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エピローグ
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「母の日記」
あんなに元気だったゆうすけを亡くしてしまった。そのことが今でもまだ悔やんでも悔やみきれない。
いつかあの子に読み聞かせていた鶴の恩返し。その思い出が蘇ってくる。
あの子は自分が一人っこだったから、弟や妹のお兄ちゃんになることをとても楽しみにしていたのに。
でも、いつまでも楽しい家族を作りたかった私はその後二人の子供達に恵まれた。
弟の飛描寿(ひかと)、お姉ちゃんの雪華(ゆか)
まるで前世からすでに兄弟であったのかと思うほど、仲の良い二人は、鶴の恩返しのおじいさんのように困っている人がいたらちゃんと助けてあげる優しい子。
「鶴野家だけに伝わる織り方を家族以外の人に教えちゃいけないよ」
そんな約束もちゃんと守るお利口な子。
2人ともお宮参りの時には、我が家の向かい鶴の家紋の入った着物が、生まれる前にこの日のためにコーディネートしてもらってきたのかと言うほどにとてもよく似合っていた。
その時に私は涙が溢れていた。
「生まれてきてくれてありがとう・・・」
そしてこう願った。
「この子たちがいつか自分の子供を産んで笑える日が来ますように。」
「病気にかからず健康でいつまでも、長生きできますように。」と。
向かい鶴の家紋が持つ意味は、子孫繁栄と長寿延命。
きっと、大丈夫だ。
今日は子供達の晴れ姿。二人の七五三の日。
着物は、お宮参りの時の着物をしたて直してあげる。あの日驚くほど似合っていた向かい鶴の家紋をいつまでもいつまでも誇らしげに纏っていて欲しい。
こんなことができるのも我が家が服作りを家業にしているからだろう。
七五三が終わったら、近所の墓地に向かう。
この子たちの成長ぶりを見せに、また一つお兄ちゃんになったゆうすけのところに遊びに行く。
「あなたの弟と妹はもうこんなに大きくなったのよ。」
私が飛描寿と雪華を両隣に抱き寄せて、そう呟いた。
すると、隣に居た雪華が自らの着物を掴み、ゆうすけのお墓の家紋を見つめながら、呼びかけるようにそっと言った。
「このお揃いのマークかっこいい。私たちって本当に家族なんだね。」
それはまるでお墓に眠っているゆうすけに、語りかけるようだった。
その瞬間だった_____
ゆうすけのお墓に刻まれた二羽の向かい鶴がその言葉に応えるように、一瞬だけ、まばゆい輝きを放った。そんな気がした。
_______
母の日記を読んだ私は、早速出産の準備に取り掛かる。
私が今味わっているこの子供が生まれる幸せを、母もこうやって私たちの時に感じていたのだ。
「この子たちがいつか自分の子供を産んで笑える日が来ますように。」
「病気にかからず健康でいつまでも、長生きできますように。」
ありがとう、お母さん。
お母さんが日記で願った通り、私は病気にかからず健康に、今日まで歩むことができました。そして自分の子供をこうやって産むことができて、笑えることができて、とても幸せです。
子供を産む。それはまるで前世から待ち望んでいたかのように、私には楽しみにしていたことだった。
今日は春風が芽吹き、太陽の光が明るく差し込む、そんな清々しい日だ。
窓の外に目をやってみる。
桜並木に彩られ、新しい学校での入学式を済ませた高校生たち。
真新しいスーツに袖を通し、誇らしげな表情で歩いていく大人たち。
みんなが新しい人生を歩み始めるような春という日に、この子も新たな人生を歩み始める。それはまるでこの子が自分からこの日に生まれることを選んだかのように。
そんな日に生まれる子供を、春のように明るい子供に育ってほしい。
そう願って明春(あきはる)と名付けることにした。
明るい春。名前負けしないくらいに幸せに育ててあげる。
それが私のこの子にできることなんだ、と。
出産には、みんな駆けつけてくれた。
お母さんも、お父さんも、弟の飛描寿も。
