27 / 30
第二十七話 不和
しおりを挟む
レイヴィルの名を呼んだのが誰だったのか。その声が発せられると同時に、辺りからこれまでにない地鳴りが聞こえた。
激しかったソリの揺れは更に激しさを増し、俺は危うくソリから落ちそうになった。
強い耳鳴りが起こり、右手で強く頭を押さえながら後方を振り返る。そこには今までになかった巨大な穴が出現していた。魔物であるドゥブルの群れは忽然と姿を消し、どこにもあの黒い巨大な群れの姿は見当たらない。
「消えた?」
「レイヴィルが地面に穴を作り出してその中にドゥブルを閉じ込めたんですよ」
「穴って、あんなでっかい穴をか!? その中にあの牛がいるのか!?」
「レイヴィルは特殊な力を持っています。フレア族の中でもあのような力を持っているのは彼だけです」
ソリはドゥブルを穴の中に閉じ込めた場所から急いで離れるように再びアデレ村のある方角へと走り出す。
「穴に閉じ込めたのはいいけど、もうあの牛の群れは突然現れたりしないのか?」
辺りを見回しながら慧牙は本当につい先ほどまでいたドゥブルの群れの姿を探した。
「魔物を出現させるのにも限りがある。あれだけたくさんのドゥブルを出したのなら、もうあれ以上出すことは無理でしょう。それよりもまた来ますよ、新たな敵が」
穴に落ちずに残った黒いドゥブルがまばらに雪原に点々と姿は見えたが、群れていないと戦意が喪失されてしまうのか、襲ってくる様子もなく先ほどとは打って変わってのろのろと辺りをうろついているだけであった。
巨大な穴の向こう側にいたユニコーンに乗ったレイヴィルは身動きの取れなくなったドゥブルに一瞥をくれると、穴を迂回しながら慧牙達と合流した。
「イノア、遅くなった。皆は無事か? 結界が消された事に気づいた直後、聖騎士団が現れたのだ。二人は片付けたが、まだドゥブルを出してきた者は隠れたまま出てこないようだ。今のうちにソリの中にだけ結界を張っておいてくれ」
「ですが私の力ではあまり良い結界を作る事はできません」
「一時的に凌げればいい。すぐに頼む」
レイヴィルに言われてイノアは無言で頷くと、目を閉じて両方の手で奇妙な形を作り胸の位置で間隔を開けて合わせた。何か呪文のような言葉を小さく呟く。一瞬、頭の奥に鋭い痛みのような何かが走ったように感じられた。数秒後、イノアは結界を張り終えたらしく、胸の前に持ってきていた手を静かに下した。
「これで、結界が出来たのか?」
今の頭痛がイノアの作り出した結界と関係があったのかは分からなかった。それ以外には特にこれといってソリに結界が出来たような印みたいなものは見当たらない。イノアの作り出したという結界もレイヴィルの作っていた結界と同じように何も見えず、感じないものであるらしい。
「うわっ!」
結界が出来た直後、何か鋭いものがソリの上で激突して、慧牙は驚いて声を上げた。衝撃と同時に辺りの雪が所々飛び散っている。どうやら頭上から何らかの衝撃を敵が降らせてきたようであった。
「来たぞ」
ターヴィの声で慧牙はまたも周囲を見回す。すると今度は雪原に二人の人物が立ってこちらを見ているのが見えた。レイヴィルを乗せたユニコーンが走るのを止めてその場で立ち止まる。ソリもまた少し離れた所で止まった。つい先ほどまではまだ白っぽい色をしていた雲は気がつけば濃い灰色に変わり、今にも冷たい雪が降ってきそうな様子だ。
ユニコーンから降りると、腰に携えていた長い剣をレイヴィルはゆっくりと引き抜いた。赤いマントを羽織った聖騎士団の二人も長細い剣をゆっくり構える。
どうやら剣で勝負する気のようだった。聖騎士団の一人が動いた。剣を構えたまま真っ直ぐにレイヴィルに向かってくる。間合いに入り込んだ瞬間、聖騎士団の剣が右から左へと真横一直線に弧を描いた。
レイヴィルはその攻撃を僅かに後退する程度で交しながら、すかさず振りぬいた剣を再び真横に切りつけようとしてきた聖騎士団の一人に向かって手にした剣を斜めに振り落とす。剣と剣がぶつかる金属音が響いた。
上から叩き付けられて、敵の右手が衝撃のせいで下がる。だが聖騎士団は剣を手にしたまま素早く自らの意思で地に手をつけると、身体を反転させて次に繰り出してきたレイヴィルの突きを交していた。
攻撃を交わされたレイヴィルは手首をひねると、そのまま腕を高く上げて左側へと振り落す。瞬間、敵は体を大きく反らせながらも、体を支えていた右手を地面から離すと、そのままの姿勢でレイヴィルの攻撃を避けるために自身の体を剣で防いだ。そしてそのまま背を向けながら、レイヴィルの真横をすり抜けると、後ろから敵の細長い剣がレイヴィルに襲い掛かった。剣と剣がぶつかる音が響く。
二人の戦いは互角のように見えた。今までレイヴィルの戦いを見てきた慧牙にとっては少々意外に思えた。これまでレイヴィはいとも簡単に敵を打ち負かしてきた。けれどもこの戦いは違っていた。以前の敵よりも強いのだろうか、そうとしか思えなかった。そして慧牙の中である疑問が浮かぶ。
「なぁ、なんでレイヴィルは力を使わないんだ? さっきの牛だって、地面に穴を開けて一瞬で動きを封じ込めただろう?」
「もうあまり力が残っていないのだと思います。この旅でレイヴィルはずっと結界を張る為に力を使い続けていました。そしてドゥブルの群れを片付けるのに、先ほど多くの力を浪費したはずです。だからもうそう簡単に力は使えないのだと思います」
ただ黙ってレイヴィルの戦いを見ていることしかできないのはもどかしかった。今、自分があの場に出て行っても何一つできない。いや、何もできないどころが逆にレイヴィルに迷惑をかけることになるだろう。
イノアやターヴィ、セヴェリもまた戦いには参加していなかった。戦わず、このソリに残っているのは神の子だと信じ込んでいる慧牙がいる為でもあるのだろう。ソリに慧牙一人を残し、戦いに加わってしまえば、何かあった時に対処に遅れるからかもしれなかった。
そう思うと、イノアやセヴェリ達に戦いに参加しないのかと聞くのも状況的におかしな質問であった。敵は一人ではない。もう一人、剣を手にしたままの聖騎士団が戦わずしてジッとこちらを見つめている。慧牙はその男が気になっていた。戦いを見るわけではなく、なぜか男の視線はこちらのほうばかり向いていたからであった。
レイヴィルと聖騎士団の戦いが続く中、静観を続けている聖騎士団と目が合った。合った瞬間その聖騎士団が薄ら笑いを浮かべる。結界を張っているので、こちらの姿は見えていないにも関わらず、敵は慧牙達の位置を把握しているように思えた。隠れてレイヴィルの戦いを見守っている者達をまるで馬鹿にしているかのような目つきだった。途端に慧牙は怒りを感じて、身を乗り出そうとした。
「ケイガ、駄目ですよ」
「あいつ、俺を見て笑いやがった」
