【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第4章

§33‐3 剣舞

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 幕が閉じ切ったところでグレンの身体を確認する。


「どこか怪我は!?」


 グレンの服を掴む指が小刻みに震える。


「無い。お前のおかげだ」


 人目も気にせず、グレンに抱きついて胸元に顔を埋める。
 汗と、微かな炎の焦げた匂い、そして彼自身の落ち着く香りが恐怖で震える身体を包む。

 太い腕が背中に周り、頭も一緒に撫でてくれる。まるで壊れ物を抱くように、それでいて力強く抱きしめられる。彼の心臓の音が、俺の耳に直接響いてくる。

 興奮していた頭が落ち着きを取り戻していけばいくほど、身体が冷えていく。

 ……もしかしたら、グレンを失ってしまっていたかもしれない。その想像が、内臓を鷲掴みにするような激しい恐怖を呼び起こす。


「本当に……良かった」
「すまない、油断した」


 彼の声には、深い自責の念が滲んでいた。ふるふる、と首を横に振る。

 まさかグレンの結界魔法を破ってくるなんて想像できない。


「お二人とも、一体何が……?」
「タイク。そこの暗器を回収して分析するよう指示を」
「ま、まさかッ」
「俺の結界を抜けてきた。ライゼルが落としてくれたから助かった」


 駆け寄ってきたミレイとタイクが事情を聞いて愕然とする。しかしタイクは長年仕えている事もありすぐに動いてくれる。


「お二人ともお怪我は無いのですね!?」
「うん、大丈夫だよ」
「……すぐに兄上に報告し、調査いたします」
「頼む」


 この後はパーティーが控えている。そちらでも警戒をする必要があるだろう。

 正直、中止した方がいいのでは無いかとも思う。しかし国交を開いたばかりのゼフィロス王国としては避けたいところだろう。どちらにせよ、俺はグレンの決断に従おうと腹を決めていた。


「この後は少し準備に余裕がある。一度部屋に戻ろう」
「分かった」









 回廊を通って部屋に戻る間、手を繋いで歩いた。先ほどの喧騒が嘘のように静かな廊下に、二人の足音だけが響く。会話はひとつもしなかった。

 私室の扉を開けて、俺を先に中へ入れてくれる。

 扉の閉まる音がすると同時に、背後から抱きしめられる。


「どうした……?」


 グレンは黙ったまま、少しの間動かなかった。腕がかすかに震えている。俺の肩に顔を埋める彼の、浅く、速い呼吸が伝わってくる。

 しばらくして俺の身体を離して自分の方へ向ける。痛みに耐えるような表情を見ると、俺の胸も痛む。


「……今日、生まれて初めて死ぬのが怖いと思った」


 彼の言葉に目を見開く。


「心から守りたい、愛する者と出会うとは、こういうことなのだろうな」
「……俺も、怖くて堪らなかった。今まで戦場で何度も経験してきたはずなのに」


 騎士団の部下や仲間と、グレンと、何が違うのだろう。どちらも大切な存在には違いないし優劣をつけたいわけでもない。すぐに答えを導き出せない自分に情けなさを感じる。

 しかし今日感じた恐怖は父上が病に倒れた時と近かったような気がする。友人と家族では、何かが違うのだろうか。

 頭の中で思考がぐるぐる回る。グレンが徐に言う。


「ライゼル、二人だけの約束事を作ってもいいか」 
「どんな……?」
「これから先、一緒にいれば喧嘩をすることも口をききたくない時もあるだろう。だが、その時々の別れの挨拶だけはしっかりしよう」
「……そうだな。もしかしたら、それだけでも少し心は軽くなるような気がする」 
「じゃあ、約束だ」


 グレンの右手と俺の左手が一指ずつ交互に絡む。彼の指先の熱が、俺の冷えた指にじんわりと移っていく。

 交わした約束が強くなるようにと願う。

 そして、陽だまりのような優しい笑顔でキスをしてくれる。柔らかく、触れるだけの唇。

 愛する人がいる限り、不安や恐怖が無くなる日など来ないだろう。

 それならばせめて、悔いの無いように生きていきたい。

 グレンの提案した約束を俺なりに噛み砕くと、不思議と胸の騒めきが収まっていくのだった。

 






 
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