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序章 〜三村和也が無職になるまでの物語〜
三村和也は、マネージャー
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「リリィが番組を?!」
とあるオフィスの一室に男の声が響きわたる。その男は右手に持っていたスマートフォンをデスクに置き、スピーカーをオンにして、鞄から分厚い手帳を取り出した。
『そうだ!番組のスポンサーが、そこのリリィを気に入ったみたいでさ。元々放送するはずだった番組を無しにしてリリィちゃんを起用するって聞かないんだよね。三村っち分かるよねぇ、大丈夫だよねぇ』
三村っちと呼ばれているこの男の本名は三村和也という。新卒でそこそこ名の知れた芸能事務所に就職し、もう少しで三十路というところまで、キャリアを積んできた。そして今彼は人気急上昇中の丸目リリィのマネージャーを担当し、毎日忙しい日々を送っている。
そんな中舞い込んできた今回の話はリリィにとって、また和也にとって絶対に掴み取りたい重要な案件だった。
「今確認しますので、少々お待ちください」
手帳を開き、リリィの今月の予定を見てみる。
彼女の予定は見事に埋まっている。
「田代さん、その番組っていつ放送ですか」
和也が電話をかけてきた田代にそう聞き返すと、彼は来月くらいかなと曖昧に答えた。
『実はうちのお偉いさんにこの話を持ちかけたのは、あの菅原藤四郎さんらしいんだ』
「菅原藤四郎だって!?」
菅原藤四郎とは、長い間芸能界で活躍した大御所であり、芸能界のドンとも噂される人物である。一昨年、昼ドラに出演して以降メディアの露出は一切ない。そのためかネットでは本当か嘘か分からない曖昧な噂がネットの海に漂っている。これは和也達芸能関係者の中でも有名な話である。
しかし、なぜそのような大物がリリィに目をつけたのだろうか。和也は不思議に思い田代に問いた。
「なんでそんな大物がうちのアイドルに?」
『菅原藤四郎さんの考えなんて分からないよ。ただ、上からの話だと視聴率を稼ぐには彼女が必要なんだとさ』
質問の回答になってない気もするが、田代自身もそれしか聞かれてないのだろう。
『まあ良かったじゃないか。あの芸能界のドンに君のとこの子が気に入られたんだ。逃しちゃダメだぞ! これはリリィを今以上に有名にするチャンスなんだから』
そう田代は和也に言うと、携帯の通話が切れた。
「なんてこった、あ! 予定……」
彼も忙しいのだ。和也は小さくため息を吐くと、デスクに置かれた携帯電話を手に取った。
「とりあえずリリィに連絡だな」
電話帳からリリィの番号を選択し発信すると、リリィのデビュー曲「彼はポップスター」のアレンジが流れ始める。聞けば誰もがアイドルソングだと分かるリズミカルなイントロが数秒流れると眠たそうな女性の声に切り替わった。
『あぃ、みなみでしゅがぁ……マネージャーさん、何かありましたかぁ」
時間は朝の10時を回っている。
今日は夜にラジオの収録があるため、お昼にはリリィと合流する予定だったが、彼女に電話して良かったかもしれない。
「ああ、良い知らせだよ。リリィが番組を持つことになるかもしれない!」
「番組でしゅか……ばんぐ、え!? 番組?! わ、私が番組をやるんですか!!!」
リリィの驚いた声が聞こえたかと思うとドドンっと大きな音が鳴った。
おそらく、驚いたあまりベッドから落ちてしまったのだろう。リリィが小さな声で「いてて」と言っているのが聞こえる。
「大丈夫か? このことについて少し話したいからしっかりお昼には事務所に来るようにな」
和也がそう言うとリリィは「了解です!」と言って電話を切ってしまった。
「大丈夫かなぁ」
大丈夫だと信じよう。リリィは今まで遅刻したこと……あったなぁ。
和也は必要な書類を鞄につめ、壁にかけられた車の鍵を1つとる。
「今から丸目リリィの自宅に行ってきます!」
事務所から出て数台しか停まっていない駐車場に行き、その内の1台に乗る。
