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第1章
§5‐2 嫁ぎ剣となりて
しおりを挟むそれにしても問題なのは、いくら人目がないからといって知り合ったばかりの他国の王にこんな馴れ馴れしくお話して良いわけがないということだ。
外交やお喋りが苦手な自覚はあるが、普段はこのようなことにはならないのに、ゼフィロス王と会ってから調子が狂ってしまった。
その原因には見当がつかないが、伴侶となる相手だから……なのか?
「ゼフィロス王、お気遣いいただいて申し訳ございません。責めるつもりなど全く無かったのに……まるで子どものようにいじけてみっともないところをお見せしました」
「いや、さっきのは私が悪かった。勝手に王子の決断を推し図ってしまった。……あまり良い返事を期待していなかったのもある。許していただけるか」
「もちろんです……っ」
俺は強く頷いた。ゼフィロス王は安堵した様子で出したお茶を飲んでくれた。
彼が茶器に口を付けたのを見て、ようやく俺も深く息を吐き出すことができた。二人の間に、ようやく平和で穏やかな時間が戻ってきたように感じた。俺は気になっていたことを尋ねる。
「ゼフィロス王は、何故腕っぷしの強い人を伴侶になさりたいのですか?」
「……話せば長くなるのだが、ゼフィロスの王が世襲制でないのはご存じだろうか」
「はい」
「実力と民の評価により決定するため、“世継ぎ”が不要なのだ。それで結婚は考えていなかった。しかし、家臣たちがしつこく縁談を持ってくるので、『俺より、もしくは同じくらい腕っぷしの強い者』を条件に出したのだ。縁談を持って来させないためではあったが、今思い返せば本心も入っていたのだと分かる」
「本心……」
彼の言葉の端々に含まれた強い意志と、隠しきれない寂しさのようなものにひどく惹きつけられた。
「あなたの強さはミレイから聞き及んでいた。そして実際に対峙して分かる。あなたは強い。……鍛錬なさってきたのが伝わってくるのですよ」
「……!」
ゼフィロス王の言葉に心が震えた。素直に嬉しいと思った。そして俺もこの方の強さを感じている。謙遜していらっしゃるが、実力は俺よりもずっと上だろう。
俺の顔が緩んだのを見たからか、ゼフィロス王は少し安堵した表情を見せた。
「……何故、ゼフィロス王国に来る決心をしてくださったのか、お聞きしても?」
俺の覚悟を受け取ってくださったゼフィロス王だが、未だ決断した理由は気になるようだ。
「スフェーン王国を守るため、というのがやはり大きな理由ですが、ここではない何処かへ行ってみたいと思ったのです。そうすれば自分が変われるような……そんな気がして」
正直な気持ちを伝える。この方が相手だからこそ、取り繕わずに言える本音だった。
「……そうですか」
「曖昧な理由で申し訳ございません。その“何処か”がゼフィロス王国で嬉しいです。ずっと足を運びたいと思っていたので」
「王子は我が国の特産品や武器などを気に入ってくれていると聞きました」
「はい! それはもう、心躍ります!」
それから俺はゼフィロス王国の特産品やスフェーンを訪れるゼフィロス国民について熱く語ってしまった。一度口を開くと止まらない。
よくよく考えれば国王なら全て知っている事ばかりで、話しているのが段々と恥ずかしくなってきた。
「す、すみません……国王である御方にこんな話を聞かせてしまって」
「何故謝るのです。とても嬉しいですよ。民がスフェーンから帰ってくると皆楽しそうに土産話をするのにも頷ける。スフェーン王国では種族関係なく暮らして商いができる安心感があるのだろう」
ゼフィロス王の眼差しは、穏やかで深く、俺の興奮を優しく受け止めてくれた。
「ありがとうございます」
俺の話を穏やかな表情で聞いてくださる優しさ、そして民を思う温かい心に触れられたのが嬉しい。
会話が途切れてお互いに残りのお茶を飲み干す。夜明けに備えて眠らなければと思うが、もう少しお話ししていたい気もする。
「……夜明けが来たら、私も全力で戦います。王子の生まれ育った国を守りたい」
穏やかな口調だがその意志は固く、誰にも曲げられそうにないというのが分かる。ゼフィロス王の側に仕える者たちは日々気が気でないのだろうと想像する。
そして、自分もその一人になるのだろうという予感も。不思議と恐れはない。寧ろ、彼の隣で戦い、支えるという未来に言い知れぬ高揚を覚えていた。
「どうかよろしくお願いいたします、ゼフィロス王」
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