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今日は髪型を変えて
しおりを挟むピピピピピピ・・・・・・。
遠くの方で、目覚まし時計が鳴っている。
「う~」
手だけを伸ばしてアラームを止めようとするけど、なかなか止まらない。
おかしい。
この辺に・・・・。
ごそごそとちょっとずつ体が這い出て目覚まし時計を探す。
「ぷぷっ。貞子みたい」
頭上から声が聞えた。
「んぁ~?」
うつ伏せで寝ていた私は髪をかきあげながら上を見る。
「おはよ。マイスイートダーリン」
さわやかな笑顔のリョウが目覚まし時計を片手に覗き込んで私の頭にチュッと軽くキスをした。
「おはよ・・・」
朝から、無駄にさわやかなんですが。
「さ、早く起きて。ご飯できてるわよ」
「はぁ~い」
ボリボリと頭をかきながらベッドから這い出る。
結婚してから一ヶ月。
私達は喧嘩ひとつせずに過ごしている。
体の関係はもちろんないけど、今みたいに軽いキスは挨拶みたいにしてくる。
私からはしない。
だって、気持ちがばれそうではずかしいもん。
初めておはようのキスをされたときなんて、
びっくりしてベッドから転げ落ちた。
寝ぼけてるって勘違いされたからいいけどさ。
リョウは当たり前のようにしてるし。
私だけがドキドキしちゃって、なんだか純情少女みたいでとても30前の女とは思えなかった。
リビングには結婚式のと新婚旅行で行ったイタリアの写真が飾られていていかにも新婚さんぽい。
毎日、リョウが綺麗に掃除してくれている我が家は実に過ごしやすく
今まで家に寄り付かなかった私は毎日会社から直行で家に帰ってくるようになった。
リョウも仕事が終わればすぐに帰ってきて晩御飯の準備をする。
その間、私は他の家事をやって・・・となんとかうまく過ごしていた。
今、私が身支度してる間、リョウは鼻歌を歌いながら朝ごはんを並べている。
なんだか、逆のような・・・。
だめだよなぁ、これじゃあ。
そう思って一度だけ早起きをして準備をしたけどリョウに止められた。
ここは、私の領域よって。台所は女の領域だと鼻を膨らませながら追い出された。
一応、生物学的上は私が女なんですけども。
とにかく、リョウは何でも完璧にこなして、かいがいしく私の世話をしてくれる。
じゃあ、私は何が出来るんだろうか。
いろいろ考えてやってはみたけどやっぱりリョウにかなうものがなくって
落ち込む一方だった。
洗面所にしゃがみこんで考えていた私をリョウが上から突く。
「何やってんのよ。どうかしたの?」
エプロン姿の新妻は、眩しい笑顔を振りまく。
まぶしいよぅ・・・。
「ううん。なんでもない」
はぁ。ぜったい、逆だよ。逆。
私が新妻なんだぞ・・・・。
「いただきます・・・」
両手を合わせて朝ご飯をいただく。
くぅ~、やっぱりうまいわ。このトーストの焼具合、私好み。さすが、リョウだよ。
一口食べてしみじみと噛みしめているとリョウはニコニコして見つめる。
「ふふ、もえはいつもおいしそうに食べてくれるから作りがいがあるわ。
あ、そうそう。今日は、晩御飯作れないから。申しわけないけど、もえ一人で食べてくれる?」
「うん、別にいいけど。どこかにいくの?」
結婚してからいつも一緒に晩御飯食べてたから、リョウがこんなこというのは初めてだった。
「そうなの。ちょっと、人と会うの。でも、そんなに遅くならないから」
ニッコリ笑ってごまかされたような気がする。
普通、誰と会うって言う・・よね。
でも、私達は普通の夫婦じゃないから聞けない。
胸のあたりがもやもやして、なんだかスッキリしないけどしょうがない。
我慢するしかないのだ。
パクッとトーストにがぶりついてごまかすことにした。
自分の眉間にしわがよっているのをリョウがじっと見つめていたことにも気付かず
ひたすら朝食を食べてしまうことに徹底した。
「あ~お~い~」
なんだか、すっきりしない気持ちのままお昼ご飯を食べに医務室に行った。
「なに?どうしたの?その顔」
顔って。そんにひどいのかしら。
自分の頬を片手でさすってみる。
お肌の調子はとてもいいのだけども。
「違う。眉間にしわがよってるよ。なに怒ってるの?」
怒ってる?私が?