「下らない挑発には乗らないでください。それに私達の姿は聖騎士団には見えていないのですから」
イノアに制されて大人しくソリの縁から手を離すと、再びレイヴィルの戦いに目を向ける。どうにも妙だった、別に今までずっとレイヴィルの戦いを見てきたわけではない。彼の戦いを見たのはこれで三度目だった。たったそれだけでレイヴィルの強さを分ったつもりにはなっていなかったが、どうにも彼の戦い方にしては大人しく感じられる。
「変だな、レイヴィルらしくない」
ターヴィも慧牙と同じような事を思っていたのか、そんな言葉を口にした。
「何かを警戒しているのか? イノア、レイヴィルから何か聞いてなかったか?」
「いえ、特には何も聞いていません。ですが、ターヴィの言うとおりおかしいですね。レイヴィルは魔力を使い果たしているにしても、あの戦い方は大人しすぎる」
その時だった、聞き覚えのある低い嘶きが耳に入ってくる。咄嗟に声のする方を振り向くとあのドゥブルの姿があった。
「まずい! まだ魔物を出せる力が残っていたのか!?」
ターヴィの叫び声にレイヴィルの動きが一瞬止まった。その瞬間、聖騎士団の一人がここぞとばかりに攻撃を仕掛けてくる。
一方、ドゥブルは何度もその巨体を揺らしながら、その辺りを無意味に走り回っていた。再び現れたドゥブルは先ほどよりもずっと数は少なく、四頭だけであったが、大きさは倍近くに大きかった。そして突然、一頭のドゥブルがその動きを止めると真っ直ぐに慧牙達の方向へと近寄ってきたのだ。大きな巨体を何度もソリにぶつけてくる。結界が張られていているはずなのに、慧牙達のいる場所が分かっているかのようであった。
「結界を張っているのにどうしてドゥブルは襲ってくるんですか!?」
セヴェリが恐怖で上ずった声を上げた。
「私達がレイヴィルのすぐ近くにいると踏んで、また出現させたのでしょう。狭い範囲なら適当にその辺りを走らせていれば、おおよその見当はついてしまう、私達のいる場所がね。一カ所だけ避けて通る場所ができるのだから。それを敵が見て、避ける場所に向かうようにドゥブルに指示を出したのでしょう。だけどまだこのまま様子をみます。ターヴィ、ソリを少しだけ前へと移動させてください」
「くそっ!」
多分、戦いに参加せず薄ら笑いを浮かべていた聖騎士団が出したものなのだろうと直感的に思った慧牙はセヴェリの腰に携えていた剣を強引に抜き取った。そしてソリの縁に上がると、両手で剣を振りかざしてその場で跳躍する。剣を体当たりしてきたドゥブルの背中目掛けて突き刺した。
「ケイガ!」
突き刺した瞬間、ドゥブルは狂ったように暴れて剣を掴んでいた慧牙をソリから引きずり出すように上下に巨体を動かしながら暴れ始めた。剣を離さなかった慧牙はそのままドゥブルに背に飛び移るような形になってしまった。
暴れ狂うドゥブルの背で、突き刺した剣の柄を持ちながら必死に投げ出されまいとする。けれどもドゥブルの暴れ方は尋常でなく、自身で突き刺した剣の刃先に何度も身体が当たりそうになった。慧牙は落とされないようにしながらも、鋭く光る刃に当たらないようにするので精一杯で声もでない。
こうなってはもう結界を張った意味がないと、イノアはソリから飛び降りて慧牙を助けるために力を使おうとしたときだった。またしても別のドゥブルがやってきてイノアに襲い掛かる。セヴェリもターヴィもまたソリに体当たりしてきたドゥブルをなんとかしようと手こずっていた。
「馬鹿が!」
戦いながらも、レイヴィルは慧牙の無意味な行動を罵った。彼としては戦っていないもう一人の聖騎士団の行動が気になっていたのだった。その為に今戦っている敵に対して、半分の力で応戦していた。何かあった時、すぐに対処できるようにと。レイヴィルだけがここに残り、慧牙達を先にいかせるという手もあったが、聖騎士団の数が正確には分らなかった。今、目の前にいる二人が最後とは限らない。それに結界もここまでやってきた聖騎士団によって破られたということが分かった以上、この先に作ってある結界も破られているかもしれないのだった。
一瞬の油断が仇となる。慧牙に対して毒づいた時だった。聖騎士団の素早い剣の動きがすぐ目の前を通り過ぎた。切られたレイヴィルの長い髪の一房が宙に舞う。
「レイヴィル!」
「イノア、あの馬鹿を頼む! ターヴィ、セヴェリは魔物をやれ!」
遠くでレイヴィルの声が聞こえて慧牙は後悔していた。軽率だった、カッとなって怒りに身を任せてしまった。剣を突き刺した時にすぐ手を離せばよかったとも考えるが、どうにかして引き抜こうとしたのがいけなかった。もしくはセヴェリの剣を勝手に抜き取ったことがいけなかったのか。だが一番の失態は結界の外に出てしまったことであった。出なければ、敵にむざむざと姿を見せることはなかった。暴れるドゥブルの背の上でまだかろうじて振り落とされずにすんでいる慧牙はこの後どうすればいいのか検討もつかなかった。
誰かに名前を呼ばれた気がした時、身体が宙に浮き上がった。一際大きく体を揺らしたドゥブルのせいで、柄からとうとう手が離れてしまったのだ。落ちる、と思った瞬間、急に誰かに抱きとめられた。
「イノア、わりぃ」
「全くどうしてこんな無茶をするんですか。結界からでなければ、あのまま移動して敵の放ったドゥブルを交わし続けることができたんですよ。ドゥブルは操られているだけにすぎない。そして目に見えない何かに当たって、ただ前へ進もうとしていただけでした。こちらが動けばそのまま交わせていたはず」
「悪かった、ソリに戻ろう」
「無理ですよ、あれを見てください」
イノアに言われてソリの方を見ると、炎が広がっていた。ターヴィの放った炎がソリにも燃え移ったのかパチパチと音を立てて木で作られたソリが燃えている。消すこともできず、急いでターヴィは二頭のユニコーンに火が回らぬよう綱を剣で切っていた。途端に二頭のユニコーンは甲高い嘶きを上げながら走り出す。そしてターヴィはソリが燃えることもお構いなしに次々と突進してくるドゥブルに向って炎の玉を飛ばしていた。セヴェリは少し離れた所で同じように鋭く尖った氷を地面から何本も出現させて必至にドゥブルの足を止めている。
「聖騎士団って一体何人いるんだよ」
「聖騎士団は何十人といます。正確な数は不明ですが……危ない!」
炎に包まれて狂ったように暴れていたドゥブルがこちらに目掛けて突進してきた。イノアはすかさず慧牙の前に立ちはだかると、大気中に爆発を起こしてドゥブルを吹き飛ばす。ドゥブルは全部で四頭いたが、イノアが一頭を倒し、ターヴィはもう一頭の別のドゥブルを炎で焼き尽くしていた。セヴェリは一頭を氷の柱で囲い込み、最後の一頭は慧牙に背中を深く刺されてどこか違う場所へと走り去っていく。
「ケイガ、お願いですから、もう軽率な行動はしないでください」
「わ、わかった」
