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序章 〜三村和也が無職になるまでの物語〜
丸目リリィは、寝坊する
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和也がリリィの家に着くのにはそれほど時間はかからなかった。
「事務所に近い所に家を借りろ! って言ったのは当たりだったな」
和也は有料駐車場からリリィの住む賃貸マンションまでの道のりで何度こう思ったことか。
遅刻、リリィのダメなところの一つである。
リリィがこの事務所に来た頃はこのようなことはあまりなかったのだが、アイドルとして仕事が貰え、また生活も落ち着いたことで慣れてしまったのかもしれない。
和也はリリィのマンションの集合玄関口で部屋番号を入力し、インターホンを鳴らした。
しかし、リリィからの応答は無く、鍵が開く様子もない。
「トイレでも行ってるのか?」
和也は三回ほどインターホンを鳴らしたが、様子は変わらない。
さきほどの電話にはしっかり出たのだ。可能性があるとすれば……二度寝!?
「これは使いたくなかったが……すまぬリリィ!」
和也はもしも何があった時用に使う合鍵を鞄の奥底から引っ張り出し、集合玄関口の自動ドアを開錠し、エレベーターに駆け込んだ。
リリィの部屋はマンションの最上階である7階の2号室にある。他の階と違う所といえば、天井が高くなっていることぐらいだろうか。マンションの最上階は部屋が二つしかなく、リリィの部屋の隣に誰が住んでいるのかは分からない。確か、入居した時の挨拶回りでも、ここの住人に会うことは出来なかった。
エレベーターが七階に到着すると、エレベーターのドアが開くのと同時に和也は飛び出した。
まず、なぜ和也がこんなに急いでいるのか。それはリリィが1度寝るとなかなか起きないからであり、これはリリィのダメなところ二つ目である。
まだ時間があるじゃんと、そのまんま布団に包まれ睡眠してしまい、目を覚ますと日が沈んでいたなんてなったら、リリィも俺も注意だけでは済まされない。
俺はリリィの部屋のドアを強くノックする。
「みなみさん! 起きてますか? みなみさん!」
和也は名前を間違えているわけではない。当然だが、丸目リリィという名前は芸名である。本名は要みなみ、この時代には珍しく名前がひらがなである。
さすがにマンション内でリリィの名前を大声で叫ぶのは、たとえ隣人がここに彼女が住んでいると知っていても決して言えない。当然だが、そういうところのマナーは和也もわきまえている。
「駄目だ……完全に寝ている!」
ドンドンとドアを五回以上ノックしたところで、和也は覚悟を決めるしかなかった。
「侵入するしかない」
先ほど自動ドアを開けるのに使ったこの家の合鍵をズボンの右ポケットから取り出す。
「あまりしたくないが、リリィ、お前が寝てるのが悪いんだぞ!」
そう言って和也は合鍵を使いリリィの部屋のドアを開けた。
「リリィ! もう起きる時間だぞ……ん?」
「え? マネージャー……」
和也の目の前には布一枚で体の胸部から下を隠しているリリィがこちらを向いて立っていた。
「きゃあああああああ!! 変態!!!」
反射的に耳を塞ぎたくなるような、頭にひびが入ってしまうのではないかと思うくらいの悲鳴が聞こえたかと思うと、和也の右ほっぺに強い衝撃が加えられる。まるで、遠くから飛んできたボールが顔面にぶつかった時のような衝撃と痛みに襲われ、和也の意識はだんだんと遠のいていく。
完全に意識がなくなる前に少しだけ見えたリリィの背中からお尻にかけての形の良いラインと綺麗な白い肌は、単細胞分裂のように和也の目の前に広がっていき、米粒以上に細かくなったところで自分の視界から光が失われた。
「ま、マネージャーさん!! ど、どうしよう……あ、着替えないと」
和也が倒れている中、リリィは部屋の奥に備え付けられたクローゼットに着替えを取りに行った。
次に和也が目を覚ましたのはこの出来事の二時間後のことである。
続く
「事務所に近い所に家を借りろ! って言ったのは当たりだったな」
和也は有料駐車場からリリィの住む賃貸マンションまでの道のりで何度こう思ったことか。
遅刻、リリィのダメなところの一つである。
リリィがこの事務所に来た頃はこのようなことはあまりなかったのだが、アイドルとして仕事が貰え、また生活も落ち着いたことで慣れてしまったのかもしれない。
和也はリリィのマンションの集合玄関口で部屋番号を入力し、インターホンを鳴らした。
しかし、リリィからの応答は無く、鍵が開く様子もない。
「トイレでも行ってるのか?」
和也は三回ほどインターホンを鳴らしたが、様子は変わらない。
さきほどの電話にはしっかり出たのだ。可能性があるとすれば……二度寝!?
