほぼ全ての団員が、血を流して倒れていた。
まるで、漂流でもしたかのように。
「生命再起会の技術力があれば、こんなそよ風を人為的に起こす事も可能なのだ!……困るなぁ、それでも生き残る連中が居て!」
すると、清心はロケットランチャーを背負っている装置から取り出し、Silverを含む生き残りに向けて放った。
そのあまりの着弾の速さに避けきれず、一般団員は全滅した。
だが、回避してそのまま雨雲は清心の懐に入り込み、発砲した。しかし……。
「嘘……効いて…いない…?……うっ!」
「雨雲!」
清心は雨雲を片腕で振り払い、壁に殴打された。大蛇はすぐに駆け寄って心拍数を確認した。
「死ん……でる…?」
彼女は、恐怖と困惑を覚えた。雨雲は確かに至近距離で発砲したはず。それなのに、清心には全く通用しなかった。
それに加え、いくら成人男性といえともレスラー顔負けの力で振り払った。その形相はまさに……“人間を逸脱”していた。
「スパイだった少女達。その程度か?」
そう言って、拳を固めて大蛇に接近する清心。
「嫌だ!来ないで!来ない……ッ!」
そんな叫びも一切届かず、清心は何の迷いもなく、暗殺者という事以外は普通の女子中学生を殴り殺した。
「これで全部か。…チョロいなプレデスタンス!それとも私が強くなったからか!」
血を拭き取り、清心は研究所内へ入って行った。
中枢室。彼は真っ先にその場に辿り着き、辺りを見渡した。
「元々こんなにモニターの枚数は多く無かった。……どんな趣味しているんだ。」
そう感想を口に零すが、そんなものはどうでもいいと言わんばかりに、カプセルの中を覗いた。
そして、彼は目を輝かせた。
「美しい……。新人類の始祖。恵密!…その血統の強さを、今すぐにでも見せびらかしてやりたいところだ。」
彼が目を奪われている最中、愛沙はこっそり連絡室から中枢室に移動し、ライフルで奇襲する。だが、彼は全く見向きもしていなければ、効いてもいなかった。
「何で……。」
「邪魔者は不要だ。失せろ。」
刹那、清心は潜伏していた愛沙の背後を一瞬で取り、拳を迫らせた。
「……テメェがな。」
「ッ!」
しかし、清心の拳が撃ち落とされた。断面からは、金属とケーブルが露呈していた。
寸前で拳が落ちて生き残った愛沙は、発砲音のした方に目を向けた。すると、無意識に言葉が出た。
「薔羨…!」
道中で無数の死体は確認済み。装置一つ以外何も持っていない事に違和感を抱いていたが、案の定だった。
転がる拳を手に取り見回してから、清心の方を見て言った。
「お前、身体を改造したんだな。」
「だいぶ前からだ。……最強とはいえ、ただの人間に太刀打ちできるとで……」
「そっちこそ舐めるなよ。……伝説の片割れを!」
俺達は顔を見合わせた。緊張感のある沈黙が流れる。
この戦いで、負けは認められない。負ければ、大切なものも、俺自身も、未来ある若者の命さえも……きっと失われてしまうだろうから。
護衛が全員持っていかれたのだろう。
とはいえ、現地にいる Silverと愛沙だけでどれだけ抗えるかは分からない。現役暗殺者三人の力があったとしても、奴のそこまで自信のある隠し玉に対抗できるかは未知数。
先程得た情報と照らし合わせてみても、ロクな事にはならなそうだ。
「……数分……数分でいいから時間を稼いでくれよ………!」
全力疾走。今出来る事はそれだけだ。
通知を確認すると、管理ページにアクセスされた痕跡が見つかった。それも、誰に掛けても音信不通だ。
「HadesもZeusも終わりか!……まだ焦る時間ではない。今、気付かれたとしても既に二時間は走っている。途中までは電車も利用した。仙台のシステムが止められていようが、もう直繋ぎで構わない。」
奴は二十三歳。だが、まだ心は過去に囚われっぱなしのはず。一番いい素体が、まだあの研究所に残っている。
「許せ。これも未来の為なのだ!」
……午前五時。
道中、俺の横スレスレで自動車が止まった。そして、その自動車の窓が開閉され、久しい顔が姿を現した。
「薔羨。」
「お前は……優翔?」
彼の名は八城優翔。Silverと同じで慈穏の弟子だ。まぁ、今彼は暗殺者ではないらしいのだが。
「何故……骨折して暗殺者を辞めたはずじゃ……。」
「全部愛沙さんから聞きましたよ。今は亡き師匠の友人が必死に戦っているのに、何のサポートも出来ないのは嫌ですから!……ドライバーの本気、見せてあげましょう。」
俺は彼の車に乗り、シートベルトをした。
「仙台に入ったら降ろせ。そこからは自分の足で行く。」
