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第6章
§44‐2 収穫祭開幕!
しおりを挟むソルファの掛け声で開幕式は終了となった。式といっても仰々しくなくて、ちょうどよかったのではないだろうか。
司会を終えたソルファが俺たちを案内してくれる。
「お二人ともありがとうございます。まずは品評会のほうからご案内してよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼む」
「バノーテも来てくれるのか?」
「ええ。どう考えてもこの広場で一番の護衛対象はお二人でしょう」
グレンは分かるけど、俺も護衛の一人なんだけどなぁ。そう思っていると、横からタイクがひょこっと首を突っ込む。
「バノーテ様、ライゼル様にはもっと強く言ってください。ご自身を護衛の一人だと思ってますので」
「……ライゼル様」
「ちょ、なんで俺が怒られる感じになってるのさ!」
「ははっ、タイクもバノーテも諦めろ。ライはこう見えて決めたことは梃子でも動かん。それよりバノーテ、久しいな。元気そうでよかった」
「おかげさまで。素敵な伴侶をもらって羨ましい限りです」
「周りが知った顔の時は気にせず話してくれ。そのほうが嬉しい」
「……あぁ、分かったよ」
グレンが騎士団時代からの知り合いであるバノーテと久しぶりに会って話せるので嬉しそうだ。
俺はグレンが王になる前のことは細かく知らない。グレンはぐだぐだと昔話をするタチじゃないのだ。けれどこれからはもう少し昔話も聞けたらいいなと思う。
品評会のエリアに到着すると、ソルファが端から順に生産者と作物や花の紹介をしてくれる。
興味深く聞き始めたが、ふと左肩の気配がなくなったことに気付く。先ほどまで感じていた微かな重みが消えている。ポエリがいない。
周りを見渡すが姿が見えない。自分の許に縛り付けるつもりはなかったが、実際にいなくなると少し寂しいものだな。
気を取り直してソルファの話に耳を傾けようとした時、甲高い鳴き声が聞こえた。
「ピイイィィッ!! ピイイイイィィッ!!」
ポエリだ。ポエリが円を描いて飛んでいる方角を見ると、ウゴウゴと黒っぽい何かが小さく見える。
――――まさか、どうして。
「魔獣だッ! 非戦闘員の避難を!!」
舌を噛みそうになりながら言い残し駆け出す。地面を蹴る足の裏が熱を持つ。自分が風になったかのように足を回す。
急げ! 急げ!
血相を変えた俺の様子を見て騎士や冒険者がついてくる気配がする。しかしそんなのを待っている場合ではない。
「避難しろ! 魔獣が来た! 城の方角へ避難だッ!」
俺とすれ違った民はただならぬ様子を察して逃げ始めるが、気付いていない者には出せる限りの大声で呼びかける。喉の奥からうっすら血の味がするほど声を絞り出す。まだ誰も傷ついてないだろうか。どうか無事であってくれ。
ついに魔獣がはっきりと視認できる丘までやってきた。
「いち、に、……10面分くらいか。くそ、一体どこから」
その数畑10面分ほど。のどかな畑の緑が黒い影に浸食されている。恐らく50体くらい。ぼやいている間に、逃げ遅れた農夫に迫る魔獣が見えた。
「ッつあ゛!!」
魔獣の目に剣を刺し動きを鈍らせたところでロバ獣人の農夫を抱えて戻る。剣を刺した感触はまるで泥を貫いたかのようで、厭な抵抗を残した。
「大丈夫か!?」
「ええっライゼル様! あ、あのでっけぇ蜘蛛はなんなんですっ?」
「今はとにかく逃げろ!」
魔獣と距離を取れたところで農夫を下ろし、近くまで追いついてきていた冒険者が保護するのを見届けた。
兵と冒険者が殺気立ち、今にも切りかかろうとする。周囲の空気が彼らの闘志で張り詰めている。
「待てッ!! いったん数を減らすから下がれ!!」
魔獣はすぐそこまで来ているのに酷な指示だろう。だが信じてもらうしかない。
俺は5秒ほどで熱せられる魔力を一気に使う。体内の魔力の奔流は灼熱の液体のようで、血管を駆け巡る。
「エリモス・ミルニーキェ〈砂漠蟻地獄〉」
土を蟻地獄に変える魔法だが、かかった魔獣は半分弱。やはり魔力を熱する時間が短くて範囲が狭い。わずかな焦燥が胸を掠めるが、すぐに意識を切り替える。
逃れた魔獣がウゴウゴとこちらへ向かってくる。そのおぞましい集団の足音が地鳴りのように響く。
「こいつは毒を吐くから注意しろ! 一旦接近戦は避けて遠距離、中距離攻撃からだ! 逃げ遅れた者を救助するのを最優先に! 行くぞォ!!」
「「「「「オウッ!!!!」」」」」
兵も冒険者も一緒くたに俺の指示に応じてくれる。
――――さあ、魔獣退治といこう。
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