526 / 544
第十四章〜『主人公』は駒を前に進める〜
38.何もわからない
池の前に俺と海人の男が残された。あの女王陛下は俺にこの国にいるように言ったが、それ以上のことは命じていない。
一体、俺はどうしたら良いのだろう。地上に返すと言われても記憶がないのだから思い入れがない。そこまでして戻りたいとも思わない。
「……何か進展があるまで刑務所の中で暮らせ。飯は決まった時間に出してやる。お前は犯罪者ではないから、何か欲しいものがあれば最低限受け付けよう。」
俺の後ろに立つ海人はそう言いいながら、手錠を外してくれた。
「多少は出歩いても構わないが、街まで降りていくのは勧めない。海人以外の人類種は国にいないからきっと騒ぎになるだろう。」
「わかった、大人しくしてればいいんだな。」
「そうだが……お前はそれでいいのか?」
「俺は邪魔してる側だし、多くは望まないよ。」
きっと怖かったのではないだろうか。海人が住まう街に、いきなり人間が落ちてきたのだ。警戒するのも無理のないことである。
「記憶喪失だと無欲になるんだな。俺としては助かるが……何か困ったことがあったら言ってくれ。できる範囲で対応しよう。」
「ありがとう。多分、色々聞くと思う。」
俺は記憶喪失だ。加えてここは人間が住む国でもない。多少の常識的な知識なら頭に残っているが、それがこの国でも通用する保証はないだろう。人と関わる予定はないにしても何かしらで困ることが出てくるはずだ。
「名前を聞いてもいいか? 俺は自分の名前を忘れちゃったから、名乗ることはできないけど。」
「刑務官のノモスだ。ずっとはいないが決まった時間はここにいる。」
ノモスはさっき女王陛下がやって来たところから水に潜って、どこかに行ってしまった。ずっと監視をしておくわけではないらしい。
ポツンと一人残されてしまったわけだが、ノモスに言われてしまったので街に行く気にはならない。大人しく刑務所の中で暇を潰すのが一番だろう。
「……俺って、なんて名前なんだろう。」
忘れないようにノモスの名前を頭に覚え込ませていると、自分の名前が気になってきた。
時間が経つと、空に太陽はないのにも関わらず暗くなってきた。どうやら海底王国にも昼夜の概念はあるようだ。
暗くなったタイミングでノモスが来て、布団と本、そしてランプを置いていってくれた。この刑務所には俺以外の誰もいなくて退屈だったから本を貰えたのは特に嬉しかった。
「歴史の教科書、って感じか?」
大雑把に見た感じ、海底王国の歴史についての本のようだ。
問題は一部分は読めるが時々読めない文字や知らない単語が出てくることだ。言語が細かいところで違いがあるのかもしれない。単に俺が忘れているだけの可能性もあるけど。
「『世界中にあった海人の国は破壊神との戦いによって失われ、その中でも特に守りが強固であった海底王国のみが残った。それからこの海底王国は大きく栄えることとなった。』」
ここに書いてあることは全て聞き覚えのない話である。元々知らなかったのか忘れてしまったのかは判別がつかない。
記憶に良い影響を与えているかはわからないが、少なくとも暇を潰すにはピッタリだ。完全に知らない話というのは新鮮で飽きることなく見れる。
「『海底王国は他国との繋がりを完全に絶つことによって、数100年にも渡る王政を続けることに成功している。』……これはいわゆる、鎖国状態ってやつか。」
鎖国状態なのなら、俺がこれに覚えがないのもおかしくないだろう。そう考えると少し安心する。
「それなら余計に俺が来たのは驚きだったんだろうな。そりゃあわざわざ女王様が来るわけだ。」
しかし本当に俺はどうやって来たのだろう。偶然でも中に入れるとは思えない。そもそも俺は何故、記憶を失ったのだろう。何故、海に沈むことになったのだろう。
それを考え始めるとなんだか頭が痛くなってくる。嫌なことでもあったのだろうか。
「地上に行けば、俺を知ってる人に会えるんだろうか。会えたとして、俺は本当に帰ってくることを望まれてるんだろうか――?」
ここに俺の居場所はない。でも地上にならあるとも限らない。自分の名前も知らない俺には、何の願望も夢も持ちはしない。正に人形のようだ。
俺には、何もわからない。
一体、俺はどうしたら良いのだろう。地上に返すと言われても記憶がないのだから思い入れがない。そこまでして戻りたいとも思わない。
「……何か進展があるまで刑務所の中で暮らせ。飯は決まった時間に出してやる。お前は犯罪者ではないから、何か欲しいものがあれば最低限受け付けよう。」
俺の後ろに立つ海人はそう言いいながら、手錠を外してくれた。