お兄ちゃんはいないけれども、でもきっとこの春風の中で明るく優しく見守ってくれてる。そんな気がした。
完
「母の日記」
あんなに元気だったゆうすけを亡くしてしまった。そのことが今でもまだ悔やんでも悔やみきれない。
いつかあの子に読み聞かせていた鶴の恩返し。その思い出が蘇ってくる。
あの子は自分が一人っこだったから、弟や妹のお兄ちゃんになることをとても楽しみにしていたのに。
でも、いつまでも楽しい家族を作りたかった私はその後二人の子供達に恵まれた。
弟の飛描寿(ひかと)、お姉ちゃんの雪華(ゆか)
まるで前世からすでに兄弟であったのかと思うほど、仲の良い二人は、鶴の恩返しのおじいさんのように困っている人がいたらちゃんと助けてあげる優しい子。
「鶴野家だけに伝わる織り方を家族以外の人に教えちゃいけないよ」
そんな約束もちゃんと守るお利口な子。
2人ともお宮参りの時には、我が家の向かい鶴の家紋の入った着物が、生まれる前にこの日のためにコーディネートしてもらってきたのかと言うほどにとてもよく似合っていた。
その時に私は涙が溢れていた。
「生まれてきてくれてありがとう・・・」
そしてこう願った。
「この子たちがいつか自分の子供を産んで笑える日が来ますように。」
「病気にかからず健康でいつまでも、長生きできますように。」と。
向かい鶴の家紋が持つ意味は、子孫繁栄と長寿延命。
きっと、大丈夫だ。
今日は子供達の晴れ姿。二人の七五三の日。
着物は、お宮参りの時の着物をしたて直してあげる。あの日驚くほど似合っていた向かい鶴の家紋をいつまでもいつまでも誇らしげに纏っていて欲しい。
こんなことができるのも我が家が服作りを家業にしているからだろう。
七五三が終わったら、近所の墓地に向かう。
この子たちの成長ぶりを見せに、また一つお兄ちゃんになったゆうすけのところに遊びに行く。
「あなたの弟と妹はもうこんなに大きくなったのよ。」
私が飛描寿と雪華を両隣に抱き寄せて、そう呟いた。
すると、隣に居た雪華が自らの着物を掴み、ゆうすけのお墓の家紋を見つめながら、呼びかけるようにそっと言った。
「このお揃いのマークかっこいい。私たちって本当に家族なんだね。」
それはまるでお墓に眠っているゆうすけに、語りかけるようだった。
その瞬間だった_____
ゆうすけのお墓に刻まれた二羽の向かい鶴がその言葉に応えるように、一瞬だけ、まばゆい輝きを放った。そんな気がした。
_______
母の日記を読んだ私は、早速出産の準備に取り掛かる。
私が今味わっているこの子供が生まれる幸せを、母もこうやって私たちの時に感じていたのだ。
「この子たちがいつか自分の子供を産んで笑える日が来ますように。」
「病気にかからず健康でいつまでも、長生きできますように。」
ありがとう、お母さん。
お母さんが日記で願った通り、私は病気にかからず健康に、今日まで歩むことができました。そして自分の子供をこうやって産むことができて、笑えることができて、とても幸せです。
子供を産む。それはまるで前世から待ち望んでいたかのように、私には楽しみにしていたことだった。
今日は春風が芽吹き、太陽の光が明るく差し込む、そんな清々しい日だ。
窓の外に目をやってみる。
桜並木に彩られ、新しい学校での入学式を済ませた高校生たち。
真新しいスーツに袖を通し、誇らしげな表情で歩いていく大人たち。
みんなが新しい人生を歩み始めるような春という日に、この子も新たな人生を歩み始める。それはまるでこの子が自分からこの日に生まれることを選んだかのように。
そんな日に生まれる子供を、春のように明るい子供に育ってほしい。
そう願って明春(あきはる)と名付けることにした。
明るい春。名前負けしないくらいに幸せに育ててあげる。
それが私のこの子にできることなんだ、と。
出産には、みんな駆けつけてくれた。
お母さんも、お父さんも、弟の飛描寿も。
お兄ちゃんはいないけれども、でもきっとこの春風の中で明るく優しく見守ってくれてる。そんな気がした。
完
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