【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第6章

§44‐1 収穫祭開幕!

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 収穫祭初日は、開幕に相応しい晴天。まるで開幕を祝福するように空はどこまでも深く澄み渡っている。
 
 今日はグレンも俺と同じ時間に起床して支度を整えた。二人で開幕式に出席するためだ。

 濃紺のパンツを履いて、同色の袖なしコートと軽めの防具を身に着けたらグレンの支度は終了だ。引き締まった大腿がしなやかに動くのをまじまじ見ていると「こら」と怒られてキスされる。
 
 暑い季節の獣人族はこのスタイルが多い。ほぼ上半身は半裸なのだが、きびきびと働く世代は当たり前のように着こなしている。初めてグレンがその恰好をしたときは目のやり場に困ったのだが、今はだいぶ慣れてきた。

 俺も朝日を浴びて目を覚ましながら身支度を整え始めた。窓から差し込む朝日の光が肌を優しく撫でる。
 あらかた着替え終わったところで、窓をコンコンと叩く音がする。


「ティラの伝令だ!」


 慌てて窓を開けて、羽根が青い美しい鳥の足を見る。
 それには文がしっかりと結びつけてある。結び目の形がティラのものだ。
 鳥の足から優しく文を取る。細かい結び目を解くのに手が震える。
 鳥はすぐに飛び立たず、首を傾げて俺の顔をしげしげと見つめてくる。


「届けてくれてありがとう。ティラとアリュールは無事かな?」
「ピピッ」


 返事をするように鳴いた鳥。ティラがユーディア王国で訓練した鳥だろうか。一向に飛び立つ気配がない。人を警戒しない様子に頬が緩む。


「ティラから連絡が届いたか」
「うん。ねぇ、この鳥ってゼフィロスにもいる鳥?」
「鳥の種類までは分からないな。タイクなら知っているかもしれん」


 分からないことはとりあえずタイクに聞く癖があるよな、グレンって。いったん鳥のことは置いておき、文を丁寧に開く。
 
 書かれていたのは、「危難は少し先。一度戻る」という簡潔な内容だった。どうやらユーディア王国での潜入作戦は上手くいったらしい。

 胸の奥で張り詰めていた緊張の糸が、わずかに緩むのを感じる。切迫した状況では無いようだ。油断はできないが、収穫祭は無事に開催できそうで良かった。

 グレンにも文を見せる。俺は飛んでいかない鳥に指を差し出した。鳥は少し逡巡してから俺の指に飛び乗った。


「人懐っこいなぁ、可愛い」
「ティラとアリュールが戻ってくるのは良かった。ほぼ丸1カ月半の潜入は骨が折れただろうな」
「うん、帰ってきたら思い切り労ってあげないと」
「それで、その鳥はどうするんだ。飼うのか?」
「ん? いや、好きにさせておこうかなと思って。飽きたら勝手に飛んでいくだろう」
「どうだか。ライゼルは誰彼構わず好かれるからな……」
「どっちかって言うと悪口だよな、今の」


 俺はグレンに飛んで抱き着いて顔周りをわしゃわしゃとかき混ぜる。やめろと言いながら笑っているグレン。青い鳥はそんな俺たちを上からくるくる回りながら飛んで眺めていた。

 

 



 朝食を終え、ジェイド、タイク、ミレイ、ブラスと収穫祭の打ち合わせをする。収穫祭の式典へはジェイド以外の4人で行く予定だ。

 ジェイドに城の留守をお願いするので、収穫祭でなにか珍しいお土産を買って行ってあげよう。
 
 俺たちはブラスが御者を務める馬車に乗り込む。革張りのシートに深く身を沈める。今回は式典へ出席するために移動するので、堂々と国の紋章が入った馬車を使う。


「今回はライゼルとミレイにほぼ任せきりだな。ありがとう」


 グレンの言葉にミレイと目を見合わせる。


「何言ってるのグレン。当たり前だろ」
「そうですよ。ライゼル様はともかく、私は宰相補佐なのですから当然です」
「いや、ゴルダを見ているとな。自分に協力してくれる者がいるのは当たり前でないと思うのだ」


 グレンの言うことも分かる。ゴルダの取り巻きは、彼自身のためではなく、彼が生み出す美味い汁を啜るため傍に居ると見える。
 

「私は先王にも仕えておりました。そのころと比べると、王の側近以外の城に勤める者たちの士気が高く協力できているのはすごいことだと思いますよ。それに今回は商業ギルドに冒険者ギルドが協力するということで、また驚きましたが。ライゼル様のお人柄が繋いでいる気がしますな」


 タイクがフォッフォッ、と笑いながら銀縁眼鏡を上げる。おだてても何も出ないぞ?