「多少は出歩いても構わないが、街まで降りていくのは勧めない。海人以外の人類種は国にいないからきっと騒ぎになるだろう。」
「わかった、大人しくしてればいいんだな。」
「そうだが……お前はそれでいいのか?」
「俺は邪魔してる側だし、多くは望まないよ。」
きっと怖かったのではないだろうか。海人が住まう街に、いきなり人間が落ちてきたのだ。警戒するのも無理のないことである。
「記憶喪失だと無欲になるんだな。俺としては助かるが……何か困ったことがあったら言ってくれ。できる範囲で対応しよう。」
「ありがとう。多分、色々聞くと思う。」
俺は記憶喪失だ。加えてここは人間が住む国でもない。多少の常識的な知識なら頭に残っているが、それがこの国でも通用する保証はないだろう。人と関わる予定はないにしても何かしらで困ることが出てくるはずだ。
「名前を聞いてもいいか? 俺は自分の名前を忘れちゃったから、名乗ることはできないけど。」
「刑務官のノモスだ。ずっとはいないが決まった時間はここにいる。」
ノモスはさっき女王陛下がやって来たところから水に潜って、どこかに行ってしまった。ずっと監視をしておくわけではないらしい。
ポツンと一人残されてしまったわけだが、ノモスに言われてしまったので街に行く気にはならない。大人しく刑務所の中で暇を潰すのが一番だろう。
「……俺って、なんて名前なんだろう。」
忘れないようにノモスの名前を頭に覚え込ませていると、自分の名前が気になってきた。
時間が経つと、空に太陽はないのにも関わらず暗くなってきた。どうやら海底王国にも昼夜の概念はあるようだ。
暗くなったタイミングでノモスが来て、布団と本、そしてランプを置いていってくれた。この刑務所には俺以外の誰もいなくて退屈だったから本を貰えたのは特に嬉しかった。
「歴史の教科書、って感じか?」
大雑把に見た感じ、海底王国の歴史についての本のようだ。
問題は一部分は読めるが時々読めない文字や知らない単語が出てくることだ。言語が細かいところで違いがあるのかもしれない。単に俺が忘れているだけの可能性もあるけど。
「『世界中にあった海人の国は破壊神との戦いによって失われ、その中でも特に守りが強固であった海底王国のみが残った。それからこの海底王国は大きく栄えることとなった。』」
ここに書いてあることは全て聞き覚えのない話である。元々知らなかったのか忘れてしまったのかは判別がつかない。
記憶に良い影響を与えているかはわからないが、少なくとも暇を潰すにはピッタリだ。完全に知らない話というのは新鮮で飽きることなく見れる。
「『海底王国は他国との繋がりを完全に絶つことによって、数100年にも渡る王政を続けることに成功している。』……これはいわゆる、鎖国状態ってやつか。」
鎖国状態なのなら、俺がこれに覚えがないのもおかしくないだろう。そう考えると少し安心する。
「それなら余計に俺が来たのは驚きだったんだろうな。そりゃあわざわざ女王様が来るわけだ。」
しかし本当に俺はどうやって来たのだろう。偶然でも中に入れるとは思えない。そもそも俺は何故、記憶を失ったのだろう。何故、海に沈むことになったのだろう。
それを考え始めるとなんだか頭が痛くなってくる。嫌なことでもあったのだろうか。
「地上に行けば、俺を知ってる人に会えるんだろうか。会えたとして、俺は本当に帰ってくることを望まれてるんだろうか――?」
ここに俺の居場所はない。でも地上にならあるとも限らない。自分の名前も知らない俺には、何の願望も夢も持ちはしない。正に人形のようだ。
俺には、何もわからない。
あなたにおすすめの小説
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【書籍第4巻が発売されました!】
謎の異世界人たちの侵略、そしてリュークの過去やスマホの秘密が明らかになっております。
蓮禾先生のイラストも素晴らしいので、是非ご覧になっていただけると嬉しいです。
4巻をもちまして物語は完結となりますので、今後はコミカライズをよろしくお願いいたします。
【コミックス第3巻発売中です!】
グリムラーゼ王女を救うため、リュークが王国最強魔導士ラスティオンに挑みます!
可愛いオマケ漫画も2本載っていますので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【2024年10月23日コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。