【完結】世間では悪女として叩かれていますが、小さな理解者がいるので大丈夫です。

甘海そら

文字の大きさ
1 / 11

1、庭園での出会い

 夜会において、淑女たちの口は慎ましくない。

 自分たちこそが主役。
 その意識が口を軽くするのかどうか。
 エメルダは軽く眉をひそめる。
 よく聞こえてくるのだった。
 自分にまつわる、忍んでもいない話し声がよく聞こえてくる。

 またらしい、と。
 婚約話をまた破綻させたらしい、と。
 領地の加増の話をまた立ち消えにさせたらしい、と。

 王女であれば嫉妬でも無いだろう。
 そんな推測の声も聞こえてくる。
 では、理由は何なのか?
 何が彼女をそうさせるのか?
 思案を深める声も聞こえてくる。

 そうして、彼女たちは一様の結論を得るのだ。
 まぁ、仕方ない。
 彼女は悪女なのだから。
 悪女であれば、それも仕方ないと……

「ごめんなさい。少し外の風に当たってくるわね」

 エメルダは笑顔で侍女たちにそう告げた。
 返事を待たずに、足早に外に向かう。
 燭台しょくだいの明かり煌めく大広間を出て、静かな中庭へ。

 その庭園の奥へと進む。
 そこには、生け垣に囲まれるようにして小さな噴水があった。
 エメルダはその前にたたずめば、深々とため息をつく。

(……まったく、人の苦労も知らないで)

 エメルダ・シェリル。

 それが彼女の名だった。
 大国シェリナにおいて、王女と知られる彼女の名だ。

 ただ、世間の人々に彼女をその名で呼ぶ者は少なかった。

 悪女。

 侮蔑の響きと共に、彼女はそう呼ばれていた。

「……ふざけないでよ」

 思わず、そんな呟きがもれる。
 不本意だったのだ。
 そんな悪名は、エメルダにとってはなはだ不本意なものだった。

 理由があった。
 確かに、多くの婚約を無いものにし、領地の加増の話を取り消させてきた。
 父親であるシェリナ王にそう働きかけてきた。
 だが、そこに私情は無かった。
 全ては王家のためであり、ひいてはシェリナの人々のためだった。

 しかし、それに理解を示してくれる者はまるでいない。
 
 政治に興味の無い貴婦人たちなどは、特にその傾向が顕著だ。
 悪人であるという噂をそのままに鵜呑みにすれば、皆が口にしているのであればと聞こえよがしに話の種としてくる。

 慣れたようで、無邪気な悪意は辛いものだった。

(……戻りたくないわね)

 エメルダはその場でじっとうつむく。

 自分が担うことになった役回りを呪うだけの時間が続く。
 
 そして、

「……っ! 誰っ!?」

 叫ぶことになった。

 生け垣が、わずかにガサリと音を立てたのだ。
 その原因が、風や獣でも無く人であれば問題だった。
 
 自らの打ちひしがれる情けない姿など人には見せたくはない。
 エメルダは音の方向を鋭くにらみつけ、

「……え?」

 すぐに目を丸くすることになった。
 人影はあった。
 ただ、そこにいたのは自らの侍女でも、興味本位の令嬢や貴公子では無い。
 
 いや、貴公子ではあるかもしれなかった。
 予想だにせず小さな貴公子殿。
 そこにいたのは子供だった。
 10ほどにも見える小さな男子だ。
 
 エメルダは思わずじっと見つめることになる。

 妙に印象的だったのだ。
 幼い顔つきながらにも、どこか達観したような雰囲気を漂わせる翡翠ひすい色の瞳。
 
 妙に心惹かれるのだった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。

夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。 真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。 そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。 数量は合っている。 だが、なぜか中身の重量だけが減っている。 違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。 そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。 しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。 それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。 「では、正式な監査をお願いいたします」 やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり―― 隠されていた不正はすべて暴かれる。 そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。 これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、 “正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。

成功条件は、まさかの婚約破棄!?

たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」 王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。 王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、 それを聞いた彼女は……? ※他サイト様にも公開始めました!

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~

スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」 聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。 実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。 森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。 「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」 捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定