 ミレイとグレンも頷いているが、何も出ないんだからな。隣からグレンの熱い視線を感じて、俺は気恥ずかしさに赤面する。

 俺は恥ずかしさを誤魔化すために、肩に乗っている新参者へ意識を向ける。


「ねえタイク。この鳥ってゼフィロスにいる鳥?」
「やっとですかライゼル様。私、いつツッコめばいいのかと思っておったんですよ。どうしたんですかその鳥は」


 俺はタイクとミレイに今朝のことを話す。


「ティラからの伝令だったのですか。ジェイドには?」
「伝えてある。まだ差し迫った危険はないから、いったん戻ってくるらしい」
「なるほど。もう少し準備する時間がありそうですわね」
「ちなみにその鳥は、ブレポエリという種類です。東方領に少し生息しているはずですが、主な生息地はユーディア王国ですね」
「タイクって物知りだよね……」


 タイクに感心しながら左肩の鳥に右手を差し出す。鳥は素直に俺の手に乗り、黒くきらきらしたつぶらな瞳を向けてくる。なんという愛らしさの暴力。


「せっかくだから名前をつけてあげようね。……ポエリにしよう!」
「ピッピ~!」


 鳥、もといポエリは高い鳴き声をあげた。気に入ってくれたのだろうか。


「やっぱり飼うんじゃないか」
「違う。名前をつけただけ」


 グレンが隣からジトリとした目線を向けてくるが無視して手のひらの鳥を優しく撫でる。


「皆さん、そろそろ到着しやすぜェ」


 御者のブラスから声がかかる。
 窓の外を見ると、たくさんの人が収穫祭の広場に集まっている。広場はとても賑わっており、老若男女、みな明るい表情だ。特に小さな子供たちのはしゃぐ声がよく聞こえる。

 生産者や商人向けの展示や発表以外にも多くの露店が出店されるので、子供たちも楽しめるはずだ。

 馬車を降りると、人々の熱気と、料理の芳ばしい匂いが一気に押し寄せてくる。集まっている人はざっと数えても200人くらいいそうだ。

 盛り上がりを嬉しい気持ちで眺めつつ、警備の配置も目視で確認する。予定通り、騎士団と冒険者で割り振られているようだ。

 近くにいた人たちが俺たちに気づき、歓声と拍手が起こる。それが聞こえたのか、ちょっとした木造りの舞台の上でソルファとバノーテが俺たちを呼ぶ。


「グレン様、ライゼル様! どうぞこちらにお願いいたします!」


 グレンに顔を向けると、手を出してくれる。わざわざエスコートなんかしなくてもいいのに。俺は少し頬が熱くなるのを感じながらグレンの手を取る。

 二人で舞台へ上がると、大きな歓声があがる。


「お二人に開幕式へお越しいただき、皆も喜んでおります!」


 ソルファの煽りに広場が一段と盛り上がる。耳をつんざくほどの大歓声が身体を揺さぶる。嬉しいけどものすごく恥ずかしい……!
 
 俺はソルファの横にいるバノーテへ目配せをした。一刻も早く開幕式を終わらせて皆に会場を楽しんでもらいたい。
 
 俺の目線に気が付いてくれたのか、バノーテが「仕方ないな」という表情でソルファを小突く。一瞬不機嫌そうな顔をしたが、そこは商業ギルドの長。私情は仕舞い、すぐ満面の笑みに戻る。
 

「それでは開幕の合図を。グレン様、ライゼル様よろしくお願いいたします」


 ソルファの音頭を聞き、俺はグレンを見る。魔力をしっかり温められている気配を確認し、先に魔法を使う。
 
 氷魔法の星を広場の上空に広げる。それに続き、グレンが炎魔法で片側から一気に燃やしていく。極めつけに風魔法で一吹きすると、きらきらと輝く水しぶきが空中に広がり虹を出した。


「わぁ~! すごい虹だ!」
「きれい!」
「ライゼル様すご~い!」
「グレン様の炎魔法かっけぇ!」


 歓声の大きさで、今日のお役目を果たせてよかったと安心する。高揚した熱気が会場の空気を震わせる。


「収穫祭、開幕です!!」








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