32 / 35
祭礼のあと 03
――痛い。
五か月前まで軍人だった男に渾身の力で殴り付けられたのだ。
結果としてナゼールは左の奥歯二本を失い、顔が腫れ上がって元の人相がわからない状態へと変貌していた。
殴り殺されなかっただけマシと思うべきだろうか。
ナゼールは牢のベッドに座り込むと苦笑いを浮かべた。
自分はこれからどうなるのだろう。
(いや、どうでもいい)
自分は一世一代の賭けに負けたのだ。
ただ一人、人生の全てを賭けてでも欲しいと思った女性を手に入れるための大博打に。
その女性――ネージュに初めて出会ったのは、法曹学校を卒業して弁護士資格を取得し、父の後継者としてこの屋敷を訪れた時だ。
当時、確か彼女は十三歳だったはずだ。その時から恐ろしい程に整った顔立ちの少女だった。
彼女への感情が特別なものに変わったのはいつなのか、ナゼールにもわからない。
最初は少女趣味なのかと心配になったし、九歳も年が離れていると自分を戒めたが、ネージュが成人した時には開き直った。
貴族間の政略結婚ならこれくらいの年齢差は珍しくない。
だが、彼女は侯爵家に正式に養子に迎えられたれっきとした貴族令嬢で、こちらはそれなりに裕福とはいえ一介の平民だ。
彼女が孤児のままなら。もしくは自分が侯爵家と釣り合う貴族の出身だったらと、つい考えてしまう。
そんな仮定は無意味で、身分という隔たりは決して消えない。だから表には出すまいと誓っていた。なのに――。
コツコツという靴音が聞こえ、ナゼールは顔を上げた。
何事かと思ったらドアの前で止まり、今一番会いたくない人物が扉から顔を覗かせた。
ナゼールが欲しくて欲しくてたまらないものを手に入れた幸運な男――アリスティードだ。
背後にはエリックを従えている。
「いい顔になったじゃないか、ナゼール」
粗野で尊大な物言いに苛立ちが募る。
レーネ侯爵家の血を引くとはいっても半分は平民で、育ちの悪さが所作に現れている男だ。
顔立ちが若い頃のマルセルにそっくりなのがまた腹が立つ。そのせいで、マルセルの信望者であるネージュは、この男を受け入れたのだから。
こんな男がネージュを手に入れただなんて。
嫉妬でどうにかなりそうだった。
「お陰様で」
内心の憎悪を隠し、ナゼールは悠然とした態度を心掛けて返事をした。
感情をあらわにしないのは、この男の前でだけは醜態を晒したくないという、なけなしの矜恃を総動員した結果だ。
「その顔でも喋れるんだな」
「口を動かす度に激しく痛みますよ。食事を摂るのも一苦労です」
ここに収容されて三日が経つが、出てきた食事はと言えば、嫌がらせのように固い黒パンと味の薄いスープだった。
「出してやってるだけありがたく思え。囚人一人食わすのにも金が要るんだ」
「飢え死にさせるつもりは無いようで安心しました」
「そうだな。お前には色々と確認したい事があるからな」
「どうぞ、何でもお話しますよ」
「へえ、随分物分かりが良い」
「賭けに負けてしまいましたからね。こうなった以上、何もかもどうでもいいんですよ」
ナゼールは左頬の激痛を堪え、自嘲の笑みを浮かべた。
「何故当家を裏切るような真似をしたんですか」
口を開いたのは、アリスティードの背後で沈黙を守っていたエリックだ。
ネージュを娘のように可愛がり、マルセルに忠誠を誓っていた彼の目は、静かな怒りを湛えている。
「夢を見てしまったんですよ。アリスティード様からならネージュ様を奪えるのではないかと」
「どうしてそんな馬鹿な真似を……」
エリックは呆れ返った顔で絶句している。
「そうでも無かったですよね。現に途中までは上手くいっていた」
ナゼールはフッと馬鹿にした目をアリスティードに向けた。
ネージュの悪い噂を利用し、ある事ない事吹き込んだのは事実だが、ナゼールに言わせれば騙される方が悪いのだ。
「ジャンヌは今どこだ」
アリスティードは苛立った様子で尋ねてきた。
「わかりません。あの女は金で雇ったお針子崩れの娼婦ですから。行き先は私も知らないんですよ。今頃手に入れた大金で国外に出て豪遊でもしてるんじゃないでしょうか? ……ああ、でもなかなかの嗅覚の持ち主で助かりましたよ。視察中に襲われたそうですね、侯爵閣下。その時のあなたの態度から不穏な気配を察知して、いち早く私に知らせてくれましたからね」
