ことなかれ令嬢、ことば一つで全員蹴散らします

25BCHI

文字の大きさ
15 / 15
第一章

第十四節:エミリア救出作戦の開始

しおりを挟む
 観覧席のざわめきが残る中、ルキウスはその場を駆け出していた。

「おい、どこ行くんだよ、ルキウス!」

 慌てて追いかけてきたのは、彼の幼なじみであり、同じく火系統の魔術を学ぶカイルだった。試合のセコンドとして控えていた彼は、リティシアの様子を心配するルキウスを見て、何かただならぬものを感じ取っていた。

「カイル、協力してくれ。リティシアに何かあった。あいつ……たぶん、誰かに脅されてる」

「脅されてる? 誰に?」

「アンジェリカだ。試合前、リティシアと話していたのを見た」

 ルキウスの言葉に、カイルの表情が険しくなる。

「エミリアを人質にして、リティシアに負けるよう命じたんだ。でなきゃ、あいつがあんな戦い方するわけない」

「……なるほどな。じゃあ探そう。アンジェリカが隠してる場所を」

「お待ちください」

 その声音には、強い覚悟がにじんでいた。

「これは、わたくしが解決しなければならない問題です」

 その場が一瞬だけ静まり返る。

 だが、ルキウスは肩をすくめ、真っ直ぐに言い返した。

「関係ないな」

「……え?」

「貴族として、困ってる人を放っておけない。巻き込まれたまま泣き寝入りさせるなんて、虫唾が走る」

 その目には、確固たる意志が宿っていた。

「これは俺のエゴだ。君が何を言おうと、関係ない。俺が助けたいと思ったから助ける。それだけだ」

「……」

「それに、君もわかってるだろ? 一人で立ち向かうより、味方が多い方がいい。今は意地を張る時じゃない。違うか?」

 リティシアはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑みをこぼした。強がりではない、どこか安心したような表情。

「……勘のいい方ですね。ほんとうに、厄介です」

 そして一歩、ルキウスの方へ踏み出した。

「お願いします。助けてください。エミリアを……必ず、無事に」

 その声には、揺るぎのない願いがこもっていた。

「任せとけ。あいつは、俺たちで取り戻す」

 頷き合った三人は、それぞれの目的地へと足を向けた。
「……二手に分かれよう。時間がない」

 ルキウスが短く言い切った。

 地図代わりの学院の配置図を広げ、彼が指差したのは二つの建物だった。

「可能性があるのはここ、旧礼拝堂と……あとは、実技棟の地下倉庫」

「地下倉庫……確か、今は使われてないはず」

 カイルが眉をひそめる。

「管理がずさんなんだ。侵入もそう難しくない。静かで人気もない。隠すには都合がいい」

「なるほど」

 リティシアは即座に頷いた。冷静な判断を下す彼の姿に、さっきまでの不安が少しずつ薄れていくのを感じていた。

「じゃあ俺が地下倉庫の方を見てくる。お前らは礼拝堂へ向かえ」

「ひとりで大丈夫か?」

 ルキウスが念を押すように問うと、カイルは苦笑混じりに親指を立てた。

「なめんなよ。こう見えても、成績トップ争いしてんだぜ? 殴り合いは得意じゃないけど、頭はまだ使えるつもりだ」

「じゃあ、任せた。何かあったら魔導通信を」

「了解」

 小さく拳を合わせ、カイルは走り出した。

 残されたリティシアとルキウスは、礼拝堂へと向かって駆け出す。

 沈む夕陽が、ふたりの背中を赤く染めていた。




__________________
__________________
★あとがき

次回はいよいよ礼拝堂での救出劇。
不穏なアンジェリカ陣営との直接対決、そしてエミリアの運命は……!?
盛り上がってまいりました!

引き続き、お楽しみいただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ぐりあまこ
2025.07.04 ぐりあまこ

性悪ちゃんの手のひらでコロコロと気持ちいいくらい転がるチョロ太子😅 髪の毛チリジリ刑へとカウントダウンが始まったのですね😁

2025.07.04 25BCHI

感想ありがとうございます!

いやもう……チョロ太子、ほんとうにチョロすぎて(笑)
でも本人はめっちゃ真剣なので、そこがまた……ギャップで愛でてあげてください。
この先もどんどんコロコロされてく予定です。どうぞお楽しみに!

解除

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。