女三人 何でも屋始める

小梅カリカリ

文字の大きさ
16 / 24

ダンス教師 消えた衣装 ④

しおりを挟む
「ビデオ、キラキラ布、板、よし準備OKです。行きましょう。」
 荷物をもった花がドアを開けた。目の前にアジがいる。
「アジ、お昼もう食べちゃったから何もないよ。もっと早く来ればよかったのに。
私達はすぐ戻ってくるけれど、夜までご飯はないからね。夜にまたおいで。お魚用意しておいてあげるから。」
 花の言葉を聞いて、アジはひと声鳴いてさっていった。

「アジが来ましたね。やっぱり今回も動物が犯人ですかね。」
「その可能性は高そうね。夕方刺身を買ってこないと。商店街の総菜どれもおいしいから毎回楽しみよね。」
「そうだね、なんか今日はコロッケが食べたい気分。ポテコロがいいな。」
「ああ、美味しそうですね。私揚げてあるじゃかいもは何でも大っ好きです。ポテコロってひき肉入れる派ですか。私は入れない派です。美味しいのは分かるけれど、じゃがいもだけのが好きなんですよ。」
「分かるわ、私も入れない派よ。でも売ってるのは悲しい事に殆ど入ってるのよね。むしろ入っていないのを知らないわ。美味しいのは分かるけれど、入っていないのが食べたいのよ。だから、ポテコロだけは自分で作るの。コロッケ面倒くさいのに。」
 顔をしかめて、面倒くさそうに言う香。
「私もジャガイモだけのコロッケを売っている所は知らないんですよね。たまに物産展で見たことがあるくらいです。勿論多めに買いますよ。コロッケってサンドイッチにしても美味しいし。
 そして私は運の良い事に、おばあちゃんに頼んで作ってもらえるんです。ウフフ。」
「良いわねえ。衣は1回つける唐揚げは良いんだけど、2回やるコロッケは面倒なのよ。」
「1回も2回もあんまり変わらないけれど。というかもう着いたよ。近いからね。」

 ブザーをならす花。待っていたのか、すぐにドアが開いて2人とも出てくる。コロッケの話聞こえてたかなと思う3人。
「お待ちしてました。中へどうぞ。」
 ベランダへ行くと花が布を外に干す。布の下の方につけた紐を部屋の中に入れると、そっと窓を閉めた。その紐を持ってきたビニール袋に括り付ける。ビニールの中には事務所に合った重しを入れておいた。
 香と雪の方はビデオをセットしていた。持ってきた板の上にビデオを置くと角度を調節して布とベランダ一帯が映るようにする。高さや位置の調整をしていると、りえが話しかけてきた。

「あの、家にあったビデオを見つけたんですけれど、よかったらこれも一緒に使いましょう。メモリーも中身をパソコンに移したので3時間くらい持ちます。」
「ありがとうございます。良かったです、2台あった方がより確実ですから。じゃあ向きを変えて移すベランダの死角を無くすようにして置きましょう。」
 そういうと、花はりえを手伝いビデオをセットした。香と雪の方もセッティングは終了していた。
「じゃ、電源をオンにして少し早いですけれどお店に移動しましょうか。」
 皆、2台とも電源が入り録画が始まったのを確認すると、賀来さんのお母様も一緒に全員お店へと移動した。

 お店に入ると、花が提案する。
「皆でここに1時間いても時間が勿体ないですよね。用事があったら済ませてきてもらって大丈夫ですよ。冷蔵庫もあるので、食料品の買い物でも多少なら入れておけますから。」
 賀来さん母子は、嬉しそうにお礼を言ってスーパーに向かっていった。それを見ていた雪が自分もパン屋さんと総菜屋さんに行って買い物をしてくると言った。
「あら、それなら手伝うわよ。私もパンの種類見たいから。花はどうする。」
「それなら私も行きます。結局みんな商店街の方に行くことになりましたね。」
 結局全員で買出しに行った。

 賀来家ではキラキラ布が犯人を誘うようにキラキラと揺れている。30分以上たった時、静まり返った賀来家の近くに、キラキラに誘われるように犯人がそっとやってきた。
 ベランダの近くからジッと様子をうかがっている。しばらくそのまま動かない。20分以上たっただろうか、誰も見ていない事を確かめると、そっとベランダに侵入した。
 そのまま勢いよく布を引っ張る。洗濯ばさみから取れて布がベランダの床に落ちた。犯人は布を引っ張って持っていこうとするが、どこかに引っかかっているのか布が動かない。
 頭に来たのか足でキラキラ布を踏み、思いっきり引っ張るもやはり動かない。暫く格闘していたが人の気配を感じ取ったのか、布を諦めて静かに去っていった。

 1時間以上たち、皆で賀来家へと戻ってきた。皆、何が映っているのかを期待しているのだろう、ウキウキとした表情だ。念の為、空手をやっている花とボクシングをしている香が先頭にたって家の中に入っていく。そのままベランダへと向かうとキラキラ布が床に落ちていた。
 皆歓声を上げて急いでビデオを見る。ほんの10分位前に、犯人がやってきていたのだ。
犯人を見た途端、安堵の声があちこちから上がった。