ナゼールがすんでのところで逃げられたのは、ジャンヌが送ってきた電報のおかげだ。
『気付かれたかも J』
そう書かれた簡素な報せに、ナゼールも嫌な予感を覚えたので、何もかもを捨てて身を隠したのだった。
「まったく、どこの誰か知りませんけど余計な事をしてくれましたよ。襲撃さえなければ、まだあなたは私に騙されてくれていただろうに……」
「襲撃の首謀者はお前じゃないって言いたいのか」
「私ではありません。ネージュ様にも申し上げましたが、あなたが生きていた方が僕にとっては都合がいいですからね」
断言すると、アリスティードは沈黙した。
「せいぜいお気をつけて。ネージュ様は魔性だ。心酔している男は私だけじゃない」
フェリクス王子にとある伯爵家の子息――何人か思い当たる顔がある。
目の前のこの男も、既にネージュに惹き付けられているのは顔を見れば明らかだ。
苦しめばいい。奪われるかもしれない恐怖に。
アリスティードが死ねば、まず間違いなく王家は手を伸ばしてくるし、対抗して動こうとする貴族もいるかもしれない。
「……口先だけで暗躍してたくせに、随分荒っぽい手段に出たな。そのまま潜伏してれば捕まらなかっただろうに……」
「ネージュ様の周囲が手薄になる機会はそうそうない。多少の危険を冒してでも手に入れたかった。それだけです。ああ、屋台を炎上させたのも私ですよ。そうすれば、神殿周りからは更に人が減ると思ったので」
「ペラペラとよく喋る……。聞かれもしないのにそこまで喋る理由は何だ?」
「さあ……」
賭けに負けた今は生きていても仕方ないと思っているからだ。だが、本音を伝えるのは癪だったのでナゼールは惚けた。
そして、嘲笑を浮かべて囁く。
「計画が完璧にうまくいったとしても、ネージュ様の心が得られたかはわかりませんけどね。あの方の心には常に前侯爵閣下がいますから」
ピクリとアリスティードの表情が動いたのを見て、ナゼールはほくそ笑んだ。
「アリスティード様、あなたが受け入れられたのは、マルセル様に似た容姿のお陰だ。羨ましいですよ。血縁関係だけでするりとあの氷の心の中に入り込んだのですから」
(傷付け)
ナゼールは悪意をもって囁いた。
「可哀想に。あなたはただの身代わりだ。死者を超えるのは難しいですよ。思い出の中で美化されていきますからね」
もうこの男はネージュに触れたのだろうか。
考えるだけでも嫉妬でおかしくなりそうだ。
だからナゼールは考えうる限りの語彙を使って毒を紡いだ。
少しでも目の前の男を傷付けるために。
◆ ◆ ◆
「最後まで冷静でいらっしゃいましたね。ご立派です」
「逆上したって意味がないから我慢しただけだ」
ナゼールの尋問を終え、地下牢から戻る道すがら、エリックから話しかけられ、アリスティードは憤りをあらわに答えた。
「あの野郎、挑発しやがって……」
アリスティードはつぶやくと、壁に拳を叩きつけた。
怒りと苛立ちがおさまらない。
歪んだ欲望でネージュを傷付けておきながら、魔性に惑わされたからだと言わんばかりのふてぶてしい態度も、アリスティードに向かってマルセルの身代わりだと言い放った発言も、何もかもが許せなかった。
ナゼールに襲われた日の翌朝、明るくなってから、腕の中で眠るネージュを見てアリスティードは絶句した。
あの男に触れられたと彼女自身が申告した部分が、真っ赤になっていたのだ。
ミシェルによると、嫌悪感から必死に洗い落とそうと擦っていたらしい。
また、昨夜も悪夢を見てうなされるネージュの姿を見ているので、どうしたって私怨が湧く。
「エリック、証言の裏を取って欲しい」
「勿論です。しかしあの男の発言が全て真実だったとしたら、旦那様を襲った連中の黒幕は別にいるという事に……」
「引き続き警戒するしかないだろうな」
黒幕はやはりフェリクス王子なのだろうか。
結婚式でアリスティードを貶めてきた彼の姿が脳裏に浮かび、別の意味での苛立ちが湧き上がった。
五か月前まで軍人だった男に渾身の力で殴り付けられたのだ。
