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第一章
第十四節:エミリア救出作戦の開始
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観覧席のざわめきが残る中、ルキウスはその場を駆け出していた。
「おい、どこ行くんだよ、ルキウス!」
慌てて追いかけてきたのは、彼の幼なじみであり、同じく火系統の魔術を学ぶカイルだった。試合のセコンドとして控えていた彼は、リティシアの様子を心配するルキウスを見て、何かただならぬものを感じ取っていた。
「カイル、協力してくれ。リティシアに何かあった。あいつ……たぶん、誰かに脅されてる」
「脅されてる? 誰に?」
「アンジェリカだ。試合前、リティシアと話していたのを見た」
ルキウスの言葉に、カイルの表情が険しくなる。
「エミリアを人質にして、リティシアに負けるよう命じたんだ。でなきゃ、あいつがあんな戦い方するわけない」
「……なるほどな。じゃあ探そう。アンジェリカが隠してる場所を」
「お待ちください」
その声音には、強い覚悟がにじんでいた。
「これは、わたくしが解決しなければならない問題です」
その場が一瞬だけ静まり返る。
だが、ルキウスは肩をすくめ、真っ直ぐに言い返した。
「関係ないな」
「……え?」
「貴族として、困ってる人を放っておけない。巻き込まれたまま泣き寝入りさせるなんて、虫唾が走る」
その目には、確固たる意志が宿っていた。
「これは俺のエゴだ。君が何を言おうと、関係ない。俺が助けたいと思ったから助ける。それだけだ」
「……」
「それに、君もわかってるだろ? 一人で立ち向かうより、味方が多い方がいい。今は意地を張る時じゃない。違うか?」
リティシアはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑みをこぼした。強がりではない、どこか安心したような表情。
「……勘のいい方ですね。ほんとうに、厄介です」
そして一歩、ルキウスの方へ踏み出した。
「お願いします。助けてください。エミリアを……必ず、無事に」
その声には、揺るぎのない願いがこもっていた。
「任せとけ。あいつは、俺たちで取り戻す」
頷き合った三人は、それぞれの目的地へと足を向けた。
「……二手に分かれよう。時間がない」
ルキウスが短く言い切った。
地図代わりの学院の配置図を広げ、彼が指差したのは二つの建物だった。
「可能性があるのはここ、旧礼拝堂と……あとは、実技棟の地下倉庫」
「地下倉庫……確か、今は使われてないはず」
カイルが眉をひそめる。
「管理がずさんなんだ。侵入もそう難しくない。静かで人気もない。隠すには都合がいい」
「なるほど」
リティシアは即座に頷いた。冷静な判断を下す彼の姿に、さっきまでの不安が少しずつ薄れていくのを感じていた。
「じゃあ俺が地下倉庫の方を見てくる。お前らは礼拝堂へ向かえ」
「ひとりで大丈夫か?」
ルキウスが念を押すように問うと、カイルは苦笑混じりに親指を立てた。
「なめんなよ。こう見えても、成績トップ争いしてんだぜ? 殴り合いは得意じゃないけど、頭はまだ使えるつもりだ」
「じゃあ、任せた。何かあったら魔導通信を」
「了解」
小さく拳を合わせ、カイルは走り出した。
残されたリティシアとルキウスは、礼拝堂へと向かって駆け出す。
沈む夕陽が、ふたりの背中を赤く染めていた。
__________________
__________________
★あとがき
次回はいよいよ礼拝堂での救出劇。
不穏なアンジェリカ陣営との直接対決、そしてエミリアの運命は……!?
盛り上がってまいりました!
引き続き、お楽しみいただけると嬉しいです。
「おい、どこ行くんだよ、ルキウス!」
慌てて追いかけてきたのは、彼の幼なじみであり、同じく火系統の魔術を学ぶカイルだった。試合のセコンドとして控えていた彼は、リティシアの様子を心配するルキウスを見て、何かただならぬものを感じ取っていた。
「カイル、協力してくれ。リティシアに何かあった。あいつ……たぶん、誰かに脅されてる」
「脅されてる? 誰に?」
「アンジェリカだ。試合前、リティシアと話していたのを見た」
ルキウスの言葉に、カイルの表情が険しくなる。
「エミリアを人質にして、リティシアに負けるよう命じたんだ。でなきゃ、あいつがあんな戦い方するわけない」
「……なるほどな。じゃあ探そう。アンジェリカが隠してる場所を」
「お待ちください」
その声音には、強い覚悟がにじんでいた。
「これは、わたくしが解決しなければならない問題です」
その場が一瞬だけ静まり返る。
だが、ルキウスは肩をすくめ、真っ直ぐに言い返した。
「関係ないな」
「……え?」
「貴族として、困ってる人を放っておけない。巻き込まれたまま泣き寝入りさせるなんて、虫唾が走る」
その目には、確固たる意志が宿っていた。
「これは俺のエゴだ。君が何を言おうと、関係ない。俺が助けたいと思ったから助ける。それだけだ」
「……」
「それに、君もわかってるだろ? 一人で立ち向かうより、味方が多い方がいい。今は意地を張る時じゃない。違うか?」
リティシアはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑みをこぼした。強がりではない、どこか安心したような表情。
「……勘のいい方ですね。ほんとうに、厄介です」
そして一歩、ルキウスの方へ踏み出した。
「お願いします。助けてください。エミリアを……必ず、無事に」
その声には、揺るぎのない願いがこもっていた。
「任せとけ。あいつは、俺たちで取り戻す」
頷き合った三人は、それぞれの目的地へと足を向けた。
「……二手に分かれよう。時間がない」
ルキウスが短く言い切った。
地図代わりの学院の配置図を広げ、彼が指差したのは二つの建物だった。
「可能性があるのはここ、旧礼拝堂と……あとは、実技棟の地下倉庫」
「地下倉庫……確か、今は使われてないはず」
カイルが眉をひそめる。
「管理がずさんなんだ。侵入もそう難しくない。静かで人気もない。隠すには都合がいい」
「なるほど」
リティシアは即座に頷いた。冷静な判断を下す彼の姿に、さっきまでの不安が少しずつ薄れていくのを感じていた。
「じゃあ俺が地下倉庫の方を見てくる。お前らは礼拝堂へ向かえ」
「ひとりで大丈夫か?」
ルキウスが念を押すように問うと、カイルは苦笑混じりに親指を立てた。
「なめんなよ。こう見えても、成績トップ争いしてんだぜ? 殴り合いは得意じゃないけど、頭はまだ使えるつもりだ」
「じゃあ、任せた。何かあったら魔導通信を」
「了解」
小さく拳を合わせ、カイルは走り出した。
残されたリティシアとルキウスは、礼拝堂へと向かって駆け出す。
沈む夕陽が、ふたりの背中を赤く染めていた。
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★あとがき
次回はいよいよ礼拝堂での救出劇。
不穏なアンジェリカ陣営との直接対決、そしてエミリアの運命は……!?
盛り上がってまいりました!
引き続き、お楽しみいただけると嬉しいです。
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感想ありがとうございます!
いやもう……チョロ太子、ほんとうにチョロすぎて(笑)
でも本人はめっちゃ真剣なので、そこがまた……ギャップで愛でてあげてください。
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