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10、再会
荒々しい足取りでエメルダは王宮の廊下を歩く。
(あ、あの男は……っ!!)
胸中には激しい怒りが渦巻いていた。
さすがに度を超えていた。
国王には男子は無い。
であれば、いつかは養子を考えるべき必要があった。
だが、それはもちろんだ。
それは重臣たちと語らって決めるべき重要事項だった。
こんな降って湧いたように決まっていい事柄では無い。
間違いなく、父親は独断で適当に決めたのだろう。
適当なおだてに乗って、特に考えも無く口約束をしたのだろう。
(一緒に死んでやろうかしら)
思わずそんな考えもよぎるが、ともあれだ。
これは今までとは次元が違う。
放っておけば、シェリナが瓦解するような問題になりかねない。
(しかし……なんなの?)
変わらず急ぎつつ、エメルダはわずかに首をかしげることになった。
不思議な様子が目につくのだ。
王宮の廊下とあって、少なくない数の侍女や貴婦人たちとすれ違うのだが、その表情だ。
羨望の眼差し。
じっくりと観察などはしていないが、そう見えた。
一体彼女たちは、悪女たる自分の何がそんな羨ましいのか。
理解は出来なかったが、とにかく今は父親だ。
もはや駆けるようにして進む。
だが、その足は不意に止まることになった。
何者かは知らない。
男性が立ちふさがるように前に出てくれば、それが原因だった。
「……っ!! どきなさいっ!! 私が何者か分かっているのっ!?」
苛立ちも込めて怒鳴りかける。
しかし、男性は動かなかった。
それどころか、何故か妙な笑みを向けてきた。
「良かった。見違えることが出来たようですね」
その発言を理解する余裕など無い。
押しのけてでも進もうと踏み出す。
すると、だった。
男性が間近になれば、その容姿が自然と目に入ってくる。
細身の長身の男性。
たくましさは無いが、非常に凛々しく見える。
思わず視線を奪われるのは、その双眸だった。
端正な顔立ちの中でも、その翡翠の双眸は妙に深い色をして、人の目を奪うものであり……
「え? 」
唖然と声を上げることになる。
今朝も夢に見たその瞳だった。
そこには憎悪の感情は無い。
親愛の情のようなものがうかがえるが、なんにせよだ。
エメルダは、その瞳の持ち主を知っていた。
「クレイン……?」
「覚えていただけていたようで何よりです。お久しぶりです、エメルダ様」
その笑みに、エメルダは不意に泣きたくなった。
自分が彼との出会いをどれだけ待ち望んでいたのか。
それを実感することになるが、しかし、自らは悪女だ。
二度と出会わないことを誓ったはずだった。
再会を喜ぶわけにはいかない。
「……いえ、失礼。知り合いと見間違えたわ。とにかく、どいていただけるかしら? 見て分からない? 私は急いでいるのだけど?」
目つき鋭く応じる。
だが、クレインだった。
余裕の微笑を向けてくる。
「なるほど、そのようですね。ですが、問題はないでしょう。貴女が急いでおられるのは、陛下の養子縁組についてですよね?」
「察しが良いようでけっこうよ。だから、早くどきなさい。シェリナの悪女ににらまれたくはないでしょう?」
「ははは。それは恐ろしいことですが、でしたら私と話すことも貴女にとっては悪い話では無いはずです。なにせ、その養子縁組の養子は私なのですから」
ん? だった。
この男は、一体何を口にしたのか。
眉をひそめて思案する時間が続き、そして、
「は、はぁ!? あ、貴方、え? 一体何を言ってるのよ!?」
叫びを禁じ得なかった。
クレインは余裕の笑みを向けてくる。
(あ、あの男は……っ!!)
胸中には激しい怒りが渦巻いていた。
さすがに度を超えていた。
国王には男子は無い。
であれば、いつかは養子を考えるべき必要があった。
だが、それはもちろんだ。
それは重臣たちと語らって決めるべき重要事項だった。
こんな降って湧いたように決まっていい事柄では無い。
間違いなく、父親は独断で適当に決めたのだろう。
適当なおだてに乗って、特に考えも無く口約束をしたのだろう。
(一緒に死んでやろうかしら)
思わずそんな考えもよぎるが、ともあれだ。
これは今までとは次元が違う。
放っておけば、シェリナが瓦解するような問題になりかねない。
(しかし……なんなの?)
変わらず急ぎつつ、エメルダはわずかに首をかしげることになった。
不思議な様子が目につくのだ。
王宮の廊下とあって、少なくない数の侍女や貴婦人たちとすれ違うのだが、その表情だ。
羨望の眼差し。
じっくりと観察などはしていないが、そう見えた。
一体彼女たちは、悪女たる自分の何がそんな羨ましいのか。
理解は出来なかったが、とにかく今は父親だ。
もはや駆けるようにして進む。
だが、その足は不意に止まることになった。
何者かは知らない。
男性が立ちふさがるように前に出てくれば、それが原因だった。
「……っ!! どきなさいっ!! 私が何者か分かっているのっ!?」
苛立ちも込めて怒鳴りかける。
しかし、男性は動かなかった。
それどころか、何故か妙な笑みを向けてきた。
「良かった。見違えることが出来たようですね」
その発言を理解する余裕など無い。
押しのけてでも進もうと踏み出す。
すると、だった。
男性が間近になれば、その容姿が自然と目に入ってくる。
細身の長身の男性。
たくましさは無いが、非常に凛々しく見える。
思わず視線を奪われるのは、その双眸だった。
端正な顔立ちの中でも、その翡翠の双眸は妙に深い色をして、人の目を奪うものであり……
「え? 」
唖然と声を上げることになる。
今朝も夢に見たその瞳だった。
そこには憎悪の感情は無い。
親愛の情のようなものがうかがえるが、なんにせよだ。
エメルダは、その瞳の持ち主を知っていた。
「クレイン……?」
「覚えていただけていたようで何よりです。お久しぶりです、エメルダ様」
その笑みに、エメルダは不意に泣きたくなった。
自分が彼との出会いをどれだけ待ち望んでいたのか。
それを実感することになるが、しかし、自らは悪女だ。
二度と出会わないことを誓ったはずだった。
再会を喜ぶわけにはいかない。
「……いえ、失礼。知り合いと見間違えたわ。とにかく、どいていただけるかしら? 見て分からない? 私は急いでいるのだけど?」
目つき鋭く応じる。
だが、クレインだった。
余裕の微笑を向けてくる。
「なるほど、そのようですね。ですが、問題はないでしょう。貴女が急いでおられるのは、陛下の養子縁組についてですよね?」
「察しが良いようでけっこうよ。だから、早くどきなさい。シェリナの悪女ににらまれたくはないでしょう?」
「ははは。それは恐ろしいことですが、でしたら私と話すことも貴女にとっては悪い話では無いはずです。なにせ、その養子縁組の養子は私なのですから」
ん? だった。
この男は、一体何を口にしたのか。
眉をひそめて思案する時間が続き、そして、
「は、はぁ!? あ、貴方、え? 一体何を言ってるのよ!?」
叫びを禁じ得なかった。
クレインは余裕の笑みを向けてくる。
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