結果としてナゼールは左の奥歯二本を失い、顔が腫れ上がって元の人相がわからない状態へと変貌していた。
殴り殺されなかっただけマシと思うべきだろうか。
ナゼールは牢のベッドに座り込むと苦笑いを浮かべた。
自分はこれからどうなるのだろう。
(いや、どうでもいい)
自分は一世一代の賭けに負けたのだ。
ただ一人、人生の全てを賭けてでも欲しいと思った女性を手に入れるための大博打に。
その女性――ネージュに初めて出会ったのは、法曹学校を卒業して弁護士資格を取得し、父の後継者としてこの屋敷を訪れた時だ。
当時、確か彼女は十三歳だったはずだ。その時から恐ろしい程に整った顔立ちの少女だった。
彼女への感情が特別なものに変わったのはいつなのか、ナゼールにもわからない。
最初は少女趣味なのかと心配になったし、九歳も年が離れていると自分を戒めたが、ネージュが成人した時には開き直った。
貴族間の政略結婚ならこれくらいの年齢差は珍しくない。
だが、彼女は侯爵家に正式に養子に迎えられたれっきとした貴族令嬢で、こちらはそれなりに裕福とはいえ一介の平民だ。
彼女が孤児のままなら。もしくは自分が侯爵家と釣り合う貴族の出身だったらと、つい考えてしまう。
そんな仮定は無意味で、身分という隔たりは決して消えない。だから表には出すまいと誓っていた。なのに――。
コツコツという靴音が聞こえ、ナゼールは顔を上げた。
何事かと思ったらドアの前で止まり、今一番会いたくない人物が扉から顔を覗かせた。
ナゼールが欲しくて欲しくてたまらないものを手に入れた幸運な男――アリスティードだ。
背後にはエリックを従えている。
「いい顔になったじゃないか、ナゼール」
粗野で尊大な物言いに苛立ちが募る。
レーネ侯爵家の血を引くとはいっても半分は平民で、育ちの悪さが所作に現れている男だ。
顔立ちが若い頃のマルセルにそっくりなのがまた腹が立つ。そのせいで、マルセルの信望者であるネージュは、この男を受け入れたのだから。
こんな男がネージュを手に入れただなんて。
嫉妬でどうにかなりそうだった。
「お陰様で」
内心の憎悪を隠し、ナゼールは悠然とした態度を心掛けて返事をした。
感情をあらわにしないのは、この男の前でだけは醜態を晒したくないという、なけなしの矜恃を総動員した結果だ。
「その顔でも喋れるんだな」
「口を動かす度に激しく痛みますよ。食事を摂るのも一苦労です」
ここに収容されて三日が経つが、出てきた食事はと言えば、嫌がらせのように固い黒パンと味の薄いスープだった。
「出してやってるだけありがたく思え。囚人一人食わすのにも金が要るんだ」
「飢え死にさせるつもりは無いようで安心しました」
「そうだな。お前には色々と確認したい事があるからな」
「どうぞ、何でもお話しますよ」
「へえ、随分物分かりが良い」
「賭けに負けてしまいましたからね。こうなった以上、何もかもどうでもいいんですよ」
ナゼールは左頬の激痛を堪え、自嘲の笑みを浮かべた。
「何故当家を裏切るような真似をしたんですか」
口を開いたのは、アリスティードの背後で沈黙を守っていたエリックだ。
ネージュを娘のように可愛がり、マルセルに忠誠を誓っていた彼の目は、静かな怒りを湛えている。
「夢を見てしまったんですよ。アリスティード様からならネージュ様を奪えるのではないかと」
「どうしてそんな馬鹿な真似を……」
エリックは呆れ返った顔で絶句している。
「そうでも無かったですよね。現に途中までは上手くいっていた」
ナゼールはフッと馬鹿にした目をアリスティードに向けた。
ネージュの悪い噂を利用し、ある事ない事吹き込んだのは事実だが、ナゼールに言わせれば騙される方が悪いのだ。
「ジャンヌは今どこだ」
アリスティードは苛立った様子で尋ねてきた。
「わかりません。あの女は金で雇ったお針子崩れの娼婦ですから。行き先は私も知らないんですよ。今頃手に入れた大金で国外に出て豪遊でもしてるんじゃないでしょうか? ……ああ、でもなかなかの嗅覚の持ち主で助かりましたよ。視察中に襲われたそうですね、侯爵閣下。その時のあなたの態度から不穏な気配を察知して、いち早く私に知らせてくれましたからね」