 涙ぐんでいるりえが、3人にお礼を言う。
「良かったあ。まさかカラスが犯人だったなんて。もう人間が犯人じゃないだけで私は安心しました。大満足です。【何でも屋】さん、ありがとうございました。本当に犯人カラスで良かったです。ここ最近ずっと怖かったので。」
 その後、思わず笑いだしたりえ。釣られるようにみんなで笑う。
「キラキラ光って揺れていたから、誘われるようにしてきちゃったんですね。きっと。」
「そうね、動物かなと思っていたけれど、本当にカラスだとは。なんだかおかしいわ。」
 花と香も笑いながら話している。

 賀来さんのお母さんが改まった様子で、花達にお礼を言った。
「これで一件落着ね。【何でも屋】さんが来てくれてよかったわ。ビデオなんて思いつかないくらい焦っていたし。これで今日からは安心して眠れます。本当に、ありがとうございました。」
 ホッとした顔でお礼を言う賀来さん母子。
「いえ、無事に解決して本当に良かったです。お2人が安心できて私達も嬉しいです。」
 【何でも屋】の他の2人も頷くと、木田さんにも教えてあげた方が良いかもと話している。
「私達もお礼がてら報告に行きます。木田さん達にも手伝って頂きましたから。」
 
 そして、木田さん夫妻に報告に行った5人。さすがに人数も多いし夕方の忙しい時間なので玄関先で失礼して報告だけ済ませる。
「木田さん。ご心配をおかけしましたが、スカーフの件は無事に解決しました。木田さん達にも協力して頂いてありがとうございました。犯人は、なんとカラスだったんです。」
「カラスって鳥のカラスよね。ああ、光っている物が好きだから盗ってたのね。空も飛んで逃げられるから、それは気が付かないわよ。よく分かったわね。」
「ええ。【何でも屋】さんが囮の布を作ってベランダに干しておいて、それにつられてきた犯人を録画したんです。私達も驚きましたけれど、ずっと怖かったからカラスって知ったらなんだかおかしくって笑っちゃいました。
 今度交番の近くを通ったら、犯人の事を報告してきます。
カラスなら、指紋も足跡もないですよね。カラスが空を飛んでいたって別に怪しいとも思いませんから、スカーフを取って逃げていたとしても気付かないですよ。」
 木田さん夫妻も笑っている。
「いやあ、本当に良かったよ。【何でも屋】さんもありがとう。おかげで一安心だ。」
「いえ、私達も解決できて良かったです。後は、カラスの巣が見つかると良いですね。」
「そうねえ、この近辺にはなかったのよね。まあ地道に探すしかないわね。」

 皆に挨拶をして、花達は先にお店へ帰っていった。外に出るとアジがいた。花達をじっと見て歩き出す。
「あら、ちゃんとまたやってきたのね。でもご飯までまだ少し時間があるからちょっと待ってね。魚だしてあげるから。」
 呼びかける花に鳴いて返事をすると歩き出すアジ。そして振り返る。
「何か私達に用事でもあるのかな。ついていってみよっか」
 皆で相談してアジについていく。暫くアジの後をついていくと隣の地区にある木の下で止まる。

 上を見上げるとカラスがいる。カラスの巣があるのだ。
 皆驚くが、静かに動いて少し離れた位置に行く。花はメールで木田さんに、アジがカラスの巣を案内、と場所と一緒に送る。アジは皆についてくると、すぐそばに座った。
「アジお手柄だね、木田さんご夫妻にもご褒美を貰わないとね。」
 小声で3人で話していると、木田さん夫婦がやってきた。黙ってカラスの巣を指さす3人。
「まあ、こんなところにあったのね。幸いまだ卵はうんでないみたいね。民家から少し離れているしここの地区の自治会長に知らせたから、後は任せてね。アジお手柄ね。明日はアジの好きな刺身を上げるからね。」
「では、よろしくお願いします。」
 挨拶をするとさっさと帰っていく3人と猫1匹。今回の依頼は、最後はアジの活躍で終わった。

 皆でお店に戻ると、お店の前に座って待っているアジ。香が小皿にお刺身を載せるとぺろりと食べ、お礼を言うように鳴き声を上げて帰っていた。
「最後の見せ場はアジが持っていったような気がするわね。しっかりと貰った餌の分は働いたよって感じに聞こえたわよ。」
「確かに、なかなか頭の良い猫だよね。【何でも屋】とは開店当初からの付き合いだし。」
「なかなかいい関係ですね。面白いですし。アジ可愛いです。」
 雪と香も頷いた。アジは可愛い。面白い事をしている猫だけれど。

「昨日はあんまりできなかったからね。今日はお疲れさま会と依頼解決のお祝いね。」
「はい、早くも3件も解決です。今の所全勝ですよ。」
「すごいよね、私吃驚しているんだけれど。最初はこんなに依頼を解決していくなんて思わなかった。毎回趣味の探偵の話も出来て楽しいしオフ会に行って花と香に会えて良かったよ。」
「私も、気の合う友達が出来たし、参加して良かった。」
 ワインを持ってきた花は皆に注ぎながら答える。
「私もです。では、今日の依頼の解決を祝して、乾杯。」
 皆でグラスを合わせると、美味しいパンとコロッケをつまみに、楽しいお喋りに夢中になった。

 今回の【何でも屋】の依頼も無事に解決。終わってみれば犯人がカラスというほんわか気分になる結末だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...