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2話
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「カトリーヌ様? 一体どうなされるの?」
「どうするも何も……殿下がああいうのだから、私は従うしかないと思うの。そうでしょう?」
先ほどまで優雅にティータイムを楽しんでいた級友たちは、オロオロとした様子で私に語りかけてくる。正直私も他人事ならこうなっていたかもしれない。そのくらいの異常事態だ。
辺りを見れば、何人かがそれぞれこちらを見ながらこそこそを近くの者と話している。おそらくベルナールの言葉が聞こえてしまったに違いない。
今後どうなるかは全く分からないけれど、正直な気持ちとしては婚約破棄が無事に成立することを望んでいる。今後一生あんな能足りんと共に暮らすことを考えると頭が痛くなる。
ひとまずこの場から立ち去ろうかと、思って級友たちに声をかけようとした瞬間、逆に後ろから声をかけられた。身体ごと声のした方へ振り返ると、一人の女性がにやけ顔で立っていた。私はその人物が誰であるか気付き、呆然としてしまう。
「ご機嫌よう。カトリーヌ様。先ほどベルナール様がお見えになられて?」
声の主は先ほどベルナールが言っていた女性、マリーナだった。ゆったりとした淡い桃色のドレスを纏っているのは、お腹の子を労ってだろうか。
それにしても、今まで噂で聞いたことはあっても、マリーナと直接話したことなど一度もない。そんな彼女がわざわざ私の前に現れてどういうつもりだろうか。
そもそも、許嫁の私ですらベルナール殿下と呼んでいるのに、様で呼ぶなんて。そんなことを思っていると、マリーナは勝ち誇ったような顔で私に向かってさらに言葉を続けた。
「もうお聞きになったと思うけれど、私、ベルナール様の子を授かったの。それをベルナール様に伝えたら、あなたとの婚約を破棄して、私を王太子妃にしてくださるとおっしゃっていたわ。うふふ……御愁傷様」
私は空いた口が塞がらなかった。まさか、ベルナールに続いて、マリーナもこんなにもお頭が緩いだなんて。まぁ、噂が事実なら、緩いのはそれだけじゃないでだろうけれど。
「あら? 悔しくて言葉も出ないのかしら? うふふ……でも、ベルナール様も、あなたよりも、私みたいな女性らしい体つきをした方が好みだとおっしゃっていたわ」
何を勘違いしたのか、私が黙っていることに上機嫌になったようで、さらに言葉を続けていく。あなたの一言ひとことが、ベルナールの立場をどんどん悪くしていくことをに気がついていないのだろうか。
「うふふ……まぁ、結婚式にはあなたも招待してあげるから。あぁ! 王族との結婚式よ! 国一番の素敵な結婚式に違いないわ‼︎」
マリーナの父はペタン男爵。そもそも格が釣り合わない。貴族と平民の婚姻が容易ではないのと同じように、格の違う貴族同士の婚姻もまた困難だ。それにも関わらず、マリーナはベルナールの言葉だけを信じて、すでに結婚できると思い込んでいるみたいだ。
もう、付き合うのも馬鹿らしくなったので、私は、ベルナールに見せた笑顔よりもさらに笑みを強めた顔を無理やり作り、マリーナに向かって一言答えることにした。
「それはおめでとう。マリーナ。あなたの前途が順風であることを心から祈っているわ」
「あら。ありがとう。うふふ……それじゃあ、ご機嫌よう」
私は嬉しそうに去っていくマリーナの後ろ姿を見ながら、本日二回目の大きなため息をついた。
「どうするも何も……殿下がああいうのだから、私は従うしかないと思うの。そうでしょう?」
先ほどまで優雅にティータイムを楽しんでいた級友たちは、オロオロとした様子で私に語りかけてくる。正直私も他人事ならこうなっていたかもしれない。そのくらいの異常事態だ。
辺りを見れば、何人かがそれぞれこちらを見ながらこそこそを近くの者と話している。おそらくベルナールの言葉が聞こえてしまったに違いない。
今後どうなるかは全く分からないけれど、正直な気持ちとしては婚約破棄が無事に成立することを望んでいる。今後一生あんな能足りんと共に暮らすことを考えると頭が痛くなる。
ひとまずこの場から立ち去ろうかと、思って級友たちに声をかけようとした瞬間、逆に後ろから声をかけられた。身体ごと声のした方へ振り返ると、一人の女性がにやけ顔で立っていた。私はその人物が誰であるか気付き、呆然としてしまう。
「ご機嫌よう。カトリーヌ様。先ほどベルナール様がお見えになられて?」
声の主は先ほどベルナールが言っていた女性、マリーナだった。ゆったりとした淡い桃色のドレスを纏っているのは、お腹の子を労ってだろうか。
それにしても、今まで噂で聞いたことはあっても、マリーナと直接話したことなど一度もない。そんな彼女がわざわざ私の前に現れてどういうつもりだろうか。
そもそも、許嫁の私ですらベルナール殿下と呼んでいるのに、様で呼ぶなんて。そんなことを思っていると、マリーナは勝ち誇ったような顔で私に向かってさらに言葉を続けた。
「もうお聞きになったと思うけれど、私、ベルナール様の子を授かったの。それをベルナール様に伝えたら、あなたとの婚約を破棄して、私を王太子妃にしてくださるとおっしゃっていたわ。うふふ……御愁傷様」
私は空いた口が塞がらなかった。まさか、ベルナールに続いて、マリーナもこんなにもお頭が緩いだなんて。まぁ、噂が事実なら、緩いのはそれだけじゃないでだろうけれど。
「あら? 悔しくて言葉も出ないのかしら? うふふ……でも、ベルナール様も、あなたよりも、私みたいな女性らしい体つきをした方が好みだとおっしゃっていたわ」
何を勘違いしたのか、私が黙っていることに上機嫌になったようで、さらに言葉を続けていく。あなたの一言ひとことが、ベルナールの立場をどんどん悪くしていくことをに気がついていないのだろうか。
「うふふ……まぁ、結婚式にはあなたも招待してあげるから。あぁ! 王族との結婚式よ! 国一番の素敵な結婚式に違いないわ‼︎」
マリーナの父はペタン男爵。そもそも格が釣り合わない。貴族と平民の婚姻が容易ではないのと同じように、格の違う貴族同士の婚姻もまた困難だ。それにも関わらず、マリーナはベルナールの言葉だけを信じて、すでに結婚できると思い込んでいるみたいだ。
もう、付き合うのも馬鹿らしくなったので、私は、ベルナールに見せた笑顔よりもさらに笑みを強めた顔を無理やり作り、マリーナに向かって一言答えることにした。
「それはおめでとう。マリーナ。あなたの前途が順風であることを心から祈っているわ」
「あら。ありがとう。うふふ……それじゃあ、ご機嫌よう」
私は嬉しそうに去っていくマリーナの後ろ姿を見ながら、本日二回目の大きなため息をついた。
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