エンジンをかけ、発車の準備を整える。
「安全運転で、急ぐぞ」
そう言って和也は車のアクセルを強く踏み込んだ。
続く
とあるオフィスの一室に男の声が響きわたる。その男は右手に持っていたスマートフォンをデスクに置き、スピーカーをオンにして、鞄から分厚い手帳を取り出した。
『そうだ!番組のスポンサーが、そこのリリィを気に入ったみたいでさ。元々放送するはずだった番組を無しにしてリリィちゃんを起用するって聞かないんだよね。三村っち分かるよねぇ、大丈夫だよねぇ』
三村っちと呼ばれているこの男の本名は三村和也という。新卒でそこそこ名の知れた芸能事務所に就職し、もう少しで三十路というところまで、キャリアを積んできた。そして今彼は人気急上昇中の丸目リリィのマネージャーを担当し、毎日忙しい日々を送っている。
そんな中舞い込んできた今回の話はリリィにとって、また和也にとって絶対に掴み取りたい重要な案件だった。
「今確認しますので、少々お待ちください」
手帳を開き、リリィの今月の予定を見てみる。
彼女の予定は見事に埋まっている。
「田代さん、その番組っていつ放送ですか」
和也が電話をかけてきた田代にそう聞き返すと、彼は来月くらいかなと曖昧に答えた。
『実はうちのお偉いさんにこの話を持ちかけたのは、あの菅原藤四郎さんらしいんだ』
「菅原藤四郎だって!?」
菅原藤四郎とは、長い間芸能界で活躍した大御所であり、芸能界のドンとも噂される人物である。一昨年、昼ドラに出演して以降メディアの露出は一切ない。そのためかネットでは本当か嘘か分からない曖昧な噂がネットの海に漂っている。これは和也達芸能関係者の中でも有名な話である。
しかし、なぜそのような大物がリリィに目をつけたのだろうか。和也は不思議に思い田代に問いた。
「なんでそんな大物がうちのアイドルに?」
『菅原藤四郎さんの考えなんて分からないよ。ただ、上からの話だと視聴率を稼ぐには彼女が必要なんだとさ』
質問の回答になってない気もするが、田代自身もそれしか聞かれてないのだろう。
『まあ良かったじゃないか。あの芸能界のドンに君のとこの子が気に入られたんだ。逃しちゃダメだぞ! これはリリィを今以上に有名にするチャンスなんだから』
そう田代は和也に言うと、携帯の通話が切れた。
「なんてこった、あ! 予定……」
彼も忙しいのだ。和也は小さくため息を吐くと、デスクに置かれた携帯電話を手に取った。
「とりあえずリリィに連絡だな」
電話帳からリリィの番号を選択し発信すると、リリィのデビュー曲「彼はポップスター」のアレンジが流れ始める。聞けば誰もがアイドルソングだと分かるリズミカルなイントロが数秒流れると眠たそうな女性の声に切り替わった。
『あぃ、みなみでしゅがぁ……マネージャーさん、何かありましたかぁ」
時間は朝の10時を回っている。
今日は夜にラジオの収録があるため、お昼にはリリィと合流する予定だったが、彼女に電話して良かったかもしれない。
「ああ、良い知らせだよ。リリィが番組を持つことになるかもしれない!」
「番組でしゅか……ばんぐ、え!? 番組?! わ、私が番組をやるんですか!!!」
リリィの驚いた声が聞こえたかと思うとドドンっと大きな音が鳴った。
おそらく、驚いたあまりベッドから落ちてしまったのだろう。リリィが小さな声で「いてて」と言っているのが聞こえる。
「大丈夫か? このことについて少し話したいからしっかりお昼には事務所に来るようにな」
和也がそう言うとリリィは「了解です!」と言って電話を切ってしまった。
「大丈夫かなぁ」
大丈夫だと信じよう。リリィは今まで遅刻したこと……あったなぁ。
和也は必要な書類を鞄につめ、壁にかけられた車の鍵を1つとる。
「今から丸目リリィの自宅に行ってきます!」
事務所から出て数台しか停まっていない駐車場に行き、その内の1台に乗る。
エンジンをかけ、発車の準備を整える。
「安全運転で、急ぐぞ」
そう言って和也は車のアクセルを強く踏み込んだ。
続く
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