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エピローグ
4、ブラント一家のその後
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そして、ブラント一家は執務室に集まることになった。
当然、隠居など受け入れられなどはしなかった。
いまだ国王であるデグは、集まった家族の面々を見渡す。
「よく集まってくれた。忙しい中礼を言うぞ」
この集まりの発起人は彼であったのだ。
礼の言葉に、最初に応じたのは兄だった。
ロイ・ブラントがデグに首を左右にする。
「いえ、私も家族で集まる場が必要だと思っていましたので」
次いで妹だった。
エミル・ブラントが頷きを見せる。
「私もです。その必要があるかなって」
母もまた緊張の面持ちで頷きを見せる。
そうなのだった。
彼らはそれぞれの思惑があって家族と会することを望んでいた。
「……必要があるかと思ってな」
やつれた顔つきのデグが呟くと、残りの家族は理解することになった。
どうやら、皆同じことを思ってここにいるらしい。
先鞭をつけたのは、こちらも憔悴が隠しきれないロイだ。
「エミル。お前がやれ。メアリがこなしてきた役割はお前が担え」
これ幸いとデグは「うむ」と頷いた。
「それがよかろうな。エミル、お前に任せた」
これで一件落着……とは、もちろんならない。
エミルはもちろん、そんなつもりでここに来たわけでは無いのだ。
「は、はぁ!? 冗談じゃありませんよ!! なんで私がそんなのやらなきゃいけないんですか!? ねぇ、お母様?」
「そ、そうですとも! エミルにメアリの役割なんて、そんな可哀想なことを!」
母は常ならぬ様子で必死の声を上げる。
もちろんのこと、彼女の目的も同じだった。
家族の誰かにメアリの役割を求めていた。
だが、それはエミルにでは無い。
最も気安い遊び仲間を悪女にするわけにはいかなかったのだ。
ただ、それは彼女の理屈でしかない。
ロイが忌々しげに舌打ちをもらす。
「ちっ。母娘そろって生意気な……母上は黙っていて下さいっ! エミルが一番年下なんだ! だったら、お前が家族のために心を配るのが筋だろうが!」
「な、何が年下だからよ! そんなのアンタで良いでしょ! 年上なんだから、家族のためにしっかり働きなさいよ!」
「な、なんだと!? ふざけるな! 次期王である俺になんということを……っ!」
ここでデグが頷きを見せる。
ロイの言い分に道理があると思えたのだ。
確かに嫡男を悪女ならぬ悪人というわけにはいかない。
エミルに対して諭すような視線を向けることになる。
「そうだぞ、エミル。ロイは次の王なのだ。メアリの役割はお前が適任であろうて」
これで決まりだろう。
デグは内心でほっと笑みを浮かべる。
これで救われるのだ。
家族はもちろん自分自身が救われることになる。
これで今まで通りの生活を送ることが出来る。
だが、デグの安堵は早すぎた。
彼女はこれで「承知しました」などと頷ける人間ではあり得ないのだ。
彼女にしても、求めるのは今まで通りの生活だ。
贅沢三昧を楽しみ、その責任を誰かに押し付けてすませる人生だ。
反抗しない選択肢など無かった。
エミルはニヤリとした笑みをデグに向ける。
「……別に、お父様でもかまわないのではないでしょうか?」
彼は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
理解すれば、デグは唖然と目を見開く。
「わ、ワシだと? ふ、ふざけるな!! ワシは国王だぞ!!」
「でも、隠居するって騒がれていたんですよね? それで良いんじゃないですか。隠居されて、姉様の役割を担われてはいかがですか?」
デグは立ち上がって叫ぼうとしたが、その必要はなかった。
ロイが慌てて叫びを上げる。
「そ、そんなことが許されるか! 俺はまだ国王になんてなるつもりは無いぞ!」
いずれにせよだった。
彼らには、それぞれの私欲があった。
新たなメアリを得ることで、取り戻したいものがあった。
自分がメアリを引き受けることなど言語道断以外の何物でも無かった。
口論の場となる。
それぞれが家族の誰かに悪女を押し付けようとして、しかし当然反発の声が上がり、また誰かが悪女のやり玉に上げられる。
終わるはずのない口論。
