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第4章
§37‐4 渇愛に結ぶ花の契り*
しおりを挟むグレンは身体を繋げたまま優しく抱きしめながらひっくり返す。
枕に顔を突っ伏す形になり、息が苦しくて肘をついて酸素を探した。
少し休ませてくれそうな様子だったので安堵したのだが、グレンが再び俺の腰を持ち上げた。
四つん這いの格好にさせられて、嫌な予感とともに背中を汗が伝う。
「グレン……? ちょっと、休憩、させて」
「それはできない相談だな。大丈夫だ。ライは体力があるからな」
「え、……嘘だろ。っひ、いあああぁぁッッ」
「ハァ……まだまだキツいな」
衝撃で視界の端に星が飛んだ。
四つん這いといっても、手に力が入らないので胸はべったりとベッドに張り付いていて、尻だけ持ち上がった状態だ。
ぱんっぱんっぱんっ、と容赦ない一定の速度でグレンの屹立が入ったり抜けたりを繰り返す。
何がまずいかというと、この姿勢、今までの比ではなく一番奥までグレンの欲が入り込んでくる。
はじめのうちはそれこそ痛みすら感じ、本気で止めてほしいと思った。しかしそれも数回打ち付け続けられると、びくびくと腹の奥を快感を感じる場所に無理やり作り変えてしまったようで。
「ああっああっ! やっ、奥だめ!」
「フッ、く、……本当にいや、なのか?」
「んんんぅ……気持ちよすぎるからぁ……」
「なら、問題ないなッ」
「ひ、ぃアッ!!」
グレンが一等強く屹立を打ち込む。はふはふ、と拙い呼吸。まるで水に溺れそうな感覚に襲われ、涎が垂れるのも構わず息をするので精一杯になる。
もう何なのかも分からない液体をちょろちょろと零し続ける自身の欲は柔らかくなっているのに、気持ち良さに終わりは見えない。
「あぁ、やぁ~~ッ、またいくっ、いっちゃうから、ぐれんンンッ」
「くっ……!」
「ッ!? やっ待って、いったからッ今、むりっ、ああっあぁぅ! 動かな、だめ、ェッんく、ぅ……っ」
「ハー……、すごいな」
大きいままのグレンの欲は絶頂を迎えたはずなのに一向に萎む気配がない。
俺が気をやったのに構わず腰を動かされ、一瞬意識が飛びかけた。あれは本当にまずい。死ぬかと思った。
グレンは一度動きを止めて、俺の背中を舐める。きっと汗だくで決して綺麗ではない背中を、労わるようにぺろぺろと。
「あせ……かいてるから……だめ」
「ほう……? まだ余裕がありそうだな」
「余裕なんてない……もうやり過ぎ……ぃうんン!」
グレンが「逃がさない」とでも言うように優しく俺の両手に自身の手を重ねたかと思ったら、俺の背に体重を乗せ、再び抽挿を始めた。
「アァッ!! ああっ、うぁッグレンッ強い! あぁあぁぁぅうう」
「まだまだたくさん、注いでやるからな」
「も、もうっ入んないッ……あぁっんんッ!! やあっアッ、いく、いく……ッは、あ!」
「愛してる……ライ」
グレンの牙が、俺の後ろ首あたりに立てられ、舌がしゃぶるような動きで追い立ててくる。愛の言葉ですっかり擦り切れた頭の中。理性はすっかりどこか遠くへ姿を消した。
「おれ、もッ……すきっ、だいすきっ」
「そうか……嬉しいな」
「アァっ、グレンッ、ぐれんっ! ひ、ぁっ、ンンッうあぁッでるぅっ」
「……俺もそろそろ、出すぞ……ッ」
「ちょうだい、ぜんぶ、中に出して……ッ! あっあっ、ッン~~~!!」
最奥を穿たれて背筋を走る強烈な快感に支配される。そのまま俺はしばし息を詰まらせ、快感の果てに意識を飛ばした。
――――温かい。
ぼんやりと目を開くと、湯船の中だった。
グレンに後ろから抱きかえられる格好で、ゆっくりと意識が浮上する。
「う……」
「起きたか」
「あったかい……」
グレンの顔が見たくて、重い身体をまるでナメクジのように動かしながらなんとか横向きになる。
左耳でとくん、とくん、と響く心音を感じながら顔を見上げると、優しいキスが降ってくる。
「……すまない、やりすぎた」
「ううん……俺も、氷、ごめん」
グレンの手首を確認するために触れる。怪我はしていないようだし、腕輪も無事だ。よかった。
「辛いだろう」
「ちょっと身体は重いけど、大丈夫。それよりも嬉しい気持ちのほうが大きいよ」
湯の中で労わる手が俺の身体を撫でる。撫でながら、「嬉しいとは?」と首を傾げて少し耳を倒す愛しい人。
「やっと、繋がれたから」
倒れていた耳は、ぴっ、と上向いて嬉しそうに目が細められる。くん、と鼻先を俺の首元に寄せて甘えてくる。
どうやら、この期に及んで照れているらしい。
俺は可愛らしい伴侶の頭を撫でて、満たされた気持ちで悦に入る。
「……俺を、受け入れてくれて、ありがとう」
「こちらこそ」
「正直、身体のつくりが違うから、無理かもしれないと思っていたんだ」
「そうだったのか」
「だから、本当にライゼルが頑張ってくれたおかげだ。ありがとう」
「鍛えてきて良かったよ」
ふふっ、と笑うとグレンが大きな身体全体を使って抱きしめてくれる。それがとても心地良く、自然と沈黙が流れる。
ややあって、グレンが不安げにおずおずと聞いてくる。
「……その、嫌になってないか」
「セックスがか?」
「う、うむ」
「なってないよ。むしろ、これからもっと楽しみだなって思ってる」
それを聞いたグレンの尻尾が持ち上がり、湯がパシャンと嬉しそうな音を立てる。
「俺の伴侶は、やはりかっこよくて強くて美しくて、最高だ」
「ははっ、そっくりそのまま返すよ」
グレンの頬に手を添えて、俺からキスをする。
嬉しそうに髭を前向きに寄せるのが可愛らしい。随分とグレンの感情の変化も見て分かるようになった。
「……愛している。どうかこれからも傍に居てくれ」
「俺も、愛してる。嫌だと言われても離れてあげないから、安心して」
窓の外は春の終わりが近い夜。温かい浴室に満ちる想い合う二人の渇愛に終わりはない。
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