「怒って・・・ないと思う。でも、話聞いてくれる?」
私がお願いしなくてもきっと話を聞いてくれるだろう。
葵はニッコリ笑ってお茶を煎れてくれた。
「あのね、二つ悩んでるの」
「二つ?」
うん、とうなずいてご飯を口の中に放り込む。
話しながらご飯を食べるってお行儀が悪いけど、
昼休憩って短いからそんなこと言ってられない。
「一つは、私が家のことを何も出来ないこと。リョウって完璧なんだもん。
私が手を出そうとすると怒るし。洗濯物たたむくらいしかやってない」
私の話に、ああ~とうなずく葵。
「リョウのためになにかしたいのに、何も出来ないの。
私って何も出来ないんだなぁと思うとなんだか落ち込んじゃって」
「リョウのためになにかしてあげたいんだ」
そうなんだよね。してもらってるばっかりなのは申しわけない。
「うん、だってリョウの喜ぶ顔見たいじゃない?」
リョウの喜ぶ顔が見たい。
真剣に話してる私にクスッと笑う。ムッ。ひどいじゃない?
「ごめんごめん。もえが、あまりにもかわいい奥さんで、リョウも幸せだなって」
かわいい?
オヤジと言われることはあってもかわいいと言われた事はなくってよ。
びっくりしてると葵はとてもうれしそうに話した。
「お互いが、お互いに何かしてあげたいなんて素敵だよね。
求めることは簡単でも人に与えることって難しいじゃない?」
確かに、してほしいことを考えるよりしてあげたいことのほうがわからない。
「リョウともえって二人ともお互いに何かをしてあげたいって気持ちがあふれてるのよね。
きっとリョウは好きでもえのことを世話してると思うよ。
もえが、おいしいって言ってくれたり、ありがとうって言ってくれるだけで幸せなのよ。
これって簡単なことで実はよく忘れがちなことなのよね。
だけど、もえって感謝の気持ちを忘れてないじゃない?
きっと言葉にしてるだろうし。
その言葉が、リョウのやる気につながるし。
リョウってもえといるとき、最近笑顔が多いでしょ?」
「うーん、確かにいつもニコニコしてるけど・・・」
その答えを聞いて葵は大きくうなずいた。
「ほらね。リョウは作り笑いなんかしないよ。だから、きっと心からうれしいし、楽しいんじゃない?」
そうなのかな。
そうだとうれしいな。
「自信持っていいと思うよ」
はっきり言った葵の顔はとても優しく私を元気づけてくれた。
「うん。わかった。ありがとう」
「で、後一つは?」
後一つ・・・。
「実はね、今日はじめてリョウが夜一緒にご飯食べれないって言ったのだけど
普通だったら誰と会うとか言うじゃない?だけど、なんだか濁されたんだよね」
残り一つのミートボールを口に入れながら答えた。
「そっか。だから心配してるんだ」
「心配と言うか・・・。まあ、リョウに限って浮気とかないだろうけど」
それはないだろう。
そういう事はしないと絶対言い切れる。
「まあね。それは私も保証できる」
葵もそう言ってくれたらなんだか考えてることがバカらしくなった。
「そうだよね。なんだか心配するだけ損な気がした。やーめよっと」
そうだよ。無駄な心配はしない。
「もえらしいね」
またクスッと笑われてしまった。
いいのよ、くよくよ考えても無駄よ、無駄。
葵と話したおかげですっきりした。
「ありがと、葵。全部解決したわ」
お礼を言ったところでお昼休みが終わるアラームが鳴った。
リョウは今日遅いし、何しようかな。
久しぶりに美容院にでも行ってみようかな、パーマも落ちてきたことだし。
うん、決めた。
今日は、髪型を変えてみよう。
肩まである髪をちょっと切って軽くパーマかけてみようかな。
それともストレートにしてみようかな。
雑誌を見ながら美容院のいつものお姉さんと相談する。
結局、首辺りまで切ってふわっとパーマをあてることにした。
一度、髪を洗うために立ち上がろうとした瞬間。
隣に座っていた女の人が丁度終わったらしく、
同時に立ち上がり、その女性と目があった。
あ、ブーケの人だ。
私に気がついた彼女は私にニッコリと笑いかけた。
本能的に、この人は敵だと思った。
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