燃えさかるソリの傍でセヴェリが囲ったドゥブルをイノアが魔力で倒す。気がつけばレイヴィルは聖騎士団の一人を倒したようで、一人が雪の中で血を流して倒れていた。残るは一人だった。
「さすがはレイヴィル、あとは私だけか」
先ほど慧牙に向って薄ら笑いを浮かべていた聖騎士団の男が地面に横たわる仲間の身体を足先で突きながら静かに話し始めた。
「ですが、戦う前に忠告しておこう。ここで大人しくそいつを渡したほうがフレア族の為になるぞ」
またこの男は薄っすらと笑みを浮かべながら慧牙を見つめて言った。他に仲間はもういないようだった。たった一人残った聖騎士団はこの状況では圧倒的に不利である。それなのに、この男は何一つ動揺することもなく、悠長な話し方をしていた。
「何をおかしなことを言っているのですか、慧牙は渡しません」
イノアは慧牙の身体を手で守るような仕草を取り、男に向って強い口調で言い放った。
「噂によれば、神の子らしいですね。上は何も教えてくれませんでしたが、その子はシューリアの子だそうじゃないですか」
「なぜユーリャ族がシューリアの子を欲しがるというのです。あなた達には関係のないこと。今すぐにアリーシェ大陸から立ち去りなさい」
「その言葉はそのままあなたに返します。あなた達が今すぐにここから立ち去ったほうがいい。大人しく言う事を聞いてその子をこちらに渡せば、貴方達にこれ以上危害は加えません。さぁ、そこを退いてください」
「嫌だと言ったら?」
「死ぬまでのこと」
男がゆらりと蠢いた。次の瞬間、イノアの目の前に突然と現れた男は光る右手を大きく振り上げた。イノアの目が大きく見開かれる。まるで瞬間移動でもしたかのような素早さであった。
「イノア!」
慧牙が叫んだ時、イノアは既にその場にはいなかった。そして彼の代わりにレイヴィルが男の手を掴んでいた。あまりの速さに敵の動きもレイヴィルの動きも捉えることができなかった。この世界にはこんなにも早い動きができる人間もいるのかと唖然とする。消えたイノアはというと、レイヴィルに押されて、横で片膝をついていた。
「俺の事を忘れてもらっては困るな」
聖騎士団の男はそれでも尚、笑みを湛えたまま左の手に持っていた剣で襲おうとしてきた。けれどもレイヴィルはすかさず男の腕を離すと、慧牙を抱えて後方へと飛び去り間合いをとった。そして慧牙を突き放すと、剣を構えたままゆっくりと慧牙の傍から離れるように移動し始めた。
「レイヴィル、あなたの結界は実に素晴らしいものでしたよ。あれほどの結界を連続で何日も渡って張り続けることができるなんて。フレア族は飛竜とお話する能力しか持ち合わせていないと思っていましたが、まさかこれほど強い魔力を持っているとは驚きです。もしかしたら、あなたはフレア族ではないんじゃないですか?」
「それ以上無駄口を叩くな、早く死にたいらしいな」
「あなたの力は私達と同じユーリャ族に近い。それもかなり強い魔力を持つユーリャ族に……」
「黙れ」
「おまけにあなたはフレア族だというのに、飛竜には乗れないらしい……っ!」
言い終わらぬ内にレイヴィルが剣を振りかざして、相手に切りかかった。大きな剣を目にも留まらぬ速さで振りぬく。
「まだ話している途中に攻撃するとは、せっかちな人だ」
「早く死にたくて仕方ないらしいな。ユーリャ族というのはおしゃべりな連中ばかりだ」
お返しとばかりに男はまた魔力を溜めているのか、右手がまぶしく光りだした。その手から閃光が放たれる。ズメウを奇襲された時にみた光の矢とそっくりだった。レイヴィルはその矢を剣で交しながら、再び男に向っていく。矢をことごとく弾かれた男はすぐに剣を両手で持ち直すと、レイヴィルの凄まじい剣技に対抗した。何度か剣のぶつかる音が響き、レイヴィルが男の頭上をとった。けれども男はすぐにその場から離れる。
逃すまいとレイヴィルは剣を左だけで持つと、男に目掛けて右手を向けた。その瞬間、男のいた地面が地鳴りを起こしながら下へと沈む。微かに苦しそうな顔を浮かべて、男はそれでもレイヴィルの攻撃を交して地中へと沈んでいく場所から飛び退いた。
「やはりおかしい。あなたの力はフレア族では考えられない、こんなに強い魔力を持つフレア族などいない。やはり……」
「そんなに死に急ぐか、ならば望みどおり殺してやろう」
男の言葉に怒りが増したのだろうか、レイヴィルの気迫は慧牙にも伝わるようであった。その直後、レイヴィルは数度剣を交え、最後には男が攻撃を防ごうと出した剣をものともせず、そのままに振り落とす。男の左肩に剣がめり込んだ。そのままゆっくりと剣は下がっていき、聖騎士団である男の口から血が噴き出した。
「っ…、これで……終わりだと思わないように」
襲ってきた最後の聖騎士団の一人は死に際にそんな言葉を口にしながら、うすら笑いを浮かべたまま絶命した。
「レイヴィル、ここまで聖騎士団が襲ってきたということはヨハン達のところも…」
「それは分からない。ヨハンの警戒をすり抜けてここまでやってきただけかも知れない」
「私がズメウに戻り、様子をみてきましょうか」
「駄目だ。イノアはこの先もケイガの護衛として働いてもらわねばならない。それに、ヨハンは強さだけではなく、戦術においても相当の知恵がある。そう簡単には負ける事は考えられない。ズメウのことはアデレ村に着けばわかるだろう。もし何かあればアデレ村に伝令がやってきているはずだからな」
「分かりました」
「うあっ!?」
これでようやく終わったと思った時だった。慧牙が剣で突き刺したドゥブルが雄たけびを上げながらこちらに猛突進してきた。巨体には似つかわしくない速さで駆け寄ってくる。慧牙は本能のままに、突進してくるドゥブルから逃れようと走り出した。
「ケイガ!」
でもそれがいけなかった。走り出した慧牙を見て、ドゥブルは向きを変える。完全にドゥブルは慧牙に狙いを定めているようだった。雪のない地面ならばもっと早く走れただろう。だけどここは雪しかない場所である。慧牙は時折転びそうになりながらも、必死で走った。ドゥブルの巨体はもうすぐ真後ろまで迫っていた。
追いつかれると思った瞬間、後ろから一際大きな嘶きが聞こえる。
「うぁぁぁっ!」
振り返ると、その大きな巨体が黒い影のように覆いかぶさってきた。
「大丈夫ですか!?」
何が起こったのか分らなかった。恐る恐る目を開けてみる。とりあえずまだ自分は生きている事に安堵した。けれどすぐに異変を感じる。身体を起こそうにも起き上がれないのだ。うつ伏せに倒れた慧牙の腰辺りまでに、ドゥブルが乗っていた。
「う、動けないっ、……痛っ!」
無理に動こうとすると腰に激痛が走る。
「今すぐに退きますから、少しの間辛抱して下さい」
イノアが血相を変えて駆け寄ってきた。どうやら誰かが慧牙を襲ったドゥブルを倒したらしいが、倒れた先の下に慧牙がいた為に下敷きになったのだ。
