【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

文字の大きさ
84 / 95
第6章

§49 仲間の帰還

しおりを挟む

 
 夕方、ティラとアリュールが帰還したと知らせが入り、俺とグレンは執務室へ向かった。もちろん俺は夏だというのに首まで隠れる服を着て。

 執務室にはすでにジェイドとミレイ、タイクとブラス、バノーテもいた。
 俺の姿を見止めたアリュールが愛らしい仔馬の姿でまっすぐに飛びついてくる。


「ライゼル! 会いたかったぞ!」
「わあっ、はは、おかえりアリュール。あいてて……」
「どうした、どこか痛めているのか!?」
「いや、ちょっとぶつけただけだから大丈夫」


 無邪気に飛びつかれたせいで腰が痛くなったのだが、アリュールに本当の原因を話せるわけもなく誤魔化した。
 頭や柔らかなたてがみ、首元を撫でてやると機嫌よさそうに鳴く。

 アリュールを撫でながらその背後に控えるティラを見ると、彼は笑顔で恭しく礼をする。だが、その頬はこけて少し痩せたようだ。


「ご苦労様、ティラ。大変だったろう」
「いえ、とんでもございません。まずはご報告を」


 グレンが全員に着席を促す。席に着いたティラの顔色の悪さが、見てきたものの惨状を示している。


「私が潜入したのはユーディア王国の北側、人族至上主義ヴァンディニです。南側の獣人至上主義のヘリオドはアリュールに偵察をお願いしました。……どちらにも共通するのは、略奪、暴行が横行しており罪のない市民は疲弊し怯えていること。もはや双方の上層部や狂信的な組織員だけが争い合う、終わりの見えない泥沼の内戦状態です」


 重い口調でティラが続けて話してくれたのは、筆舌に尽くしがたい隣国の現状だった。

 100年前の内戦後、変わらず政府は機能しておらず、もはや形だけである。統治能力は皆無だ。ヴァンディニ、ヘリオド両陣営の開発した魔獣が研究所から脱走し、民を襲う事件が頻繁に発生している。

 しかしその事実は両陣営とも隠蔽しており、お互いになすりつけ合っている。

 魔獣の呼称は両陣営とも“ドルゥーガ”と共通している。最初に作られたのが蜘蛛型で、その後は際限なく敵陣営に負けじと様々な魔獣を掛け合わせ、怪物を作っている。

 原型が分かるのは蜘蛛型のみで、ティラとアリュールが見た他のドルゥーガはもはや命の冒涜としか言えない、得体の知れないものばかりだったという。

 危険を顧みずふたりは研究所に潜入し、ドルゥーガの詳細情報を得ようとした。

 そこで分かったことは、ドルゥーガは魔力の反応を探知して移動するので、魔力が集まる場所、つまり人が集まっているところへ優先的に向かうようになっていること。

 ドルゥーガを動かし、動きを止めることのできる特殊な魔法があるようだが、原理を知っているのはごく一部の上層部のみ。さすがにその情報は得られなかった。 

 しかしどうやらその制御魔法も万能ではなく、無理やり掛け合わせた歪なドルゥーガが増えるにつれて、制御を脱する個体も出てきたという。


「研究員が逃げ出すことも増えているようでした。また、国外へ逃亡しようとする民は問答無用で処刑されます」


 当然の流れと言えば当然だろう。話を聞くだけで腹の奥が怒りで煮えて、息が詰まる思いだ。


「両陣営に反発する市民グループもあります。不思議なのはどの陣営も内戦が続いているにも関わらず武器を潤沢に持っているということでした。そこで武器の供給源として浮かんできたのが……東方領です」


 ティラの口から出たその名にグレン、ジェイド、タイク、ミレイ、バノーテの5人が一斉に息をのんだ。
 執務室の空気が凍りつく。同じ国の地位ある者が隣国の内戦に武器を供給しているとは、些か信じたくない事実である。


「上手く隠していたようですが、各陣営と商会の取引書の内、ムージェ家下請け商人の書類を手に入れました。しかしこれでもまだ決定的な証拠とはならず、言い逃れできてしまうとは思います」

 ティラは懐から取り出した書類をグレンに手渡す。静かに一読したグレンが無言でそれをジェイドへ渡す。読み始めたジェイドの顔がみるみる憤怒の表情に変わっていく。


「ティラ……これを得るのは至難の業だったはず。感謝する」
「お役に立てたのであれば何よりです」


 ティラがグレンに深く頭を下げる。


「ゴルダの目的は大方予想していたが、これで明確になってきたな、グレン」
「あぁ」


 怒りに震える宰相は、すっかり普段の臣下としての態度を忘れグレンに話しかける。


「ユーディア王国から暴徒や魔獣が雪崩れ込んできた場合に民へ大きな被害が出れば、当然国王と現政権の責任が問われる。その隙をついて政権の奪取、あわよくば旧王族の復興を目論んでいるのだろう」


 ついに尻尾を出し始めたムージェ家当主、ゴルダの思惑。その黒い野心が、今や国を揺るがそうとしている。
 おそらくこれからは手段を選ばずにグレンや俺を含めた周囲の者を狙ってくるだろう。


「ゼフィロス王国、そして同盟国スフェーン王国を守るため、戦略を立てる」


 国王の言葉にこの場の全員が闘志を燃やすのだった。
 




 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

雨宮卯月は腐男子である

すずなりたま
BL
あとでかく

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

処理中です...