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第2章
§19‐1 苗植えに珍客来襲
しおりを挟む翌日、快晴に恵まれたので心躍らせながら庭へ向かう。今朝の食事もグレンと一緒で穏やかなひとときだった。
「ご機嫌ですな、旦那」
「ん? そうだな、今日の朝ごはんも美味しくてさ。一応鍛錬しているけれど、太らないか心配だ」
そう、今朝から習慣の走り込みを再開した。
城の周りをぐるりと数周回るだけなので護衛はいらないと言おうとしたが、グレンとの約束を思い出しブラスとティラと一緒に走った。
二人と一緒に走るのはスフェーンを出て以来だったので懐かしく楽しめたし、走った分余計に朝食も美味しく感じられた。
「いやぁ、あれだけ毎朝走れば大丈夫でしょ」
「同感です」
「そうかぁ?」
「あれ以上距離を伸ばすなら馬に乗りましょうぜ」
眉をハの字にして嫌そうな顔をするブラスに肩を竦めて見せる。
今後は城に近い城下や畑のある村まで行こうと思っているのだが、護衛を置いていくとグレンとの約束を破ることになるし致し方ないか。
アリュールは喜んでくれるだろうからまあいい。
庭に着くと先に準備をしていたタイクと、数人の城の係たちがいる。
「やる気満々だね、タイク。彼らは?」
「彼らは是非ともライゼル様のお手伝いをしたいと志願した者たちです! どうぞこき使ってくだされ」
「え、いつもの仕事は大丈夫なのか?」
「大丈夫でございます、そのあたりは上手いこと配置しておりますゆえ」
「そうか、無粋だったね。皆よろしく頼む」
皆ニコニコと俺に返事をしてくれて、より一層楽しみな気持ちが高まる。
早速スフェーンから持ってきた種のうち三種類を配る。芋、葉物、根菜が育つ種だ。植える前に下準備が必要なものは昨日のうちに完了している。
手伝ってくれる皆に種芋と種を渡し、それぞれ分かれて土に埋めてもらう。終わったら皆には少し距離を取ってもらい魔力を温めることに集中する。
「――――二アール・ゼンティオーク〈大地の子よ、日を求めん〉」
夕日色の光が土に注がれ、埋めた種から目が出てくる。
全ての苗が十分に土から顔を出すところまで魔力を注いでから魔法を止める。
「……よし、上手くいったみたいだ」
「ほんとだねぇ~よくできた魔法だねぇ~」
「ありがと……う……?」
間延びした声が自分の肩口から聞こえてきて、反射的にお礼を言って声の主を見ると、そこに浮かんでいたのは水色の鱗を輝かせている小さな龍だった。
完全に思考が止まった俺に、その小さな龍はふよふよと弧を描いて飛び、尚も話しかけてくる。
「君がサノメが言ってたライゼルだよねぇ~。初めましてぇ、僕はカウカだよ~」
「……」
「あれ? 昼寝している間に話す言葉変わっちゃったかな?」
「……いえ……通じております、ただ……あまりの驚きで……」
上手く回らない口をなんとか動かして返事をする。
俺の背後にいるみんなも驚いて固まってしまっているようだ。特にブラスとティラは俺と同じように龍を見た経験はないはずなので、より一層驚いていて目玉が飛び出そうだ。
サノメを知っている城勤めの係とタイクも驚いてはいるが、二頭目の龍の出現に対する驚きのようだ。
「気配が全く感じられず……驚きました」
「ん? 水の神にね、ちゃんと気配を抑えて皆の前に出ないと驚かせるからって言いつけられているんだ~。あ、サノメは火の神に何回も怒られているけど直さないだけだよぉ」
気配があろうとなかろうと驚くことに変わりないのだが、神や神の眷属に言ってもしようのないことだ。
水の神に言われて、ということはこの龍は水龍なのだろう。現状、機嫌が良さそうなのが何よりの救いだ。
「本日はどうしてこちらに……?」
「あれぇ言ってなかったっけ~? 君と契約を交わしにきたんだよ~」
……助けてくださいグレン。俺だけではもう対処できません。
ふらつく頭をなんとか抑えて、タイクにグレンに会えるよう急ぎ取り次いでもらうことしかできなかった。
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