「これは使いたくなかったが……すまぬリリィ!」
和也はもしも何があった時用に使う合鍵を鞄の奥底から引っ張り出し、集合玄関口の自動ドアを開錠し、エレベーターに駆け込んだ。
リリィの部屋はマンションの最上階である7階の2号室にある。他の階と違う所といえば、天井が高くなっていることぐらいだろうか。マンションの最上階は部屋が二つしかなく、リリィの部屋の隣に誰が住んでいるのかは分からない。確か、入居した時の挨拶回りでも、ここの住人に会うことは出来なかった。
エレベーターが七階に到着すると、エレベーターのドアが開くのと同時に和也は飛び出した。
まず、なぜ和也がこんなに急いでいるのか。それはリリィが1度寝るとなかなか起きないからであり、これはリリィのダメなところ二つ目である。
まだ時間があるじゃんと、そのまんま布団に包まれ睡眠してしまい、目を覚ますと日が沈んでいたなんてなったら、リリィも俺も注意だけでは済まされない。
俺はリリィの部屋のドアを強くノックする。
「みなみさん! 起きてますか? みなみさん!」
和也は名前を間違えているわけではない。当然だが、丸目リリィという名前は芸名である。本名は要みなみ、この時代には珍しく名前がひらがなである。
さすがにマンション内でリリィの名前を大声で叫ぶのは、たとえ隣人がここに彼女が住んでいると知っていても決して言えない。当然だが、そういうところのマナーは和也もわきまえている。
「駄目だ……完全に寝ている!」
ドンドンとドアを五回以上ノックしたところで、和也は覚悟を決めるしかなかった。
「侵入するしかない」
先ほど自動ドアを開けるのに使ったこの家の合鍵をズボンの右ポケットから取り出す。
「あまりしたくないが、リリィ、お前が寝てるのが悪いんだぞ!」
そう言って和也は合鍵を使いリリィの部屋のドアを開けた。
「リリィ! もう起きる時間だぞ……ん?」
「え? マネージャー……」
和也の目の前には布一枚で体の胸部から下を隠しているリリィがこちらを向いて立っていた。
「きゃあああああああ!! 変態!!!」
反射的に耳を塞ぎたくなるような、頭にひびが入ってしまうのではないかと思うくらいの悲鳴が聞こえたかと思うと、和也の右ほっぺに強い衝撃が加えられる。まるで、遠くから飛んできたボールが顔面にぶつかった時のような衝撃と痛みに襲われ、和也の意識はだんだんと遠のいていく。
完全に意識がなくなる前に少しだけ見えたリリィの背中からお尻にかけての形の良いラインと綺麗な白い肌は、単細胞分裂のように和也の目の前に広がっていき、米粒以上に細かくなったところで自分の視界から光が失われた。
「ま、マネージャーさん!! ど、どうしよう……あ、着替えないと」
和也が倒れている中、リリィは部屋の奥に備え付けられたクローゼットに着替えを取りに行った。
次に和也が目を覚ましたのはこの出来事の二時間後のことである。
続く
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