ナゼールがすんでのところで逃げられたのは、ジャンヌが送ってきた電報のおかげだ。
『気付かれたかも J』
そう書かれた簡素な報せに、ナゼールも嫌な予感を覚えたので、何もかもを捨てて身を隠したのだった。
「まったく、どこの誰か知りませんけど余計な事をしてくれましたよ。襲撃さえなければ、まだあなたは私に騙されてくれていただろうに……」
「襲撃の首謀者はお前じゃないって言いたいのか」
「私ではありません。ネージュ様にも申し上げましたが、あなたが生きていた方が僕にとっては都合がいいですからね」
断言すると、アリスティードは沈黙した。
「せいぜいお気をつけて。ネージュ様は魔性だ。心酔している男は私だけじゃない」
フェリクス王子にとある伯爵家の子息――何人か思い当たる顔がある。
目の前のこの男も、既にネージュに惹き付けられているのは顔を見れば明らかだ。
苦しめばいい。奪われるかもしれない恐怖に。
アリスティードが死ねば、まず間違いなく王家は手を伸ばしてくるし、対抗して動こうとする貴族もいるかもしれない。
「……口先だけで暗躍してたくせに、随分荒っぽい手段に出たな。そのまま潜伏してれば捕まらなかっただろうに……」
「ネージュ様の周囲が手薄になる機会はそうそうない。多少の危険を冒してでも手に入れたかった。それだけです。ああ、屋台を炎上させたのも私ですよ。そうすれば、神殿周りからは更に人が減ると思ったので」
「ペラペラとよく喋る……。聞かれもしないのにそこまで喋る理由は何だ?」
「さあ……」
賭けに負けた今は生きていても仕方ないと思っているからだ。だが、本音を伝えるのは癪だったのでナゼールは惚けた。
そして、嘲笑を浮かべて囁く。
「計画が完璧にうまくいったとしても、ネージュ様の心が得られたかはわかりませんけどね。あの方の心には常に前侯爵閣下がいますから」
ピクリとアリスティードの表情が動いたのを見て、ナゼールはほくそ笑んだ。
「アリスティード様、あなたが受け入れられたのは、マルセル様に似た容姿のお陰だ。羨ましいですよ。血縁関係だけでするりとあの氷の心の中に入り込んだのですから」
(傷付け)
ナゼールは悪意をもって囁いた。
「可哀想に。あなたはただの身代わりだ。死者を超えるのは難しいですよ。思い出の中で美化されていきますからね」
もうこの男はネージュに触れたのだろうか。
考えるだけでも嫉妬でおかしくなりそうだ。
だからナゼールは考えうる限りの語彙を使って毒を紡いだ。
少しでも目の前の男を傷付けるために。
◆ ◆ ◆
「最後まで冷静でいらっしゃいましたね。ご立派です」
「逆上したって意味がないから我慢しただけだ」
ナゼールの尋問を終え、地下牢から戻る道すがら、エリックから話しかけられ、アリスティードは憤りをあらわに答えた。
「あの野郎、挑発しやがって……」
アリスティードはつぶやくと、壁に拳を叩きつけた。
怒りと苛立ちがおさまらない。
歪んだ欲望でネージュを傷付けておきながら、魔性に惑わされたからだと言わんばかりのふてぶてしい態度も、アリスティードに向かってマルセルの身代わりだと言い放った発言も、何もかもが許せなかった。
ナゼールに襲われた日の翌朝、明るくなってから、腕の中で眠るネージュを見てアリスティードは絶句した。
あの男に触れられたと彼女自身が申告した部分が、真っ赤になっていたのだ。
ミシェルによると、嫌悪感から必死に洗い落とそうと擦っていたらしい。
また、昨夜も悪夢を見てうなされるネージュの姿を見ているので、どうしたって私怨が湧く。
「エリック、証言の裏を取って欲しい」
「勿論です。しかしあの男の発言が全て真実だったとしたら、旦那様を襲った連中の黒幕は別にいるという事に……」
「引き続き警戒するしかないだろうな」
黒幕はやはりフェリクス王子なのだろうか。
結婚式でアリスティードを貶めてきた彼の姿が脳裏に浮かび、別の意味での苛立ちが湧き上がった。
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。