「今すぐに出してあげます」
「頼むっ、こいつ重くて、苦しい」
同じく駆け寄ってきたセヴェリに、慧牙は苦しそうに答える。
「レイヴィル、そちらを持ってください」
呆れたような顔つきで近寄ってきたレイヴィルは、イノアの言葉に無言で従うとドゥブルの体に手をかけた。
「せーの!」
イノアとレイヴィル、それにターヴィがドゥブルの巨体を持ち上げて、その隙にセヴェリが慧牙の身体を引き出した。
「……助かった」
「自分だけ逃げようとするから、こんな目に合うんだ」
「なっ、違う! あんなでっかい牛が襲ってきたら勝手に足が動くだろ!」
「弱い奴は逃げることしかできないか。おまけに後先考えずにあのドゥブルに剣を突き刺すしな。頭が悪く弱い奴は、どうしようもないな」
「んだと!?」
「レイヴィル、お願いですからケイガを挑発しないでください。ケイガも、もうあんな無謀な事は二度としないでください。分りましたね? 一人の身勝手な行動で周りも影響を受けることがあるんですから」
レイヴィルの皮肉にすぐに躍らされる慧牙を見て、イノアは二人の間に割って入ると困ったように窘めた。慧牙はイノアの言葉に返事をすることなく、一度だけレイヴィルにきつい視線を送ると、ソリのところまで戻った。
ドゥブルに剣を突き刺した結果かどうかは分らなかったが、ユニコーンの姿はなく、無残にも前方部分が黒焦げになってしまったソリを見て、慧牙は急にそれまでの怒りが萎んだ。口惜しいがレイヴィルの言っていることは間違っていない。何も考えずに怒りに任せて剣を使ってしまった事、突進してくる魔物から咄嗟に逃げたのは間違いではない。自分の行った行動が急に恥かしくなった。
「…悪かった」
慧牙は少し俯いたまま後ろからついてきたイノアとレイヴィルに謝った。
「それにしても、すごい血ですね」
慧牙の姿を見ながら、セヴェリが困ったような顔を浮かべていた。気がつくと、ドゥブルの血がべっとりと身体中についている。髪を触ってみると、頭も赤黒い血がついていた。慧牙は手についた血を鼻に近づけると強烈な異臭を感じた。
「くせぇっ」
「レイヴィル、すぐに次の寝床の洞窟に向いましょう」
「そうだな」
「ケイガを連れて先に行ってて下さい。ソリは多少燃えてしまいましたが、セヴェリの力で燃えた部分を凍らせれば、まだ幾分は走れるでしょう。私達は逃げていったユニコーンを連れ戻してから向います」
レイヴィルの乗っていたユニコーンに跨る。慧牙が跨ったことで真っ白いユニコーンの背が所々赤く染まった。何事もなかったかのように雪原は静寂だけを湛えている。あまりの静けさに、つい先ほどまで聖騎士団と戦っていたことが嘘のように感じられた。視界に手綱を握っているレイヴィルの手が映る。大きくて武骨な手だった。
「あんた、ほんと強いんだな」
走るユニコーンの背に跨ったまま、レイヴィルに話しかけた。
「お前から見ればそう映るのか」
「誰が見たってそうだろ、大した手こずることもなく簡単に……その、倒してるだろ。敵をさ」
敵であろうと、これで何度目だろうか。人が死ぬところを見たのは。元の世界にいた時は一度もそのような場面を目撃したことはない。ここに来てからは立て続けに人の死を目の当たりにしていた。
「殺し合いで簡単だとか難しいだとかなんてことは考えない。一瞬で終わろうが、長くかかろうが戦いの場では常に命を賭けている」
「そっか。俺にはその、命を賭けて戦うだとかってよくわかんねぇけどさ」
「お前はこれまで一度も戦ったことがないのか? 仮にも男なんだろう? それに向こうの世界では人間として生きてきたんだろう?」
「仮にって、俺は正真正銘の男だ! てめぇも、見ただろが。それに人間だ」
レイヴィルにされた嫌なことを思い出した。
「なぜそうも向こうの世界に帰りたがる。理由はなんだ?」
「なんだって言われても、自分の生まれ育ったところに帰りたいのは普通だろ? 俺の家は向こうにあるんだから」
「それだけか?」
「はっ? それだけって、それしかないだろ」
彼の言葉がよく分らなかった。
「ただ家が向こうの世界にあるから、という理由だけなのか?」
「家だって、仕事は……この前クビになっちまったけど、それに家族もいるし」
「家族とは一緒に住んでいるのか?」
「いや、一緒には住んでないけどさ。とにかく俺は元の世界に戻りたいんだって。こっちは俺の知らないことばっかだし、いろいろと暮らしにくいし」
「帰ってやらなければならないことがある、というわけではないのだな…」
嫌なところをついてくる。帰る理由の中に特別重要なことはないと思い知らされているようであった。けれども、元の世界に戻りたいというのは普通のことなのではないのかとも思う。違う世界に飛ばされたら誰しもそう思うはずだと、慧牙は思った。
「……別になんもねぇよ。ただ元の世界に戻って、また職探しするだけだ」
元の世界に戻って、新たな職を探して、一人暮らしを続けるだけ。特にやりたいこともなければ、何かに向って頑張っているわけではない。はっきり言ってしまえば、ただ毎日をなんとなく生きているだけ。それだけだった。レイヴィルに聞かれて、答えていくうちに自分には何にもないということを思い知らされたような気分になり、慧牙は口を真横に結んだ。
そうなのだ、今までもずっと特に何もせずに生きてきた。周りを見れば、夢に向って頑張る人もいれば、将来のことを考えて生きている人達は大勢いた。そして自分はどうかと心の中で尋ねる。けれどもそれに対する答えはなんとも言いようのない無意味なものでしかなかった。ただなんとなく生きているだけ。
こんな意味のない人生を無駄に送ってきたのであれば、このルアグアーレに残って神の子として皆から敬われて生きていくほうがずっと有意義なのではないかと、ふと思う。
「そんなの嫌だ」
「どうした?」
「なんでもない! 独り言だ」
自然と口をついて出ていた。レイヴィルに聞かれて慧牙は慌てて返事を返した。
あり得ない。こんなとこ一秒だっていたくないんだ。それに、俺がここにいるせいで、死ななくてもよかった人達がたくさんいた。なんで、なんでこんな俺なんかの為に。俺なんて生きてる意味なんてないのに。
「…悪かった」
突然、レイヴィルの口からは聞くはずのないフレーズが飛び出してきた。
「なんのことだよ」
レイヴィルが何に対して悪かったのか分らなくて、慧牙はぶっきらぼうに聞き返した。
「ケイガの親を冒涜するつもりなどはなかった。それと、お前に俺が憎んでいる対象を重ね合わせていた。すまなかった」
「……別に、もう気にしてねぇ」
彼はこの旅の間、ずっとその事を気にしていたのだろうか。確かにあの言葉はグサリときた。今でも心の中に引っかかっている言葉。けれどもこれまでに何度も彼に助けてもらったことを考えると、慧牙の心の中は表現のしようのない複雑な気持ちになっていた。
