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16話:現状把握(秋期)

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 そうして、フォレスは小屋の1つでベッドに寝かされることになった。

「……いや、ルイーゼ? 大丈夫だぞ? 俺は何の問題も無いぞ?」

 ベッドの横には、ルイーゼが立っている。
 その彼女に自らの無事を訴えたのだが、彼女には笑みも何も無い。

「報告を聞く限り決してそうとは……フォレスさま。私の指ですが、何本に見えますか」

 ルイーゼが指を立てて見せてくるが「おいおいおい」だった。
 フォレスは苦笑で応じる。

「さすがにそこまで極まってはないがぞ。3本だ。そうだろ?」

「はい。では、枕の横に立っておられるのは?」

 これまた苦笑しか呼ばない問いかけだった。
 ちらりと一瞥した上で答える。

「マグちゃんだ。それ以外にあるまい?」

「なるほど。では、フォレス様。サイドテーブルに立っておられるのは?」

 えっ? である。
 フォレスはベッド脇のサイドテーブルに目を向ける。
 素朴なそれの上には、くだんの彼女がいた。
 マグヴァルガが腕組みで立っている。
 
「あ、あれ? ま、マグちゃん?」

「そうです。わたしがまぐちゃんです。それで、ふぉれす?」

「はい」

「おとなしくです。ねてなさい」

「はい」

 疲れていると自覚してはいたのだ。
 だが今の自身は、疲れている以上の状態のようだった。

 大人しく枕に頭を預ける。
 ただ、釈然しゃくぜんとしないところはあった。
 フォレスは寝たままで首をかしげる。

「ここまで疲労するような労働じゃなかったんだがなぁ」

 討伐隊時代はこんな生易しいものではなかったのだ。
 1つでも打つ手を間違えば誰かが死ぬという状況で、熾烈な戦役を戦い抜いたものだったが。

「ブランクがあるのです。無理がきかないのも当然のことでしょう」

 そんなルイーゼの意見だった。
 フォレスはなるほどと頷く。
 
「まぁ、そうか。討伐隊の時のような気分でいたのが間違いか。すまないな、ルイーゼ、マグちゃん。俺の不手際だった」

 体調管理を失敗するなど、討伐隊時代であれば生死に直結しかねない失態である。
 なんとも情けない限りであったが、叱咤しったは飛んでこなかった。
 ルイーゼは申し訳無さそうに眉をひそめる。

「こちらこそ、すみません。フォレスさまが疲労されているのは分かっていたのです。ただ……」

 その先は分かるような気がした。
 フォレスは「あぁ」と同意を向ける。

「仕方ないと言うか、俺も休む気は無かったからな。なにせ、こうも人数が増えればな」

 そうなのであった。
 フォレスが何故ここまで疲労したかと言えば、ここにほとんどの原因がここにある。

 人口だ。
 開拓団の人員が、冬を間近にして急増しているのである。

「実際の数はどうだ? 100は超えたのか?」

 ルイーゼは険しい表情で首を左右にした。

「それどころではありません。今日また南から一団が。これで200は超えました」

 フォレスは驚きに目を丸くする。

「ぬ、ぬお。そうか200か」

「この開拓拠点の許容量を明らかに超えています」

「う、うーむ。第2、第3拠点も考える必要があるが……そうか、増えたなぁ」

 もとが30人弱だったことを考えると、急増もいいところである。
 何故こうも増えているのか?
 それは南の情勢に答えがあるだろう。

「短期決戦はとはいかなかったようだな」

 ルイーゼが頷いて同意してくる。

「はい。避難してきた者たちが言っていました。当初はアルブが優勢だったようですが、今はどちらとも言えないようで」

「結果、焼け出された者たちが増えたということだな。不憫ふびんなことだ。俺などを頼って、こんな場所を目指さざるを得なかったというのもまったくな」

 この地は、ドラゴンさえようする魔獣の森だ。
 そして、フォレスはといえば、決して頼り得る存在ではない。
 かつての魔王討伐隊の隊長だとは言え、スキルを剥奪され追放された罪人なのだ。

 それでも、彼らはフォレスを頼らざるを得なかった。
 そのことを思うと、やはり同情は禁じ得ない。

 その上で、だ。
 気になるのは現状である。
 フォレスはルイーゼに不安の視線を送る。

「それで、あー……どうだ? 実際問題、俺たちは彼らを受け入れられそうなのか?」

 共倒れだけは避けなければならないのだ。
 いざという時には、非情な判断を下さなければならない。
 
 覚悟してフォレスはルイーゼの返答を待つ。
 だが、覚悟は杞憂きゆうだったようだ。
 ルイーゼは笑みを見せてきた。

「その点は、今のところは大丈夫です。人が増えることも悪いことばかりではありませんので。ですね、マグちゃん?」

 それは一体どういうことなのか?
 フォレスはマグヴァルガに目を移す。
 彼女は「えへん」と胸を張って見せてきた。

「そのとーり。かいたくしゃがいっぱい、ゆめいっぱい。まぐちゃん、じゅんちょうです。めちゃんこぱわーあっぷです」

 フォレスは目を見張る。

「パワーアップ? それはアレか? 特権スキルのようなものが増えたということか?」

「さにあらず。こんかいはえーと、そこあげ?」

 底上げ。
 おそらくは、スキルの底上げ。
 フォレスは咄嗟に確認していた。

〘特権スキル〙
『位階第一位特権(第二階梯)』【成長促成(開拓)】

〘開拓系スキル群(第二階梯)〙
+【採取系統】
+【建築系統】
+【栽培系統】
+【迎撃系統 】

「……ほぉ?」

 すぐに気が付けた。
 
 『位階第一位特権』と〘開拓系スキル群〙の項目に、新しく第二階梯という記述が追加されている。

「つまり、今までが第一階梯だったということか? それが一段上がったと?」

 マグヴァルガは得意の表情で頷く。

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