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第4章
§35‐2 おあずけ?
しおりを挟むグレンと一緒に部屋へ戻り、着ていた服を剥ぎ取るように一気に脱ぐ。重い儀礼服を脱ぎ捨てると、ようやく自分に戻れたような解放感を得る。
幸せを感じられた一日だった。しかし同時に、愛する人を失う怖さを知った。相反する感情が胸の中で綱引きをしている。
明日、といっても日付が変わったのでもう今日なのだが、会議のことを思うと肩が凝る。無意識に力が入っていたのか、首筋が石のように硬くなっている。
まずは服を脱いで、幸せと恐怖の混ざった扱いづらい気持ちを真っさらにしたかった。
「今日は色々なことがあったな」
「うん。濃い一日だったよ。忘れられないね」
「ほら、服は任せて風呂に入ってしまえ。そのままだと寝てしまうぞ」
「……グレン」
俺がソファの背に乱雑に投げた服を手に持ち、ハンガーにかけてくれるグレン。彼の所作は丁寧で、まるで俺の身体を扱うかのよう。
手を動かしながら彼の名を口にした俺を見る。
俺はしばし唇を結んだまま、喉の奥で言葉を転がし、彼を見つめる。
「グレンは、最後までしたくない……のか」
先ほどの執務室で、俺の理性を試すような、いのに少し意地悪な視線を向けられたことを根に持っている。
グレンはすぐさま服を置いて、俺の両手を握る。
「そんなわけがないだろう」
グレンの低い声が、部屋の空気を震わせた。
「本当は今夜、予定が入って安心したんじゃないのか」
体を寄せてくるグレンをキッと睨んで言う。睨んでいるつもりでも、瞳の奥は潤んでいるのが自分でも分かってしまう。
「……分かった。白状するから、怒らないでくれ」
少しだけ耳を倒したグレンがしおらしく白旗をあげた。俺は「述べてみよ」という態度で腕を組んで話を聞く。
「先ほどの会議がなかったとしても、部屋に戻れたのは深夜だっただろう?」
「それは確かに」
「……初めての夜は、たっぷり時間をかけてお前の負担にならないように愛したいんだ」
俺の頬に手を添えて機嫌を伺うようにそっとキスをしてくる。……まだだ。
「もう充分解されてる。……グレンのせいで、今も後ろが疼くんだ」
「そ、れは……すまない。だが、どうか許してくれ」
「……」
「……なぁ、頼む。――――……ライ」
「ッ! ……ずるい」
グレンが初めて俺のことを愛称で呼んだ。
その響きは、他の誰にも聞かせたくない。そんな気分にさせられる。
また、今日が忘れられない日になる理由がひとつ増えた。
俺はすっかり毒気を抜かれ、小さくため息をつく。抵抗の力が、糸が切れるように抜けていく。
「……あまり待たせたら、怒るからな」
「あぁ……っ、なるべく早く時間を作ろう。約束する」
許した合図でグレンの首に腕を回す。大きな身体に包まれると、風呂に入るよりもずっと癒される。
彼の力強い腕の中にいると、一日の疲労がなかったのように霞んで消えていった。
機嫌が直った俺はグレンに言われた通り風呂へ向かうのだった。
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