激しかったソリの揺れは更に激しさを増し、俺は危うくソリから落ちそうになった。
強い耳鳴りが起こり、右手で強く頭を押さえながら後方を振り返る。そこには今までになかった巨大な穴が出現していた。魔物であるドゥブルの群れは忽然と姿を消し、どこにもあの黒い巨大な群れの姿は見当たらない。
「消えた?」
「レイヴィルが地面に穴を作り出してその中にドゥブルを閉じ込めたんですよ」
「穴って、あんなでっかい穴をか!? その中にあの牛がいるのか!?」
「レイヴィルは特殊な力を持っています。フレア族の中でもあのような力を持っているのは彼だけです」
ソリはドゥブルを穴の中に閉じ込めた場所から急いで離れるように再びアデレ村のある方角へと走り出す。
「穴に閉じ込めたのはいいけど、もうあの牛の群れは突然現れたりしないのか?」
辺りを見回しながら慧牙は本当につい先ほどまでいたドゥブルの群れの姿を探した。
「魔物を出現させるのにも限りがある。あれだけたくさんのドゥブルを出したのなら、もうあれ以上出すことは無理でしょう。それよりもまた来ますよ、新たな敵が」
穴に落ちずに残った黒いドゥブルがまばらに雪原に点々と姿は見えたが、群れていないと戦意が喪失されてしまうのか、襲ってくる様子もなく先ほどとは打って変わってのろのろと辺りをうろついているだけであった。
巨大な穴の向こう側にいたユニコーンに乗ったレイヴィルは身動きの取れなくなったドゥブルに一瞥をくれると、穴を迂回しながら慧牙達と合流した。
「イノア、遅くなった。皆は無事か? 結界が消された事に気づいた直後、聖騎士団が現れたのだ。二人は片付けたが、まだドゥブルを出してきた者は隠れたまま出てこないようだ。今のうちにソリの中にだけ結界を張っておいてくれ」
「ですが私の力ではあまり良い結界を作る事はできません」
「一時的に凌げればいい。すぐに頼む」
レイヴィルに言われてイノアは無言で頷くと、目を閉じて両方の手で奇妙な形を作り胸の位置で間隔を開けて合わせた。何か呪文のような言葉を小さく呟く。一瞬、頭の奥に鋭い痛みのような何かが走ったように感じられた。数秒後、イノアは結界を張り終えたらしく、胸の前に持ってきていた手を静かに下した。
「これで、結界が出来たのか?」
今の頭痛がイノアの作り出した結界と関係があったのかは分からなかった。それ以外には特にこれといってソリに結界が出来たような印みたいなものは見当たらない。イノアの作り出したという結界もレイヴィルの作っていた結界と同じように何も見えず、感じないものであるらしい。
「うわっ!」
結界が出来た直後、何か鋭いものがソリの上で激突して、慧牙は驚いて声を上げた。衝撃と同時に辺りの雪が所々飛び散っている。どうやら頭上から何らかの衝撃を敵が降らせてきたようであった。
「来たぞ」
ターヴィの声で慧牙はまたも周囲を見回す。すると今度は雪原に二人の人物が立ってこちらを見ているのが見えた。レイヴィルを乗せたユニコーンが走るのを止めてその場で立ち止まる。ソリもまた少し離れた所で止まった。つい先ほどまではまだ白っぽい色をしていた雲は気がつけば濃い灰色に変わり、今にも冷たい雪が降ってきそうな様子だ。
ユニコーンから降りると、腰に携えていた長い剣をレイヴィルはゆっくりと引き抜いた。赤いマントを羽織った聖騎士団の二人も長細い剣をゆっくり構える。
どうやら剣で勝負する気のようだった。聖騎士団の一人が動いた。剣を構えたまま真っ直ぐにレイヴィルに向かってくる。間合いに入り込んだ瞬間、聖騎士団の剣が右から左へと真横一直線に弧を描いた。
レイヴィルはその攻撃を僅かに後退する程度で交しながら、すかさず振りぬいた剣を再び真横に切りつけようとしてきた聖騎士団の一人に向かって手にした剣を斜めに振り落とす。剣と剣がぶつかる金属音が響いた。
上から叩き付けられて、敵の右手が衝撃のせいで下がる。だが聖騎士団は剣を手にしたまま素早く自らの意思で地に手をつけると、身体を反転させて次に繰り出してきたレイヴィルの突きを交していた。
攻撃を交わされたレイヴィルは手首をひねると、そのまま腕を高く上げて左側へと振り落す。瞬間、敵は体を大きく反らせながらも、体を支えていた右手を地面から離すと、そのままの姿勢でレイヴィルの攻撃を避けるために自身の体を剣で防いだ。そしてそのまま背を向けながら、レイヴィルの真横をすり抜けると、後ろから敵の細長い剣がレイヴィルに襲い掛かった。剣と剣がぶつかる音が響く。
二人の戦いは互角のように見えた。今までレイヴィルの戦いを見てきた慧牙にとっては少々意外に思えた。これまでレイヴィはいとも簡単に敵を打ち負かしてきた。けれどもこの戦いは違っていた。以前の敵よりも強いのだろうか、そうとしか思えなかった。そして慧牙の中である疑問が浮かぶ。
「なぁ、なんでレイヴィルは力を使わないんだ? さっきの牛だって、地面に穴を開けて一瞬で動きを封じ込めただろう?」
「もうあまり力が残っていないのだと思います。この旅でレイヴィルはずっと結界を張る為に力を使い続けていました。そしてドゥブルの群れを片付けるのに、先ほど多くの力を浪費したはずです。だからもうそう簡単に力は使えないのだと思います」
ただ黙ってレイヴィルの戦いを見ていることしかできないのはもどかしかった。今、自分があの場に出て行っても何一つできない。いや、何もできないどころが逆にレイヴィルに迷惑をかけることになるだろう。
イノアやターヴィ、セヴェリもまた戦いには参加していなかった。戦わず、このソリに残っているのは神の子だと信じ込んでいる慧牙がいる為でもあるのだろう。ソリに慧牙一人を残し、戦いに加わってしまえば、何かあった時に対処に遅れるからかもしれなかった。
そう思うと、イノアやセヴェリ達に戦いに参加しないのかと聞くのも状況的におかしな質問であった。敵は一人ではない。もう一人、剣を手にしたままの聖騎士団が戦わずしてジッとこちらを見つめている。慧牙はその男が気になっていた。戦いを見るわけではなく、なぜか男の視線はこちらのほうばかり向いていたからであった。
レイヴィルと聖騎士団の戦いが続く中、静観を続けている聖騎士団と目が合った。合った瞬間その聖騎士団が薄ら笑いを浮かべる。結界を張っているので、こちらの姿は見えていないにも関わらず、敵は慧牙達の位置を把握しているように思えた。隠れてレイヴィルの戦いを見守っている者達をまるで馬鹿にしているかのような目つきだった。途端に慧牙は怒りを感じて、身を乗り出そうとした。
「ケイガ、駄目ですよ」
「あいつ、俺を見て笑いやがった」
「下らない挑発には乗らないでください。それに私達の姿は聖騎士団には見えていないのですから」
