【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第4章

§36‐2 暗雲

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 なるほど。アリュールの仮説によると、魔法をかけられたのはグレン本人。

 そして暗器を高速で飛ばす魔法だけ使用し、磁石のように“的”であるグレンに飛ばした……と。

 その仮説通りならば、暗器に残った魔法の残滓が通常より少ないことにも頷ける。

 ようやく敵の策が見えてきた。そして同時に俺の至らなさも露見する。

 ずっと傍にいたのに、グレンに魔法をかけられていたのに気づかなかったなんて。

 自分自身に腸の煮えくり返る思いがして、全身の血潮が逆流し頭がふらつく。俺は額を手で押さえながらフーベルに言う。


「もしそうなら、グレン本人を解析しないといけないんじゃないか」


 俺の言葉にフーベルと魔法兵達がハッ!としてグレンを見る。


「グレン様失礼いたします」
「構わん。調べてくれ」


 魔法兵がグレンを囲んで解析をする。全員が固唾を飲んで見守るが、十数秒経過しても反応は見られなかった。


「反応がなかったということは、グレン様が身につけていた何かに仕込まれた可能性があるやもしれませぬ」
「剣舞の衣装か……もしくは俺の後ろにあった舞台道具かもしれん」
「調べます! しばしお時間をください」
「明日以降で構わない。皆無理はするな」


 グレンの言葉にはきはきと返事をしたフーベルたちはさっそく調べ始めた。無理をするなと言って聞く方が難しい状況だ。王が狙われたのだから。

 そうして、ブラスはそのまま騎士団と混ざって調査、ティラはアリュールと共に旅の道中で必要なものや食べ物を揃えに行った。








  俺とグレンはすっかり暗くなった回廊を歩いて私室に向かった。今日はもう緊急事態さえ起こらなければ執務は無い。

 まだ夜は始まったばかり。回廊の窓から見える闇は深く、星々の瞬きが遠い。

 俺は昨夜「待たせない」と言ったグレンの背中を見つめた。

 先ほどの頭のふらつきが完全に収まっておらず、普段ならば話しながら歩くのに、静かだ。互いの靴音と、自身の心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。

 私室のドアを開けて俺を先に入れてくれる。お互いにジャケットを脱いでクローゼットに仕舞い、シャツとズボンの身軽な格好になる。

 特に示し合わせることなく二人でソファに並んで座る。

 俺は身体を右側へ倒し、グレンに体重をかける。左腕が背中を回り俺の頭を撫でる。


「何か気に病んでいるのか」


 グレンは俺の感情の機微に敏い。元々の気質も手伝っているのだろうが、ともにいる時間が増えたことで顕著になった。


「うん、そうだね。正直気分が悪い」
「……何を言っても無駄かもしれないが、言ってもいいか」


 俺は肯定の代わりにグレンの顔を見た。



「俺のために心を砕いて、身を挺して守ってくれていること、心から感謝している。……俺といることで辛い思いをさせるのはすまないと思う。だがそれでも、俺はお前を手放すことは命尽きるその時までない。例えお前が泣いて叫んで懇願しても、絶対に俺の傍から離れさせることはできない。先に謝っておく。許してくれ」



 あぁ……そうだ。もう俺たちは離れられないんだ。

 なんて苛烈な愛の言葉。

 しかし俺にとっては救いでもあり、命綱になってくれる言葉だ。

 互いを大事に想うがゆえに、これから先、命尽きるまで己の不甲斐なさに苦心し続ける。

 そのように忍耐を強いられようとも、この絆を断ち切るという選択肢はない。

 それならば、腹を括るしかないのだ。



「言い返すようで悪いけれど、俺は死んだらまたグレンを探してつかまえに行くよ」
「あぁ……それはいいな。俺もそうするとしよう」



 言葉として姿を現した狂気じみた愛を二人で笑いあいながら、その熱に身を委ね口づけを交わした。 

 甘く、深く、二人の決意を確かめ合うように。

 



 
 
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