Shopping Mall Grave Town

✴︎kenju✴︎

文字の大きさ
3 / 3

エピローグ

しおりを挟む
エピローグ
「母の日記」

あんなに元気だったゆうすけを亡くしてしまった。そのことが今でもまだ悔やんでも悔やみきれない。
いつかあの子に読み聞かせていた鶴の恩返し。その思い出が蘇ってくる。
あの子は自分が一人っこだったから、弟や妹のお兄ちゃんになることをとても楽しみにしていたのに。

でも、いつまでも楽しい家族を作りたかった私はその後二人の子供達に恵まれた。 

弟の飛描寿(ひかと)、お姉ちゃんの雪華(ゆか)

まるで前世からすでに兄弟であったのかと思うほど、仲の良い二人は、鶴の恩返しのおじいさんのように困っている人がいたらちゃんと助けてあげる優しい子。
「鶴野家だけに伝わる織り方を家族以外の人に教えちゃいけないよ」
そんな約束もちゃんと守るお利口な子。

2人ともお宮参りの時には、我が家の向かい鶴の家紋の入った着物が、生まれる前にこの日のためにコーディネートしてもらってきたのかと言うほどにとてもよく似合っていた。
その時に私は涙が溢れていた。

「生まれてきてくれてありがとう・・・」

そしてこう願った。
「この子たちがいつか自分の子供を産んで笑える日が来ますように。」
「病気にかからず健康でいつまでも、長生きできますように。」と。

向かい鶴の家紋が持つ意味は、子孫繁栄と長寿延命。
きっと、大丈夫だ。

 今日は子供達の晴れ姿。二人の七五三の日。

着物は、お宮参りの時の着物をしたて直してあげる。あの日驚くほど似合っていた向かい鶴の家紋をいつまでもいつまでも誇らしげに纏っていて欲しい。
こんなことができるのも我が家が服作りを家業にしているからだろう。



七五三が終わったら、近所の墓地に向かう。
この子たちの成長ぶりを見せに、また一つお兄ちゃんになったゆうすけのところに遊びに行く。
 
「あなたの弟と妹はもうこんなに大きくなったのよ。」

私が飛描寿と雪華を両隣に抱き寄せて、そう呟いた。

すると、隣に居た雪華が自らの着物を掴み、ゆうすけのお墓の家紋を見つめながら、呼びかけるようにそっと言った。

「このお揃いのマークかっこいい。私たちって本当に家族なんだね。」

それはまるでお墓に眠っているゆうすけに、語りかけるようだった。

その瞬間だった_____

ゆうすけのお墓に刻まれた二羽の向かい鶴がその言葉に応えるように、一瞬だけ、まばゆい輝きを放った。そんな気がした。
_______

母の日記を読んだ私は、早速出産の準備に取り掛かる。
私が今味わっているこの子供が生まれる幸せを、母もこうやって私たちの時に感じていたのだ。

「この子たちがいつか自分の子供を産んで笑える日が来ますように。」
「病気にかからず健康でいつまでも、長生きできますように。」

ありがとう、お母さん。
お母さんが日記で願った通り、私は病気にかからず健康に、今日まで歩むことができました。そして自分の子供をこうやって産むことができて、笑えることができて、とても幸せです。
子供を産む。それはまるで前世から待ち望んでいたかのように、私には楽しみにしていたことだった。



今日は春風が芽吹き、太陽の光が明るく差し込む、そんな清々しい日だ。
窓の外に目をやってみる。
桜並木に彩られ、新しい学校での入学式を済ませた高校生たち。
真新しいスーツに袖を通し、誇らしげな表情で歩いていく大人たち。

みんなが新しい人生を歩み始めるような春という日に、この子も新たな人生を歩み始める。それはまるでこの子が自分からこの日に生まれることを選んだかのように。

そんな日に生まれる子供を、春のように明るい子供に育ってほしい。
そう願って明春(あきはる)と名付けることにした。

明るい春。名前負けしないくらいに幸せに育ててあげる。
それが私のこの子にできることなんだ、と。

出産には、みんな駆けつけてくれた。
お母さんも、お父さんも、弟の飛描寿も。

お兄ちゃんはいないけれども、でもきっとこの春風の中で明るく優しく見守ってくれてる。そんな気がした。

                          完
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...