イノアに制されて大人しくソリの縁から手を離すと、再びレイヴィルの戦いに目を向ける。どうにも妙だった、別に今までずっとレイヴィルの戦いを見てきたわけではない。彼の戦いを見たのはこれで三度目だった。たったそれだけでレイヴィルの強さを分ったつもりにはなっていなかったが、どうにも彼の戦い方にしては大人しく感じられる。
「変だな、レイヴィルらしくない」
ターヴィも慧牙と同じような事を思っていたのか、そんな言葉を口にした。
「何かを警戒しているのか? イノア、レイヴィルから何か聞いてなかったか?」
「いえ、特には何も聞いていません。ですが、ターヴィの言うとおりおかしいですね。レイヴィルは魔力を使い果たしているにしても、あの戦い方は大人しすぎる」
その時だった、聞き覚えのある低い嘶きが耳に入ってくる。咄嗟に声のする方を振り向くとあのドゥブルの姿があった。
「まずい! まだ魔物を出せる力が残っていたのか!?」
ターヴィの叫び声にレイヴィルの動きが一瞬止まった。その瞬間、聖騎士団の一人がここぞとばかりに攻撃を仕掛けてくる。
一方、ドゥブルは何度もその巨体を揺らしながら、その辺りを無意味に走り回っていた。再び現れたドゥブルは先ほどよりもずっと数は少なく、四頭だけであったが、大きさは倍近くに大きかった。そして突然、一頭のドゥブルがその動きを止めると真っ直ぐに慧牙達の方向へと近寄ってきたのだ。大きな巨体を何度もソリにぶつけてくる。結界が張られていているはずなのに、慧牙達のいる場所が分かっているかのようであった。
「結界を張っているのにどうしてドゥブルは襲ってくるんですか!?」
セヴェリが恐怖で上ずった声を上げた。
「私達がレイヴィルのすぐ近くにいると踏んで、また出現させたのでしょう。狭い範囲なら適当にその辺りを走らせていれば、おおよその見当はついてしまう、私達のいる場所がね。一カ所だけ避けて通る場所ができるのだから。それを敵が見て、避ける場所に向かうようにドゥブルに指示を出したのでしょう。だけどまだこのまま様子をみます。ターヴィ、ソリを少しだけ前へと移動させてください」
「くそっ!」
多分、戦いに参加せず薄ら笑いを浮かべていた聖騎士団が出したものなのだろうと直感的に思った慧牙はセヴェリの腰に携えていた剣を強引に抜き取った。そしてソリの縁に上がると、両手で剣を振りかざしてその場で跳躍する。剣を体当たりしてきたドゥブルの背中目掛けて突き刺した。
「ケイガ!」
突き刺した瞬間、ドゥブルは狂ったように暴れて剣を掴んでいた慧牙をソリから引きずり出すように上下に巨体を動かしながら暴れ始めた。剣を離さなかった慧牙はそのままドゥブルに背に飛び移るような形になってしまった。
暴れ狂うドゥブルの背で、突き刺した剣の柄を持ちながら必死に投げ出されまいとする。けれどもドゥブルの暴れ方は尋常でなく、自身で突き刺した剣の刃先に何度も身体が当たりそうになった。慧牙は落とされないようにしながらも、鋭く光る刃に当たらないようにするので精一杯で声もでない。
こうなってはもう結界を張った意味がないと、イノアはソリから飛び降りて慧牙を助けるために力を使おうとしたときだった。またしても別のドゥブルがやってきてイノアに襲い掛かる。セヴェリもターヴィもまたソリに体当たりしてきたドゥブルをなんとかしようと手こずっていた。
「馬鹿が!」
戦いながらも、レイヴィルは慧牙の無意味な行動を罵った。彼としては戦っていないもう一人の聖騎士団の行動が気になっていたのだった。その為に今戦っている敵に対して、半分の力で応戦していた。何かあった時、すぐに対処できるようにと。レイヴィルだけがここに残り、慧牙達を先にいかせるという手もあったが、聖騎士団の数が正確には分らなかった。今、目の前にいる二人が最後とは限らない。それに結界もここまでやってきた聖騎士団によって破られたということが分かった以上、この先に作ってある結界も破られているかもしれないのだった。
一瞬の油断が仇となる。慧牙に対して毒づいた時だった。聖騎士団の素早い剣の動きがすぐ目の前を通り過ぎた。切られたレイヴィルの長い髪の一房が宙に舞う。
「レイヴィル!」
「イノア、あの馬鹿を頼む! ターヴィ、セヴェリは魔物をやれ!」
遠くでレイヴィルの声が聞こえて慧牙は後悔していた。軽率だった、カッとなって怒りに身を任せてしまった。剣を突き刺した時にすぐ手を離せばよかったとも考えるが、どうにかして引き抜こうとしたのがいけなかった。もしくはセヴェリの剣を勝手に抜き取ったことがいけなかったのか。だが一番の失態は結界の外に出てしまったことであった。出なければ、敵にむざむざと姿を見せることはなかった。暴れるドゥブルの背の上でまだかろうじて振り落とされずにすんでいる慧牙はこの後どうすればいいのか検討もつかなかった。
誰かに名前を呼ばれた気がした時、身体が宙に浮き上がった。一際大きく体を揺らしたドゥブルのせいで、柄からとうとう手が離れてしまったのだ。落ちる、と思った瞬間、急に誰かに抱きとめられた。
「イノア、わりぃ」
「全くどうしてこんな無茶をするんですか。結界からでなければ、あのまま移動して敵の放ったドゥブルを交わし続けることができたんですよ。ドゥブルは操られているだけにすぎない。そして目に見えない何かに当たって、ただ前へ進もうとしていただけでした。こちらが動けばそのまま交わせていたはず」
「悪かった、ソリに戻ろう」
「無理ですよ、あれを見てください」
イノアに言われてソリの方を見ると、炎が広がっていた。ターヴィの放った炎がソリにも燃え移ったのかパチパチと音を立てて木で作られたソリが燃えている。消すこともできず、急いでターヴィは二頭のユニコーンに火が回らぬよう綱を剣で切っていた。途端に二頭のユニコーンは甲高い嘶きを上げながら走り出す。そしてターヴィはソリが燃えることもお構いなしに次々と突進してくるドゥブルに向って炎の玉を飛ばしていた。セヴェリは少し離れた所で同じように鋭く尖った氷を地面から何本も出現させて必至にドゥブルの足を止めている。
「聖騎士団って一体何人いるんだよ」
「聖騎士団は何十人といます。正確な数は不明ですが……危ない!」
炎に包まれて狂ったように暴れていたドゥブルがこちらに目掛けて突進してきた。イノアはすかさず慧牙の前に立ちはだかると、大気中に爆発を起こしてドゥブルを吹き飛ばす。ドゥブルは全部で四頭いたが、イノアが一頭を倒し、ターヴィはもう一頭の別のドゥブルを炎で焼き尽くしていた。セヴェリは一頭を氷の柱で囲い込み、最後の一頭は慧牙に背中を深く刺されてどこか違う場所へと走り去っていく。
「ケイガ、お願いですから、もう軽率な行動はしないでください」
「わ、わかった」
燃えさかるソリの傍でセヴェリが囲ったドゥブルをイノアが魔力で倒す。気がつけばレイヴィルは聖騎士団の一人を倒したようで、一人が雪の中で血を流して倒れていた。残るは一人だった。
「さすがはレイヴィル、あとは私だけか」
先ほど慧牙に向って薄ら笑いを浮かべていた聖騎士団の男が地面に横たわる仲間の身体を足先で突きながら静かに話し始めた。
「ですが、戦う前に忠告しておこう。ここで大人しくそいつを渡したほうがフレア族の為になるぞ」
またこの男は薄っすらと笑みを浮かべながら慧牙を見つめて言った。他に仲間はもういないようだった。たった一人残った聖騎士団はこの状況では圧倒的に不利である。それなのに、この男は何一つ動揺することもなく、悠長な話し方をしていた。
「何をおかしなことを言っているのですか、慧牙は渡しません」
イノアは慧牙の身体を手で守るような仕草を取り、男に向って強い口調で言い放った。
「噂によれば、神の子らしいですね。上は何も教えてくれませんでしたが、その子はシューリアの子だそうじゃないですか」
「なぜユーリャ族がシューリアの子を欲しがるというのです。あなた達には関係のないこと。今すぐにアリーシェ大陸から立ち去りなさい」
「その言葉はそのままあなたに返します。あなた達が今すぐにここから立ち去ったほうがいい。大人しく言う事を聞いてその子をこちらに渡せば、貴方達にこれ以上危害は加えません。さぁ、そこを退いてください」
「嫌だと言ったら?」
「死ぬまでのこと」
男がゆらりと蠢いた。次の瞬間、イノアの目の前に突然と現れた男は光る右手を大きく振り上げた。イノアの目が大きく見開かれる。まるで瞬間移動でもしたかのような素早さであった。
「イノア!」
慧牙が叫んだ時、イノアは既にその場にはいなかった。そして彼の代わりにレイヴィルが男の手を掴んでいた。あまりの速さに敵の動きもレイヴィルの動きも捉えることができなかった。この世界にはこんなにも早い動きができる人間もいるのかと唖然とする。消えたイノアはというと、レイヴィルに押されて、横で片膝をついていた。
「俺の事を忘れてもらっては困るな」
聖騎士団の男はそれでも尚、笑みを湛えたまま左の手に持っていた剣で襲おうとしてきた。けれどもレイヴィルはすかさず男の腕を離すと、慧牙を抱えて後方へと飛び去り間合いをとった。そして慧牙を突き放すと、剣を構えたままゆっくりと慧牙の傍から離れるように移動し始めた。
「レイヴィル、あなたの結界は実に素晴らしいものでしたよ。あれほどの結界を連続で何日も渡って張り続けることができるなんて。フレア族は飛竜とお話する能力しか持ち合わせていないと思っていましたが、まさかこれほど強い魔力を持っているとは驚きです。もしかしたら、あなたはフレア族ではないんじゃないですか?」
「それ以上無駄口を叩くな、早く死にたいらしいな」
「あなたの力は私達と同じユーリャ族に近い。それもかなり強い魔力を持つユーリャ族に……」
「黙れ」
「おまけにあなたはフレア族だというのに、飛竜には乗れないらしい……っ!」
言い終わらぬ内にレイヴィルが剣を振りかざして、相手に切りかかった。大きな剣を目にも留まらぬ速さで振りぬく。
「まだ話している途中に攻撃するとは、せっかちな人だ」
「早く死にたくて仕方ないらしいな。ユーリャ族というのはおしゃべりな連中ばかりだ」
お返しとばかりに男はまた魔力を溜めているのか、右手がまぶしく光りだした。その手から閃光が放たれる。ズメウを奇襲された時にみた光の矢とそっくりだった。レイヴィルはその矢を剣で交しながら、再び男に向っていく。矢をことごとく弾かれた男はすぐに剣を両手で持ち直すと、レイヴィルの凄まじい剣技に対抗した。何度か剣のぶつかる音が響き、レイヴィルが男の頭上をとった。けれども男はすぐにその場から離れる。
逃すまいとレイヴィルは剣を左だけで持つと、男に目掛けて右手を向けた。その瞬間、男のいた地面が地鳴りを起こしながら下へと沈む。微かに苦しそうな顔を浮かべて、男はそれでもレイヴィルの攻撃を交して地中へと沈んでいく場所から飛び退いた。
「やはりおかしい。あなたの力はフレア族では考えられない、こんなに強い魔力を持つフレア族などいない。やはり……」
「そんなに死に急ぐか、ならば望みどおり殺してやろう」
男の言葉に怒りが増したのだろうか、レイヴィルの気迫は慧牙にも伝わるようであった。その直後、レイヴィルは数度剣を交え、最後には男が攻撃を防ごうと出した剣をものともせず、そのままに振り落とす。男の左肩に剣がめり込んだ。そのままゆっくりと剣は下がっていき、聖騎士団である男の口から血が噴き出した。
「っ…、これで……終わりだと思わないように」
襲ってきた最後の聖騎士団の一人は死に際にそんな言葉を口にしながら、うすら笑いを浮かべたまま絶命した。
「レイヴィル、ここまで聖騎士団が襲ってきたということはヨハン達のところも…」
「それは分からない。ヨハンの警戒をすり抜けてここまでやってきただけかも知れない」
「私がズメウに戻り、様子をみてきましょうか」
「駄目だ。イノアはこの先もケイガの護衛として働いてもらわねばならない。それに、ヨハンは強さだけではなく、戦術においても相当の知恵がある。そう簡単には負ける事は考えられない。ズメウのことはアデレ村に着けばわかるだろう。もし何かあればアデレ村に伝令がやってきているはずだからな」
「分かりました」
「うあっ!?」
これでようやく終わったと思った時だった。慧牙が剣で突き刺したドゥブルが雄たけびを上げながらこちらに猛突進してきた。巨体には似つかわしくない速さで駆け寄ってくる。慧牙は本能のままに、突進してくるドゥブルから逃れようと走り出した。
「ケイガ!」
でもそれがいけなかった。走り出した慧牙を見て、ドゥブルは向きを変える。完全にドゥブルは慧牙に狙いを定めているようだった。雪のない地面ならばもっと早く走れただろう。だけどここは雪しかない場所である。慧牙は時折転びそうになりながらも、必死で走った。ドゥブルの巨体はもうすぐ真後ろまで迫っていた。
追いつかれると思った瞬間、後ろから一際大きな嘶きが聞こえる。
「うぁぁぁっ!」
振り返ると、その大きな巨体が黒い影のように覆いかぶさってきた。
「大丈夫ですか!?」
何が起こったのか分らなかった。恐る恐る目を開けてみる。とりあえずまだ自分は生きている事に安堵した。けれどすぐに異変を感じる。身体を起こそうにも起き上がれないのだ。うつ伏せに倒れた慧牙の腰辺りまでに、ドゥブルが乗っていた。
「う、動けないっ、……痛っ!」
無理に動こうとすると腰に激痛が走る。
「今すぐに退きますから、少しの間辛抱して下さい」
イノアが血相を変えて駆け寄ってきた。どうやら誰かが慧牙を襲ったドゥブルを倒したらしいが、倒れた先の下に慧牙がいた為に下敷きになったのだ。
「今すぐに出してあげます」
「頼むっ、こいつ重くて、苦しい」
同じく駆け寄ってきたセヴェリに、慧牙は苦しそうに答える。
