僕を勇者パーティから追放しないと、悪役令嬢は死んでしまう ~ヴィアドライ物語~

Ada Maynek

文字の大きさ
39 / 40
第3章『交わる者たち』

第3章・タクヤ(5)

しおりを挟む
「よくぞ、余をバルバレオの支配から解放してくれた! 改めて、礼を言うぞ!」

僕とレアリィとセロフィア、それからトルネッタ姫とマイロナ姫とラベルラ、そしてデュレクトの合計七名は、王宮の謁見の間でガルオン王の前に並んで座っていた。

不健康そうにやせ細った姿をしたガルオン王だが、その甲高い声の調子から察するに、今は活力を取り戻しているようだ。

「余がいけなかったのだ……。余が悪魔の誘惑に乗ってしまったばかりに、ここガルオンだけでなく、周辺国家にまで迷惑をかけた。このつぐないは、せねばならぬであろう」

ガルオン王はうつむく。
このような大国のトップに立つという重責に押しつぶされそうになりながら、誰に頼ることもできず、つい悪魔のささやきに耳を傾けてしまったのであろう。

「勇者殿よ。バルバレオを討伐した際のそなたの活躍ぶり、誠に天晴あっぱれであった。そなたにであれば、ガルオン王国の家宝である、白虎のオーブを託すことができようぞ」

ガルオン王は玉座から立ち上がると、僕の目の前に歩み寄ってから膝をついた。

「どうかこれを、受け取って欲しい」

そして、白虎のオーブを僕の目の前に差し出してきた。

「必ずや、王の期待に応え、魔王を打ち滅ぼして参ります」

僕は両手を差し出して、ガルオン王から白虎のオーブを受け取った。

一時はどうなることかと心配だったが、無事に二つ目のオーブを入手することができた!

僕は心の内で快哉かいさいを上げる。

オーブを僕に渡し終えたガルオン王は、玉座へと戻っていく。

「他の者たちも、それぞれに見事な活躍であった! めてつかわすぞ!」

王はご機嫌そのものといった様子を見せていた。

今宵こよいうたげ……といきたいところであるが、残念ながら余はみずからの後始末を急がねばならぬ。なにせこのガルオンには、戦争を目的に世界中から傭兵ようへいが集まってしまっている。彼の者らを穏便おんびんに解散させると共に、周辺国家へのびも考えねばならぬのだ」

確かに、城下町にはかなりの数の傭兵ようへいが集まっていた。
彼らを納得させた上で立ち去らせるには、大変な労力が必要だろう。

周辺国家へのフォローも大切だ。
プレナド国のヴィラッハ公なんか、相当ピリついていた様子を見せていたし……。

「ささやかではあるが、そなたらには食事の席を用意させて貰った。是非、カバルダスタ大陸のさちの数々を堪能して欲しい」

「……やった! 楽しみ~!」

レアリィの小さな声が僕の耳に聞こえてきた。

そして、王からひと通りの言葉を受けた後で、僕たちは王宮の広間に案内された。
そこには立食形式のパーティの場が設けられていた。

「おおーっ、これは! 噂に聞いていたカバルダスタ風のあれやこれやが……!」

レアリィは目の前に並んだ料理の数々に目を輝かせていた。

「無事に一仕事を終えた後ですもの。この場は食事を堪能しましょう」

セロフィアも珍しく、顔をほこらばせながら料理を口に運んでいた。

「ホッホッホ。こんな贅沢は久しぶりじゃのう!」

デュレクトもレアリィやセロフィアと一緒になって、出された料理を味わっていた。

「……ご無事でなによりでした。トルネッタ姫、そしてマイロナ姫」

僕は葡萄酒の入ったジョッキを片手に、トルネッタ姫とマイロナ姫、それからラベルラの三人が固まっている場所に歩み寄った。

マイロナ姫はさっきから、僕の顔をポーっと見つめている様子だ。
僕がマイロナ姫に向かって軽く手を振ってみると、彼女は慌てるように視線を反らした。

そうだった。
マイロナ姫はどちらかというと、人見知りするタイプだった。

「アンタのおかげで命拾いしたよ……! さすがだね、勇者様!」

ラベルラは手に持ったジョッキを僕の前に差し出す。
僕はラベルラのジョッキに自分のジョッキをぶつけた。

「ラオウール。貴方あなたが勇者となっていたのですね……」

トルネッタ姫が小さくつぶやく。
彼女は僕とは目を合わせようとはしなかった。

こうして落ち着くことが出来た今、彼女の立場について思いやることが出来る。

彼女は、死ぬことが確定している運命のキャラに転生してしまったのだ。
なんとかして生き延びるために、必死に知恵をしぼったことだろう。
よくもここまで辿り着いたものだと、感嘆する。

