幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第八章〜少女はそれでも手を伸ばす〜

2.異質な魂

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「……寝たか。」

 俺は寝息を立て始めた天野を確認して、ホッと一息つく。
 いつもより何倍も、色んな事を天野は話そうとしていた。ちゃんと会話できる存在が嬉しいのだろう。
 ずっと囚われていたのだから無理はない。精神的にも余裕がないし、俺なんかに縋るぐらいには誰にも頼れないのだ。

 俺は天野を起こさないように音を消す魔法を使いながら、明かりを消してそっと部屋を出た。
 すると扉の横には、アースが壁にもたれかかりながら立っていた。

「遅かったな、アルス。」
「不安そうにしてたから、そりゃいれるだけいてやるさ。」
「ま、俺様もそこを責めるつもりはねーぜ。人の精神壊してまで仕事を優先しろなんて言わねーさ。」
「助かる。」

 アースは無茶を言うときもあるが、大抵は通せる無茶だ。今みたいに、通せない無茶は言わない。
 だからこそ、俺を含めた色んな人が、アースを王として支持している。一度、無能王子と言われていたとしても。

「ま、今日はいーけどよ。レイシア語とかも教えてやってやれよ。お前しか会話できねーんだから。」
「仕事再開は、その後って感じか?」
「そうだな。少なくとも最低限の会話ができるまでは、お前に依頼は回さねーよ。」

 ありがたい事だ。いや、天野をどうこうするのも、アースの視点からしたら仕事なんだろうけど。

「それなら、一つ頼みがある。」
「頼みか?」
「ああ。別に大したことじゃないんだが――」

 行かなくてはならない所がある。会わなきゃいけない人がいる。ただ、人としての礼儀を果たすだけの話だ。





 王国は最も古い国なだけあって、戦力の形式も古風である。軍隊ではなく王国騎士団と呼ばれるもので、専攻の分野によって騎士団が分かれている。
 ちなみにではあるが、この世界で警察の役割を果たす方の騎士は王国騎士とは別物の、警備騎士と呼ばれるものであるので、分類が違う。よってここでは説明は省く。

 騎士団は合計で三つ存在する。
 一つ目は陸上での戦いをメインに行う疾風騎士団。二つ目に水中、水上での戦いをする要塞騎士団。そして、最後の三つ目は竜と共に空で戦う竜騎士団。
 その中でも竜騎士団は、その特性上、拠点を王国内の山岳地帯に置く。そこで日夜、竜と共に戦闘訓練を重ねるのである。

「誰だ、お前。」

 ならばそこに、竜騎士団団長『神域』のオルグラーもいる。
 黒い髪に鋭い青い目をした、平均より少し低い背丈の男。武器は銃と槍の2つで、どちらも普通の武器ではないように感じる何かがあった。恐らくは魔道具もしくは、人器の類であろう。
 その背後には美しい白き竜がいた。竜ではあるが頭蓋は小さく、手足も竜の平均よりは細い。だが通常より大きいその翼から、機動力に長けた個体であるというのは容易に想像がつく。王国最強を支える竜であるからには、弱いなんて事はあり得ない。

「アルスと言う。先日のリクラブリアの一件では世話になったから、礼を言いに来た。」
「リクラブリアの……ああ、そういえば聞かされたな。それなら俺達も、少しは興味がある。体内に神を住まわせてるんだろ、お前。」

 一瞬、何故それを知っているのかと考えたが、直ぐに自己解決した。
 俺の身体的特徴は基本的に隠されている。だが、こんな危険な奴を王城に置くのだ。常に警戒はされているはずだし、最低でも団長には周知されるべき事柄だ。

「それと、感謝はしなくていいぜ。感謝を言うなら陛下にするんだな。俺達は陛下の命令しか聞かねえし、聞けねえんだよ、お前。お前の為にやったわけじゃねえし、お前の感謝なんか欠片も価値がねえ。」
「その肝心な陛下には会えないから、ここに来たんだよ。」
「当たり前だろ、お前。陛下にお前みたいな奴を会わせるぐらいなら、ここで殺すぞ、お前。どうしても礼がしたいなら心の中でやれ。」

 そう言われるが、ここでそのまま帰っては母に会わせる顔がない。

「本当にありがとう。」

 俺はオルグラーに頭を下げた。
 オルグラーがいたからこそ、リクラブリア王国は助かったと言っても過言ではない。国民も、天野も、王女も、みんな助ける。そんな俺の我儘を通せたのは、オルグラーのおかげだ。

「こっちが良いって言ってんだから、頭なんて下げんじゃねえよ。必要のない事をわざわざするなんて馬鹿かよ、お前。」
「俺にとっては必要なんだ。俺がこれから先、何の迷いなく戦うには、必要なことだ。」
「わかんねえな。俺には全く、一欠片もな。」

 オルグラーはきっと、人の顔色なんて気にした事もないんだろう。言葉の裏なんて考えないタイプなのだと思う。
 だが、俺には必要なんだ。誰かに感謝して、感謝されて、誰かと自分の為に命をかける。そんな普通の生き方をしたいだけの、俺には。

「……話を戻すぜ、お前。俺達が気になるのは、体内に神を宿してるっていう、その奇っ怪な体だけだ。」

 あのオルグラーからしても、神を宿すというのは珍しい特性のようだ。
 神を宿すと言えば、神話においてはそこまで珍しい事ではない。巫女というのも、神霊をその身に宿して、神の意志を代弁する事もある。そういうのは昔から、世界中にあった。
 だが、きっとそれは神の存在が不確かである地球だからこそ根付いた文化なのだろう。逆説的に言うのなら、神の存在が確かであるこの世界において、神を宿すというのは有りえないことなのかもしれない。

「例え異界の神であっても、神は神だ。神は人とは比べ物にならねえぐらい、格の違う強さがある。それを体に宿して、しかも正気を保っていられるなんておかしいだろ、お前。」
「そうは言われても、実際に大丈夫だからな。」
「いいや、違うな。そもそもお前の体が普通とは思えねえ。お前自身、その理由が分かってねえなら、一応は忠告しておくぜ。同じ王家に仕えてる奴として、せめてもの温情ってやつだ。」

 オルグラーは近付いて、右手の人差し指で俺の心臓部をつつく。

「お前の魂は、何かがおかしい。その何かはわからねえが、絶対にそれはお前にとって不都合な事実だ。」
「……今、上手くいってるんだから、別におかしくてもいいんじゃないのか?」
「いや、違うな。無償の力は必ず代償を必要とする。それに俺の勘がそう言ってるんだよ、お前。」

 不確かな事だ。だが、楽観視が良くないのも事実である。
 何故俺の体は神を宿して尚、平然としていられるか。俺の体に関わる謎の一つとして、頭の片隅には留めておくべきだろう。
 多分、その謎も全部ツクモが知っているのだろうけど、教えてはくれないだろうな。

「これでいいな。俺達もお前が如何に異様なのかは、目で見て確認できた。お前もやりたい事は終えられた。さっさと帰れよ、お前。」
「わかったよ。それじゃあ、邪魔をした。」
「本当に邪魔だったな、お前。俺達の貴重な時間を奪いやがって、お前。」

 俺はこのままいればぶん殴られそうな気がして、急いでこの場を離れた。
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