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第2章
§18‐2 二人と一頭の夕食
しおりを挟むライゼルside
突如現れた小さな龍。
朱色から真紅へと体の部位によって赤の種類が違う。
まるで生きた炎のようだ。初めて見た龍に腰を抜かしそうになる。
「ほら、ライゼルが驚いてしまっている」
「ライゼル? ……あぁ! お前の伴侶となった美男子だな? 驚かせて悪いな~、俺ちゃんはサノメ。グレンと契約を結んでいる炎龍だ。よろしく!」
「……よ、よろしくお願いいたします」
当然、深々と頭を下げる。
伝説でしか聞いたことがない、御伽話の存在を目の前にして上手く思考が回らない。心臓が鼓動を早めて胸を強く打っている。
グレン様は軽い挨拶をするサノメ様に呆れた様子で、自分の分のデザートを勧める。
勧められるがまま、サノメ様は喜んでむしゃむしゃとデザートを頬張る。……不敬だと承知しているが、その様子が可愛くて胃の辺りがムズムズする。
口の中にカスタードクリームをいっぱいに頬張った姿は、まるでやんちゃな子犬のようだ。可愛い……!!
「んむ!? これは前の甘味より質が良いし、食べたことのない味わいだの! や~、グレンがデザートの奥深さに気付かぬから料理長が臍を曲げておったのだろ? それはいかんな~、俺ちゃん機嫌悪くなって色々燃やしたくなっちゃうかも?」
「冗談でも辞めてくれ。皆が怖がっているだろう。大丈夫だライゼル。契約しているから俺の意思に反してそんなことはできない」
「ちぇ。相変わらずグレンは揶揄い甲斐がないわ。そういえばライゼルちゃんよ、土の神と水の神たちがお主を誉めておったよ」
「えっ」
「今日の昼、ちゃんと挨拶してきたんだって聞いたよ~えらいえらい。神たち、意外とそういうの喜ぶからね。もしかしたらいいことあるかもね」
「そうだったのですね……失礼がなかったようで安心いたしました。教えてくださりありがとうございます、サノメ様」
「あややっ、俺ちゃんのことはサノメって呼んでほしいなア~、グレンの伴侶だしさ。じゃないと色々燃やしたい気分になっちゃうかも……?」
その言葉は、炎龍による冗談だと分かっていても、思わず体が強張る。
「エッ、あ、分かりました。善処いたしますので燃やすのだけは……」
「サノメ、辞めろ」
「んふふ、ライゼルちゃんは可愛らしいな。俺ちゃん気に入っちゃったよ~!」
サノメ様はそう言うと、料理長に今後のデザートの要望を伝えて、「じゃあまたの~」とあっという間に帰ってしまった。
俺は強張っていた体を緩めて、視線でグレン様に説明を求めた。
「……すまない。伝えるのを忘れていた」
「炎龍様と契約なさっていることを言い忘れるなんて! ひどいですよっ」
「許してくれ。俺とて色々と複雑なのだ」
ぐしゃり、と耳のそばの毛を掴んで苦々しい顔をしている。その砕けた仕草と、俺にだけ見せるような一人称を聞いて密かに胸が疼く。
「契約してくれたことはありがたいが、サノメの力は己の力ではない。加護は自動で発動してしまうから仕方ないとしても、これまで戦闘で頼った事はないし今後もできるだけ頼りたくはない。ただの良き友人でいられるのであればそれが一番嬉しいと思っている」
……グレンらしい理由だ。
力を使わないなんて勿体無いと言われるだろう。サノメ様とお会いしてみて、こういう考えだからこそ契約したいと思われたのではないだろうかと感じた。俺の勝手な邪推だが。
俺はそっとグレンの手を取る。厚い手のひらは、少し冷たかった。
「グレンらしい理由ですね」
「……今、名前、」
「あ」
無意識の呼び方に片手で口を覆う。グレン様……グレンは俺の様子を見て微笑んだ。
「ライゼルが呼び方を変えてくれたからな、今日ばかりはサノメに感謝しよう」
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