「承知しました!……酔わないで下さいね!」
刹那、アクセルが踏み込まれ、不安定なハイスピードなのにも関わらず、全く衝突の素振りを見せない走行が開始された。
「運転荒っ。」
「普段はもっと安全運転ですよ~。…一度愛沙さんと連絡を取ってみては?」
「それもそうだな。」
彼にそう促され、俺は本部と繋げた。
「聞こえるか?愛沙。」
『はい。……情報屋によると、清心が仙台に入ったようです。』
「囲め。中枢室だけは絶対死守だ。」
『はい。』
奴の計画なんて既に見透かしている。俺が彼女の記憶を望んだだけであって、奴らにとっては身体さえあれば利用できる。
あの実験で人が死ぬとは限らない。だが、俺はあいつのやり方には全身全霊を持って反対する。
ゴミだ。あんなのは。
……午前5時半。
プレデスタンス本部。そこでは Silverを先頭に、プレデスタンス加入者の三割の人間が、列を成していた。
スピーカーから、愛沙の声が鳴り響いた。
『緊急任務。南部から生命再起会清心と思わしき人物が侵入しました。拘束及び防衛を!』
正面玄関から堂々と清心は姿を現し、総勢三百人ほどの団員が、一斉に射撃した。
しかし、清心は背負っている装置を起動して、バリアを展開した。そのバリアは大量の弾を全て受けても、割れる気配がしなかった。
「「「え……」」」
そして、清心は謎の球体を上空に投げた。その球体は上空で破裂し、物凄い風圧を地上に与えた。
風が鳴り止むと、約十名を除くほぼ全ての団員が、血を流して倒れていた。
まるで、漂流でもしたかのように。
「生命再起会の技術力があれば、こんなそよ風を人為的に起こす事も可能なのだ!……困るなぁ、それでも生き残る連中が居て!」
すると、清心はロケットランチャーを背負っている装置から取り出し、Silverを含む生き残りに向けて放った。
そのあまりの着弾の速さに避けきれず、一般団員は全滅した。
だが、回避してそのまま雨雲は清心の懐に入り込み、発砲した。しかし……。
「嘘……効いて…いない…?……うっ!」
「雨雲!」
清心は雨雲を片腕で振り払い、壁に殴打された。大蛇はすぐに駆け寄って心拍数を確認した。
「死ん……でる…?」
彼女は、恐怖と困惑を覚えた。雨雲は確かに至近距離で発砲したはず。それなのに、清心には全く通用しなかった。
それに加え、いくら成人男性といえともレスラー顔負けの力で振り払った。その形相はまさに……“人間を逸脱”していた。
「スパイだった少女達。その程度か?」
そう言って、拳を固めて大蛇に接近する清心。
「嫌だ!来ないで!来ない……ッ!」
そんな叫びも一切届かず、清心は何の迷いもなく、暗殺者という事以外は普通の女子中学生を殴り殺した。
「これで全部か。…チョロいなプレデスタンス!それとも私が強くなったからか!」
血を拭き取り、清心は研究所内へ入って行った。
中枢室。彼は真っ先にその場に辿り着き、辺りを見渡した。
「元々こんなにモニターの枚数は多く無かった。……どんな趣味しているんだ。」
そう感想を口に零すが、そんなものはどうでもいいと言わんばかりに、カプセルの中を覗いた。
そして、彼は目を輝かせた。
「美しい……。新人類の始祖。恵密!…その血統の強さを、今すぐにでも見せびらかしてやりたいところだ。」
彼が目を奪われている最中、愛沙はこっそり連絡室から中枢室に移動し、ライフルで奇襲する。だが、彼は全く見向きもしていなければ、効いてもいなかった。
「何で……。」
「邪魔者は不要だ。失せろ。」
刹那、清心は潜伏していた愛沙の背後を一瞬で取り、拳を迫らせた。
「……テメェがな。」
「ッ!」
しかし、清心の拳が撃ち落とされた。断面からは、金属とケーブルが露呈していた。
寸前で拳が落ちて生き残った愛沙は、発砲音のした方に目を向けた。すると、無意識に言葉が出た。
「薔羨…!」
道中で無数の死体は確認済み。装置一つ以外何も持っていない事に違和感を抱いていたが、案の定だった。
転がる拳を手に取り見回してから、清心の方を見て言った。
「お前、身体を改造したんだな。」
「だいぶ前からだ。……最強とはいえ、ただの人間に太刀打ちできるとで……」
「そっちこそ舐めるなよ。……伝説の片割れを!」
俺達は顔を見合わせた。緊張感のある沈黙が流れる。
この戦いで、負けは認められない。負ければ、大切なものも、俺自身も、未来ある若者の命さえも……きっと失われてしまうだろうから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる