8 / 95
第1章
§6‐2 背を守り合う花と王
しおりを挟むグレンside
王子の戦いを見て、今まで見てきた誰よりも綺麗な剣捌きだと思った。
基本を大事にしつつ、舞を踊るように敵の間をすり抜けていく。そしてあっという間に切っている。素早さも一級品。
それでいて下半身はとても安定していて、まるで大樹が地に根を張っているようだ。これは一朝一夕で身につくものでないことは確か。
力比べでは自分が勝てるかもしれないが、勝負したら負ける可能性もあるだろう。
そして味方の動きもよく見ている。押されている隊への援護が的確だ。
また、俺の間合いも少し見ただけで把握できたようで、並んで戦っていてもうっかり互いの邪魔になることなく、何かあればすぐに助けに入れる距離を取っている。勘も優れているようだ。
戦いの最中、ライゼル王子のそばに呼ばれ援護を頼まれた時、得も言われぬ欣喜が胸の奥を覆った。
「……アヴィエント・グーぺ〈凍土の棘〉」
ものの10秒ほどで放たれた広範囲魔法。敵の足元から氷の棘が出現し、動きを止めている。
これほどまでに洗練された広範囲魔法はなかなかお目にかかれるものではない。
彼の体から放たれた魔力の奔流を、肌で感じる。その圧倒的な才能と実力に、俺はますます惹かれていく。
振り向きざまに見た詠唱するライゼル王子の姿は、まるで夜空に煌めく一番星のように俺の目に焼き付いた。
戦場に咲く、など陳腐な異名だと思っていた。だが今、この瞬間、俺はそれを心から肯定できる。
彼の瞳に映るのは、「民を守る」という揺るぎない覚悟。その美しさと強さに、俺はただ息を呑む。
そして、魔法を発動し、安堵した彼の無防備な横顔を見て衝動を感じる。
これが運命というものならば、掴みたい。
自分の心臓が、力強く、熱く鼓動しているのが分かる。戦場で死と隣り合わせの瞬間に、俺の心がこれほどまでに強く甘く揺さぶられたのは、後にも先にもこの時だけだろう。
まるで、凍える冬の大地に咲く一輪の花。
その美しさと、凛とした強さに、俺は心を奪われていた。
そしてその花を、生涯かけて守り抜きたいと、心の底から願ってしまったのだ。
国の危機を救うとはいえ、彼がいなくなっても相応の代わりなどいないのではないか。
頭の中ではすでにこの戦いを終わらせた後のスフェーン王国との未来へ向けた要談に思考が傾いている。自分で望んだこととはいえ、これほどの人物を差し出せというのは酷ではないのか。それとも彼の兄王子達は彼以上の能力を持っているのだろうか。
「ゼフィロス王、ありがとうございます」
ライゼル王子が安堵した表情を見せる。あれだけの魔法を使っても魔力にはまだ余裕がありそうだ。
しかし……上気した頬と破顔が相まって、艶やかな雰囲気が出てしまっている。
「礼には及ばぬ。しかし……少々減らしすぎではないか?」
邪な気持ちが悟られぬよう、努めて冷静に返した。ライゼル王子は目をくるっと丸くして、唇を結んだ。
「敵将の首はお任せしたいと思ったのですが、それでご勘弁いただけませんか」
「よいのか?」
「えぇもちろん。ですが最後まで私をお側に置いてくださいね」
この……ッ!!思わず一喝、喉から出かける。
「……そういうのは、自分から伝えたいタチなのだが……」
「どうされました?」
「いや、なんでもない」
伴侶を持つなど、ほんの数日前まで拒絶していたくせに何を言おうというのか。そんな俺が今、戦場で心乱され、そしてその相手に必死になっている。自分自身を詰り、王子の指定した敵将を見据える。
???side
目の前の相手は昨日の面影など薄らも無く、猛々しく自軍の兵達を薙ぎ払っていく。
一体何が起こっているのか。
天幕の周辺は兵達が右往左往し、我の名をしつこく呼んでくる者もいる。五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!!
――――――花守の騎士。
それが今、戦場で暴れ回っている男の異名だ。
災害に見舞われ兵力を砦に回せない状況で、我が国ノグタムの侵攻を食い止めている原因。
王子という身分でありながら騎士団に混ざって戦場で剣を振るう愚か者。
幾度となく侵攻を阻止され、何人もの指揮官が軍での立ち位置を追われた。
巫山戯た異名は、剣筋の美しさから戦場に咲く花のようだと何処ぞの者が言い出したことから始まり、豊かな土地を持つスフェーン王国を守る騎士としての働きが讃えられ、今ではノグタムで知らぬ者がいないほどになった。
それだけに飽き足らず今度はゼフィロス王国からの援軍だと?
巫山戯るのも大概にしろと部下に対して罵声を浴びせたのはついさっきのこと。
だがしかし脅威は目前に迫ってきていた。
部下からの報告によると、ゼフィロスの援軍を率いているのはとてつもなく強い武人らしい。
ゼフィロス王国の情報は少ない。国交を閉ざしているだけでなく、我が国とは険悪で人や物の行き来はほとんどない。数年前に代替わりがあったという情報は入っているが、王の名前と雑な特徴しか分からない。
グレン・フローライト。
実力と功績で王が選ばれるゼフィロス王国、現国王。
並外れた戦闘能力を持つ狼獣人だと聞いた。
視界の奥の方にいたはずの敵陣は、今や目を細めずともよく見えるところまで迫ってきていた。
花守の騎士、そしてその隣で彼奴の身を守る獣人の戦士。特徴だけでいえば、ゼフィロス国王と同じような特徴を持っている。
しかしそんなはずはない。国交を閉ざしていた国が援軍を出したことだけでも驚きであるのに王自ら出陣などありえない。
そんな指揮官の考量は見事に外れることになる。
ノグタム王国は大敗し、全軍撤退を余儀無くされる。
スフェーン王国第三王子ライゼルと、ゼフィロス王国国王グレン率いる連合軍の勝利であった。
66
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る
竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。
子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。
ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。
神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。
公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。
それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。
だが、王子は知らない。
アレンにも王位継承権があることを。
従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!?
*誤字報告ありがとうございます!
*カエサル=プレート 修正しました。
虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。
竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。
万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。
女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。
軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。
「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。
そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。
男同士の婚姻では子は為せない。
将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。
かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。
彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。
口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。
それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。
「ティア、君は一体…。」
「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」
それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。
※誤字、誤入力報告ありがとうございます!
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
ぼくが風になるまえに――
まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」
学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。
――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。
精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。
「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」
異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。
切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。
ダレン×フロル
どうぞよろしくお願いいたします。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる