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絆されて 01 ※

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 ユベールの部屋を訪問すると、連結されていたもう一つの寝台は既に撤去されていて、ユベールは残った寝台の上で半身を起こし、何かの書類を読んでいた。

「安静にするよう言われていませんでしたっけ」
「だから一応寝台にいる」
「それは休んでいるとは言いません」
「叔父上が死にそうな顔をしていたんだ。一応時間は決めて、ちゃんと休憩は取るようにしている」

 そう言ってユベールは、壁の魔石時計に視線を向けた。

 マリーは息をつくと、ユベールの手から書類を取り上げた。

「あまり長居はしませんから、私がいる間は休んでください」
「……長居してくれていい」

 ユベールの言葉に、マリーは固まった。

(この人は、本当に……)

 ため息が漏れる。これは諦めのため息だ。
 マリーは降参した。この人は優秀な癖に不器用で口下手で、だけどそこがとても可愛い人だ。
 少し前までは嫌いで嫌いでたまらなかったのに。

 これが絆されると言う事なんだな、と実感した。

「ユベール様が助かって本当に良かった」

 マリーは寝台の傍に置かれた椅子に腰掛けると、ぽつりと呟いた。
 あのまま死なせていたらと思うと、冷や汗が出てくる。

「それにしてもよく助かりましたね。私、かなり遠慮なく魔力を流し込んだんですが……ユベール様の嗜好のおかげでしょうか」
「……なんでそうなるんだ」

 疑問をぶつけると、ユベールは渋い表情をした。

「だって苦しかったでしょう? 血縁者じゃない他人の魔力をあの勢いで流したら、下手したらショック死すると女学校では習いましたけど……」

 きっとユベールがそういう性嗜好の持ち主だから耐えられたに違いない。そう言外に込めてユベールを見ると、何故か俯いて頭を抱えてしまった。

「今更言いにくいんだが、マリー、その前提は間違っている」
「?」

 ユベールが言わんとしている事がわからなくて、マリーは首を傾げた。

「いいか、マリー、俺には被虐願望はない。そのような事を口走ってしまったのは認めるが、それはその場の勢いというか、マリーに逃げられたくなくてつい口をついてしまっただけだ」
「まあ……またそんな嘘を……」
「嘘じゃない」
「嘘です。だって以前ユベール様は私が魔力を流し込んだ時絶頂されました! 変態でなければ説明がつきません!」
「な! あ、あれはっ! 違うんだ!」
「私決めたんです。あなたで妥協する事にしたので、その嗜好も含めて受け入れます。だから遠慮なさらないでください」
「俺を受け入れてくれるのは嬉しいが違うんだ! あー、もうっ!」

 ユベールはがしがしと頭を掻き回すと、キッとこちらを据わった眼差しで睨んできた。

「後から苦情は受け付けない。俺の話を聞かないマリーが悪いんだ」

 がし、と手首を掴まれた。そして、次の瞬間。

 微弱な電流が全身を駆け巡った。

「やっ、ユベール様、何をっ……」

 これは魔力だ。ユベールの持つ雷属性の魔力。
 唐突に人に魔力を流すなんて許されざる行為だ。決闘を申し込むにも等しい行為である。
 だけど、これは。

「……っ」

 体が熱くなってむずむずする。身に着けた服の擦れる感触がくすぐったくて、全身が敏感になっているのがわかった。

「なん、なんですか、これ……」
「知らないのか。生まれ持った魔力相性がいいとこうなるらしい」

 ユベールの言葉にマリーはぎょっとした。
 それは知ってる。一般常識だから知っているけど……

「わたしと、ユベール様がそうだって言うんですか……?」

 はあはあと息をつきながら尋ねると、ユベールの食い入るような眼差しと目が合った。

 自分が肉食獣に狙われた小動物になった気がした。
 あ、これはまずい奴だ。そう思った時には遅かった。
 次の瞬間には腕を引かれ、マリーの唇にユベールのそれが重なっていた。

 至近距離にある青い瞳が伏せられ、唇をなぞるように舌で舐められた。かと思うと、微かに開いた唇の間から、ユベールの舌が侵入してくる。

 歯列を割り、入り込んできた濡れた舌が、口腔内をまさぐってくる。
 ユベールの魔力で敏感になっているせいか、それがひどく気持ちがいい。

 くちゅ、ぴちゃ……

 微かに聞こえる水音がいやらしい。
 舌が捉われ、絡められ、吸い上げられた。

「んっ……」

 体に上手く力が入らなくて、マリーは為すがままだ。

 ちゅ、というリップ音と共にようやく唇が解放された。
 マリーの体がくたりと傾ぐ。それをユベールの力強い腕が受け止めた。

 弛緩した体が抱き上げられ、寝台に横たえられる。その上にユベールが覆い被さってきた。

「マリー、触れてもいいか?」
 尋ねられ、マリーは恥ずかしさに顔を背けた。

「駄目か……?」
 不安げな声にただでさえ熱い体が更に熱くなる。

 熱い。苦しい。鎮めて欲しい。
 でもこんなのは駄目。淑女の行動じゃない。
 だけど、そういう行為に興味がない訳じゃない。

 いずれマリーはユベールと結婚する。なら今許してもいいのではないか。
 いや、駄目だ。本来の順番は結婚式を挙げてからだ。
 だけと彼は武のラトウィッジの人間で――
 魔力の底上げの為、また、マリーからの治癒魔法の効果を上げるためにも、ここで婚姻契約を結んであげるべきではないのだろうか。

 色々な想いがぐるぐると回る。
 マリーの目尻から涙が零れた。
 流し込まれたユベールの魔力のせいで頭がぼうっとして、うまく思考がまとまらない。

「ユベール様のばか……も、苦しい……」
 マリーはユベールに助けを求める眼差しを向けた。

 再びユベールが覆い被さってくる。
 それをマリーは拒む事が出来なかった。



   ◆ ◆ ◆



 気が付いたらデイドレスの胸元がコルセットごと剥かれ、両方の乳房が剥き出しにされていた。
 唇を貪りながらユベールの指が触れてくる。
 胸の先端を不埒な手が掠める度、びりびりとした快感が背筋を走った。

「気持ちいい?」
 両方の乳首を指先で摘まれ、マリーは涙目になった。

「いちいちきかないで……」
「嫌がる事はしたくないんだ。マリー、好き……」

 耳元で囁かれ、甘く耳朶が食まれた。
 些細な刺激にも反応する体が恨めしい。自分が酷く淫らになった気がする。
 全部ユベールの魔力のせいだ。変な気分になったのも。流されるように抱かれようとしているのも。

 本気で拒めば恐らくユベールはやめてくれる。だけど、何故かそれは出来なくて――したくないと思った。

 ユベールの唇が、首筋を通り、鎖骨へ。続いて胸へと移動した。

「やわらかい……」

 感触を確かめるように頬ずりしたかと思うと、口付けられ、右胸の谷間に赤い痕を付けられる。
 続いて痕跡は左胸にも。かと思うとぱくんと左胸の先端を口に含まれた。
 右胸は手で、左胸は口で。ちゅうっと吸われ、マリーは身を捩らせた。

 その反応に気を良くしたのか、ユベールは左右を入れ替える。
 どちらも平等に弄るのだという意思を感じる動きだ。

「あかちゃんみたい……」
「赤子はこんな事しない」

 からかうと、むっとした様子で言い返された。
 言葉と共に漏れる吐息が胸にかかり、その刺激がくすぐったい。

「マリー、月の障りは終わったか?」
「……そもそもなってません」

 嘘を突き通せなかったのは、こちらを見つめる青い瞳があまりにも綺麗だったから。

「…………」
「怒りましたか?」
「いや……嘘をつかれるほど嫌がられていたんだなと思っただけだ」

 ユベールの落ち込んだ表情に、母性本能が刺激された。

「今は嫌じゃないですから」

 そう告げると、スカートの中に手が侵入してきた。
 指先が下着に触れる。

「本当にいいんだな?」

 どこか不安そうな眼差しで尋ねられ、気が付いたらマリーはこくりと頷いていた。

 下着に手がかかった。マリーが腰を上げると、ユベールは目を見張った。

 恥ずかしい。自分からユベールを助けるなんて。
 誰にも見せた事のない部分が彼の目の前に晒されて、マリーは羞恥に顔を両手で隠した。

「これが、マリーの……」
 ごくりと生唾を飲み込む気配と共に、足を広げさせられた。続いて、指先がそこに触れてくる。

「ひっ……」
 マリーは刺激に悲鳴をあげた。

「濡れてる」
 囁きながらそこをゆるゆるとなぞられて、マリーは腰が動きそうになるのを必死で抑えた。

 触れるのに満足したのか、次は指でそこを左右に開かれた。
 かと思うと指先がつぷりとそこに入ってきて、マリーは体を強ばらせた。

「痛むのか?」
「いえ、大丈夫です」

 腕の隙間から確認すると、心配そうにこちらを見ているユベールの顔があった。
 痛みはなく、ただ異物感があった。

「凄いな……濡れてて、狭くて……」

 ユベールの視線がマリーのそこに移動した。ゆっくりと指が奥まで入ってくる。

「全部入った……指、増やすから」

 宣言してから、ユベールはもう一本の指を慎重に挿れてきた。

「痛かったら言って欲しい」
「へいき、です」

 痛みはない。気持ちよさもない。異物感だけがすごくて、そこを暴かれているということが恥ずかしかった。

「どれくらい解せば挿れてもいいものなんだろうか」
「聞かないでください。私にわかる訳ないじゃないですか」
「挿れたい」
「ま、まだ無理じゃないでしょうか」

 マリーはこれまでに二度目撃したユベールのものを思い出し、顔を引き攣らせた。
 指二本よりもずっと太かった気がする。いや、確実に太かった。

「ん……」

 指が更に追加された。入口が引き攣るような感覚があり、マリーは眉を顰めた。

「マリー、これは?」
「ひゃっ!」

 ユベールの指先から突然ピリピリとした感覚が伝わってきた。

「やっ、やだ、ユベール様、それは……っ」

 魔力を流すなんて反則だ。そこが瞬時に潤み、ひくひくと収縮して、ユベールの指を締め付けるのを自覚した。

 ピリピリ感と共にむず痒いような感覚が走る。

「いやっ!」

 マリーは手でユベールの胸元を押し、逃れようとする。
 しかし上手く力が入らない。せめて仕返しに魔力を流し返してやりたいのに。

「すまない。駄目だったか?」

 魔力の刺激が止まり、指が引き抜かれた。
 マリーは涙目でユベールを睨む。

「当たり前です! ユベール様の変態! 馬鹿!」

 マリーはお返しとばかりにユベールの肌蹴た胸元に触れると、魔力を流し込んでやった。

「っ……! マリー、それは逆効果だ……」

 獰猛な眼差しがマリーに向けられた。
 ユベールはもどかしげにトラウザーズのボタンに手をかける。

(あれ……?)

 もしかして自分はまずいことをやってしまったのだろうか。
 マリーの背筋がすっと冷えた。
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