だが、彼らの狂騒は唐突に終わりを迎えることになる。
「……いい加減、見てられんな」
その呆れの声は彼らのものでは無かった。
当然、隠居など受け入れられなどはしなかった。
いまだ国王であるデグは、集まった家族の面々を見渡す。
「よく集まってくれた。忙しい中礼を言うぞ」
この集まりの発起人は彼であったのだ。
礼の言葉に、最初に応じたのは兄だった。
ロイ・ブラントがデグに首を左右にする。
「いえ、私も家族で集まる場が必要だと思っていましたので」
次いで妹だった。
エミル・ブラントが頷きを見せる。
「私もです。その必要があるかなって」
母もまた緊張の面持ちで頷きを見せる。
そうなのだった。
彼らはそれぞれの思惑があって家族と会することを望んでいた。
「……必要があるかと思ってな」
やつれた顔つきのデグが呟くと、残りの家族は理解することになった。
どうやら、皆同じことを思ってここにいるらしい。
先鞭をつけたのは、こちらも憔悴が隠しきれないロイだ。
「エミル。お前がやれ。メアリがこなしてきた役割はお前が担え」
これ幸いとデグは「うむ」と頷いた。
「それがよかろうな。エミル、お前に任せた」
これで一件落着……とは、もちろんならない。
エミルはもちろん、そんなつもりでここに来たわけでは無いのだ。
「は、はぁ!? 冗談じゃありませんよ!! なんで私がそんなのやらなきゃいけないんですか!? ねぇ、お母様?」
「そ、そうですとも! エミルにメアリの役割なんて、そんな可哀想なことを!」
母は常ならぬ様子で必死の声を上げる。
もちろんのこと、彼女の目的も同じだった。
家族の誰かにメアリの役割を求めていた。
だが、それはエミルにでは無い。
最も気安い遊び仲間を悪女にするわけにはいかなかったのだ。
ただ、それは彼女の理屈でしかない。
ロイが忌々しげに舌打ちをもらす。
「ちっ。母娘そろって生意気な……母上は黙っていて下さいっ! エミルが一番年下なんだ! だったら、お前が家族のために心を配るのが筋だろうが!」
「な、何が年下だからよ! そんなのアンタで良いでしょ! 年上なんだから、家族のためにしっかり働きなさいよ!」
「な、なんだと!? ふざけるな! 次期王である俺になんということを……っ!」
ここでデグが頷きを見せる。
ロイの言い分に道理があると思えたのだ。
確かに嫡男を悪女ならぬ悪人というわけにはいかない。
エミルに対して諭すような視線を向けることになる。
「そうだぞ、エミル。ロイは次の王なのだ。メアリの役割はお前が適任であろうて」
これで決まりだろう。
デグは内心でほっと笑みを浮かべる。
これで救われるのだ。
家族はもちろん自分自身が救われることになる。
これで今まで通りの生活を送ることが出来る。
だが、デグの安堵は早すぎた。
彼女はこれで「承知しました」などと頷ける人間ではあり得ないのだ。
彼女にしても、求めるのは今まで通りの生活だ。
贅沢三昧を楽しみ、その責任を誰かに押し付けてすませる人生だ。
反抗しない選択肢など無かった。
エミルはニヤリとした笑みをデグに向ける。
「……別に、お父様でもかまわないのではないでしょうか?」
彼は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
理解すれば、デグは唖然と目を見開く。
「わ、ワシだと? ふ、ふざけるな!! ワシは国王だぞ!!」
「でも、隠居するって騒がれていたんですよね? それで良いんじゃないですか。隠居されて、姉様の役割を担われてはいかがですか?」
デグは立ち上がって叫ぼうとしたが、その必要はなかった。
ロイが慌てて叫びを上げる。
「そ、そんなことが許されるか! 俺はまだ国王になんてなるつもりは無いぞ!」
いずれにせよだった。
彼らには、それぞれの私欲があった。
新たなメアリを得ることで、取り戻したいものがあった。
自分がメアリを引き受けることなど言語道断以外の何物でも無かった。
口論の場となる。
それぞれが家族の誰かに悪女を押し付けようとして、しかし当然反発の声が上がり、また誰かが悪女のやり玉に上げられる。
終わるはずのない口論。
だが、彼らの狂騒は唐突に終わりを迎えることになる。
「……いい加減、見てられんな」
その呆れの声は彼らのものでは無かった。
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