「はい。先代の勇者グレリオから、聖光法力セイント・プラーナを引き継ぎました」

でも、ここから先のシナリオ進行は、勇者となった僕の領分だ。

「このような場で恐縮なのですが……。トルネッタ姫、マイロナ姫。お二方にはレイアレス王より、帰国命令が出されています」

僕は王から受けた命令書を差し出す。
それを見た途端、「えっ……」とマイロナ姫の表情が曇る。

「こんな命令が出てるだなんて……。トルネッタ。アンタの旅は、王から正式な命令を受けたものじゃなかったのかい?」

僕が示した命令書の内容を見て、ラベルラが驚きの声をあげる。
トルネッタ姫たちの旅が、彼女の独断であったことを知らなかったようだ。

「僕たちはエンシェント・ウルフの討伐にも成功しました。その結果、レイアレス王国では魔獣の爪を用いた新兵器の開発が進んでおります。凶獣の牙を手に入れて頂く必要は、既にありません。どうかお二方には、このままレイアレス王国に戻っていただきたく……」

旅の本来の目的である、べスタロドのおはらいも済んでいるはずだ。
これ以上、トルネッタ姫が旅に出る理由はない。
折角せっかく、こうして無事に生き残ることが出来たのだから、もう大人しくしていて欲しい。

世界の歯車を狂わせるような真似は、これで終わりにして欲しい。

「……もう、これで私たちの旅は終わりなのですか? トルネッタ姉様……」

マイロナ姫がトルネッタ姫の服の袖を引っ張り、顔を見上げる。

そうだった、本来のマイロナ姫は、王宮を抜け出して勇者パーティに加わるような冒険心にあふれるキャラなのだ。
再び窮屈な王宮に戻ることは、耐えがたい苦痛だろう。

「一緒に来られますか?」

僕はマイロナ姫にそっと右手を差し出していた。
レイアレス王からの「二人の王女を帰国させよ」という命令に背いてしまう形にはなってしまうが、本来であればマイロナ姫は今頃は、勇者パーティの一員であるはずなのだ。

マイロナ姫のあるべき姿とは、僕たちと一緒に旅をしている状態のはずだ。

「よろしいのですか!? 勇者殿!」

マイロナ姫は顔をパッと輝かせる。
僕の差し出した右手を、手に取ろうとしたとき――。

「!?」

パンッ、という音と共に、僕の右手は強く払われた。

「トルネッタ姉様!?」

僕の手を払ったのは、トルネッタ姫だった。

「……王からそのような命令が出ているのであれば、それに従いましょう、マイロナ。今頃はランドル号がイネブルに停泊しているでしょうから、それに乗船して帰国します」

トルネッタ姫は、睨みつけるような表情をこちらに向けていた。

「姉様……」

マイロナ姫の表情は、再び曇ったものに変わる。

「……ご承諾いただき、なによりです。トルネッタ姫」

マイロナ姫が僕たちの戦力に加わらないのは残念だが、変に話がこじれても厄介だ。
何せ目の前にいる相手は、僕と同じ転生者だ。
大人しく帰国すると言っているのだから、僕にとってはそれで十分だ。

僕はラベルラを勧誘しようと思い、彼女に向かって口を開いた。

「ラベルラ。僕たちと一緒に旅をしないかい?」

しかし彼女は首を横に振った。

「すまないねえ。アタイはこの二人に恩も義理もある。二人がレイアレス王国に戻るというなら、アタイはその道中に同行させて貰うことにするよ」

ラベルラが仲間になる経緯を踏まえると、彼女がそう答えるのも仕方ない。

「そっか……残念だ。では、これで僕は失礼します」

僕は頭を下げて、三人のいる場所を離れた。

「これ美味しいよ! 食べてごらん、防御くん!」

「ラオウール様! こちらも良い味ですよ!」

レアリィとセロフィアが僕に向かって声をかける。

本来のシナリオと違って、今の僕の仲間はこの二人だけだ。
これから行く先々で多くの苦難が待ち受けているだろう。

だけど僕たちが力を合わせれば、きっと大丈夫だ!

「今、行くよ!」

次に僕たちを待ち構えてるのは、シナリオ第四章の舞台となるヨルトザート大陸だ。

――僕たちの旅は、まだまだこれからだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...