「レイヴィル、そちらを持ってください」
呆れたような顔つきで近寄ってきたレイヴィルは、イノアの言葉に無言で従うとドゥブルの体に手をかけた。
「せーの!」
イノアとレイヴィル、それにターヴィがドゥブルの巨体を持ち上げて、その隙にセヴェリが慧牙の身体を引き出した。
「……助かった」
「自分だけ逃げようとするから、こんな目に合うんだ」
「なっ、違う! あんなでっかい牛が襲ってきたら勝手に足が動くだろ!」
「弱い奴は逃げることしかできないか。おまけに後先考えずにあのドゥブルに剣を突き刺すしな。頭が悪く弱い奴は、どうしようもないな」
「んだと!?」
「レイヴィル、お願いですからケイガを挑発しないでください。ケイガも、もうあんな無謀な事は二度としないでください。分りましたね? 一人の身勝手な行動で周りも影響を受けることがあるんですから」
レイヴィルの皮肉にすぐに躍らされる慧牙を見て、イノアは二人の間に割って入ると困ったように窘めた。慧牙はイノアの言葉に返事をすることなく、一度だけレイヴィルにきつい視線を送ると、ソリのところまで戻った。
ドゥブルに剣を突き刺した結果かどうかは分らなかったが、ユニコーンの姿はなく、無残にも前方部分が黒焦げになってしまったソリを見て、慧牙は急にそれまでの怒りが萎んだ。口惜しいがレイヴィルの言っていることは間違っていない。何も考えずに怒りに任せて剣を使ってしまった事、突進してくる魔物から咄嗟に逃げたのは間違いではない。自分の行った行動が急に恥かしくなった。
「…悪かった」
慧牙は少し俯いたまま後ろからついてきたイノアとレイヴィルに謝った。
「それにしても、すごい血ですね」
慧牙の姿を見ながら、セヴェリが困ったような顔を浮かべていた。気がつくと、ドゥブルの血がべっとりと身体中についている。髪を触ってみると、頭も赤黒い血がついていた。慧牙は手についた血を鼻に近づけると強烈な異臭を感じた。
「くせぇっ」
「レイヴィル、すぐに次の寝床の洞窟に向いましょう」
「そうだな」
「ケイガを連れて先に行ってて下さい。ソリは多少燃えてしまいましたが、セヴェリの力で燃えた部分を凍らせれば、まだ幾分は走れるでしょう。私達は逃げていったユニコーンを連れ戻してから向います」
レイヴィルの乗っていたユニコーンに跨る。慧牙が跨ったことで真っ白いユニコーンの背が所々赤く染まった。何事もなかったかのように雪原は静寂だけを湛えている。あまりの静けさに、つい先ほどまで聖騎士団と戦っていたことが嘘のように感じられた。視界に手綱を握っているレイヴィルの手が映る。大きくて武骨な手だった。
「あんた、ほんと強いんだな」
走るユニコーンの背に跨ったまま、レイヴィルに話しかけた。
「お前から見ればそう映るのか」
「誰が見たってそうだろ、大した手こずることもなく簡単に……その、倒してるだろ。敵をさ」
敵であろうと、これで何度目だろうか。人が死ぬところを見たのは。元の世界にいた時は一度もそのような場面を目撃したことはない。ここに来てからは立て続けに人の死を目の当たりにしていた。
「殺し合いで簡単だとか難しいだとかなんてことは考えない。一瞬で終わろうが、長くかかろうが戦いの場では常に命を賭けている」
「そっか。俺にはその、命を賭けて戦うだとかってよくわかんねぇけどさ」
「お前はこれまで一度も戦ったことがないのか? 仮にも男なんだろう? それに向こうの世界では人間として生きてきたんだろう?」
「仮にって、俺は正真正銘の男だ! てめぇも、見ただろが。それに人間だ」
レイヴィルにされた嫌なことを思い出した。
「なぜそうも向こうの世界に帰りたがる。理由はなんだ?」
「なんだって言われても、自分の生まれ育ったところに帰りたいのは普通だろ? 俺の家は向こうにあるんだから」
「それだけか?」
「はっ? それだけって、それしかないだろ」
彼の言葉がよく分らなかった。
「ただ家が向こうの世界にあるから、という理由だけなのか?」
「家だって、仕事は……この前クビになっちまったけど、それに家族もいるし」
「家族とは一緒に住んでいるのか?」
「いや、一緒には住んでないけどさ。とにかく俺は元の世界に戻りたいんだって。こっちは俺の知らないことばっかだし、いろいろと暮らしにくいし」
「帰ってやらなければならないことがある、というわけではないのだな…」
嫌なところをついてくる。帰る理由の中に特別重要なことはないと思い知らされているようであった。けれども、元の世界に戻りたいというのは普通のことなのではないのかとも思う。違う世界に飛ばされたら誰しもそう思うはずだと、慧牙は思った。
「……別になんもねぇよ。ただ元の世界に戻って、また職探しするだけだ」
元の世界に戻って、新たな職を探して、一人暮らしを続けるだけ。特にやりたいこともなければ、何かに向って頑張っているわけではない。はっきり言ってしまえば、ただ毎日をなんとなく生きているだけ。それだけだった。レイヴィルに聞かれて、答えていくうちに自分には何にもないということを思い知らされたような気分になり、慧牙は口を真横に結んだ。
そうなのだ、今までもずっと特に何もせずに生きてきた。周りを見れば、夢に向って頑張る人もいれば、将来のことを考えて生きている人達は大勢いた。そして自分はどうかと心の中で尋ねる。けれどもそれに対する答えはなんとも言いようのない無意味なものでしかなかった。ただなんとなく生きているだけ。
こんな意味のない人生を無駄に送ってきたのであれば、このルアグアーレに残って神の子として皆から敬われて生きていくほうがずっと有意義なのではないかと、ふと思う。
「そんなの嫌だ」
「どうした?」
「なんでもない! 独り言だ」
自然と口をついて出ていた。レイヴィルに聞かれて慧牙は慌てて返事を返した。
あり得ない。こんなとこ一秒だっていたくないんだ。それに、俺がここにいるせいで、死ななくてもよかった人達がたくさんいた。なんで、なんでこんな俺なんかの為に。俺なんて生きてる意味なんてないのに。
「…悪かった」
突然、レイヴィルの口からは聞くはずのないフレーズが飛び出してきた。
「なんのことだよ」
レイヴィルが何に対して悪かったのか分らなくて、慧牙はぶっきらぼうに聞き返した。
「ケイガの親を冒涜するつもりなどはなかった。それと、お前に俺が憎んでいる対象を重ね合わせていた。すまなかった」
「……別に、もう気にしてねぇ」
彼はこの旅の間、ずっとその事を気にしていたのだろうか。確かにあの言葉はグサリときた。今でも心の中に引っかかっている言葉。けれどもこれまでに何度も彼に助けてもらったことを考えると、慧牙の心の中は表現のしようのない複雑な気持ちになっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる